●前回のおさらい●
奈緒さんの言葉に感動してキツク抱きしめたら『痛いよ』と言われ。
焦って離そうとしたら……
『女の子は優しく扱うものだよ。こんな風にね』と言う言葉と共に優しくキスされた倉津君。
当然、突然何が起こったか解らない倉津君は放心するのであった(笑)
「クスッ。でも、此処から先は、おあずけ……頼んでも何もしてあげないよ」
脳味噌が困惑したまま俺は、彼女の顔をじっと見続ける事しか出来なかった。
っと言うより。
この状況をクスクス笑っている彼女から、眼が離せない状態だ。
それに……これ以上のご褒美と言われておられておりますが、俺にとっては、これだけでも十分過ぎるご褒美です。
他には何も要りません……いやもぉ、これ以上なんて望み様がありません。
「……ッス」
「でもねぇ。クラがライブでベースを上手く弾けたら……特別なご褒美あげちゃおうかな」
そう言って彼女は、再びクスクスと笑いだした。
男は、女のこう言った言葉や仕草には直ぐに引っ掛って釣られる。
当然、童貞野郎で、女性経験の少な過ぎる俺も、他の男同様、簡単に釣られた。
まぁ、これ程までに魅惑的な言葉に釣られないのは、女誑しの馬鹿秀ぐらいのもんだろう。
つぅか。
あの馬鹿の場合、こう言った言葉に引っ掛らないどころか。
アイツなら『じゃあ、先にちょっとだけ……良い?』とかロクデモナイ事を平然と言ってのけて、相手から、ご褒美を先渡しさせそうだ。
恐ろしい奴だ。
(↑勝手な決めつけ)
「ほっ、本気ですか?」
「うん?なになに?クラには、これが冗談に聞こえるぐらい、他の女子にも、そんな事を言われてるの?」
「いっいっいっ言われてないッス、言われてないッス。こんな言葉なんて言われたのすら初めてなんッスから」
「それなら、私の言葉を信用してくれても良いんじゃないの?」
「そっ、そう……ッスよね」
奈緒さんは、そう言うと立ち上がり。
両手を上で組んで、背筋をピーーーンっと伸ばす。
「さてと、そろそろ、これで休憩は終わり。これから、ちょっと難しくなるけど、全部叩き込むよ」
「ッス」
「あぁ、序だから言って置くね。私もライブに出る訳なんだから、必要以上に心配しないで。……出来るだけフォローはするから」
「ウッス」
「けど、例えそうで在っても、自分也には頑張ってね。……女の子に、平気で恥掻かせる様な男になっちゃダメだよ」
「ウッ……ウッス」
俺にとっての甘い時間は、この30分ほどで終了。
+奈緒さんの最後に言ったセリフが、多大なプレッシャーを残す……
だが、落ち込んでいる時間は微塵も無いので、直ぐ様、練習再開。
しかし、こんな短時間で、本当にベースが弾ける様になるのだろうか?
俺は、ベースは基より、譜面の見方なんて全く知らないぞ。
「あの奈緒さん」
「なに?」
「今まで奈緒さんに教えて貰った事は、大体なんですが理解出来ましたけど。譜面って、どうやって見るんッスか?それが解らないと、楽器って弾けないもんじゃないんッスか?」
「あぁそうだね。譜面が読めないと、どの楽器も弾けないのは現実なんだけど。他にも方法が無い訳でもないんだよ」
「なんッスか、それ?」
「う~~~ん。一番メジャーなものだと『耳コピ』かな」
「ミミコピ?」
音楽の授業さえロクに出た事のない俺には、まったく聞きなれない言葉だ。
ミミコピとは、一体なんだろうか?
「そぅ、耳コピ」
「なんッスか、その耳コピって?」
「う~ん、そうだね。解り易く言えば、耳で聞いた曲を、そのままコピーして演奏に繋げるって意味」
無理難題。
「むっ無理ッス。俺、イキナリ、そんな器用な真似は出来無いッス」
「だよね。……でも、大丈夫だよ。仲居間さんに渡されたスコアーって『タブ譜』だから」
「タブ譜?なんッスか、それ?」
「うん。実は、今から、それを説明しようと思ってたのよ」
また訳の解らん言葉が出てきた。
大体にして『タブ譜』ってなんだよ?
そう思っているのを感知したのか、奈緒さんは説明を始めた。
『タブ譜』
本来なら、音符で表現する譜面を、弦とフレットの番号で記されたスコア。
音程位置なども、各弦のフレット位置で書かれており、前者の説明を理解していれば、比較的解り易い物だ。
また、オタマジャクシは、この譜面には存在せず。
譜面さえ見れば、ダイレクトに、ベースのどこを押さえれば良いのかも解る優れもの。
だから、これさえ理解していれば、指定された弦とフレットを押さえるだけで、全て事無きを得れるって訳だな。
まぁ所謂『バンド専用の譜面』
これは蛇足なんだが。
国内アーティストのタブ譜は、著作関係の問題等があり、あまり出回らないらしい。
「へぇ~~~っ、そりゃあまた、便利なものが有ったもんッスね」
「そうだね。結構、これ、使ってる人もいるしね」
「じゃあ、奈緒さんも良く使うんッスか?」
「私?……私は、どちらかと言えば使わない方かなぁ」
「じゃあ、オタマジャクシの方ッスか?」
「あぁそれも、あんまりかな」
「へっ?じゃあ、どうやってベースを弾いてるんッスか?」
さっぱりわからん?
