最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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285 不良さん、止まらない魔王の攻勢に少し凹む

公開日時: 2021年11月18日(木) 00:21
更新日時: 2022年12月17日(土) 16:15
文字数:6,156

●前回のおさらい●


 即興で奈緒さん親衛隊(自称)の鮫島さんの曲を奏でた崇秀。


8000人の観客が、その曲に飲み込まれた時。

ステージの裾からマイクを通して、奈緒さんの鮫島さんに向けて感謝の言葉が紡がれた。

 何事かと疑問に思った俺は、再度、周囲を見回してみる。


すると……嶋田さんや康弘の居るステージの向こう側の袖で、奈緒さんがマイクを持っていた。

しかも、コチラから見る奈緒さんの表情からして、今の一言は、曲の終了と共に、奈緒さんが自然に発した言葉らしい。


現に、言った本人が目を白黒させている。


矢張り、奴の曲の作りや、ギターの演奏は尋常じゃない。

どうやら奈緒さんの意識すら、上手く、曲で操ってしまった事を思い知らされる。



「どうよ!!どうよ!!鮫島って熱くね?」

「「「「良いぞ、仲間さん!!良いぞ、鮫島!!最高だぁ!!」」」」

「うっ、うるせぇ!!」


照れてやんの。



「さてさて、少し面白くなってきたから、此処で1人目のスペシャルゲストでも呼んでみっか?」

「仲居間さん、誰を呼ぶんだよ?」

「んあ?んなもの決まってんだろ。鮫島君が愛して止まない向井さんだよ。彼女には、俺のギターに唄を入れて貰う。……因みにだが、彼女の歌唱力は『アルファーの高見崎』が惚れ込む様な才能だ。聞きたくねぇか?興味ねぇか?どうよどうよ?」

「ヤベェ~!!マジ聞きてぇ~~~!!」

「OKOK。んじゃま、俺の持ち時間も少ねぇ事だし。出し惜しみ無く行くか!!鮫島『奈緒様コール』宜しくぅ~!!」

「言われるまでもねぇ!!行くぞ野郎共ぉ~~~!!」

「「「「ウッス!!」」」」


うぉい!!

曲の順序が、全然違うじゃねぇか!!


①『Serious stress』

Vo:有野素直/向井奈緒Gu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:倉津真琴Dr:山中寛和Si:―

②『Hybrid Memory』

Vo:上条椿Gu:嶋田浩輔Ba:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:有野素直

③『Dash eater』

Vo:清水咲/樫田千尋Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:―

④『Business zombies』

Vo&Da:瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:向井奈緒Si:有野素直

⑤『泡沫』

Vo:向井奈緒Gu:仲居間崇秀Ba:―Dr:―Si:―

⑥『Troubling』

Vo:有野素直/樫田千尋/上条椿/清水咲/瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹/向井奈緒/ステラ=ヴァイGu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:遠藤康弘/倉津真琴Dr:山中寛和Si:―


……って、予定じゃねぇのかよ!!


そりゃあ確かによぉ。

奈緒さんの出番は一番最初だが、演奏メンバーの構成が、全然違うじゃねぇかよ。

それに奈緒さんを個人的に呼び出すって事は、一曲目に『泡沫』を持って来るつもりだろ。


オイオイ……こんな超いい加減なやり方で、大丈夫なのかよ!!


そんな俺の心配を他所に、崇秀は、鮫島を煽り『奈緒様コール』が始まる。

しかも……さっきの曲の影響のせいか、観客は、奈緒さんに異常なまでの興味をそそり、瞬時に鮫島の発した『奈緒様コール』は感染していく。



「奈緒様ぁ~~~~~!!」

「「「「奈緒様ぁ~~~~~!!」」」」

「「「「「奈緒様ぁ~~~~~!!早く出て来てくれ!!奈緒様ぁ~~~~~!!」」」」」

「クハハ、こりゃあ、良い温度だ。……んじゃま、行ってみっか『泡沫』」


-♪--♪-♪-♪----♪---♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--……


ダメだ。

観客は、激しく奈緒さんの出番を要求してる。


それに崇秀の馬鹿は、奈緒さんの断りも無しに、曲を奏で始めやがった。


此処まで来たら、奈緒さんが出ないと収拾が付かない。


けど、大丈夫かよ、奈緒さん?



