最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

171 不良さん、奈緒さんの新たなる覚悟を見せつけられる

公開日時: 2021年7月27日(火) 00:21
更新日時: 2022年11月30日(水) 13:33
文字数:2,723

●前回までのあらすじ●


 音合わせも終わり。

バンドメンバーノメンタル面の確認も取れたので、後はライブが始まるのを待ちばかりの状態に成ったのだが。


此処で奈緒さんが、なにやら言い出しそうな雰囲気を醸し出す。


また一波乱があるのか?

「あっ、そうだ、そうだ……ねぇアリス」

「あっ、あっ、はい。なっ、なんですか?」


嶋田さんの反応を見て。

奈緒さんは間髪いれず、素直に先制攻撃を仕掛けた。


奈緒さんは、こう言う事に駆け引きに関しては、ホント上手いからな。


多分、素直砦は、直ぐに陥落するだろうな。



「今日の君は、凄く可愛いね……なにかあったの?」

「えっ?えっ?あっ、あの、僕、なにもしてませんよ。ほら、いつも通りですよ」

「あれ?そぉ……かな?」


奈緒さんは、そう言って、ゆっくりとした動作で、素直に近付いていく。

その姿は、まるで、狩りをする雌ライオン。


しかしまぁ、この現状で、あの人は、一体なにをする気だ?


なんかおっかねぇな。



「どれどれ」


なにをするかと思えば、素直の髪を軽く触り、艶かしい指の動きで顔を撫でる。


あぁ……こりゃあ、間違いなく彼女特有の『悪乗り』だ。



「あっ、あの、あの、私」


素直の奴、アッサリ動揺したみたいだな。


早くも、一人称が『僕』から『私』になってるぞ。



「なるほどね……これは、どうも、私の勘違いだったみたい」

「えっ?あの、なにがですか?」

「うん?アリスって、今日が可愛いんじゃなくて、いつも可愛いんだね」

「えっ?そんな……」

「ごめんね。私、君の事を、よく見てなかったみたい」

「あの、それって、どういう事ですか?」

「うん?あぁ、別に、どうって意味はないのよ。ただね、アリスとは、クラの件が有ったから、私、実際は、君の事をよく見てなかった部分があるのよ。……ごめんね、こんなに良い子なのにね」

「あっ……」


奈緒さんは、再度、素直の頭を撫でながら、そんな事を言った。


彼女は、自分の中にある蟠りを、この間、俺の家に来た時、全部吐き出したからこそ、素直に、こんな事を言ってるんだろうな。

ホント、奈緒さんって、自分をコントロールするのが上手いよな。


けど、奈緒さん……それ、男が女を落とす時に言いそうな『女誑し』のセリフですよ。



「だからね、アリス……もし君が、クラの事を、本気で自分のものにしたいなら。私から奪っても良いよ」


えっ?


・・・・・・


なっ、なっ、なっ、なに言ってんッスか、奈緒さん?

なんでまた、そんなバンド内に不穏な空気を撒き散らす様な事を、平気で言うんッスか?


やっと纏まったバンドが、その一言で、また元の木阿弥になりますよ。


わからねぇ。

この人の考える事は、本当にわからねぇ。



「えっ?それって、向井さん……」

「くすっ、でも勘違いしちゃダメだよ。私は、君にクラを、ただであげるつもりは毛頭ないよ。だけど、それでもクラが君の方に向いた時には、君にクラをあげる。但し、最低条件として、バンドに迷惑を掛けない事。これが守れるなら、私は、君と真っ向から勝負してあげるけど……どぉ?」


そっ、そう言う事か!!

これって、完全に、崇秀の言ってた方法を、バンドを分散する事無く、バンド内で発生させるやり方じゃないか!!


