●前回のおさらい●
倉津君のバンドに入る条件として『凄いボーカルを連れてこい』っと言う山中君。
そこに別室に居た奈緒さんが、少し寝ぼけた状態で戻って来て。
『ボーカルでスカウトを受けた事がある』自分がボーカルをするから、山中君にバンドに入ってと提案。
そんな健気な奈緒さんを見て、山中君は参戦決意するが。
逆に倉津君は『コイツ、奈緒さんに惚れてないか?』と気に成り、そこを問い質してみると……案の定答えは『YES』
そんな山中君に危機を感じた倉津君は、追い出そうとするが失敗(笑)
しかもその狙われている奈緒さん本人も。
まだ少し寝ぼけたまま、コンビニの袋をごそごそとしながら、なにかを取れずにいる始末だった(笑)
「ねぇクラ……取れない……」
「へっ?」
「……取れないの……」
なにやら悲しそうな瞳で奈緒さんが俺を見ている。
何をそんなに悲しそうな瞳で見ているのかは知りませんが……『ドナドナ』の子牛ですか、貴女は?
「あぁ、袋か何か引っ掛って弁当が取れないんッスね。さっきからなに探してるんッスか?」
「……お弁当……クラ……お腹空いた……ねぇ取って……早く」
「……なっ、なに弁当ッスか?」
なにかと思えば、弁当が上手く取れなかっただけかよ……
まぁそんな姿も、奈緒さんは可愛いから良いんっすけどね。
……にしても、奈緒さんが取ろうとしてる弁当が、焼肉弁当なら良い。
若しくはハンバーグ弁当なら、それはまだ残っているから一番問題ないんだが。
ただ、奈緒さんの探してる弁当が鶏肉弁当だと、それはあまり良くない傾向だ。
何故だか知らないが、そうだった場合。
このほわ~んとしたバージョンの奈緒さんが、100%機嫌が悪くなる様な気がするのは、何故だろうか?
気に留めすぎかもしれないが……
だから、なんとなくなんですが、鶏肉弁当とは言わないで下さい。
俺がもぉ既に喰っちまいましたから……
「……うん?……鶏肉弁当……ヘルシーだから好き」
ハイ、終わったぁ~~~。
ッてオイ!!
なんでこう嫌な予感ってのは、こんなに高確率で的中しやがるんだよ?
神様とやらの嫌がらせか?
とは言え、流石に、こうなってしまっては仕方がない。
此処で奈緒さんに機嫌が悪くなられても困るから、此処はなんとか上手く誤魔化そう。
「あっ、あれ……おかしいッスね。……何処を探しても鶏肉弁当が見当たらないッスね」
「……鶏肉弁当……無いの?」
「ないッスねぇ。おかしいなぁ。どこにも無いッスよ」
「そっか……じゃあ買い間違えたのかな?……」
「あぁ、そうっすね、そうっすね。そうかもしれないッスね。……あっ、奈緒さん、ハンバーグ弁当ならまだ有りますよ」
「そっか……じゃあ……もぉそれで良いや」
乗り越えた。
初めて自分の思い通りに、事が進んだぞ。
「はぁ?マコ、さっきから、なに言うとんねん?お前、さっき旨そうに、バリバリと鶏肉弁当を喰うとったやないか」
「クッ!!テメッ……余計な事を」
ハイ!!乗り越えられない!!
いつもの恒例パターン!!
もぉマジで、このパターン辞めてくれ!!
にしても、ヤバイ……奈緒さんは、眠たそうな目ではあるが、なにやら俺をジッと見てる。
いや、この目は、なんか睨んでる様な気がしないでもないぞ。
「……クラ……ひょっとして『私の』鶏肉弁当を食べたの?」
「あぁはい。すみません。俺が鶏肉弁当を喰いました。嘘付いて、すみません」
「そっか……じゃあ良いよ、良いよ。……食べちゃったんなら、しょうがないね」
「奈緒さん」
「でも……『私の』鶏肉弁当食べちゃったんだよね」
「あぁ、はぁ、まぁそうッスね。自動的にそうなるんッスかね」
「じゃあ罰として、崇秀さんのライブに間に合う様に、ズッと此処でベースの練習してみよっか。勿論、休憩無しで」
「へっ?」
ほわ~んっとした笑顔なのにも関わらず、言ってる事は、かなり惨い事を言い出したぞ、この人!!
たかが鶏肉弁当を喰っただけで、この仕打ちは無いだろ!!
まぁ、時間が無いから、練習はするのは良しとしてもだな。
一切休憩時間がなしってのは、流石に、余りにも残酷すぎませんか?
せめて、少しぐらいは譲歩して貰わないとな。
慣れない俺が休憩もせずに、ベースなんか弾き続けられたもんじゃないからな。
死んじまう。
「あっ、あの、奈緒さん」
「弾いてね」
あれ?
此処は『なに?』って聞き返してくれる所じゃないんッスかね?