「♪~~~~~~」


なんの躊躇も無く、唄いながら、堂々とステージインしたよ奈緒さん!!


スゲェな!!

この人も、どんな心臓の構造してるんだ?


この後……『泡沫』の独特の世界観が、崇秀のギターによって上手く構成され。

そこに奈緒さんの声が重なった。


勿論、今までに無い完成度の『泡沫』なのは言うまでもない。


アイツの化物染みた表現力は、観客に、崩壊する世界を投影させ。

そこに奈緒さんの切なくも伸びのある声が、崇秀の音に拍車を掛ける。


ただ曲を聴いてるだけにも拘らず、涙が出そうになる。



そして最後に……例の『優しい一音』を崇秀が弾いた瞬間に、悲しみが消え、ほんの小さな希望だけを齎してくれる。


矢張り、その表現力は、奈緒さんのギターの音の比では無い。


その証拠に、誰もが俯きかけていた頭を一斉に持ち上げ、最後にイチ音の希望に縋る様な表情をしている。



少し経って……会場が揺れるぐらいの喝采の言葉と、拍手が巻き起こる。



「くははっはは……楽しい!!マジ楽しい!!んじゃあ、次の出し物……っと、イケネェ、イケネェ、あまりにも楽しいもんだから、ハシャギ過ぎちまって、向井さんに自己紹介させるの忘れてた。向井さん、自己紹ヨロ」

「「「「「あははっははっはっはははっは……」」」」」


崇秀の大笑いと間抜けトークで、瞬時に音の魔法が切れ。

観客が全員、世界が現実に引き戻される。


そうやって観客達は、崇秀に呼応して、我を取り戻して笑い始めるが、奴の吐く言葉から眼が離せないでもいる。


そんな注目を浴びながらも、崇秀は余裕の表情で、奈緒さんにマイクを渡した。



「こんにちわ、向井奈緒です」

「んあ?向井さん、なんだよ、それ?もっと気の効いた事を言って、自己アピールしなきゃダメだろ」

「いや、無理無理……って言うかね、仲居間さん、急に呼びすぎ。なにも考えてないって」

「おぉ、そいつは悪ぃ悪ぃ。なんかさぁ、流れが、そんな感じになっちまったもんだから、つい、勢いで呼んじまった。申し訳ない」

「まぁ、良いですけどね」

「「「「「あはははははっはっは……」」」」」」


また笑われてやんの。

奈緒さんに怒られて、観客に笑われてやんの。


ざまぁ!!



「……っで、どうだった?気持ち良かった?」

「うん!!もぉ最高ですね!!私の唄なんかを聞いてくれて、ホントありがとう!!」

「「「「「奈緒様ぁ~~~最高!!可愛い!!」」」」」

「ありがとう♪」


奈緒さんは笑顔で、みんなに手を振って歓声に応える。

今までにないぐらい、凄い良い笑顔してるな。


けど、今の俺じゃあ、奈緒さんの、あんな極自然な笑顔を引き出せないな。


やっぱ、スゲェんだな、崇秀って……


しかしだ。

それはそれとして、この後、アイツは、どうするつもりなんだ?


アイツの頭の中では、曲の構成や、プログラムの変更は出来てるんだろうか?



