●前回までのあらすじ●
2バンドを行きかう事が決定している倉津君。
そんな彼の立ち位置についての提案が、ステラさんの口から為される。
「私の提案は、この生きた産廃と、今後のバンドについての提案です」
「あぁ、面白そうな草案だね。良かったら、聞かせて貰って良い?」
「わかりました。ではまず、提案に入る前に、理解して頂かなければイケナイ部分が幾つか有りますので。そちらから説明いたします」
「うん?なに?」
「一応、私達のバンドは、この生きた産廃にとっては、サブのバンドっと言う事を念頭に置いて下さい。それだけで結構です」
「サブねぇ……別に、サブとかメインとかって、変に分けなくても良いんじゃないの?」
「いえ、それですと、この生きた産廃のスケジュールが立て難くなるんですよ」
俺のスケジュール?
なんかステラの奴、崇秀みたいな事を言い出しやがったな。
なんか果てしなく面倒臭い匂いが、部屋に充満しそうな勢いでプンプン臭うな。
「分けないと、なにかしろスケジュール管理に不都合が生じるって事だね。良いよ、じゃあ、それでいこっか」
「取り敢えずは、それで御願いします。では、それを踏まえた上で、此処からが私の提案なんですが。まず、この産廃の予定占有権を決めたいと思います」
「クラの占有権?どうすんの?」
「はい。まずは真琴にとってのメインである、そちらのバンドのスケジュールを製作して頂きます。その上で、サブであるコチラのバンドのスケジュールを調整しながらを立てさせて頂く。これなら、そちらに迷惑が掛かる事は無いと思いますが、如何でしょうか?……とは言っても、急な予定変更は不可とさせて頂きます。勿論、そうは言っても、事前に予定変更の通知さえして頂ければ、多少の変更は可能っと言う事にもしておきます」
「うちのバンドに基本的な占有権を渡して、クラのスケジュールを、お互いのバンドで管理するって事?」
「解り易く言えば、そう言う事ですね。あぁですが、矢張り、スケジュールの変更は、出来るだけ控えて欲しいですね。私は、1度決まった事をフラフラ変えるのって言うのは、あまりにもだらしなくて、好きじゃありませんから」
「あぁそうだね。私も、その意見には大賛成かな。それにクラのスケジュールを作るって方も良い意見だと思うし。こちらも賛成だね」
あれ?
完全に素直を放ったらかしで、殆ど2人で決めまったぞ。
って言うよりな。
いつの間にか俺、この2人に管理されちまうって方向で、話が進んでないか?
いや、決して、嫌な訳じゃないんだが。
俺は、元々だらしない性格だし、まずにしてスケジュールなんて高級なものを俺に立てられる筈もない。
この2つに理由から、これを俺だけでやる事は不可能だ。
……それにステラも、勿論、奈緒さんも、なんだかんだ言っても可愛いしよぉ。
ある意味、これって、秘書付きの社長待遇な訳じゃん。
そう考えればだな。
決して悪い状態ではない……いや、寧ろ、他の男にバレたら、怒られそうな待遇だ。
けどな、そんな優遇された状況でも、俺には、どうしても1つだけ不平不満が有るんだよな。
『俺の意思を完全に無視してる』って言うのは、どうなんだ?
これには、既に人としての扱いを、ちゃんと受けてるのかすら不安になる。
それに実際のところ……そんなんで、人として、ホントに良いのか。
俺、また騙されてないか?