「うぅんとねぇ。一応、聞かれたから教えるけど。私のやり方は、あまり今のクラには薦められる、やり方じゃないよ」
「そうなんッスか?あの、因みに、どう言うやり方なんッスか?」
「うん、あのね。誰かが作ってきた『基本になるメロディーライン』を、まずは、みんなで聴いて、各々自分パートに音を入れて行くのよ。それでその後は、みんなで話し合いをしながら曲を完成させるってやり方。これだと自分が作ってる音だから、どうやっても忘れ様が無いのよ」
なるほどなぁ。
共同作業で一曲の曲を作るって上に、その場で譜面すらも憶えてしまうって訳か。
けど、確かに効率的な憶え方ではあるのだが。
今の俺では、ある問題がある故に、奈緒さんの言う通り、地球が逆回転しても無理な話だな。
「あぁ、そりゃあ、確かに俺には無理ッスね」
「うん。でもこれは、結構、特殊なやり方だから心配ないよ。それに曲なんてタブ譜が全てな訳じゃないから『あぁ此処こうした方が良いな』って思ったら、自分で勝手にアレンジしちっても良い訳だしね」
「ウッス。けど今は、まだアレンジはパスッスね。まずは最低限度弾ける様になってから考えてみるッス」
「だね」
笑顔でそう言って、タブ譜を渡してきた。
けど、俺の表情は、奈緒さんのものとは異なり。
見ただけでも、嫌気が刺しまくってるぐらい嫌な顔をしている。
なんだよ、これ?
一通り見たところで、疑問に残る部分があった。
話に聞いてたものとは、明らかに異彩を放つ数字が書き込まれていたからだ。
「奈緒さん」
「なに?」
俺が『奈緒さん』と聞いて、奈緒さんが『なに?』っと返す。
この会話のパターンは、既にパターンとして成立しているな。
「あの、この『7』って書いてあるのなんッスか?」
「あぁ、セブンスかぁ。……説明するの忘れてたね」
「セブンス?」
「うん。今説明するから、そのままベース持ってて」
まだ有るのか?
もぅそろそろ、憶える事が有るのは勘弁してくれ。
俺の残り少ない河豚脳が蒸発してなくなっちまいそうな勢いだぞ。
それでも奈緒さんの説明は、容赦なく成される。
「その前に、ちょっとだけリフについて説明させて貰うね」
「リフって、なんッスか?いきなり、セブンスじゃダメなんッスか?」
「そう言う訳じゃないけど、それだと理解し難いんだよ」
「……ウッス」
ベース1つ弾くのにも、大変なもんなんだな。
憶える事が満載じゃねぇか。
説明の積載オーバーで死んじまうぞ。
「じゃあ、リフについて説明するね……音楽に於けるリフ(riff)って言うのは、オスティナート。つまり、繰り返されるコード進行、音型、リフレイン、または旋律の音型の事を指すのね。主にリズムセクションの楽器によって演奏されたり、楽曲の基礎や伴奏として成立するもの。特にロック、ラテン、ファンク、またジャズに於いては顕著にでるので良く憶えておく事。ラヴェルのボレロの様に、クラシックもまた、時にシンプルなリフの上に成り立っているから。シンプルでありながらキャッチーなリズムの音型をホンキングするサックスの様に、あるいは、カウント・ベイシー・オーケストラのヘッド・アレンジに於けるリフを基に展開される変奏の様に、リフとは単純でもあり、逆に複雑なものとしても成立する。楽器としてはギターによるものが顕著なんだけど、ベースやキーボードなんかも少なからず用いられるのよ……まぁ、そう言う感じのものかな」
さっぱり訳が解らん。
「すっ、すみません。全然わからないんッスけど」
「そっかぁ。じゃあ此処は、感覚的に憶えるて貰うしかないね」
「ウッ、ウッス」
「じゃあ、Aで例えてみようか……押さえてみて」
「ッス」
「そうしたらね。ギターリフで気になる所をベースフレットにすると『2弦の5フレット』になるの。これがセブンス……解るかなぁ?」
「はぁ……なんとなく」
「じゃあ、Dの場合どうなる?」
「えっと……ですね……『1弦の5フレット』ッスか?」
「凄いねクラ。それで正解」
あぁなるほど、そう言う位置関係か。
位置関係さえ解れば、何とか出来るんだろうけど……こんなもん、演奏中には瞬時に出来無いぞ。
「んじゃあ、もぅ一個ね」
「まだ有るんッスか?」
「そんな嫌な顔しないの。取り敢えずは、これで最後なんだから」
「ウッス……」
「ごめん、一遍に詰め込み過ぎだよね。……そう言う顔をするって事は、クラ、もぅ嫌になっちゃった?」
此処はどうにも、先程の休憩時間に奈緒さんと話し込んで、全然休憩出来なかったのが凶と出たみたいだな。
どうやら俺は抑揚の無い返事を奈緒さんに返してしまったらしい。
彼女は俺を見ながら、少し眉を顰めた。
「そんな事無いッス、そんな事無いッス。全然、嫌になってないッス」
