●前回のおさらい●
奈緒さんの蘊蓄が炸裂しながらも、崇秀の使っているギターがヴィンテージ物だと判明。
だが崇秀は、そのヴィンテージ・ギターを2万で手に入れたと言う。
さて、彼はどうやって、そんな金額で手に入れたのか?
「そうだなぁ。じゃあまぁ此処で、少し昔話をするとだな。……俺がこのギターを、親に強請って買って貰ったのは小学校4年の時なんだけどな。当時バンドブームの最盛期で、近所のにぃちゃんがギターを持ってたんだよ。それがさぁ、子供の俺には滅茶苦茶カッコ良く見えてな。それで、どうしてもギターが欲しくなって、まずは急いで家に帰った訳だ」
「あっ、はい」
なにやら、コイツにしては順当な出だしだな。
なにかもっととんでもない理由があるのかと思っていたが、此処は意外にも普通だった。
「まぁ、そうやって家に帰ってから、お袋に『ギター買ってくれ』って強請ってはみたものの、イキナリぶん殴られて『使えもしないもの欲しがるんじゃないの』って、逆に滅茶苦茶怒られただけに留まっちまったんだよ。かと言って、そんなに簡単にギターを諦められる筈もなく、俺は、此処で一計を講じる。『もぅ一生分の誕生日プレゼントはいらねぇからギターを買ってくれ』って言葉を使って、再度、交渉をしてみた訳だ。そしたらな。……なんとお袋が『本当に一生分の誕生日プレゼントは要らないんだね』って、妥協の言葉を吐いたんだ」
「ほぉほぉ、それから、どないなってん?」
「勿論、俺としては1つ返事だ……そしたら、お袋の財布から、一枚・二枚……っと、数枚の札を出してきたんだよ」
「……っで、幾ら出してくれたんや?」
「25枚の紙幣だ」
「なんやと?オマエの親は、餓鬼に強請られただけで25万も出すんか?」
「いや、全部千円札だ。金額は、勿論、たったの25,000円」
「じゃあ、普通だと、その金額じゃ買えねぇよな」
無理だな。
「あぁ買えねぇ……けど、倉津、考えてもみろよ。小学4年の餓鬼にしたら25,000円は、かなりの大金だ」
「そうだな。そんな金、餓鬼なら、年玉でしか拝めねぇ様な金額だよな」
「だったら、どう考える?」
「馬鹿だから『これで買える!!』とか思うだろうな」
「そう言うこった。倉津の言う通り、当時、まだ馬鹿な餓鬼だった俺は、大金をせしめたと思い、喜び勇んで横浜に繰り出す訳だ。……まぁ、お袋にしたら、ギターの金額を見て、諦めて帰って来ると思ったんだろうけどな」
「でも、その通りですよね。当時だと、今みたいに大きな割引をやってるショップって少なかったし。量産品も、かなり少なかったと思うんですが」
「あぁ。勿論、買えるギターなんか一本も無かった。店でギターの値段を見た時は吃驚仰天だったな」
その当時には、オマエにも驚く機能なんてあったんだな。
寧ろ俺は、そっちに吃驚したぞ。
「ほんだら、どうやって買ってん?」
「それがな。……それでも尚、まだ諦め切れない俺は、次に『質屋』に行ったんだよ」
「質屋か……なるほどなぁ。それは、結構、合点のいく話や。けど、単純に質屋や言うたかて、相手は目利きのプロやろ。2万なんて、そないなアホな値段は付けへんやろ」
「普通ならな」
嫌な予感がするぞ。
ヤッパリ、コイツ、また、とんでもない事を仕出かしたんじゃねぇか?
餓鬼の頃から『変りもん』だったからな。
「なんや?なんかしたんか?」
「あぁ……した。当時まだ質屋が多く点在していたから、まずは気に入ったギターを探し。その上で、ジジィかババァがやってるボロイ店を探し回ったんだよ」
「それに、なんか意味があるんか?」
「当然。意味が無きゃ、んな面倒な真似はしねぇよ」
「じゃあ、それに何の意味が有るって言うんだ?」
「可能性だよ、可能性」
「可能性だと?」
「あぁ、物の価値のわからねぇ可能性だ」
「はぁ?」
「良いか倉津?ジジィやババィがやってる質屋だと、時計とか、バッグなんかの需要のある高級品の相場は良く理解しているが、ギターとかになれば話は別だ。まずにして、ギターの価値なんてイマイチ解らないだろうし、質屋で買取りされる可能性は非常に薄い。……まぁ、今でこそ取引が横行してるが、当時の質屋にすれば扱い難い商品だ。……ここまで解るか?」
「あぁ、置いておいても、商品価値が低く。売れ残り易い商品って事だな」
「まぁ単純に言えば、そんな感じだな。それに付け加えて、質屋にギターを持って行く奴の性質を考慮すれば、大体、金に困った貧乏学生。なら、コチラも質屋の買取値を知らないボンクラ。買い取り値なんか、ほぼ言い値になっても、おかしくない……なら、どうなる?」
「安くで買って、安くで売るの法則が成り立つ訳か?」
「いいや、実際は、そんなに甘くはない。それに、そんな正攻法じゃ安くは買えない」
わからん?