「あぁ、じゃあ、まずは来週からの練習曜日や、ライブの活動日程を決めていかないとダメですよね」
「そうですね。まずは、その辺りから決めて行くのが順当でしょうね。ですが、流石に、今日の時点でそれ等を一気に決める事は不可能でしょうから、後日、日を改めて、お逢いするのが良ろしいのではないでしょうか」
「あぁそうだね、そうだね。じゃあ、そうしよっか」
「じゃあ、向井さん。ステラさんの連絡先はどうします?」
「うん?ウチで良いんじゃない。私1人暮らしだから、深夜でも気兼ねなく電話出来るでしょ」
「あの、それって、ご迷惑じゃないですか?」
「別に問題無いけど……あぁって言うかね。そんなまどろっこしい事は辞めて、なんなら、ウチを集合場所に使ってくれても良いよ。外で逢ったら、ついつい無駄なお金使っちゃうしね」
「それで大丈夫なんですか?私、アナタと殆ど面識が無いんですよ」
「気にしない、気にしない♪ステラさんは、もぅバンドの仲間同然じゃない」
なんかしらねぇが、ドンドン上手く話が進んでるな。
実は、俺がなにも口出ししない方が、話の進展が早かったりしてな。
虚しい。
「私が仲間……ですか?」
「そうだよ。嫌だった?」
「いえ、そう言う訳ではないんですが……」
「じゃあなに?」
「あぁなんて言うか。私は、人に疎まれる事は多々有っても、仲間とかって言われる事は無かったもので、あまりそう言った経験が無いので、慣れてないと言うか……」
ステラの性格だと、それは明らかに有り得る話だ。
コイツは、兎に角、誤解され易い物言いをするからな。
実際、ついさっきまでの俺もそうだったんだが、ステラは、言葉の表現の仕方が異常なまでに悪い。
話をよく聞いてみると、意外に的を得ているんだが、わからない奴が聞いたら、ほぼ、コイツの表現じゃ悪口にしか聞こえない。
その辺を改善すれば良いのだが、当の本人が、それを望んでいない以上、この辺りは期待薄だろう。
まぁ自業自得な部分は多々有るが、そう言う意味では可哀想な奴ではあるな。
だったら奈緒さんは、この事実を、どう消化して、受け止めるつもりなんだろうな?
「そっか……じゃあ、これを機会に慣れていけば良いんじゃない」
だな。
ステラを受け入れると思った。
「私達も一緒に話を進めて頂けるって事ですか?」
「そう言う事……それに、この間まで、私も君と似た様な境遇だったしね。助け合いは必要だよ」
「似た様なもの?あの……失礼ですが、向井さんがですか?」
「そうだよ。私の場合は、ステラさんと違って、もっと酷かったかも知れないけどね。1人で勝手に自暴自棄になって、人と接する事すら拒んでた時期もあったからね」
「アナタがですか?あまり、そうは見えませんが」
「そぉだよ。私がだよ。まぁ……とある事情があって、こう見えても、今でも、かなりの人嫌いだからね」
家庭の事情の話だな。
「どう言う事ですか?アナタは、社交的な方だと思いますが」
「実は、全然ダメなんだよね。今でも、結構、人に対して苦手意識は抜けてないんだよ」
「では、どうして、そこまで出来る様になったんですか?」
「そこに居るクラのお陰かな……因みにだけど、理由は、これ以上も以下も無いよ」
「真琴が理由なんですか?」
……はぁ?
なっ……なんで?
そんな重要な話に、俺みたいな馬鹿雑魚の話が出て来るんッスか?
俺、奈緒さんには、なにもして上げられてない所か、迷惑掛けっ放しなんッスけど。
「そうだよ。クラは、君が思ってる以上に良い男なんだよ。この子はね、私を簡単に更生させる程、良い男なの……その辺の事、少しは身に覚え有るでしょ、ステラさん」
「あっ……まぁ、なくはないですね」
「そう言う事。今、君が感じたのモノと、全く同じモノを、私や、アリスがクラから感じたから、2人してクラを取り合ってる訳……だから私としては、少しでも多くの人に、そんなクラを好きでいて欲しいから、自分を変えなきゃいけなかった。私は、そうやって自分を変えてきたつもり。それだけ」
「はぁ……なるほど、そう言う事ですか」
あのよぉ。
なに納得してんだよ、ステラ?
俺には、なんの事かサッパリわかんねぇのに、オマエには、なにか解ったつぅのか?
こちとら、なんのこっちゃサッパリだぞ。
「それにしても向井さんの話は中々興味深い話ですね。それ程までに、この生きた産廃に価値があるのなら、私も真琴の事が欲しくなりました。向井さん……この産廃、私が頂いても良いですか?」
「別に良いよ……私から取れるものなら、幾らでもどうぞ。でも、もし君が本気なら、私も一切の妥協も容赦もしないよ。君もアリスも可愛いから、手を抜くなんて真似出来無いからね」
あの~~~、奈緒さん、だから、なんの話ッスか?