「……ほんと?」
表情をそのままに、チラッと視線だけがコッチを見る。
本心で言えば、疲れて、もう何もしたくないんだが。
それだと、折角、丁寧に教えてくれている彼女の恩に報いる事が出来無い。
寧ろ『恩を仇で返す』羽目になる。
これは、疲れなんかよりも数倍辛い。
だから俺は我慢して、やった事も無い作り笑顔で、再び言葉を返す。
「まじッスよ。これ位なんとも無いッス。だから奈緒さん、早く教えて下さい。時間無いッスよ」
「ほんとに大丈夫なの?」
「ウッス。疲れなんかより、奈緒さんに恥を掻かす方が辛いッス」
「そっか、ありがと。クラは、ほんとに良い男だね」
俺の女神に、復活の兆しが見えたぞ。
「じゃあ悪いけど、容赦なく説明を再開するよ」
「ドンと来いッスよ」
「クスッ……うん、じゃあ気を取り直して説明ね。この話は、さっきの派生系の話になるんだけど、セブンスには2種類あってね。さっき言ったのが一般的には暗めのセブンスになるの。それに付け加えてもう一個『メジャー・セブンス』って言うのが有るのよ」
「あぁやっぱ、ややこしそうッスね」
「ううん。今度のは簡単。ただ単に『セブンスの半音高い音』の事だから」
「あぁ、そうなんッスか……けど、どうやって見分けるんッスか?」
「最初に教えた方は『7』のみの表記。それに対してメジャー・セブンスは『△7』とか『maj7』って表記されてるから、一目瞭然」
「ウッス。位置付けの話を考えたら、これは大丈夫ッスね」
「うん。良かった。細かい事は別にして、今回は、これで教える事は御仕舞い。後はタブ譜通りに弾けば、ある程度は弾ける筈だよ」
「あっ、あざッス」
「……クラ、良く頑張ったね」
「ッス」
終わった……
規則性の解説と、指の動かし方を教えて貰っただけだが、これで一通りの事は終わったらしい。
だが、実際、大変のは、これからだろうな。
思う様に指が動いてくれれば良いが……
「ん、じゃあ一回、私が通しで弾いて見るから、聴いてて。その後、1時間程、ちゃんと休憩しよっか」
「ッス」
-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……
再度チューニングをしながら、軽く何かを弾いている様だ。
あぁ、これってメタリカのMaster Of Puppetsか。
ホント、この人、メタリカ好きだよな。
「んっ?」
「んっ?どうかした?」
「いや、あの、別に……ただ……」
「ただ?」
「今のメタリカですよね」
「そうだよ。ベースの音だけなのに、良く解ったね」
「因みにですけど、Master Of Puppetsッスよね」
「そうだね」
あぁ良かった。
そうじゃないかなぁとは思ってただけなんだが、一応はちゃんと正解だった。
「……あの、時間が無いのは重々承知の上で、1つお願いが有るんッスけど」
「なに?」
「良かったらなんッスけど。一度、その曲を最後まで弾いてくれませんか?」
「良いけど……またなんで?」
「あぁっと、なんて言うか……なんとなくなんですけど、音を聞いてるだけで、譜面が見える様な気がして」
「えっ!!それ、ほんと?」
「あっ、確証なんて、全然無いんッスよ。ただ、そう思っただけッスから」
「ふ~ん。じゃあ、ゆっくり弾いてあげるから、このタブ譜に、音を拾いながら書いてみて」
「はぁ……弦とフレットを書くだけで良いんッスよね」
「そぉそぉ」
俺は言われるがまま、スタジオに有る小さな机にタブ紙を置いてペンを構えた。
一応、上の空きスペースに、メタリカ・Master Of Puppetsっと書いて置く。
「良いかな?」
コクッと頷くと、奈緒さんはゆっくりとベースを弾き始めた。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
以前に書かせて頂いた『運指運動』の仕方と。
今回書かせて頂いた『タブ譜の説明』で、簡単な曲なら、意外とベースやギターが弾ける様に成るかもですので。
良かったらチャレンジしてみて下さい(*'ω'*)ノ
今からミュージシャンを目指すのも悪くないかも知れませんよ。
(バンドマンはモテますしね(笑))
さて、そんな冗談はさておき。
次回は、奈緒さんに意外な提案をした倉津君は、どういう判定を下されるのかが注目です(*'ω'*)
上手くいけば御喝采……っと言う事で(笑)
でわでわ、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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