最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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143 不良さん、メダパニ状態になる(笑)

公開日時: 2021年6月29日(火) 00:21
更新日時: 2022年11月25日(金) 13:18
文字数:5,782

●前回のおさらい●


 嶋田さんと今後の話を終えた後。

奈緒さんを探して四苦八苦していた倉津君でしたが……


『何故か彼女は、倉津君の実家に居た』


そんな衝撃の事実を知らされつつも、急いで帰路に就いた倉津君であった(笑)

 電車とタクシーを乗り継いで、馬鹿みたいに急いで帰ってきたから1時間程で自宅には着いた。


けど、幾ら急いで帰って来たとは言え……あれから1時間。

時計を見たら、時間はもぉ既に1:00を廻っている訳なんだよな。


……だとしたらだな。

こんな時間まで、奈緒さんは、俺を待っててくれているだろうか?


ヤクザの本家って言う場所が場所だし、時間も時間なだけに不安になる。


何故なら、もし奈緒さんが帰ってしまっていたら。

流石に、この時間からは、もう探しようがないからなぁ。


例え、明日の朝には動ける様になったとしても。

今晩は、悶々とした悩みを持ったまま過ごさなければいけない。


そう思っただけでゾッとする。


俺は、そんな不安を持ちつつも、自宅の門を一気に潜り、自分の部屋を目指す。

途中、友美さんとすれ違い、彼女が何か言ってたが、そんなものは無視してダッシュ。


兎に角、今は、自分の部屋へ急いで行く事が先決だ。



『ガラッ!!』



「奈緒さん!!」

「あっ、クラ……おかえり」

「へっ?あっ、あぁ、あの、ただいまッス」


彼女は、まるで俺が焦って帰って来るの事を予測していた様な態度で出迎えてくれた。


それも満面の笑みで……


だが、逆の立場の俺にとっては、彼女のこの表情は予想外。

なんて言うか……もっと思い詰めた顔をして、俺の帰りを待ってるものだと思ってたからだ。


そう……正直言えば、俺は、彼女の口から『別れ話』云々が語られる様な気がしていた。


だって、そうだろ。

女の子が普通、男の家……しかも、ヤクザの本家なんかに、こんな時間にノコノコ来るなんて考えられないだろ。


もし来るとすれば、自身に相当な『覚悟』が有る時位のもんだ。


そう考えれば、俺が動揺するのも解って頂けると思う。



「とッ、ところで奈緒さん、どうしちゃたんッスか、急に?」

「うん?別に何も無いけど……来ちゃ迷惑だった?」

「とっ、とんでもないッス。歓迎ッスよ!!大歓迎ッスよ!!けど……ほら、ご存知、俺ん家って、ヤクザの家なんッスよ」

「だから?」


『だから?』とな?


……相も変らず、怖いもの知らずな人だな。

自分がしている恐ろしい行動にすら、自覚が無いのか?



「いやほら、あの世間体とか、そう言うの有るじゃないッスか」

「あぁ私、そう言うの、全然気にしないから。……それにクラ。彼女が彼氏ん家に遊びに来るのって、極当たり前の事なんじゃないの?これって、そんなに変?」

「いや、そう言う訳じゃないッスけど」


あぁこの様子だと、多分、なんか有ったな。

俺の邪推だと、奈緒さんがスタジオで言ってた例の『用事』って奴が臭いな。


じゃなきゃ、何の前触れも無く、急に俺ん家なんかに来るのはおかしいだろ。


なら此処は1つ、確かめてみる必要が有るな。



「ねぇクラ」


そう思った矢先、先に彼女が会話の口火を切った。


……って事は、何か聞いて欲しい事でも有るのか?


