●前回のおさらい●
惨敗に終わった崇秀とのライブ勝負。
そして当然の如く、その結果に完全に意気消沈する倉津君。
だが、そんな倉津君に対して山中君は。
『次回はリベンジしような』と言って励ますが……心の中では、路地で物に当たる程、悔しい想いを秘めていた。
そんな中、今回のライブで、倉津君にとっては一番の問題となっている素直ちゃんと出くわしてしまう。
「素直か……なんか用か?」
「あっ、あの、さっ、さっきは……あっ、ありがとうございます」
「ありがとう……だと?」
「あっ、はい。僕、真琴さんのお陰で曲も上手く唄えましたし……何より真琴さんが、僕の事を、少しでも気に掛けてくれてたのが嬉しくて」
矢張り、俺の心境は、見事なまでに素直に伝わってしまった様だ。
あまり伝わって欲しくない気持ちだったのだが。
崇秀の例の音に乗せてしまった以上、これは有り得ない話では無い。
またこれで、余計な言い訳をしなくてはならない。
憂鬱だ。
「かっ、勘違いするなよ、素直。例え曲の中で、そう言う音を出してたとしても。それが本心とは限らないからな。あれは、あぁした方が、曲としての完成度が高くなると思ったからやっただけの事だ。だから俺が、奈緒さんを好きな気持ちは、何も変わらないぞ」
「ですよね。……僕だって、それぐらいはわかってますよ」
「なら良いが……」
「でも、嬉しかったから……つい」
俺みたいに、お気楽に生きてる人間とは違って。
色々な家庭問題を抱えている素直が、こうやって嬉しそうに話してくれるのは非常に良い事だとは思う。
ボンクラでも、他人の役に立つ事が出来るなら、それはそれで良い。
ただ、だからと言って。
今は、素直が期待している様な『恋愛話』に発展する様な気分にはなれない。
この件に関しては、明らかに崇秀の意思が介入している様な気がしてならないからだ。
それに素直が、此処まで俺を好きになってくれる理由がわからない。
なんでなんだろうか?
「オマエ、なんでそんなに嬉しいんだよ?彼女がいる奴に、そんな事を言われても嬉しかないだろうに?」
「そう……ですね。正直言えば辛いですよ。でも、好きな人に『嫌い』って言われるよりは、100倍嬉しいのも本音です」
「オイ、オマエ、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?」
「どうでしょうね?でも、僕が、真琴さんの事を好きなのは事実だし。真琴さんが気に掛けてくれてる以上、好きになってくれる可能性は0%じゃない。……だから僕は、待とうと思います」
「えっ?オマエ……ホントに、なに言ってんだよ?大体にして、何を待つって言うんだ?」
「僕は、向井さんと、真琴さんが別れるのを、いつまでも待ちます。……少し辛いかもしれませんけど。今の僕になら、待てる様な気がします」
「ちょ……ちょっと待て、素直。なんでそこまで俺なんかに固執するんだよ?意味がわからねぇぞ」
本当にわからない。
奈緒さんの事でも手一杯な俺が、わかる筈もない。
第一なにを根拠に『別れる』を前提に待てるんだ?
俺と、奈緒さんが別れなければ、その期間中、無駄な時間を過ごす事になるんだぞ。
俺なんかが言うのもなんだが、人生で中学2年の時期は、今しかないんだぞ。
「わかりませんか?」
「わかんねぇよ。オマエみたいな器量良しが、俺なんかに固執する理由が、俺には解らねぇよ」
「……優しいからですよ」
「優しいだと?俺が優しいだと?」
「はい」
『はい』っと言う返事を言えた満足感からか、素直は満面の笑みを浮かべている。
けど、この状態で俺は、更に訳がわからなくなった。
だってよぉ。
知っての通り、俺は屑ヤクザの屑息子。
人に迷惑をかける様な行為をする事は有っても、人に親切にした記憶なんて殆どない。
自慢じゃないが、俺は生まれてこの方『優しい』なんて言葉を掛けられたのは、咲さんに言われた、あの1度きりだ。
なのに、素直の奴は、なんで、そんな俺なんかの事を優しいだなんて思うんだ?