「「「???」」」
「わかんねぇかな?」
「皆目わからん」
「そっか。じゃあ、説明を続けるな。良いか、ジジィ・ババァが、いくら『買い叩いた』と言っても、アイツ等は、その道のプロ。買い叩いた商品の価格を、後で調べるんだよ」
「はぁ?」
「その調子だと、わかってねぇみたいだな……例えばだ、まず定価25万のギターを10,000円で買い叩く。その後10,000円で買い取った物の価値を調べ、定価が25万だったと判明。質屋のジジィは、約200,000円の値をつけて店に出す……此処までは大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫や」
「じゃあ、その後は簡単だ。その値札の0を1つ消してやるんだよ」
「はぁ?ちょ!!オマエ、それ、無茶苦茶やないか。オマエ、それ、完全に犯罪やんけ」
「あぁそうだ。犯罪だ。ただな。バレ無きゃ犯罪じゃない。だからな、完全に0を消しちゃダメなんだよ。ちょっと汚して、ギリギリ見えるか、見えないかぐらいに消すんだよ。……相手には、勝手に勘違いして貰わなきゃいけねぇからな」
「ほんだらバレるちゃうんか?」
「アホか。だから、ジジィかババァの店なんだよ。老人の目の大半は老眼だ……眼が悪いんだよ」
最悪だ。
コイツ、小学校4年生で、そんな犯罪紛いな事を考えてやがったのかよ。
しかも、ソレを実行すな!!
「それでもバレる可能性って有るんじゃないんですか?」
「それも刷り込み済みさ。『これ、頂戴』って、ガキっぽく嬉しそうな顔をして言って、イソイソと財布から先に金を出す。この行動に一抹の不安を持ったジジィは買取表を見るだろ。……そしたら買い取り値は10,000円って書いてある訳だ。もぅそうなれば、売れ難いギターの価値なんて憶えてねぇ。奴の頭には10,000円の儲けしか見えてない。んで、納得して売ってしまう訳だな」
「オマエって、ほんとに最悪だな。……だが1つ問題が残るぞ」
「どうせ、買い取り値の事だろ」
「あぁ」
エスパー出たよ。
なんで解るんだよ?
「これに関しては……まぁ運が良かったんだろうな」
「運だと?」
「あぁ……偶々、そのギターを売った、如何にも貧乏そうな人が質屋の前に居たんだよ」
「っで、どうしたんや?」
「明らかにギターの値段を見て、怒ってる様子だったから『おにぃさん、このギター格好良いね』って、俺が聞いたんだよ。そしたら、そのにぃちゃん、人が良いのか、餓鬼の俺に『これ、少し前まで、おにぃちゃんのだったんだよ』って言って来た訳だ。そう言われたもんだから、悲しそうな顔をして『売っちゃったの?こんなに格好良いのに……』って聞いたら、そのにぃちゃん『あぁ、売っちゃった。たった10,000円だったんだけどな』って、愚痴交じりに、俺に買い取り値を吐いちまった訳だ。……まぁ、そうなれば後は、俺の独壇場だ。そのにぃちゃんは用無しだから、さっさと別れて。さっき言った事を行動に移す。……ほら、簡単に20,000円で買えただろ」
オマエって、昔から、そうなのな。
欲しい物に対して手段を選ばない、えげつねぇ事をする餓鬼だったんだな。
その時点で、人間として終わってるぞ。
「でも、ちょっと、売ったお爺さん可哀想ですね」
「良いの、良いの。あのジジィは、たった10,000円に目が眩んで、俺にギターを売ったんだから、自業自得。寧ろ、可哀想なのは、ギターを売ったにぃちゃんの方だな」
「それにしても、えげつない餓鬼やな」
「そっかぁ?普通だよ、普通。この程度の事、みんなもやってるって」
「やらねぇよ!!つぅか、するかぁ!!」
マジで、そこまではやらねぇわ!!
