●前回のおさらい●
前話での崇秀との会話で、少々いつもと違う心持の倉津君。
そんな心境で、今回の大型ライブを乗り切れるのか?(笑)
そんな中、ライブの前説も手際良く終わり。
今回のライブでの1組目のバンドである『Baby×Killer』が入場していく。
見た感じ、ヴォーカル・ギター・ベースを主流にした3人組のバンド。
年齢も30歳前ぐらいの年代がメインのバンドで、如何にもライブ経験値が高そうなバンドと見受けられる。
……ただなぁ。
如何にも経験値が高そうなバンドには見えるんだが。
それに反して、この人達って無駄なぐらいに緊張してるんだよな。
今、見た感じなだけでも、手なんかを思い切り握り締めてるし、ステージに上がる際ですらギコチナイ感じでロボットみたいな動きをしている。
今考え事をしていた俺ですら『アンタら、それで大丈夫か、オイ!!』って、声を掛けてあげたくなる様な心境だ。
それに、このバンドの問題は、そこだけに留まらないんだよな。
何が問題か?って言うとだな。
このライブってな。
各バンドが、最低でも30分以上の演奏時間が宛がわれてんだよな。
なのに、こんな緊張した状態でライブなんか始めちまったら、ノルマである30分どころか、10分ももたない内に、観客から大ブーイングの荒らしを喰らいそうな雰囲気なんだよな。
第一なぁ、ライブの一番手と言えば、盛り上げ係+特攻係だろ。
要するに、切り込み隊長とって言うのは、最初のステージを盛り上げる為の掴みの部分で一番重要な役回りなのに、アンタ等が、そんなんじゃ、会場のボルテージなんぞアガンネェどころか、客が冷えちまうんじゃねぇかよ?
んで、後続バンドに対しても、観客の悪影響が出る可能性がある。
俺は、只管、そんな悪循環な予感がしていた。
***
そう思ってる間に、特攻隊長の『Baby×Killer』の一曲目がスタートする。
だが……それは、俺の予想を遥かに超えた、見るも無惨な酷い出来だった。
最初の挨拶も無しな上に、客への煽りも、なにも入れずにイキナリ演奏をスタート。
しかも、その演奏って言うのが、ただ演奏する事だけに没頭した、誠に残念な演奏の仕方。
奏でてる音楽に、感情もなにもあったもんじゃないから、観客になにも伝わってる様子がない。
勿論、演奏自体のレベルは決して低くはないんだが、バンドと、客とのシンクロ率が全くと言って良い程感じられない様な状況。
現に、この演奏を聴いて盛り上がっているオーディエンスは、このバンドの身内にも等しいファンのみ。
他の観客の殆どは、完全に興味無さ気にしており、あまり演奏を聞いてる様子すら無い。
大型ライブとしては最悪の出だしだ。
この時点で俺は、緊張する自分とは裏腹に、今でも、ステージに飛び出して行きたい心境になっていた。
***
そして2曲目が始まる。
だが……矢張りと言うべきだろうか、観客が盛り上がる様子は一向に見受けられない。
それどころか、最初のバンドにも拘らず、客のテンションをドンドンと急降下させて行っている様にも思える。
その観客の不穏な空気を感じたバンドのメンバー達は、更に自分達への不安が募ったのか、最低限出来ていた演奏にすら陰りが見え始め、少しづつ演奏にもムラが出始めている。
恐らく、普段の練習なら、あんな凡ミスはしないんだろうが、完全に客と会場に呑まれている雰囲気だ。
ヤバイな。
幾ら素人バンドのライブだからと言っても、2曲連続のミスは、どんな事があっても、流石に戴けないだろ。
「オイ、倉津。なに神妙な顔をしてステージをジッと見てんだ?……あそこにでも行きてぇのか?」
突然、崇秀が咥え煙草をしたまま、俺の肩に手を掛けて、話し掛けてきた。
相変わらず、危ない事を平気でする男だ。
「なっ!!なにしてんだ、オマエ?……ってか。行きてぇのかも、なにも、この状況で、どうしろって言うんだよ?」
「いやな。大した事をするつもりはねぇんだが。どうにも今日の『Baby×Killer』は頂けねぇ状況なんだよな。勿論、責任を取らす意味で、このまま演奏を続けても良いんだが。このままじゃ、いずれブーイングの嵐が起こっちまう。そうなりゃ、折角、来てくれた客が帰っちまう事になる。……さて、流石に、それはマズイと感じた俺は、そこで1つのある提案を思い付いた。……俺が乱入するかな……ってな」
「おまえ、マジかよ?」
「まぁまぁ、見てろって……なにもステージに入る事だけが乱入じゃねぇぞ。今から、それを証明してやる。……面白いもん見せてやんよ」
そう言った後、悪ガキみたいな顔で一笑する。
その後は、手際良く用意していたIbanez/UV‐7を取り出し、近くにあった大型アンプに繋ぐ。
それで、次の曲のタイミングを見計らって、今、会場で弾いてるギターの音をオフにしやがった。
そこから奴は、ステージの裾で、今弾いてる『Baby×Killer』の曲をなんなく奏で始めた。
その音は、相変わらず……いや、以前にも増して切れ味が鋭く。
この糞暑い日差しすら感じなく成る。
寧ろ、背筋が凍りそうな感じだ。
この途轍もない音に、観客は、即座に反応を始め。
あっと言う間に、盛り上がりは、会場全体に感染していく。
観客全員を魅了するには、殆ど、時間は掛からなかった。
戦慄さえ憶える、マジで恐ろしい演奏だ。
まぁそうは言ってもだ。
崇秀の演奏に引っ張られて『Baby×Killer』のメンバーは緊張も解れたのか、ミスも徐々に無くなっていき、彼等本来のパフォーマンスを取り戻していく。
コレは、本当に悪くない現象だ。
……だが、良い事も有れば、悪い事もある。
そぉ、このライブの盛り上がりや『Baby×Killer』の復活に関しては、とても良い事なんだが、それをしでかした張本人が良くない。
これ程、大胆な事をしたにも拘らず、当の本人は演奏をしながら、ニヤニヤニヤニヤ、ケタケタケタケタ笑って喜んでるやがるんだよね。
コイツ、完全に遊び感覚だ。
どうやらコイツにとっては、このドデカイ会場ですら遊び場でしかないらしい。
緊張の『き』の字もありゃしねぇ!!
その代わり、キチガイの『キ』の字どころか、キチガイ全ての文字が揃ってるがな。
マジでキチガイだ、コイツ!!
そうやって考えてる内に『Baby×Killer』の二曲目が終わった。
これにより、最初は無視していた観客も、いつの間にか崇秀の奏でる音に飲み込まれ、視線は全てステージに釘付けになっていた。
マジでコイツだけは……どうなってやがんだよ?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
早速、倉津君が驚く様な真似を、崇秀がやらかしてきましたね(笑)
倉津君じゃないですが『本当に、コイツだけは、なにを仕出かすか解りません(笑)』
ただ、此処で1つだけ理解して欲しいことがありまして。
傍から見れば、崇秀は遊び半分の様に見えますが、実際の話『これは企画者としての責任の問題』なんですよ。
言うなれば、倉津君の様に「1人の演奏者の立場」であれば、此処までする必要は無いのですが。
崇秀は、罷り也にも「このイベントを企画したプランナー」
この時点からして、責任の重さが全然違うんですね。
なので、こう言う無謀な真似をした訳です(笑)
さてさて、そんな中。
こんな大胆な真似をした崇秀に対して、倉津君は、どんな反応を見せるのでしょうね?
それは次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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