この様子だと奈緒さんは、これを言う機会を、さっきからズッと窺ってたみたいだな。


……なんて人だ。



「あの……向井さん」

「うん?なに?」

「向井さんは……その……絶対的に真琴君が、私に振り向かない自信が有るんですか?」

「くすっ……そんなの全然無いよ。それに君は、クラと同じ事を聞くんだね」

「そう……なんですか?あっ、でも、自信が無きゃ、普通、こんな事は言えませんよね」


俺も、当初そう思ってた。

けど奈緒さんは、そんなレベルで俺を見ていた訳じゃなかった。


実際、奈緒さんの気持ちを聞かされた時は、かなり衝撃的だった。


きっと素直も、この後、その衝撃を受ける事になるんだろうな。



「あのね、アリス。これは私の自信が、どうとかこうとかの問題じゃないの。私はね、バンド内に有る最後の蟠りを取り除きたいだけなのよ」

「それにしたって……」

「まぁ、君の言いたい事もわかるけどね。でもね。このバンドを成功させるには、君の力が必要不可欠。どうしても必要な人間なの。けど、私と君の間に蟠りが有っちゃ、いつまで経っても上手くいかないでしょ。だから、お互いの蟠りを取り除く為には、こうするしかないのよ。……まぁ本音を言えば、君と勝負したくなった。って言うのもあるかな」

「向井さん……」


奈緒さん……昨日の一件で、素直の事が好きになったのかもな。

それで、俺の事を一途に見ながらも、献身的な態度をとる彼女の気持ちを察したんだろうな。


この人だけは、本当に……



「私なんかじゃ、向井さんには、全然敵わないな……」

「じゃあ、受けてくれないの?」

「あの……けど、受けさせて貰います。敵わないかも知れないですけど。私だって、真琴君に対する気持ちは本気なんです。だから、そう簡単には引けません」

「うん。それで良いと思うよ」

「あの……やっぱり、向井さん、なにか自信があるんじゃないですか?」

「かもね」

「向井さん、ずるい」

「くすっ」


素直が少し拗ねて、奈緒さんが微笑む。

この光景を見て、根が単純な俺は『なんか、ホントに蟠りが無くなった』様に思える。


奈緒さんが、素直に本心をぶつけて、素直が、奈緒さんの本気の気持ちを買う。

これ程バンドにとって良い事はない様な気がする。


ホント、奈緒さんには感謝だな。



ただそうなると、また此処で、新たな問題が発生してる訳だ。


勿論、言うまでもなく『山中の素直に対する気持ち』の話だ。


アイツは、あれでいて一本気な性格だから、こんな話を聞いた所でブレない。

ただそうは言っても、奴も感情が無い機械じゃない……ただの人間だ。


この件に関してだけは、そう簡単に、気持ちの整理がつくとも思えない。


大丈夫かオイ?


なんか不安だ……



だが、その不安は、リハーサルが始まった瞬間、全て払拭された。


俺のヘボベースは別としても。

他のメンバーの音が、スタジオを借りて練習していた時とは、比べ物にならない程成長している。


まず奈緒さん。


奈緒さんのベースは、以前よりも、ズッと音にキレが増している。

1つ1つの音が明確に発せられており、まどろんだ音が全く出ていない。


次に素直。


コチラも迷いの無い声で、歌を唄っている。

故に、聞いている者にとっては、これほど心地の良いものはない。


嶋田さん。


最初から問題が無いにも拘らず、以前にも増して丁寧な音色を奏でている。

何故、あんなになにも見ずに、あれだけ正確に音を出せるのかは謎だ。



そして、問題になると思われた山中なんだが……完全に何かが吹っ切れている。


リズムは勿論、正確なスティック捌き。

その他ドラムに必要な技術が、格段にレベルアップしている。


それでいて、相変わらずムラが無い。


これらのメンバーを総称すると、リハーサルで見せるのが勿体無い位の出来だ。



……にしてもなんで、山中は、あんな話を目の前でされてたのに平気なんだろうか?


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました<(_ _)>


色々と言い出せない倉津君の為に、また奈緒さんはバンドを纏める方向の話をしてくれましたね。

此処まで献身的な子は、中々いないと思います(笑)


まぁ、倉津君としては、余り立場がない所ですが……此処は姐さん彼女最高、っと言う事で(笑)


さてそんな中。

最後の最後に倉津君が気に成っている山中君の件は、どうなるんでしょうね?


そこはまた次回の講釈。


良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート