●前回までのあらすじ●
バンドの方向性がある程度決まった瞬間。
狙っていたかの様に、アメリカに行った筈の崇秀が、マカダミアンナッツと大阪チョコバナナを持って帰国。
そして、バンド内での揉め事の原因を聞いて、ある提案をしてくる。
奈緒さんと素直ちゃんを上手く使うには、一体、どんな思考の変換をすればいいのか?
「向井さん=本妻。アリス=愛人……これでどうだ?」
あぁあぁ……もぉ。
何を言うかと思えば、ホントこいつだけは、マジで人として終わってる。
まずにして、その言葉はな。
本職(ヤクザ)のダメ人間が口にする様な、最低最悪な言葉なんだぞ。
ガキが発想して言う様なセリフじゃねぇわ!!
「ばっ、馬鹿じゃねぇのか、オマエ?大体にして本妻と、愛人ってなんだよ?つぅか、俺は、まだ中学生なんだぞ。んな事、普通は考える訳ねぇだろ」
「なんでだよ?オマエの理想系だと思うが」
「んな訳ねぇだろ」
「そうかぁ?……向井さんは『本妻』だから、最後にはオマエが必ず戻る場所。そんでオマエ自身、彼女を愛してる。アリスは付き合ってて楽しいから『愛人』関係、そんで好きレベル……なにも、おかしくねぇじゃん?」
「バカタレ。そんな酷い事したら、2人とも傷付くだろ」
「ほぉ、オマエが、そこまで言うなら、なんで、どっちが好きかハッキリしねぇんだ?その方が訳がわかんねぇよ。……あぁそれともなにか?今のハーレム状態を継続させて、どこぞの王族気分でも味わいたいのか?」
「誰がハーレムの王様だ!!誰も、そんな事は望んでねぇよ」
「ならよ。いい加減に気付いたら、どうなんだ?今のオマエのどっちつかずな態度が、2人を一番傷つける行為だって事をよ。……まっ、つってもよ。現状を見てた訳じゃねぇから、これ以上は、俺自身も、なんとも言えねぇんだがな」
見てもいねぇのに、よくもまぁ想像だけで、そんだけ話を作れるもんだな。
……って言うかよぉ。
ほぼ正解なだけに、何も言い返せねぇじゃねぇか。
「まぁまぁ、取り敢えず、落ち着けや秀。これは俺等のバンドの話やねんから、オマエのバンドの話やない。そないに口出しすんのは、ちょっとルール違反やないか?それに心配せんでも、さっき俺も、そのアホに同じ事を言うた所や」
「そうなのか?……まぁ普通、バンド内で、そう言う諍いが起こったら、まぁそう言うわな」
「そういうこっちゃ。しかしまぁ、オマエも大概お節介なやっちゃな」
「まぁな。お節介と言えば、お節介なんだろうが。本音を言えば、半分は、自分自身の為に言った言葉でもあるんだがな」
「なんやねん、それ?」
「オマエ等、不甲斐ねぇんだよな」
またおかしな事を言い出した。
今度は、なにを言い出すつもりなんだ?
「不甲斐無い?なんや急に……どういう事やねん?」
「いやな。実にツマンネェ話なるんだがな。一応、こんな俺でも『音楽の最終目標』ってもんがあんだよ」
「目標?なんやねんそれ?」
「なぁにな。『各国に強敵を作って、それを完膚なきまで撃破』し様と思ってんだよ。それなのによ、我が愛する母国の代表バンドが、この体たらくじゃ、嘆きたくもなるってもんじゃねぇか?」
「ちょ!!オマエ……本気で、そんな事を考えとるんか?」
「当たり前だろ。俺はな、音楽に関しての自分の存在意義を、そこに見出してる。だからよ。『音楽で俺の敵に成り得る人間は、全てを音楽で叩き潰してやろう』と思っている。因みにだが、これはなにも音楽だけに限った事じゃねぇぞ。今、勉強しているカット技術も然りだ」
「なんやオマエ?二足の草鞋を踏むつもりか?二兎を追うもの一兎も得ずやぞ」
この『二足の草鞋』の話は以前、俺にもした事があったな。
人間、2つの事を同時にしたら、結局は1つも出来なかったって話だ。
あの時も身に沁みたが、今現在も身に沁みる話だよな。
「一般的には、そうなんだろうけどよぉ。けどな、不器用な奴は、それで納得すりゃ良いが、俺は、そんなのはお断りだな。そんな1つの事しか出来ねぇ様な、不器用な人間になるつもりは更々ない。全てを要領良くこなして、ナンデモカンデモ一番を取らねぇと気が済まねぇの。……じゃねぇと、人生ツマラネェだろ」
「今更、言うのもなんやけど……オマエって、ほんまにキチガイやねんな」
「はいはい、ご名答、ご名答」
化物。
キチガイ。
魔王。
天才。
手を抜けない馬鹿。
俺もコイツに対して、色々言ってきたが。
実はコイツ、そのどれにも当て嵌っては居なかった。
コイツは、限界無しの底なしの才能を1つだけ持っているに過ぎない。
『退屈出来無い』って言う才能だ。
ある意味、一定以上の才能が無ければ、なんの意味もない話なんだが、それすらも努力で突破してしまうのが、コイツの凄いところだ。
どうも、この話からして、コイツの欲望には、本当に果てが無いみたいだな。
