最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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076 不良さん 奈緒さんと合流する

公開日時: 2021年4月22日(木) 19:58
更新日時: 2022年11月13日(日) 22:04
文字数:2,934

●前回のおさらい●


 崇秀に、初歩的なステージ上での在り方を教えて貰った倉津君。

気分が良くなっていたので、そのままステージ上で、最後の練習を1人でしていると……

「パチパチパチパチパチ……」


誰も居ないと思って弾いたのだが、どうやら誰かが、このスタジオ内に居た様だ。

誰ともわからないソイツは、俺の下手糞なベースに沢山の拍手をしてくれた。


正直照れ臭い。



「クラ……上手いね。ちょっと感動しちゃった」


客席の後方から、陰に隠れたままのソイツが、そんな声を掛けてきた。


いや、ソイツと言うのには語弊がある。

この声は100%奈緒さんだからだ。


第一、俺の事を『クラ』って呼ぶ人は、あの人しか居ない。



「あっ……うっ」


突然の奈緒さんの出現。

それに付け加えて、人にあまり褒められた事が無い俺は、恥ずかしさが溢れかえってきていた。


それ故に、言葉が上手く出ない。

俺の口からは、情けなくも『あっ』と『うっ』が精製されただけだった。



「クラ、此処に来てからなんかあったの?スタジオで練習してる時とは大違いだったよ」


奈緒さんはステージに近づきながら、そう言ってきたのだが。

あんまり、この質問に答えたくないな。


奈緒さん。

馬鹿秀と、俺が弾いてたって言ったら、多分、また怒るだろうしな。


それに、この人の罰は、結構キツイ。


でも、正直に答える俺。


俺は、ひょっとしてマゾヒストなのか?



「いや……ちょっと馬鹿と2人で弾いてただけッス」

「仲居間さんと弾いてたんだ」

「あぁ、アイツが誘って来たんッス。怒んないで下さい」

「怒んないよ。……でも、ちょっと嫉妬かな」

「嫉妬?あぁすみません。じゃあ、奈緒さんが来るのを待てば良かったッスね」

「違うよ。そう言う事を言ってるんじゃなくて。私が嫉妬したのは、仲居間さんの視野の広さ」


うん?なんのこっちゃ?


確かに、アイツは物を教えるのが上手いが、特に何か変わった事をした訳でもない。

寧ろ、変な理屈を植えつけられただけだ。


まぁ、それだけで上手くなったのは否めねぇが。



「視野?」

「うん。今のクラのベースの音を聞いて解ったんだけど。私達と練習してた時より、遥かに表現力が付いてる。とても、初めて1ヶ月のテクニックじゃないよ。そんな表現力を身に付けようと思ったら、下手すれば年単位でかかちゃうのに」

「あぁ、でも、あれッスよ。もしそうだとしても、奈緒さんがベースの下地を作ってくれたからこそ出来たんッスよ」

「ありがと。……でもね、違うの。下地を作ったのはクラ本人。決して私じゃない。それに私は『見ただけで弾ける』って君の才能にだけ目が行って、君の本質を見てなかった……ダメだな私」