兎に角、そうだったらイケナイので、俺の話は後。

今は、彼女の話に合わせる事の方が先決の様だ。



「なっ、なんッスか?」

「なになに?どうしたのよ?さっきから、なに緊張してるのよ?」

「いや……そう言う訳じゃないんッスけど。なんて言うか、ちょっと現状が把握しきれて無いと言うか、正直言えば、奈緒さんの真意が見えてないんで……」

「あぁ、そう言う事ね。でも、別に、そんな身構える様な話じゃないのよ。ちょっと聞いて欲しい事が有ってね。……それだけなんだけど」

「聞いて欲しい事ッスか?なっ、なんッスか、それ?」

「ほらほら、またそうやって身構える。……さっきから君は、何をそんなに身構えてるのよ?」


そりゃあ身構えるって……


奈緒さんは、ウチに来るのは当たり前って言ったけど。

俺には、そこからしてまず、どうにもピンと来ないんッスよね。


何故なら、今まで崇秀以外の友人で、ウチの敷居を跨いだ人間がいないからだ。


まぁアイツは、頭がおかしいから別に良いとして。

普通の人間なら、ヤクザの家を、矢張り、避けて通るのが当たり前。

自分から寄って行くなんて、それこそ有り得ない話だ。

それに付け加えて『聞いて欲しい事』なんて言われたら、身構えるしかないんだよな。


やっぱ、今日の奈緒さんは、なんか『覚悟』してないか?



―――俺の邪推には果てがない。



「あの、ひょっとして奈緒さん……俺と別れたいとか言い出します?」

「くすっ、なにそれ?……あぁ、そう言う事ね。それなら、全然、違うよ。私が此処に来たのは『曲』を聞いて貰おうと思って来ただけだから」

「へっ?曲?曲って、あの音楽を奏でる曲ッスか?」

「そうだよ。それ以外、なにが有るって言うのよ?おかしな事を言わないの」

「いや……まぁそうッスけど」

「でしょ」


笑顔が、全然崩れないな。


……って事はなにか。

本当に別れ話じゃなくて、曲を聞かせに来ただけって事か?


けど、なんだ?

それって、どういう事だ?

そりゃあまぁ、それだけなら、それに越した事は無いんだが……


確かに奈緒さんの言う通り、俺達はバンドをやってる訳だから、誰かが曲を完成させたら、みんなに聞いて貰ったりするのは当たり前だとは思う。


けど、なんでワザワザこんな時間に……しかも、俺ん家なんかに?


わからん?

兎に角、そこが一番解らん。



「あの……まぁそうなんッスけど。こんな時間に、わざわざッスか?」

「ごめん……ヤッパ迷惑だった?」

「いやいやいや、そうじゃないんッスけど。……なんて言うかホラ、練習の時だったら『みんなに聞かせられるんじゃないかな』って思って」

「ばか……クラに、最初に聞いて欲しいから、此処に来たんじゃない。ホント、君って、そう言う所が鈍感だね」


がっ!!


少し照れた様な、それでいて呆れた様な表情の奈緒さんが、そう言ってくれるって事は、本当に別れ話ではないんだな。


だとしたら、俺は、何をツマラナイ邪推をしてたんだ。

アホ過ぎるぞ。


まぁ自分の普段の行いが悪いから、こんな余計な事バッカリ考えちまってたんだな。


此処は深く反省しよ。



「すんません。実を言うと、此処最近、奈緒さんが構ってくれないッスから……」

「あぁそっか……それはゴメンね。でも私の方も、ちょっとゴタゴタが有ってね。結構イライラしてたんだよ。ホント、ごめんね」


それって、素直の件か?


そりゃあ、アレは、奈緒さんにしたらイライラするだろうな。


だとしたら、迷惑掛けっぱなしだな、オイ。



「ホント、すみません」

「うん?なんでクラが謝るのよ?」

「いや、だって、奈緒さんがイライラしてたのって、素直の件でですよね?」

「うぅん、全然違うよ。……って言うか。バンド内で音合わせするのや、相談に乗るのって当たり前なんじゃないの?だから、別に素直の件は気にしてなかったけど」


がっ!!これって、俺の取り越し苦労?


いやいやいや、絶対そうじゃない筈だ。

俺が奈緒さんの立場だったら、絶対イライラして、そいつを殴ってるからな。



「えぇっとッスね。それって、俺の事は、どうでも良いとか思ってるんッスか?」

「えぇっと……なんで、そんな奇妙な質問が出てくる訳?私、クラの事が好きだけど」

「へっ?えっ?あっ、あのッスね。だったら尚更、嫉妬してくれるとかは無いんッスか?」

「ないよ。なんで?」

「いや、あの、奈緒さん、自分で嫉妬深いって言ってたッスよね」

「言ったよ」

「じゃあ、尚更なんで?」

「う~~ん。どうやら君は、私の嫉妬の定義が解ってないみたいだね」

「なんッスか、それ?」


いや、ホント、なんッスかそれ?