それに奈緒さん、良く見ると笑顔だけど、目が全然笑ってないぞ。
オイオイその目、まさか本気なのか?
ただ単に俺は弁当を喰っただけだぞ。
「あっ、あのですね、奈緒さん。人間と言うものはですね。休……」
「早く弾いてね」
あぁ~~~、本気だよ、この人。
「いや、だから……」
「うん?弾かないのクラ?」
「奈緒さ~ん」
「もぉ良いから、そろそろ弾こっか」
「あの奈緒さん、聞いてくださ……」
「黙れ……いい加減、さっさと弾け」
「あぁ……はい。そうッスね。そうさせて頂きます」
鬼だ。
鶏肉弁当を喰われて、滅茶苦茶怒っている鬼が此処に居る。
食べ物の恨みは、下に恐ろしいものだな。
「うん、良い返事。じゃあ私は、ちょっとお昼ご飯を食べてくるから、その間も、しっかり練習しとくんだよ……ちょっとでもサボったら……解ってるよねクラ?」
「……はい」
俺ヤクザの息子……
とてもとても怖い……
みんなに恐れられてる……
……の筈。
って、ちょっと待てぇ~~~い!!
俺って、こんなやられキャラの雑魚キャラだったか?
奈緒さんと出逢ってからと言うもの、俺、なんかキャラが変わってないか?
そんな事を俺が考えてるのにも関わらず、奈緒さんは素知らぬ顔をして食事に出て行こうとする。
そして山中は、そんな俺を見て、腹を抱えてケタケタと大笑い。
最悪だ。
もぉマジで最悪だ。
「クククッククッ……アッハハハッハハハッハ……アホや、コイツ、マジでアホや」
「くっそ~~~っ!!あぁ、そりゃあ面白いだろうな。さぞかし面白いだろうさ。俺だって、他人がこんな目に遭ってたら、思いっきり笑い飛ばすからな。だから、笑いたけりゃ笑え。反論はしねぇ」
「いや、おもろいのは、おもろいけど……プッ!!悪い……ヤッパ、ただ、おもろいだけやわ」
「テッ!!テメェだけはぁ~~~!!」
「クラ……手……動かすとこ違うよね」
「あぁ……はい、奈緒さん」
「アハハッハハハッハハッハハッハハハッハッハハァァァハッ……ハッ、ハァ、死ぬ、死ぬ、死んでまう。あの神奈川でも有名な不良の倉津が、女に命令されて言う事を聞いとおる!!アハハッハハハッハッハハ……アホや、アホすぎる」
「るせぇわ!!」
もぉ馬鹿に構ってる暇はねぇ。
テメェは、その辺で、勝手の笑い転げてろ。
それに奈緒さんがあの様子だと、本気で練習しとかねぇと、あの人、マジで怒りそうなんだよなぁ。
兎に角、彼女を怒らせない為にも、此処は1つ練習だ練習。
そんな訳で。
笑い転げるアホは放置して、早速俺は、ベースを持って練習開始。
奈緒さんには勝てんのぉ( ;∀;)
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
あぁ……そう言えばあれだな。
ベースを弾き始めて思ったんだが、この曲って、結構、静かな曲なんだな。
バラードなのか?
そんな風に気になってタブ譜の上を見ると、タイトルの所には『Not meet the time』と描かれている。
直訳すると『逢えない時間』か……
なんとも崇秀らしい格好をつけた曲名だ。
ベースを弾きながら、ふとそんな事を思っていた。
すると、そこに静かなドラムの音が上手く被さってきた。
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
「ほぉ~~~っ、流石『能力者』やのぉ。中々上手いやんけマコ。俺も、ちょっと一緒に遊ばして貰ろてえぇか?」
「イチイチんな事、断んなくても良いからよぉ。さっさと演奏しろ」
「あぁさよか」
「最初……最初からやんぞ」
「へいへい」
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
俺のベースに、ドラムの音が重なる事によって深みが出ている様な気がする。
楽器って、1つの楽器で演奏するより、2つの楽器で演奏した方が……より一層良い音になるんだな。
俺が思っていたよりも、楽器という物は深い。
***
そんな事を考えていると曲が終わる。
「ふ~ん、音を合わせてみたら、中々えぇ曲やな」
「だな。はぁ~~~っ、しかしよぉ。こんな譜面を易々と書ける奴に、本当に勝てんのか?」
「まぁまぁ、そないに慌てんなや。そんなに簡単に超えられる様な壁やったら、誰かてアイツを目標にしたりせぇへんって」
「まぁな」
「そやけど、そやからこそ、こないな曲を簡単に書いてしまうアイツを目標にするんや。それこそが正真正銘の化物退治ちゅう~事やな」
「確かにな。……まぁ今は、そんな事どうでも良い。兎に角、練習すんぞ」
「そう言うこっちゃな」
この後、山中の細かい指示を受けながら、1時間ほど弾き続けた。
思った以上に厳しいが、ほんとバンドって奴は面白いな。
***
山中との演奏に夢中になり過ぎていたのか。
不覚にも俺は、奈緒さんが昼食から帰って来た事にすら気付かなかった。
そんな俺が奈緒さんの存在に気付いた時には、彼女はチョコンと椅子に座り。
ヘッドホーンを付けて、リズムを取りながら、自分のベースで、なにやら音を作っている様子だ。
こちらも集中しているのか、俺と山中の曲が終わった事にすら気付いていない。
アーティストって、みんな、こんなもんなのか?