ってか。
それ以前に、そんな悪逆非道な真似をガキが思い付くか!!
流石に、崇秀のこの反省の無い態度には、奈緒さんも山中も、白い目で奴を見ている。
ただ、馬鹿は悪びれる事もなく、笑いながら、こんな事を言って来た。
「ハハハ……そっかぁ?餓鬼の頃、ババァの駄菓子屋、若しくはスーパーとかで、お菓子の値札とか付け替えたりしなかったか?あれの派生系だよ」
確かに、これは心当たりが無いと言えば嘘になるな。
だが、お前のは明らかに金額が、全然違うだろ。
なにが『派生系』だ。
小学生が『万単位』の値札細工してんじゃねぇよ。
しかも、用意周到に準備までしやがって……頭おかしいだろ。
「そやけど、後でバレたらどないすんねん。怒られるだけでは済まへんやろ」
「馬鹿言うな。そんな隙は作らねぇよ。『親に領収書を貰って来い』って言われたとか言って領収書も貰い。値札も、そのままケースの中に捻じ込む。……これなら絶対バレ無いだろ」
「あっ、あの、それ、本当に小学4年生の時にやったんですか?」
「あぁやったよ……じゃなきゃ、今『中二』の俺が、あんなにギターを上手く弾ける訳が無いだろ」
あぁそうか。
SGの入手経路の話しが、あまりに常軌を逸してたから、そこから目が逸れていたが。
コイツは、小学校4年からギターを弾いてるんだな。
って事は、既に4年のキャリアか……
そりゃあ、上手くても当たり前だな。
「あぁそや『ギターが上手い』序に聞くけど、オマエのコードの押さえ方って、なんか変やないか?」
「うん?変か?」
「あぁ変や。なんや、普通の押さえ方やないで」
「そっかぁ、変かぁ……まぁ仕方ねぇんじゃねぇか」
「またなんでや?」
「俺、ギターの弾き方、誰にも習った事ねぇもん」
「なっ、なんやて!!ほんだらオマエ、どないして憶えてん?」
コイツは、どこまで訳が解らないんだ。
言うに事欠いて、ギターを習った事が無いだと?
それでどうやったら、あんなに上手くなるんだよ?
意味がわからねぇ。
「自分で一音一音、丁寧に弦を弾きながら憶えただけだが……変か?」
「一音一音……ですか?その近所のギターを持ってるお兄さんに、コードを聞いたりしなかったんですか?」
「あぁ、聞いてない。……だって、そのにぃちゃん、ギターを持ってるだけで、全然弾けねぇんだもん」
「あぁ、居るよな、そう言う奴。流行に流されるんだろうな」
「そうだな。確かに、そう言うにぃちゃんだったな……まぁそのにぃちゃんがギターを弾け様が、弾けまいが、俺には、あんまり関係ないな」
「なんでだ?」
「それ以前に、このギターは、お袋が無理して買ってくれたもんだろ。『出来ねぇ』なんてツマラネェ理由で、部屋に飾りにする訳にもいかない。だったら自分でコードを解読するしかない訳だ。……まぁ独学だから、山中の言う通りコードの押さえ方が、変なんだろうけどな」
『コードの押さえ方が違う』
これは以前、何処かで聞いた事が有る話だ。
何所の誰だかまでは、ハッキリ憶えてないが。
ある有名なギターリストは、この馬鹿と同じで、独学でギターを憶え。
基本的なコードの押さえ方を知らず、ズッとギターを弾いていたらしい。
このギタリストの話は、相手が有名人だった事もあって簡単に信用出来たが……まさか、そんな奴が身近に居るとは思わなかった。
―――崇秀は、マジで化物だ。
それを証拠に、奈緒さんも、山中も、あまりの驚愕の事実に黙りこくっている。
コイツの話は、それ程インパクトの有る話だ。
「オ~イ、みなさ~ん。何所に行っちまったんだぁ~」
普段のコイツは、こんなに馬鹿なのにな。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
崇秀……本当に悪い奴ですね(笑)
相手を上手く勘違いさせて、納得した金額を払ってるので『犯罪ではない』と言えば犯罪ではないのですが。
こんな犯罪紛いの事を、小学校4年で平気な顔でやるなんて、何処か完全にブッ壊れてますね(笑)
まさに『真性の悪人』です。
でも、まだ続きがある様ですので。
そこのお話は、また次回の講釈と言う事で(笑)
また遊びに来て下さいねぇ(*'ω'*)ノ
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