「良いクラ?私が嫉妬するのは、本気の人間にだけ……だからオママゴト程度の恋愛観には、イチイチ嫉妬なんてしないの」

「いやいや、俺が、こんな事を言うのも変ですけど。素直の奴、結構、本気ですよ」

「はぁ……もぉ馬鹿だね、クラは。あんなの、全然本気じゃないよ。アリスは、自分に酔ってるだけなんじゃないの」


奈緒さんは、素直が自分に酔ってるとキッパリ言い切った。


何故だ?

自分でもない事なのに、何故そうまで断言出来るんだ?

それに、自分に酔った位で『いつまでも相手を待つなんて思えるもの』なのか?



「あの、奈緒さん……女の人って、自分の酔うと『いつまでも待ってたり出来る』もんなんッスか?」

「どうだろね?けど、そこは女の子って言うより、その人の性格の問題なんじゃないのかな?思い込みが激しいタイプだったら、そう言うのも出来そうだし」

「あっ……」

「特にアリスは家が金持ちのお嬢様でしょ。だったら恋愛小説かなんかを読んで『悲劇のヒロイン』とかに憧れてるんじゃないかな。だからね……私は、そんな彼女には嫉妬なんかしないのよ」


これも奈緒さんは言い切った。



「けっ、けど、もし本気だったら奈緒さんは、どうするんッスか?」

「そうだね。……それでも嫉妬はしないかな」

「なんでッスか?」

「だって……クラは、私だけのものだもん」

「えっ、えっ、えっ?そっ、それって」

「信用してる。……って言うかね。正直言えばね。私、基本的に嫉妬しないの」

「それって……嘘付いてたって事ッスか?」

「そうだよ」

「なんでまた、そんな嘘を……」


えぇ~~~!!

確かに、彼女の嫉妬が演技だと言うのは薄々感じていたが、そんな事する理由なんてどこにあるんだ?

嫉妬深い女なんて、男からすりゃあ、鬱陶しいとしか思わないだけかも知れないのに……


訳が解らん。



「うん?その方が、君を監視し易いから」

「へっ?」

「あぁ要はね。君って言うのは、不良なのに妙に優しいって言うか、直ぐに相手の感情に流されるでしょ。だから私がそう言ったら、きっと君は、それを真に受けて『私が嫉妬しない様にしてくれるかなぁ?』って、そう思ったのよ」

「がっ」


ひでぇ!!



「けど、君は、私が思っていたより酷い馬鹿だったのよ」

「馬鹿って……そんな面と向かって」

「くすっ、だってそうじゃない。クラって、相手の感情に流されるどころか、相手に感情移入までしちゃうタイプなんだもん。相手次第では、直ぐ同情したり、必死になったりする。それを見て思ったんだけど『あぁ、多分これは、幾ら私が嫉妬しても治らないな』って……そしたらね、私も、なんか急に面倒臭くなっちゃったのよ。だから今言った事が、私の正直な気持ち……わかる?」


確かに、言ってる意味は解る。

彼女の言う通り、俺は馬鹿だ。


……けど、そこまで馬鹿扱いしなくても良いじゃないッスか!!

全部当たってて、反論も出来やしねぇ。



「えぇっと、じゃあ奈緒さんは。今までも、これからも、全然嫉妬しないって事ッスか?」

「しないよ。多分、君がアリスとHしてもしない。そんなのただの『遊び』か『同情』でしかないもん。クラは決して『アリスには本気にならない』……これは、確定事項」


凄い自信だな。

何所から、そんな自信が湧いて来るんだよ?


そりゃあまぁ言うまでも無く、奈緒さんは良い女だけど。

俺も人間なんだから『心変わりする』事だって有るんじゃないのか?


現に、ソレを証明するが如く『俺には前科が有る』じゃないッスか。


それに『H』しても嫉妬しないってなんでだ?

幾ら『遊び』や『同情』とは言え、女の人って、そういうの嫌なもんなんじゃないのか?



