●前回のおさらい●
奈緒さんを引っ張れって行けるぐらいの男にならなきゃいけないと確認した俺は、奈緒さんの手を引き、赤レンガ倉庫に向かった行った。
赤レンガ倉庫に到着したのは22時を廻ったぐらい。
夏休みとあって、カップルや、家族連れ等が、こんな時間にも拘らず数多く点在している。
この辺に関しては、流石、神奈川有数のファミリー&デートスポットと言った処だろう。
さて……赤レンガ倉庫に到着したまでは良いが、これからどうすっかな?
此処で、変に奈緒さんに『どこか行きたい所はないッスか?』なんて聞いたら、またヘタレを臭わす言葉を投げかけられそうだしな。
それに……此処まで、一度も離さずズッと握り締めていた奈緒さんの手の意味も、一瞬にしてなくなりそうだ。
じゃあ、どうっすかなぁ?
まぁ此処は、まず定番に従ってみるか。
それでダメなら、行き当たりバッタリだな。
「奈緒、腹減ってないか?」
「うん?お腹かぁ……そんなに空いてないかなぁ」
「そっか……」
はぁ~~~……ヤッパリ、こんな定番のセリフじゃ、この人は思い通りにならないよな。
ライブでカロリーをタップリ消費したから、このセリフには、かなり期待してたんだけどな。
所詮、こんなんじゃダメだよな。
仕方が無いので、俺は、奈緒さんの顔をジッと見ながら、彼女の出す言葉を待つ事にした。
すると、思いがけず、直ぐに返答が返って来る。
なにか考えがある様だ。
「ねぇねぇクラ、そんな事よりさぁ。さっき言ってた、ちょっと面白い事って奴を、此処でやってみない?」
「うん?なんかしたい事でも有るのか?」
「あるよ」
「なんだ?」
「ひひひ……此処でね。楽器弾いてやらない?」
「こっ、此処でか?」
「そぉそぉ、此処で。……土・日の日中じゃないから、みんな、吃驚すると思うんだよね♪」
また、トンデモナイ事を言い出した。
確かに、彼女の言う様に、土・日のイベントの時ならまだしも。
こんな夜中にゲリラ・ライブなんかをやったら、カップルや家族連れが吃驚するどころか、それこそ警備員が飛んでくる。
彼女は、敢えて、そんな無謀な事を提案してきた。
一体、何を考えてるんだ奈緒さんは?
「流石にマズイだろ」
「あっそ。君は、ホント退屈な奴だよね……良いよ、君がやらないんだったら、私1人でもやるから。君は、そこら辺で、指でも咥えて、私の演奏を聞いてれば良いんじゃない」
なんか、やけに、今日は挑発するなぁ。
なんでそこまでして、こんなリスクの多い事をやりたがってんだ?
訳がわからん。
けどなぁ。
恒例の事で申し訳ないんだが。
奈緒さんって、一度、言い出したら、中々言う事を聞いてくれないんだよなぁ。
それに、これって、彼女が切望してる事だしなぁ。
まっ、良いっか。
警備員が来たら来たで、ブン殴ってでも奈緒さんだけを逃がせば良い事だしな。
考え方によっちゃあ、それはそれで面白いか。
「奈緒」
「うん?なに?」
「誰がやらねぇつったよ」
「無理しない、無理しない。それにさぁ。多分、クラが出来無いって言うと思って、1人でも出来る様に、嶋田さんからギターを借りてきたんだよね」
「アホ臭い……あのなぁ、奈緒、高々ギター1本で何をする気だよ。奈緒の音楽には、俺のベース・ラインが必要だろ」
「ふ~~~ん。一応、本気でヤル気なんだね。でも、先に断って置くけど、嫌々ならお断りだよ」
「アホか……誰が、オマエの為に嫌々するか。それ以前に面白そうじゃねぇか」
「そっか、そっか。良いね、その感覚。そう言うの大事だよね……じゃあ、2人でド派手にやっちゃおっか」
「良いんじゃねぇの、そう言うの」
俺と、奈緒さんは、悪ガキみたいな顔をしながら。
1本の木の下にハードケースを置いて、演奏の準備を始める。
まぁ、さっきは、あぁ言ったが……実際の今の状況って、楽器を演奏するのには、結構、悲惨な状態なんだよな。
スタジオみたいにアンプもねぇし、まずにしてスピーカーもない。
だから、頑張っても、精々アコースティックみたいな音しか出ないんだよな。
それに、そんな音ぐらいじゃ警備員はやって来ない。
そう言う確証がない訳でもない。
要するに、これって、単なる度胸試しみたいなもんなんだよな。
なんて思っていたら……奈緒さんは、イキナリ、木に付いているスピーカーのコードをニッパーで切り、ハードケースに繋ぎ始める。
なっ、なにやってんだ、この人!!
「奈緒……オマエ、何やってんの?」
「ふふふ……実は、このハードケースね。アンプ内蔵型なんだよね。だから、此処をこうしてやれば、いつでも何所でもデカイ音が出せるんだよね」
「マジで!!」
あぁ……ヤッパ、この人は、常に俺の考えの上を行く人だな。
普通やんないだろ、こんな事。
……ってか、なに、そのハードケース?
ソケット部分が内部に4箇所、外部に4箇所も付いてるんだけど……そんなもん、何所で買ったんッスか?
―――向井奈緒の謎は深まる。
「それと……」
オイオイ、まだ、なんかあんのか?
アンタは未来から来た、不思議なポケットを持ってる猫型ロボットか!!
「ピンマイクっと……後は、これをこう繋いで……出来上がりっと♪」
どうやらドラミちゃんは、ピンマイクも持参の様だ。
しかもな、以前にも、こんな事をした前科があるのか、やけに手際良くコードを作り。
出来上がったものを、ドンドンとソケットに差し込んでいく。
この人、ホントに何者だよ?
「じゃあ、やるよ……あぁそうだ、そうだ。その前に忠告。もし警備員が此処に飛んで来たら、速攻で逃げるんだけど。逃げる際は、コード類は、全部破棄するからね。持って帰ろうなんて思っちゃダメだよ」
「うっ、うっす」
ハンパネェ!!
余りの衝撃に、俺は既に『下っ端言葉』に戻っていた。
「あぁそれと、こう言うのって、警備員にバレない様にする為に、ちょっとしたコツがあるんだけど……聞きたい?」
「なっ、なんッスか?」
「ふふ~ん、あのね。最初は、今流れてる有線の音楽と同じぐらいの音で曲を流すの。そうしたらね。中々警備員は気付かないのよ。上手く行けば、結構な数の曲を弾けるんだよ」
あぁ危ない、危ない。
この奈緒さんの助言がなかったら、勢い良くガンガンに弾く所だったよ。
……にしても、奈緒さん、ホント楽しそうだな。
悪戯好きのティンカーベルの本領発揮ってところか。
「OKッス」
「うん、良い感じ♪じゃあね、今流れてる曲が終わったら、始めるよ。曲順は【朧月】【Serious stress】【Dash eater】【泡沫】の4曲。……まぁ多分、これぐらいが限界だと思うから、その後、まだ出来そうだったら、後はノリって事で」
「奈緒さん」
「うん?なに?」
「俺『泡沫』知らないッスけど」
「あぁそっか。そう言えばそうだね。じゃあ良いよ。あれは1人で弾くよ。元々ソロの曲だし」
「ウッス」
「あっ……曲が終わるよ。タイミングよく入ってね。行くよクラ♪」
「ウ~ッス!!」
こうして真夜中のゲリラライブが始まった。
一曲目の【朧月】は、ご存知の通りバラード。
しっとりした感じの歌なので、此処で楽器を弾いてる事すら気付かれないだろう。
ゲリラライブ一曲目としては、良い選択だと思う。
それにしても奈緒さん、さっき、一体、何をやったんだろうな?
赤レンガ倉庫のスピーカー全部から、彼女の伸びのある声が聞こえてるぞ。
どんな手品を使ったんだ?
まぁけど、凄く良いんだよな、これが!!
この曲って、実は、素直がソロで唄うより、奈緒さんがソロで歌った方が良いんじゃねぇか?
……っと、疑問に思う程、奈緒さんの声は、この曲にマッチしている。
それを証拠にだな。
まだライブを初めて間がないと言うのに、此処に居る赤レンガ倉庫の客達は、その場に立ち止まってまで曲を聴き始めている。
かなり良い感じだ。
そして曲は終わる。
だが、警備員にバレない為に、続け様に弾き始めなきゃイケナイ俺達は、そんな悠長な事を思ってる暇はない。
続けて【Serious stress】を弾き始める。
ただな、奈緒さん調子に乗って……
「Are you ready!!【Serious stress】」
なんて、ライブ音源みたいな事までやっちまうんだよな。
お陰で、数人の客が、こちらに気付いたらしく、ゾロゾロと人だかりが出来始めていた。
しかしまぁ、この人の心臓って、ステラ同様、鉄とかで出来てんじゃないのか?
まぁドラミちゃんだから、鉄の心臓と言えば鉄の心臓だわな……
そんな中にあっても、矢張り奈緒さんは、非常に楽しそうだ。
人がゾロゾロと集まって来てるのさえ、全く気にしている様子はない。
今現在、ライブハウス同様のノリで、ド派手に【Serious stress】を唄っている。
当然、俺もそれに釣られて、体全体を使ってベースをガンガンに鳴らす。
こうなっちまったら、奈緒さんも、俺も、もぉ止まらねぇな。
それに此処って野外だから、音が果てしなく飛んで行って超気持ち良いだよな。
まじヤバだよ、これ!!
けど、これって、違う意味でもヤバイよな。
いつも通りの調子でやったら、これ以上テンション上がって、また真っ白になっちまう。
少しは自重、自重。
「Next namuber【Dash eater】!!……Next namuber?」
「「「【Dash eater】」」」
「Yes!!next namuber【Dash eater】!!Here wa go!!」
「「「Yeaaaahaaahahahahah~~~!!」」」
あぁ……客、煽っちゃったよ奈緒さん。
このゲリラライブ、下手すりゃあ、此処までだな。
ってかな、まぁそれ以前にだな。
さっきの【朧月】と【Serious stress】せいで、いつの間にか、俺等の周りに、滅茶苦茶デカイ『人だかり』が出来てんだよな。
……これって、ホントに逃げれんのか?
しかもよぉ、今、掛かってんのって【Dash eater】だろ。
歌詞の食い逃げとは違うが、この状態で逃げなきゃいけなくなったら、やり逃げって訳だよな。
『Dash eater』弾いて『Dash player』って、どうよ?
逃げ繋がりとか、いらなくね?
まぁまぁ……そうは言っても。
この曲、かなり短い曲だから逃げやすそうだけどな。
勿論、逃げれたらの話だけどな……
俺の不安を他所に、人だかりは、ドンドン膨らんで行く。
……ダメだコリャ。
「ありがと。じゃあ、最後の曲ね」
うわっ!!とうとう完全に、ゲリラライブって事を無視しだしたよ、この人。
果てしなく無茶苦茶するなぁ。
「「「「「ぶぅ~~~、ぶぅ~~~~」」」」」
「はい。ブゥブゥ言わない」
「奈緒様、そりゃないッス。俺、今、来た所ッスよ」
誰かと思ったら、出たよ鮫島!!
『奈緒さんある所に、鮫島の影アリ』とは、よく言ったもんだ。
しかしまぁ、コイツ、何所から此処の情報を得て、湧いて来たんだ?
何所からでも湧いて来るなんて、スゲェなオマエ。
ってか、なんでオマエ、警備員の服とか着てる訳?
序に言えば奈緒さん、今マイクをOFFにしませんでしたか?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
奈緒さん、やらかし捲ってますね(笑)
当然、今の時代にこんな事を仕出かしたら、トンデモナイ事に成っちゃうんですが。
この時代は、その辺が、まだ大らかだったと言いますか。
意外と適当な部分も多かったので、こんな大それた真似を奈緒さんも出来たのだと思います。
……っとは言え、此処で警備員の服装をした鮫ちゃんの登場。
これは一体、何を暗示するものなのか?
次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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