あぁ、なんか凹んじゃったよ。


そんなに気にする様な話じゃないんだけどな。


まぁ1ミュージシャンっとしては、崇秀に短時間で仕上げられたのがショックだったんだろうな。


なら、そこが解った以上、兎にも角にも、早くフォローしよ。



「あの1つ言って良いッスか?」

「なに?」


完全に俯いて、髪の隙間から見える視線しかこっちを見ていない。


こりゃ重症だな。



「別にアイツは、凄くなんかないですよ」

「えっ?」

「アイツは、ただ、ナンデモカンデモ全力でしか出来ない馬鹿なだけなんッスよ。だから、奈緒さんが落ち込む事では無いんですよ」

「でも、クラ。私が教えた時より上手くなったじゃん」

「まぁそうなのかも知れないッスけどね。奈緒さんが居なかったら、100%上手くなってなかったッスよ」

「どうして?」

「だって……俺……奈緒さん想いながらベース弾いてましたから。奈緒さんが居なかったら、こんな気持ちでベースは弾けなかったッス」

「クラ……」


ちょっと涙目になりながらも、目をキラキラさせてる。

この表情から言っても、一応は、一安心と取っても良いだろう。


まぁそれにしても……こんな風に俺が、女の子に対して、ペラペラと歯の浮く様なセリフを平気で言う様になるとはな。


おっかねぇな、恋愛と楽器ってよぉ。


そうやって、俺の緊張感はドンドン抜けていった。



「『チュッ』ありがとクラ……」


気が抜けていたところに、不意打ちキッス。


俺の腑抜けた脳に電撃が走る。


この人、いつも不意を付いて来るんだよな。

しかも、俺からまだ一回もキスした事ねぇし……


でも、まぁ良いか。



「なっ、なっ、なっ、奈緒さん」


頭の中では冷静を装いながらも、言葉が上手く紡ぎ出ないのが俺の悲しい性質。


フッ……所詮、童貞野郎はこんなもんさ……



「なに?」

「あっ、あの……」

「頑張った、ご褒美……嫌?」

「嫌な訳ないッス。あざッス、あざッス」

「変なの……自分の彼女なのに」

「ッスね」


うおおぉぉぉっぉお、やったぁ~~~!!

とうとう彼女の口から、キッチリ彼氏だと認めて貰ったぞ。


今まで、これだけ引っ張られたのを我慢した甲斐があったってもんだ。


今日は、なんて言う満足な1日だ。

奈緒さんには彼氏と認められるは、ベースは罷り也にも弾ける様になるわ。


人生最良の日だな。



「うん……じゃあ、いい加減、私の事を呼び捨てで奈緒って言ってみ」


またぁ~~~、また、そう言う事を言う。

折角、人生最良の日を満喫してるんッスから、せめて今だけでも、そう言う事は言わないで下さいよ。


俺はね、本気の本気で奈緒さんを呼び捨てにするのが嫌なんですよ。

いつまでも『さん付け』で呼んでないと、調子に乗りそうな自分が居るんッスよ。


そこを解って欲しい所ッス。



「・・・・・・」

「ほら、どうしたの?言ってみ」


しょうがないッスねぇ。


一回……一回だけッスよ。



「なっ、奈緒」

「クラ……私、ナナオじゃないよ。奈・緒・言ってみ。それと名前を言った後にも、序に、なんか言ってみ」


ほんと意地悪いな、この人は。


ちゃんとじゃないにしろ『奈緒』って呼んだんだから、もぉこの辺で勘弁してくださいよ。


しかも、毎回毎回ドンドン要求がレベルアップしてるし。

女の子って、そんなに男の歯の浮く様なセリフを言わしたいものなんッスか?


理解出来ねぇッスな。


まぁ考えていても仕方が無い。


此処は1つ気を取り直して……



「なっ、奈緒……」


あっ、ヤベ、結局噛んだ。


再度、気を取り直して……



「俺は奈緒が大好きだ。俺は一生、奈緒だけを見てる」


うぇ……


なんとなくだが上手くは言えた様な気はするんだが。

なんだろうな?この得も言えぬ敗北感は……


しかもまぁ、自分の姿形も考えずに、よくもまぁヌケヌケと、こんなこっ恥ずかしいセリフが吐けたもんだな。

自分でも胸焼けした上に、吐き気までしちまいそうだわ。


まぁその分、あのセリフに期待は出来るな。



「くすっ……ありがと」


あぁ、この人は、俺が期待したにも拘らず……また言ってくれないんだ。

『ありがと』の後の『私も好きだよ』って言葉が、奈緒さんは、いっつも抜けてるんッスよね。


特に今回は、折角『くすっ』まで付いてたのによぉ……


上手く行けば完璧だったのによぉ……


ってかな。

此処まで俺がこのセリフに固執するのには、ちょっとした理由があってな。

『私も好きだよ』ってセリフは、実は、俺が『彼女に言われたいランキング1位』のセリフなんだよな。


だから、ほんといい加減、口に出して言って欲しいもんだ。


もしかして、この人、それをわかっててやってないか?



「うんうん、満足。……じゃあライブ、お互い頑張ろうね♪」

「……ッスね」


あぁ、マジ最悪だ、この人。


自分だけ満足しちゃったよ。



俺も、あのセリフを聞いて満足してぇ~~~~!!


人生最良の日はどこへやら、虚しい犬の遠吠えはスタジオに木霊する。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これにて第十四話『魔王』は終了でございます(笑)


しかしまぁ相変わらず口は悪いですけど【魔王】事崇秀は、本当に視野が広いですね。

何処をどうやれば、相手を上手く成長させれるかを見抜く力が群を抜いていますね。


倉津君は、本当に友人には恵まれているようです(笑)


さて、そんな事が在りながらも次回からは、とうとうライブが始まり。

その中で倉津君は、ある男性と知り合う事になります。


彼との出会いは、一体、倉津君に何を齎すのでしょうか?

そして、その出会う彼の正体とは!!



そんな感じで、また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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