「なっ、奈緒さん?」

「うん?なに?」

「あの……俺、他の女とHしても、奈緒さんには嫉妬して貰えないんッスか?あの『遊び』とか『同情』とか抜きにしても」

「だから、何回も言わせないでよ。しないって」

「なんでッスか?自信ッスか?」

「うぅん。自信なんて、全然無いよ」

「じゃあ、なんで?」

「それはね。……クラが、私を受け入れてくれたから」

「受け入れた?……たった、それだけッスか?」


受け入れたって言われても。

実際の俺は、奈緒さんに迷惑をかけてバッカリ。

寧ろ、この場合、そんな馬鹿な俺を受け入れてくれてるのは、奈緒さんの方じゃないのか?



「そぉだよ。それだけ……だって君は『援助交際』なんて最低の事をしていた私を、平気で受け入れてくれた。なら、それ位の事なら、目を瞑っても当然なんじゃないの?変……かな?」

「奈緒さん……」


そこだったんだ。

まさか、彼女の行動原理がそこにあったとは……


ぶっちゃけて言えば、奈緒さんの今までの俺に対する優しい行動は、少し異常だと思ってた。


無茶苦茶親切にベースの弾き方を教えてくれたり……

不眠不休で、急なライブにも付き合ってくれたり……

俺の責任なのに、自分がバンドを辞めるって言ってみたり……

その他にも、言い出せばキリが無いぐらい、彼女は俺に対して自己犠牲を払ってくれていた。

必要以上に、俺に対する火の粉を避けてくれた。


俺には『なんで俺なんかの為に此処までするのか?』っと疑問で仕方が無かった。


けど、本当は、それ自体に意味が有った。

『奈緒さんは、自分を受け入れた俺に、全てを捧げて尽していてくれていたんだ』


これは寧ろ、椿さんの言っていた『試してる』なんて話じゃない。

奈緒さんは、俺に『嫉妬』や『試す』どころか『疑い』すら持っていなかった。


彼女の眼は、俺しか見えていなかった。



なのに俺は……そんな彼女のなにを見ていたんだろうか?



「うん?なに?」


彼女は何事も無かった様に、笑顔で、いつも通りの返答をする。


本当に、何も無かった様な表情でだ。


この表情から察するに、彼女にとって、これは当たり前の事なのだろう。


どこまでも優しい人だ。



「あの……俺」

「なに?」

「俺なんかが、本当に、奈緒さんの事を好きでいて良いんッスか?俺、アナタを傷付けてバッカリなのに」

「くすっ。変な事を言うんだね」

「なんでッスか?」

「クラ、よく考えてよ。クラが、幾ら私を傷付けても。それは自分を傷付けるのと同じじゃない。……だって、元々私はクラのものだし、クラは私のもの。片方を傷つければ、もぅ片方も傷付く。……恋人同士なら、1人だけ傷つく事なんて無いのよ」

「奈緒さん……」

「それにね。お互い傷付けあったなら、それはそれで良いじゃない。今度は、2人で、それを糧にして成長すれば良いんだからさ。私、そう言う関係も悪く無いと思うけど……クラはどぉ?」

「・・・・・・」


本当に、この人は強い人だ。

此処まで『一途に人の事を想える』なんて、俺は初めて知った。


俺は、何所まで恵まれているんだろうか?



「なに?黙りこくっちゃって、ちょっと感動した?」

「この人は……」


俺は、そんな奈緒さんを抱き締め……


抱き締……


抱き……


抱き締められない?


あれ?……ってか、この俺の顔を押さえる手は、なんだ?



なんでこうなる?


最後までお付き合い下さり、ありがとうございますです<(_ _)>


倉津君の余計な心配をよそに。

とうとう、奈緒さんが本心をぶつけて来ましたね。


この様子からして、どうやら奈緒さんは、本気で倉津君の事が好きみたいですね(*'ω'*)


でも、そんな彼女を愛おしく思った倉津君が、彼女を抱き締めようとした瞬間。

何故か、その行為を拒絶するかの様に、彼女の手が倉津君の顔を押さえる。


なにがあるにしても、彼女は一筋縄ではいかない様ですね。


そんな訳で次回は、この続きに成ります。


また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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