●前回のおさらい●
意気揚々とステージに向かおうとする倉津君。
そこに崇秀が「まだ会場内の熱気が足りないから、オマエの出番はまだだ」と言い。
更に「俺と嶋田さんで、会場の温度を上げてきてやる」と言い出します。
それを聞いた倉津君は、当然「ならやってみろ」と事。
だがそれには条件があると崇秀が言い出し。
その条件が、奈緒さんを一緒にステージに上げる事だと言い出す。
それは言われた奈緒さんは、少々戸惑った上で「まだ心の準備が出来てないから無理です」と言ってしまった瞬間。
崇秀が……
「あっそ、じゃあ、向井さん、もぉいらな……」
だからダメだって……今コイツ、絶対『いらない』とか言うつもりだっただろ。
そりゃあ流石にイカン。
此処はなんとしてでも、速攻で奈緒さんのフォローをしなくちゃな!!
「大丈夫ッスよ、奈緒さん」
「おっと……」
「クラ……?」
俺が言葉を発する事を前以て予測していたのか、瞬時に崇秀は口を閉じる。
逆に奈緒さんは、俺が言葉を発するのを想定していなかったのか、少し驚いた様子。
それだけに彼女は俯いていた顔を上げ、俺をじっと見ている。
「奈緒さんに比べれば、崇秀なんて、ただの馬鹿だし。嶋田さんに至っては、このライブで調整不足のギターを使うんですよ。……だったらこんなもん、ただの遊びの域ッスよ遊びの。ってか、そんな遊びで飲まれちゃ終わりッスよ」
「でも……」
「でも……なんッスか?」
俺は下手糞な作り笑顔をして、奈緒さんを見詰返す。
「うん。……クラは、そう言ってくれるけど。ここまでの熱気の中で演奏するのも、歌うのも自信がない」
「そうッスか?じゃあ、アリスと一緒に唄えば良いじゃないですか」
「でも、そんな勝手な事」
「なに言ってんッスか?アイツだって勝手な事を言ってるんッスから、それぐらい認めて貰っても問題ないッスよ。……だよな崇秀」
一応、崇秀を睨んでみるが、これは決して本気で睨んでる訳じゃない。
奴も、その辺を良く理解している筈だからな。
そんな崇秀は、少し俺の提案に悩んだフリをする為に後ろ髪を弄くると言う、コイツ独特の悩み方をするが……案の定、手をヒラヒラさせながら言葉を吐く。
「あぁわかった、わかった。向井さんには『優しい白馬の王子様』が……いや『黒ベンツの怖いおヤクザ様』がついていらっしゃるみたいだな。……ヤクザは恐ろしいから、その話は渋々だが了承しよう。それに俺側にリスクがねぇってのも面白くねぇしな」
「ちょっと、ヒデ君」
今度は、急遽指名を受けたアリスが反論する。
「なんだよ?向井さんがやる気になってるって言うのに、まさか此処でオマエが水を差すつもりか?出来ねぇとか言う発言なら受付ねぇぞ」
やけに高圧的な態度だな。
このアリスって女、何か崇秀に、大きな借りでも有るのか?
「けど……」
「なら、もう全部辞めちまえ。タクシー代やるから、今すぐ、この場から失せろ。そんで二度と俺の前に顔を出すな」
オイオイ、これは、流石にないだろ。
しかも崇秀の奴、まだ言い足りないのか、更に口を開く。
「なぁアリス。オマエさぁ、なんか激しく勘違いしてるみたいだから、この際、ハッキリ言わして貰うがな。……オマエ程度の人材なら五万と居るって事を忘れんなよ。別に俺は、オマエに固執するつもりなんぞ微塵も無いぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください仲居間さん。いくら何でも、そこまで言わなくても」
「んあ?そぉ?」
目が真剣なまま、顔は笑ってる。
相も変わらず、器用な顔だ。
ただ、この顔芸を笑ってる訳にも行かない。
この一言で、崇秀の攻撃対象が、100%奈緒さんになっているからだ。
「はぁ……ったくもぉ。この様子じゃ、どうも、この中に居る人間でキッチリ状況を把握出来てるのは、嶋田さんと、馬鹿の倉津だけみたいだな。……こんなんじゃ、後の3人は使い物にもならねぇ」
あぁ……完全に喧嘩売ってるな。
これが山中に言ってた、バンド間での『音楽性の違い』若しくは『人付き合い』の問題って奴か。
こんな風に揉めるのな。
面倒臭ぇな。
イラネェ事は考えずに、ただ演奏すりゃ良いのによぉ。
そんな俺の考えとは他所に、何故か、この場にくぐもった笑い声が聞こえてくる。
「クックックッ……なんや、おもろい事を言うやんけ秀。それ、なんの冗談や?おもろいけど、あんま笑えんジョークやな」
笑いの主は、この状況の中、ズッと俯いたまま1言も発しなかった山中。
口ではあぁ言ってるが、頭に血が上った様子は無い。
冷静に崇秀を見て笑っている。
あぁそう言えばコイツ、学校で、一回、崇秀相手に口で勝ってたな。
なら今度は、なにをする気だ?
「笑えないジョークを言ったつもりは無いぞ。使えない奴を、使えないとハッキリ言っただけに過ぎないんだがな」
「そうか……それやったら、それでえぇわ。今からオマエが『使えん』って言うた奴の実力を見せたるわ。今ステージに居る奴の次の曲教えぇや。まずは俺が先陣切って、全員喰うて来たるわ」
「ハハッ、オマエに出来んのかよ?拘りのねぇ音じゃ客は冷めるだけだぞ」
拘りって言うと、崇秀が指摘していた山中の弱点とか言う、あの話か……
この話……山中の中では、どう理解されているんだろうか?
「拘りなぁ……そんなもん、なんの意味があんねん?オマエ、アホちゃうか?」
「けっ、拘りのねぇ奴の言い訳か?」
「ほんまアホやコイツ……俺にはな、最初から拘りなんかイランのじゃ。そんなもんはな、音を合わされへん奴のショウモナイ言い訳じゃ」
「ほぉ~~~、言うねぇ」
「……まぁえぇ、オマエと、ツマラン事をゴチャゴチャ言うてても拉致が開かん。要は、この場でステージを盛り上げたら文句ないんやろ」
「おもしれぇ。なら、やって見せろよ」
「言うまでも無いわ。……ってか、ステージに行くのに邪魔やから、そこ、どけや」
しっ、しっ、っと手で、入り口付近に居る崇秀を煽る。
だが、意外にも崇秀は、これ以上、噛み付く事をせず、直ぐにそこを開ける。
そして山中は、俺の横をを通り過ぎ、崇秀・嶋田さんを通過してステージに向かう。
俺は、山中の本意が解らず、これを追う。
「オイ、山中、大丈夫なのか?」
「なにがやねん?んなもん、大丈夫に決まっとるやないか。寧ろ、コレこそが、アイツに一泡吹かす絶好の機会やないか」
自信満々に笑いながら奴はそう言った。
「あぁそうか。なら、良いけどよぉ」
「あぁそうや。マコに1つだけ忠告したるわ」
「なんだよ、急に?」
「オマエ、秀をビビリ過ぎや。なんぼ相手が音楽で天才や言うても、所詮はガキや。実際は大した事あらへん」
山中は、断言にも似た言葉を吐いた。
けど、何故、そこまで断言出来るんだよ?
アイツのギターは化物だって、オマエも認めてたじゃねぇかよ?
「その顔からして、なんやショウモナイ事を思てるみたいやな。……言うてもな、オマエの思てる事は、なんも間違ごうてへん。正真正銘アイツは化け物や」
「なら、どうすんだよ?」
「アホか?バケモン言うたかって、人間には違いない。まぁそりゃあ確かにな。アイツの上を行く事は難しいかも知れんけど、アイツのプレイをコントロールする事やったら不可能ではない。……俺は、さっき、タオルを頭に置いて、ズッと、それを測ってたんや」
「なっ……なんだと?」
「……論より証拠や。まぁ見とけって。ドラムと、ベースちゅうのはバンドの骨組みや。そこを上手くコントロール出来れば、アイツも俺の音に従わざるを得へん。まずはオマエがその辺を理解する為にも、今ステージに居る下手クソ共をコントロールしたるさかい。まぁその辺で見とけや」
そう言って、盛り上がるステージに乱入していく。
楽屋の方も気になるが、まず俺は、山中の動向を見守る事にした。
こりゃあ一体、何が起ころうとしてるんだ?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
さぁさぁ、楽屋内が揉めてる間に。
山中特攻一番機がステージに向かって行きました!!
さて、彼は一体、どんなパフォーマンスを繰り出すのでしょうね?
それは、次回のお楽しみです(笑)
あっ……次回、ちょっと暴力的なシーンがありますが。
良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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