……いや、こんなものは愚問だな。



「んじゃあ、向井さん。その感動を他の人間にも、分かち合ってみるってのはどぉ?」

「うん?どうするんですか?」

「あぁっと、そうだなぁ……あぁそうだ、そうだ。向井さんさぁ、俺が路上で弾いた曲、覚えてる?」

「路上で弾いた曲と言われても、ピンと来ないですね」

「ほらほら、あれだよ。横浜Live-oNの横で弾いたバブル崩壊の唄」

「あぁ、あれですか……まぁ、多分、リズムをとるぐらいなら大丈夫だと思いますよ」

「OKOK。じゃあ、それをベースで弾いてみよっか……今度は、アリスの声で」

「あっ、そう言う事か……うんうん、良いかも♪」


あぁ……奈緒さんの悪い癖である『悪乗り女王』が、魔王に呼応して発動しちまった。


本来、奈緒さんの性質も、崇秀同様、楽しい事に目が無いし、悪戯が好きだ。

その上で、性質の悪い事に『人を巻き込んで悪戯する』のが一番好きだ。


奈緒さん……奴の言葉に従って、意気揚々とベースの準備を始めちゃってるよ。


しかも……2人共が、スゲェ悪い顔をして笑ってるし……


どうやら次の犠牲者は、素直に決定したらしい。


ご愁傷様……


合掌……



「ほいほい。そんじゃま、次の出し物行ってみっか」

「仲居間さん、なにするんッスか?」

「アリスだよ、アリス。……アイツを此処に呼んで、メタルをブチかますに決まってんだろ、モヒよぉ」

「おっしゃ!!マジっすか!!メタル来たぁ~~~っ!!アリス、早く出て来い!!」

「アリス!!アリス!!アリス!!アリス!!」

「アリス?アリスって、誰だよ?」


最初に盛り上がり始めたのはモヒ&ロン。

奴等は、ウチのバンドのファンだから、こうなってもおかしくはない。


けど……それは、素直を事を知ってる人間だからこそ、盛り上がれるだけで。

知らない奴にとっちゃ、この場に上がるべき人間かどうか、判断に困ってる様子だ。



「おいおい、シラネェのかよ?アリスって言やぁ、一時期、仲居間さんと組んでたメタルクィーンだよ」

「仲居間さんと組んでただと……オイオイ、マジか!!なんかスゲェ奴なんだな」

「大マジだ!!……よぉよぉ、気になるんなら『アリスコール』ヨロシク頼むぜ!!ガンガン飛ばして、サッサとアリス引きづりだそうぜ!!」

「だな」

「「「「「「アリス!!アリス!!アリス!!アリス!!出て来~~~い!!」」」」」」


ロンの説明により、また一瞬にしてコールが感染した。


会場内は、一斉に『アリスコール』が起こり始め。

再び、奈緒さんの時の様に、素直が出ない訳には行かない状況に陥っていく。


しかしまぁ、こうやって観客達を見てると……『冷めた年代』とか『ゆとり世代』だとか、酷い誹謗中傷を受けてる俺達の世代だが、実際は、そう捨てたもんじゃない。


みんな本心じゃ……楽しい事や、盛り上がる事に飢えている。


ただ、そのやり方がわからない……


この現状から見たら、それを先導する者が不在だから、どうやって良いか解らない世代。

こう言う事を率先してやる崇秀みたいな馬鹿が居れば、自ずと誰だって盛り上がれるもんなんだな。


俺は、そう理解した。



そんな中……止まないコールに誘われる様に、素直は入場していく。


しかも、その入場には、余裕すら窺える表情だ。

現に素直は、マイクの位置に立つと、なにも言わずに、唄う準備だけをしてピクリとも動こうともしない。


今日の素直は、完全に入ってる。



あぁ序にだが……素直に釣られて、山中の馬鹿がスティックを廻しながら、一緒にステージインする。


俺は、山中のこの行為を、素直を心配してのステージインだと思っていたのだが……実は、そうじゃなかった。


奴は、素直の方を見る訳でもなく、ドラムを叩きながら軽く調整をしている。

それが終わると『わくわく』した子供の様な表情を浮かべて、音を出すタイミングを計ってる。


この様子から見て……多分、奴の場合は、この場で演奏していない自分を抑えきれなくなったんだろう。


マジで、良い表情してやがる。



「用意はえぇか?絶頂を迎える準備は出来たか?……ほな、行くで!!」

「オーライ!!行くぜぇ『Bubble breaker』!!」


♪♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪--♪-♪♪--……


山中のドラムと、奈緒さんのベースの音を皮切りに、フルメンバーでの『Bubble breaker』の演奏が開始された。

その音たるや、崇秀が1人で弾いていた曲の時とは大違いで、まさに完成系と言っても過言じゃない程の出来だ。


山中は、激しく社会批判をする様に、激しくドラムを叩き、それを表現。

奈緒さんのベースは、それを上手く加速させるリズムを取る。

当然そうなったら、崇秀は、それ等の全てを飲み込んで、新たな『Bubble breaker』の表現し始める。