な~んとなくなんですが、俺を取り合うって、方向の話なのは解りますよ。
けどッスね、俺みたいなカス人間を、アナタ達みたいな賢い人間が取り合って、なんのメリットが有るんッスかね?
以前から、その辺が、イマイチ良くわかんねぇんッスよ。
大体にして、俺ヤクザの息子ですよ。
それにッスね。
一番重要なバンドの話が、ドッカに飛んで行ってないッスか?
いや、それ以前に、なんでステラが、そんなに興味津々になるのかサッパリわかんねぇッス。
「中々挑発的で、素敵な事を言ってくれますね。私も久しぶりに、本気で欲しい者が出来ました。真琴の件は、全力で奪いに行かせて頂きますよ」
「君も、アリスも怖いね……ほんと、モテる彼氏を持つと苦労するよ」
「ふふっ、可笑しな事を言うんですね。私には、自信がお有りの様にしか見えませんが」
「ふふっ、どうだろうね」
また、話がややこしくなってきたぞ。
「はぁ……ライバルなんて増えなくて良いのに」
そこに、ボソッと素直が弱音吐いた。
だが、これは、仕方がないと言えば、仕方がない話だ。
恐らく、素直の中では、奈緒さんだけでも手一杯なのに、そこに灰汁の強いステラ……弱音の1つも吐きたくなるのも頷ける。
こう言う事って、基本的には『年齢的な経験値がモノを言う事が多い』と言われてるからな。
ステラの年齢は解らないが、恐らく、素直が一番年下。
ならば、素直にとっては、矢張り、一番不利な状態としか言えないのだろう。
まぁ勿論、俺も、そんな恋愛経験がある訳じゃないんだが。
奈緒さんと付き合ってて、色々学んだ結果、この結論は正しいと思える。
特に、素直が一番懸念している奈緒さんの場合。
こう言った事に関しては、良くも、悪くも、百戦錬磨の強者。
色々な年齢の男性と付き合っていたから、困った事に『男のツボを知り尽くしている』
この部分では、この3人の中では抜きん出てる感じだ。
恐らく此処が、彼女が一番の自信に繋がってる部分だし。
他の二人が逆立ちしても勝てない、奈緒さんの最後の牙城だろう。
それだけでも素直にとって、奈緒さんと言う牙城は、全てに置いて、兎に角、高く設定されている。
次にステラなんだが……この女は、素直にはない強さを持っている。
基本的な精神面が異様に強い事だ。
これはもう既に『打たれ強い』とか、そんな生易しいレベルの話じゃない。
何事にも動じない気持ちは、まさに『アイアンハート』の名に相応しい強い心臓だ。
俺の予想では、生半可な事では揺らぐ事すらない。
そして、その精神力の強さは、必ずしも恋愛には有用なものに成る筈だ。
それ等に比べると素直は、精神的にも、恋愛経験値的にも、まだ成熟していない。
成熟してないと言うより、オボコい部分がまだまだある。
恋愛に夢見ている節も多く、あまり現実的な感じを見受けられない。
多分、その辺が自分自身で気になって、素直は溜息や、弱音を吐いていたのだろう。
ただな。
長々と素直の溜息の理由や、彼女達の心境や性能について説明してきた訳だが、実際の所は、俺にとっちゃあ、この話は、あまり深い話ではない。
何故なら、俺は、基本的に奈緒さん以外の女性は、女性として見てないからだ。
あれだけ俺の事を想ってくれてる人なんざ、身内を含めても誰も居ない。
だから、ステラが争奪戦に参入して来ようと、素直が一途に想ってくれようと、悪いが、基本的には『関係無い』と言う結論に至ってしまう訳だ。
まぁ、そう言う理由がある訳だから。
出来れば素直も、ステラも、少しでも早く俺なんかの事は忘れて、他の良い奴に巡り会って欲しいとさえ思える。
かなり傲慢な意見だが、此処に悪意が無い事だけは確実だ。
だが、この素直の一言や、奈緒さんの言動が原因に成って、またややこしい方向に話が進んでいく。
最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
どうやら倉津君の管理は、奈緒さんと、ステラさんによって為される様ですね。
まぁそれはダラシナイ倉津君にとっては良い事なのでしょうが。
それとは別の部分で、なにやらややこしい事が起きそうな予感がします。
なにが引き金に成るのやら。
それは次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)
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