「じゃあよぉ。俺を、ご理解頂けた序に、1つ頼んで良いか?」
「今度は、なんやねん?」
「急にで悪いんだがな。向井さんか、アリスのどちらかを俺にくれ」
「なっ、なんや急に、どういう事やねん?」
「いや、さっきも言ったがな。正直、このバンドの進歩のなさには落胆させられた。……だからよ、俺が滞在している間に、もぅ1バンド強烈な奴を保険で作っていく。その為の核だな」
「おいおい、秀。それは、あんまりにもナメ過ぎちゃうか?」
「別に、なめてる訳じゃねぇ。オマエ等が、2人の扱いに困ってるみてぇだから提案したまでだ」
「詭弁やな。そうやって俺等から、オマエに対する挑戦権を剥奪する気やな」
「まぁ、そう言う取り方もあるな。……っで、どうなんだよ?1人抜けた位で揺らぐ様な貧弱なバンドじゃ『絶対』に俺には勝てねぇぞ」
「えぇやろ。ほんだら好きにせぇ。但し、奈緒ちゃんが移籍するんやったら、俺もソッチに移籍するで。俺は、あの子の気概に撃たれて、もぅ一回バンドをする気になってんからな。あの子が居れへんねんやったら、バンド自体やる意味がない」
「ほぉ、そこまで向井さんの気概に惚れ込んでるのか?」
「当たり前や。恋愛感情抜きにしても、決めた女を成功させられへん様な無様な男は最悪や。俺は、必ず奈緒ちゃんを成功させてみせる。……俺の中で、これが最低限度のルールや」
「わかった。じゃあ、向井さんが抜ける場合は、このバンドにはドラムを補充する。これで良いか?」
「OKや。それやったら好きにせぇ」
おいおいおい……人が黙って聞いてりゃ、なにを勝手に話を進めてるんだよ?
俺は、誰も出て行く事なんて許さねぇぞ。
「ちょっと待てな。なに勝手に決めてんだよ。俺は、そんな話を認めたつもりはねぇぞ」
「じゃあ、どうするんだ?解決策も無しにバンドは続けられないぞ」
「テメェの知ったこっちゃねぇよ。部外者は黙ってろ」
「あぁ、そうかい、そうかい。まぁそれなら、それでも良いが。このままじゃバンド崩壊の日は目前だぞ。嶋田さんに『死神』以上の称号でも付ける気か?」
「るせぇつってんだろ。んなもんは関係ねぇの……良いか馬鹿秀?このバンドはな。山中・奈緒さん・嶋田さん・素直が居て、初めて成立するバンドなんだよ。みんな、テメェの噛ませ犬に成る為にバンドをしてる訳じゃねぇんだよ」
「ほぉ、面白い事ぬかしやがったな。なら、恒例の勝負だ」
「勝負だと?」
「あぁ、一週間後、ライブハウスを1つ貸し切ってやるから。その言葉に見合うライブをやってみせろ。もし出来たら、今後一切、引き抜きの話はしねぇ。……どうだ?勿論出来るよな?そんだけの大口を叩いた上に、3ヶ月も猶予があったんだ。出来て当たり前だよな」
この野郎だきゃあぁ。
自分の思い通りにならないからって、言いたい放題言ってんじゃねぇぞ。
なら、やってやんよ!!
そこまで言われて、コッチも引き下がる道理はねぇ!!
やりゃあ良いんだろ、やりゃあ!!
「良いだろう。やってやんよ」
「ククッ……ヤッパ、オマエは話が早ぇ。なら、交渉成立だ。だから会場の手配は、全て俺がしてやる。会場は、あの横浜『Live-oN』で、日時は一週間後PM18:00スタート……これで異存はねぇな?」
「あぁ、それで結構だ。序に、このバンドの解散も賭けてやるよ」
「ほぉ、それはまた大きく出たもんだな。……それでこそ、ワザワザ帰国した甲斐が有るってもんだ。楽しくなってきやがった」
「おいおい、ちょ、ちょう待て、マコ。解散って……オマエ、勝手し過ぎやぞ」
散々勝手な事を言ってたオマエが、それを言うか?
「関係あるか。どうせ、全員でやれねぇなら、このバンドの意味なんてねぇ。ならいっその事、解散した方がマッシってもんだ」
「あぁさよか。オマエが、そこまで覚悟してんねんやったら、もぉなんも言わん。……ほな、俺は、早速、隣に居るアリスに話をつけてきたるわ。ホンマに、そんでえぇねんな?」
「おぉ、これまた話が早ぇ」
「あぁ頼む。……それと悪ぃが。少し、この馬鹿と話をする時間をくれ」
「えぇで。なにを話すんかは知らんがOKや」
山中は、それだけ言い残すと。
後は何も余計な事を言わずに、足早にスタジオから出て行く。
さて、この時間を利用して、このアンポンタンに話しておかなきゃいけない事もあるしな。
最後までお付き合い、ありがとうございましたぁ<(_ _)>
倉津君……崇秀に簡単に乗せられて、またとんでもない賭けをしてしまいましたね。
とうとう『バンドの解散』を賭けちゃいましたよ。
でも、それとは別に、崇秀になにやら話があるみたいですね。
なんの話かは、次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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