素直も、咲さんも、どうかしてるぞ。
「なんでそう思うんだよ?オマエを助けたのだって、ただの気紛れだぞ」
「かも知れませんね。でも僕は、こうも思うんです。……あの時、真琴さんも、他の人同様、見て見ぬふりをする事も出来たって」
「ちょっと待て。可愛い女の子が数人の不良に絡まれてるのに、普通は無視なんかしねぇだろ。その方が、どうかしてるぞ」
あの時、素直を助けた理由は、別にコイツが可愛かったからじゃない。
ただ単にムシャクシャしてた所に、馬鹿な不良共が女に絡んでいたから、腹いせ序に助けただけに過ぎない。
要するに、抑えきれないストレスの発散が、あの時の一番の目的だったって事だ。
実際、こんな風な理由だったので、素直の顔なんて見てねぇし、助けるつもりで喧嘩をした訳でもない。
ただの気紛れだし、誰かに暴力を振るいたかっただけに過ぎない。
素直が言う様な『良い人』や『優しい』なんてモノは、此処には存在していなかった。
これが隠す所の無い事実だ。
「そうですか?じゃあ真琴さんは、可愛くない女の子だったら助けないんですか?」
「あのなぁ素直。ブス云々より、男が数人掛りで女1人に絡むなんざ、そんなもん卑怯者のする事じゃねぇかよ。……ただ単に、俺が嫌いなだけだよ、そう言うの」
「じゃあ、やっぱり、優しいじゃないですか」
「だからよぉ。気紛れだって」
「そうなんですか?でも僕には、あの時の真琴さんが……その……『白馬の王子様』に見えましたよ」
「はぁ?おっ、俺がか?」
「はい」
いやいやいやいや……幾ら美化したところで、流石に、それは無理があるだろ。
俺なんか、どちらかと言えば、崇秀の言う通り『黒ベンツのおヤクザ様』にしか見えないと思うんだが……
「じゃあなにか?オマエが俺の事を好きになってくれたのは、それが理由って事か?」
「いいえ、違いますよ」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「……一目惚れ。……学校で初めて見た時から、格好良いなって……思って……その……」
「いやいやいや、オマエ、眼がおかしいんじゃねぇのか?俺、ちっとも格好良くねぇし」
「そうですか?身長も高いし、喧嘩も強い、それに優しい……格好良いと思いますよ」
「いや、まぁよぉ。そうやって褒めてくれるのは嬉しいんだが、それはあまりにも美化し過ぎだ。俺なんて、崇秀に、何時もからかわれてるだけの、ただの馬鹿だし。喧嘩にしたって、アイツにゃ勝てた試しがない。……アイツに勝ってるって言やぁ、この身長位のもんだぞ」
「あの……真琴さんって、基準がヒデくんなの?」
あぁ確かに、そう言われてみれば。
俺って、何かにつけて、アイツを引き合いに出すよな。
別に他意は無いんだが。
なんて言うか、誰よりも比較対象としてアイツは比べ易いんだよな。
「そう言えばそうだな。まぁ俺の周りの同い年なら、アイツほど出来る奴はいないからな。必然的に、そうなっちまうんじゃねぇか」
「そうですか……」
また、なにか言いそうな感じだな。
しかしまぁ、女って生き物は、なんでこんなに、次から次に色んな事を考えられるんだ?
ホント、不思議な生き物だな。
「なんだよ?どうかしたのか?」
「あの……あの、急な話なんですけど」
「なんだよ?」
「あの、僕を、真琴さんのバンドに入れて貰えませんか?」
はぁ?なんだ?
突然、何を言い出すかと思えば、豪く急な話だな。
確かに、悪い話じゃないが、奈緒さんもバンド内に居るんだぞ。
そこも考えないとダメだろ。
「ちょ、ちょっと待て、素直。そう言う重要な事は、みんなで決めなきゃならねぇ。俺の一存では決めれる事じゃねぇだろ。……それに、オマエ解ってるよな?バンドには、奈緒さんも居るんだぞ」
「クラ……入れてあげなよ。本人が入りたいって言ってるんだし」
なっ、奈緒さん……
まさか、こんな一番奈緒さんに見られたくないシーンで、彼女が登場して来るとは。
これ以上ないぐらい、最悪な展開だ。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
最後の最後で登場した奈緒さん。
これはまた、一波乱ありそうな雰囲気ですね(笑)
この後、どう言う展開に成るのかは……また次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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