●前回のおさらい●
一瞬、喧嘩になりそうになった不良さんと崇秀だったが。
山中の上手い仲裁により、なんとか事なきを得たのだが……
その後、山中がツマラナイボケをした為、仲裁してくれた山中を放置して、例の『才能のある人物』の話を進める事にした。
山中のお陰で、崇秀との喧嘩はなんとか収まった。
なら、此処に来た本題である『アリス』って奴の話でもするか。
それをしなきゃ、本末転倒だしな。
「まぁ、アホは放置して置くとして、マジでアリスって、どんな奴なんだ?」
「おぉ?またしても放置プレイかい?オマエ等、マジ、高等やのぉ」
「んぁ?アリスか?……まぁアイツの特徴を言うなら、かなりの人見知りな奴だな」
「人見知りだと?……そんな奴がステージに立って役に立つのか?」
「マジで放置する訳か?そりゃないんちゃうか?」
「あぁ、役に立ってるぜ」
「なんでだ?普通、そんな奴がステージに立ったらガチガチになって、何も出来なくなるもんなんじゃねぇのか?どう考えても無理だろ」
「まぁな。普通は無理だろうな。……けどな。アイツには、それを克服して、余るほどの特殊な技能を持ってるんだよ」
なんだ?
人見知りの奴が、その特技とやらで、ステージに上がれば役に立つ様になるのか?
わっけわかんねぇな、ソイツ。
「なるほど。そう言う奴か。俺には、ちょっとだけ話が見えてきたぞ」
「なんだよ、急に……」
「ハハッ……、どうやら、山中は、何かに気付いたみたいだな」
「まぁな。俺の予想通りやったら、多分、これで間違うてへん筈やで」
「ちょ……オマエ等、なに2人で解り合ってんだよ?気持ち悪い」
「なんだ、オマエ、まだわかんねぇのか?」
「あぁ、カラッキシわかんねぇ」
「そっか。まぁそうだな。オマエだったら、そうなっちまうか。なら、少し解り易く言えば、その技能ってのは『変身願望』って奴だ。更に、噛み砕いて言えば、ある物を切欠に『演じられる』技能だな」
変身願望?演じられる技能?
なんだそりゃあ?
「やっぱりな。そや思た。……まぁそやけど、それはまた中々レアな人材を見つけたもんやな」
「だろ」
山中は、言葉通り感心。
崇秀も、山中の言葉に納得。
俺だけ訳が解らん。
ホント、なんだこりゃあ?
「ちょ、待て!!」
「なんだよ?」
「演じれるのは解ったが。演じれると言っても、人間の本質なんぞは、基本的に変わらねぇ。そんだけで、人見知りじゃなくなるのは、ちょっと変じゃねぇか?」
「まぁ、世間一般で言えば正論ではあるな」
「でも、その子は特別。普通とはちゃうんやろ?」
「そう言うこった」
崇秀が好き好んで付き合うんだから、おかしな奴だとは思う。
だが、特別だとしても、何かを演じれる程度じゃ、人見知りが人前に出て行くのは、そんなに簡単な話じゃない。
此処は、根本的な話だと思うんだがな。
何か間違ってるのか、俺?