そんな中、奈緒さんの方も漸く曲が終わり、コチラに気付く。
「あっ、ごめん。……邪魔だった?」
「そんな事あらへんで。その様子やったら、奈緒ちゃん、曲のアレンジしてたんやろ」
ゴラアァァァ山中!!オマエは、なんて厚かましい奴なんだ。
奈緒さんを『ちゃん付け』で呼ぶなんざ100年早ぇ。
奈緒さんには、ちゃんと『さん付け』しろ『さん付け』をよぉ。
これは、覆る事のない絶対的な命令だ。
「そぉだねぇ。だから、少し弄ったら、この曲、もっと良くなるかもよ」
「アレンジ?何をアレンジしてたんッスか?」
「うん?ドラムと、ベースの音」
「馬鹿秀の曲を弄ったんッスか?」
「うん、まぁね。この曲、少し女子的な表現には物足りなさを感じたからね」
凄ぇな。
崇秀の曲にアレンジを加えるなんて、俺には到底真似の出来ることじゃない。
知識ウンヌン・カンヌンは抜いたとしても。
俺は譜面を追って、必至に曲を弾くだけしか出来無いからな。
だが、奈緒さんは違う。
今までの音楽経験から、曲の良い所、悪い所を判断して、他人の曲でもアレンジを加えれる。
ヤッパ、この人、凄ぇんだな。
「奈緒ちゃん、さっきドラムも弄った言うてたな」
「そうだね」
「良かったら、俺にもそのドラムの変更点を見せてくれ。早速、崇秀の鼻をあかせるチャンスかも知れへんし」
「良いけど。あんまり期待しないでよ。大した変更はしてないから」
「まぁそう謙遜せんと」
奈緒さんは、山中に譜面を見せながら、幾つかの修正点を言っていく。
そして山中も、指で譜面を押さえながら、そ子に自信の意見を入れて更に修正して行く。
まいったな。
この2人は、正真正銘のバンドマンだな。
お互いが刺激しあって、曲に上手くアレンジを加えて行ってる。
勿論、俺なんかが入る隙は無い。
少々口惜しいが、これは仕方のない事だ。
本当の意味での音楽の経験値が、俺とは違いすぎるからなぁ。
これだけは、どうしようもねぇわ。
「うん。大体そんな感じかな。じゃあ、そんな感じで一回通しでやってみよっか」
「そやな」
「あの奈緒さん……俺は、なにも修正しなくて良いんッスか?」
「うん。クラは、そのまま弾いてくれた方が、曲に味が出ると思うから、そのままで良いよ。それに、折角ベースが2本も有るんだから、そこは上手く使わないとね……責任重大だよ」
この期に及んで、なんのプレッシャーですか?
心配しなくても今の俺には、プレッシャーしかないですから。
「ウッ、ウッス」
「ほな、時間もない事やし。そろそろ仕上げよか……いくで!!」
山中のスティックを合わせるチッチッと言う音が響き。
それに準じて全ての楽器が音を奏でだす。
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
聞いてる限り、出だしに変更点は無かった。
だが、Aメロのサビの部分で、奈緒さんが変わった音を入れてきた。
続いてBメロのサビにも音が入っていたが、こちらは、少し違った音だった。
この2つの音、普通に聞けば、おかしな音とも取れるんだが。
聞き様によっては、樫の対象に成ってる人物の心境の変化を表現してる様にも聞こえる様な気がする。
兎に角、そんな変わった音だった。
ただ、非常に心地が良い。
タイトル通り『逢えなかった時間』が長く感じさせるのと、短く感じさせる様な感じを俺自身が受けた。
たった1音2音違うだけで曲のイメージは変わり、違う表現になるとは、音の魔術には本当に驚かされるばかりだな。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
楽器の演奏って、上手く音が重なれば重なる程、ドンドン深みが出てくるものなんですよね(*'ω'*)
まぁ本来、その境地に辿り着くには、相当な練習が必要になって来るのですが。
倉津君も、罷り也にも『馬鹿みたいに練習してた成果』が、そう感じれるぐらいには出てた様子。
頑張った甲斐がありましたね( ´∀`)bグッ!
さて、そんな風に、音楽の楽しさを少しづつ理解し始めた倉津君。
次回は、どんな風になっていくのでしょうかね?
その辺は、次回をお楽しみにしてください(笑)
でわでわまた、お気楽に遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!