そうやって、完璧なイントロをこなした後、最終的には、今まで完全に沈黙していた素直の声が激しく入って来る。


その声は、いつも間近で聞いている俺でさえ驚くほど良い声だった。

素直は、精一杯、自分を表現しようとして躍起になってるのが手にとって解る。


けど、その声は、躍起になっているのも関わらず、社会批判をするブラックメタルには上手くマッチしており、観客からは、その賞賛の喝采を浴びている。


これが、奈緒さん・素直・山中の本来の姿か……

ミュージシャン……いや、バンドマンの化学反応って奴か……


俺は、今までこの3人とバンドをしてきたが、こんな音、一度も、体感した事ないぞ……


矢張り、俺と崇秀では、格が違う……違いすぎる。



そして、最後の寂しげなフレーズに移ると、崇秀のギターソロと、素直の声だけが、会場内に響き渡った。


……間が空いて、押し寄せる波の様な拍手が巻き起こる。



「OKだOK。良い感じだ……この調子のままで行きたいから、アリス、早急に自己紹介済ませろ」

「あっ……あっ、はい……えっ、えぇっと、アリス事、有野素直です。えっと、アリスの由来は有野の『有』と素直の『素』をくっ付けたものです。よっ、よろしくお願いします」

「「「「「アリス、良いぞ!!」」」」」

「「「「「素直、可愛い!!」」」」」

「あっ、あの、あの、ありがとうございます」


素直の奴、実は、かなり緊張してたんだな。

崇秀に話を振られてからは、言葉はシドロモドロだし、滅茶苦茶ドモッてるじゃねぇか。


まぁ……それが初々しく見えたのか、観客には好印象で、受けは良いみたいだな。


にしてもだな。

アイツ、いつの間に、あんな器用な真似をする様になったんだ?


『成り切り』の『ON/OFF』を、完全に使い分けてるじゃねぇか……



なんか……俺の知らない内に、みんな成長してるんだな。



「ハイハイ、良く出来ました。……んで、序に紹介しとくな、ドラムはオマケの山中」

「山中や」


はぁ?なんだそれ?

あのお喋り魔神の山中が、崇秀に振られたMCを簡単に終わらせちまった。


話をするより、今は楽器の演奏を優先したって事か?


それ程までに、崇秀との演奏は楽しいのかよ?



「ククッ、オマエも良い感じに仕上がってんな。んじゃあなぁ、更に構成を変えるぞ。アリス・向井ヴォーカル。ドラムは引き続き山中。ギターには嶋田さん。ベースは……遠藤さんだな」

「なっ!!ちょっと待て、仲居間さん!!死神と狂人だと!!」

「あぁ、そうだぞ。此処でしか見れない、凄いコラボだろ」

「マジかよ!!」


『狂人』?


ひょっとして……この流れから言って、康弘の事か?


そう言えば……遠藤の演奏って、殆ど聞いた事が無いな。

まぁ、敢えて有るとすれば、今回のライブの為にホテルで練習の時に少し聞いただけだ。


けどよぉ、あの時、聞いた音からは『狂人』と言われる程、そんな大層なもんじゃなかった様な気がするんだが……なんだ?


俺が、そんな思考をしている間に、嶋田さんと、康弘がステージインして行く。

康弘の知名度は、俺の思った以上に高いのか、それだけで盛り上がりは一段階上がる。


それを見た崇秀は、満足気な笑みを浮かべてステージから飛び降りる。

そして下に降りた奴は、フェンスに凭れ掛かって2人を煽り始めた。



「良いね、良いね。そうじゃなきゃ面白くねぇ。……嶋田さん、遠藤さん、んじゃあ俺は、少し休憩させて貰って良いかな?その間、2人なら、俺より盛り上げてくれるよね。……曲は、向井さんの作った『Serious stress』で……頼んだぜ」

「なるほど、それは面白い趣向だね。……まぁやってみるさ」

「さてさて、どうなる事やら……」


余裕だ。

崇秀の挑発を物ともせず、2人は演奏準備に掛かっている。


これだけの盛り上がりの中にいても、なんて冷静なんだ。



「じゃあ、アリス、行くよ♪」

「はい♪……『Serious stress』!!」


素直によって、曲はコールされた。


だが……正直、俺は、この構成に関しては、少し無理が有るんじゃねぇかと思う。


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


ちょっと今回は、物語の切れる場所が無くて、長くなっちゃいました……すみません。


ただ此処でも、まだ崇秀の攻勢は序章に過ぎず。

この程度の演出で、奴の攻勢が終わる事はありません(笑)


さてさて、次回は、どんな演出をかましてくるんでしょうね?

そして、倉津君が最期に放った言葉『このメンバー構成の不安』とは一体何なんのか?


その辺を少しでも気にして下さいましたら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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