「しかしなぁ……」
「しゃあないな。どうにも、マコは、まだ理解出来とらんみたいやから。今度は、俺が説明したろか?」
「オマエがか?」
「そや。俺が親切丁寧に教えたってもえぇで」
どう言うつもりかは知らないが、山中が俺にきっちり教えてくれるらしい。
まぁ山中だから不安が無い訳ではないが、このまま解らない状態よりは幾分マッシだろ。
取り敢えずではあるが、山中の話を聞いてみるか。
「じゃあ頼む」
「ほな言うで……まず念頭に置く事は、そのアリスって言う子の特技は『演じる』やのうて『なりきる』と思うてもうた方が解り易い言う事やな」
「なりきる?演じると、なんら変わんねぇじゃねぇか」
「一見、同じ様に聞こえても、ニュアンスがちゃうねん」
「ニュアンスだと?」
「そや。『演じる』は、どこまで行っても演技や。オマエの言う通り、ソイツの本質は、なんも変わらへんから、そんな奴がステージに上がったら緊張もするやろうな。そやけどな『なりきる』っとなると、ちょっと意味が変わってくるんやないか?」
「なっ、なにが違うんだ?」
なにか期待をしているのか、俺は妙な緊張感から言葉がドモッた。
山中の話に出て来た、そのアリスとかって言う奴から、なにやら異質なものを感じ等のかもしれない。
「えぇかマコ?『なりきる』言う事はな。ソイツを演じる事で、ソイツになってまう技能や。例えばやな、ソイツが有名なミュージシャンに『なりきった』とするやろ」
「あぁ」
「ほんだら、そん時点で、そいつは、自分やのうて、有名ミュージシャンやねん」
「あぁ……」
「ほんだら、ソイツの心境は、どうなってる」
「だから、お前が言う、その有名ミュージシャンなんじゃないのか?」
「違うだろ」
「なんでだ?」
「その皺のねぇツルツルの脳みそで、山中の言った言葉を噛み砕いて良く考えてみろ。本質に近い所までは、オマエも行ってるんだからよ」
「ってもなぁ」
有名ミュージシャンの心境だから、有名ミュージシャンの心境なんじゃねぇのか?
「難しく考えんと、もぅちょっと、簡単に考えてみぃな」
「・・・・・・」
なんで俺、こんな所で授業みたいなもん受けてんだ?
そうやって思考が、疑問とは全く違う関係ない方向に向き出して、既に現実逃避を始める。
俺の悪い癖だ。
それを感じたのか、崇秀が言葉を発する。
「山中、諦めろ。この馬鹿は、悪い思考の輪に入っちまったみたいだ」
「どうやら、そうみたいやな」
「う~~~ん…………わかんねぇ~~~~、ギブだギブ」
「しゃあない。ほな、説明の続きしよか」
「そうしてくれ」
考えても解らねぇものは、わかんねぇ。
なら、四の五の考えず、答えを聞いた方が手っ取り早い。
じゃねぇと時間の無駄だ。
「答えはな。ソイツが、その有名ミュージシャン自身やねんから『緊張』も『人見知り』もせぇへんのんちゃうんか?」
「へっ?」
「有名ミュージシャンが、街の寂れたステージに立っても緊張なんかする訳ないやろ……そう言う特技を持ってる奴はな。勝手にそう思い込んで、勝手にそう言う風になるもんなんや……どや?そんな風に聞いたら、中々、面白い心材やろ」
「はぁ?んな馬鹿な」
なるほどな。
さっき俺が回答した時、俺の回答が正解だったにも拘らず、崇秀が「違うだろ」と言ったのはこの差だったのか。
俺が上辺だけでしか捉えてなかったから「違った」訳な。
これが『演じる』と『成り切る』の差なのか?
ってか。
例え、そうで在っても、そんな心境って、本当に有り得るのか?
「まぁそう思うのは、何も不思議な事やない。俺も、実際にそんな奴を大阪で見た事が有るから、此処でもそう断言出来るだけの話や。多分、見てへんかったら、オマエと同じ反応をしてたと思うで」
「はぁぁ~~~……しかしまぁ、そう言う奴って、本当に居るんだな。けど、そうなると『なりきる』為に、必要な切欠の『ある物』って、なんなんだよ?」
「それは相手の特徴や」
「特徴だと?」
「そや、例えばや……例えばやぞ」
「おぉ」
やけに慎重だな。
なんで『例え』を2回言う必要があるんだ?
なんか此処に来て、非常に嫌な予感がするんだが。
「かっしゃん・清水さん・向井さんが居ったとするやろ」
ヤッパ、また、その話か……
なんでイチイチその話題を振るんだよ。
もぅ良いだろうに。
「あのなぁ」
「勘違いすんなよ。嫌がらせで、こんな事を言うてるんちゃうで。今のマコやったら、この3人が一番解り易い思たから、例に出しただけや。他意はない」
「あぁそうかよ」
「怒んなや。ホンマ、この方が解り易いねんから」
「解ったよ、解った……続けろ」
傲慢な俺。
「ほな、続けるわ。さっき言うた3人。ドイツもコイツも特徴的やろ」
他の2人はいざ知らず、向井さんをドイツもコイツもの中に入れんじゃねぇよ。
オマエ、失礼にも程があるぞ。
っと……イカンな。
そこに拘ってたら、また話が進まねぇんだった。
「あぁ」
「ほんだら、この3人、どこが特徴や?」
「性格か」
「あぁ……それも確かに1つの要素ではあるな。そやけど、そんな一見して解らん様な内面的なもんはいらんねん。もっと外見的特徴や」
「外面的ねぇ……んじゃあまぁ、単純に考えるなら、髪型とか服装だろうな」
「それやマコ!!」
俺を指差しながら大声を上げる。
「なっ、なにがだよ」
「解り易い特徴は、その3人やと髪型や。ほんだらソイツにとっては、それがキーワードになって『なりきれる』訳や」
「じゃあ、なにか?髪形を変えるだけで、精神的には、ソイツになれるって事か?」
「そや」
「髪の長さは、どうする?」
「ズラとかでえぇねん。見た目が似とったら、ソイツにとっては、それで十分なんや」
「十分なぁ。しかしまぁ、なんつぅか……頭では解ってても、直接、見ねぇ事には納得出来ねぇもんだな」
「まっ、そりゃそうやろな」
「豪くアリスに興味津々の様だな。だったら、その現場を見てみるか?」
今まで黙って山中の説明を聞いていた崇秀が、突然声を上げた。
「なんや?そないな事言うって事は、近々ライブでもあんのか?」
「ご名答」
「ほんだらリストに入れといてくれ。絶対行くわ」
「あぁ良いぞ……んで、オマエは、どうする?」
「いや、その前にリストって、なんだ?なんのリストだ?」
「んっ?タダで会場に入れるリスト。あぁ悪い……倉津にはわかんねぇか。まぁなんだ、そう言うリストが有ってだな。店側に渡して置くと、フリーパスで、友達とか知り合いを入れて貰える様になるんだよ」
「へぇ~~~、そんなもんがあるんだな」
ライブとか、バンドとか、サッパリ解らない俺に、珍しく親切に教えてくれた。
これって、さっきの無駄な喧嘩で懲りてるんだろうな。
若しくは、時間が勿体無いと悟ったか。
まぁどちらにしても。
俺はライブハウスとか行った事ねぇし、こう言うのって、結構、楽しそうなイベントではあるよな。
「んで、どうすんだ?」
「あぁ、じゃあ俺も頼む」
「一人分で良いのか?あぁ、先に言っとくが、面倒な事を言うつもりも、お節介をするつもりもねぇ……オマエの好きにしろ。あと一人分位なら、どうにでもなる」
なにが『お節介するつもりはねぇ』だよ。
現時点で、十分な位お節介なんだよ。
だが、話としては悪くないのかもな。
向井さん自身も独自でベースとか弾ける位の音楽好きだからな。
なら、彼女を誘う口実としては、決して悪くない提案ではある。
「あぁ、じゃあ頼む……ただ、連れて来れるか、どうかは、わかんねぇぞ」
「来れなきゃ来ないで、別に問題ねぇよ。そん時はそん時だ」
「それはそうと、秀。いつ、ライブすんねん?」
「2週間後。場所は横浜『Live-oN』」
「OKや。はな、楽しみにしてんで」
『ガラっ!!』
「コラ、君達、いつまで残ってるの。早く帰りなさい!!」
ビッ、ビックリした。
話してる最中に、突然扉が開いたと思ったら、いきなり怒鳴ってきやがって。
人が話してる時に、急にデケェ声だしてんじゃねぇぞ。
そう思いながら振り向いてみると。
そこにはウチの副担任、新人教師の島田千夜(シマダ・チヤ)が立っていた。
うわぁ……
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
今回は揉め事もなく。
なにやら例のアリスが出演する崇秀のライブに行く話で纏まりましたね(笑)
そして話が終息したと同時に、謎の副担任の登場。
なにが起こるかは、また次回の講釈です(笑)
良かったら、また遊びに来てくださいね(*'ω'*)ノ
【オマケ話】
一応、今回【技能】と言う言葉が出てきましたが。
これは、チートスキルの事ではありませんので、あしからず。
なんらかの理由で【身に着けた技術】だと解釈して下さるとありがたいです(*'ω'*)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!