最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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104 不良さん ステージインを果たす

公開日時: 2021年5月21日(金) 00:21
更新日時: 2023年9月4日(月) 11:05
文字数:3,746

●前回のおさらい●


 ステージに乗っ取りに成功した山中君・嶋田さん・奈緒さんの3人。

そして楽屋でも、アリスとの話が、なんとなくではあるんだが纏まった。


だから後は、ステージで5人が合流するだけ。


それを確認できた奈緒さんは、挑発的な目で観客を煽り始める。

「ねぇ君達……次の曲が聞きたい?」


何を言うかと思えば。

挑発染みた目線で、イキナリ客を煽り始めた。


しかも今の奈緒さんは、ライブ開始から、あの例のコンパで見せた『山中に対する様な冷たい感じの口調』


彼氏である俺から見ても、非常にサディスティックな感じがある。



「「「「「奈緒様~~~!!奈緒様~~~!!」」」」」


『奈緒様』?


いやいやいや、たった3曲……

いや、第一部を合わせても、たった4曲しか奈緒さんの歌を聴いてないのに、イキナリ『様付け』はおかしいだろ。


大体、奈緒さんの演奏や歌は、あまり世間では知られていない筈なんだが……


何故なら、彼女が所属しているJazz-Rは、巷では有名なバンドとは言え、国見のオッサンが趣味でやっているような『お気楽バンド』

レベルは高いは勿論なんだが、ライブの内容を、あまり知られていないから『ハード』な印象は無い。


しかも、オッサンが年のせいか、ライブ活動すら殆どしていない。

崇秀が言うには、奈緒さんの加入後にも、1度きりしかライブをした形跡すら無い。


早い話だな。

馬鹿秀のホームページとやらでは、奈緒さんも多少は有名なのかも知れないが、所詮は、それだけに認知度に過ぎない。


知名度は薄いだろうし、彼女の演奏を聞いた者は数少ない。


なのに、この有様……この人は、本当に怖い人だ。


だが、その分、不安要素が無くもない。

この手の男共に人気のある女子は、別の女の子を敵に廻してしまう可能性が非常に高い。


特に奈緒さんみたいなタイプの子は、同性である女子からは嫉妬され易いからだ。


此処で、変な誹謗中傷を浴びせられなきゃ良いが……



「「「「「奈緒様カッコイイ~~~!!」」」」」


俺の不安を他所に、女の子達から出たコールは、男共同様『奈緒様コール』


あれ?俺の不安は?


まっ……謂れのない誹謗中傷を浴びせ掛けられるよりは100倍マッシか。

此処は『嫉妬』に行かず『憧れ』に傾いたっと解釈すべきなんだろうしな。


しかしまぁ……普段は、俺に悪さバッカリする悪戯魔のくせに、ステージ上じゃカッコイイだろ。


『1粒で2度美味しい』グリコキャラメルみたいな人だな。



「君達、可愛いね。……うん、じゃあ、唄ってあげる」

「「「「「奈緒様~~~!!」」」」」

「うん。……でも、まだ、足りない」

「「「「「なにが足り無いんだぁ、奈緒様~~~!!」」」」」

「うん。……このバンド……まだ未完成なの……パーツが揃ってないの」

「「「「「だったら、パーツ揃えてぇ~~~!!」」」」」

「良いよ」


なるほどなぁ。

こうやって、上手くバンドのメンバーをステージに誘う訳か。


って、俺かい!!



「アリス……おいで」

「「「「「キタァ~~~ッ!!アリスちゃ~ん!!アリスぅ~~~!!」」」」」


最初の奈緒さんのご指名は、アリス事、素直。


ライブ第一部を見た人間なら、奈緒さん同様、既に彼女の実力は立証済み。

なら、オーディエンスに、アッサリ受け入れられて当然だ。


しかも素直は、緊張した面持ちも無しに、堂々とした態度で入って行く。


そんな素直がステージに上がると、勝手知ったる奈緒さんが、素直にマイクを手渡す。



「こんばんわ、アリスです。みんな、ライブ愉しんでますか?」

「「「「「イェエェエェェエェ~~~!!」」」」」

「最高~♪」

「「「「「アリス~~~!!」」」」」

「みんな、準備は万端みたいだね。それじゃあ、最後のメンバー呼ぶよぉ~~~」


良い調子だ。


この様子だと、完全に誰かになりきってるんだな。


これだったら安心して見てられるぞ。


序に言えば、知っての通り素直は、奈緒さんとは違う印象を持つ女の子だ。

タイプの違う女子をバンド内に置く事は、人気が二分して良い事だと思える。


にしても……俺、呼ばれるの最後なのか?


これ、なんて虐めだ?



「マコ~~~~♪」

「「「「「マコちゃ~ん!!マコ~~~!!」」」」」


げっ!!今までの流れから、俺の事を女と勘違いしてねぇか?

男共が嬉しそうな表情を浮かべながら『マコちゃん』とか呼んでるぞ。


……って事は、この馬鹿共。

第一部での俺の存在を無視してやがったな。


けど、それだけにヤバイな。

このまま男の俺がヘコヘコとステージに出て行ったら、大ブーイング喰らいそうな勢いだな。


それに、その他にも問題がある。

それがなにかって言えば、奈緒さんも問題だ。

素直が、俺をコールした事が不服なのか、なんか妙な目付きで素直を睨んでるし……


この状況に焦った俺は、何か変化を齎さなきゃいけないと、変な使命感に駆られる。


……っとは言え。

俺の近場にあるものと言えば『小さなアンプ』が1つだけ。


これを見て咄嗟に思いついた事は……この近くに有った小さなアンプに電源を入れ、長いシールドを差し込んだ。

それを徐にステージ上に蹴り出して、激しくベースを弾く。


-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……


小さなアンプからは、俺が今弾いているメタリカのMaster Of Puppetsが響き渡り。

上手くオーディエンス全員の意表を突く形になった。


自然と、無人でベース音を奏でるアンプに注目が集まる。


良し、取り敢えずは上手くいった。


なら、今こそステージに上がるチャンスだ。



「そんな女バッカ出て来ねぇんだよ、このボンクラ!!変な期待してんじゃねぇぞ、男根思考主義者共!!」


そう言って俺は、小さなアンプを踏み潰すぐらいの勢いで『ガンッ!!』と踏み付け。


頭を上下に振り、ヘッドスパンキングを敢行したまま、演奏を続ける。


まぁ、正直言えばだな。

このヘッドスパンキング……格好をつけてる訳でもなんでもなく。

ただ単に、このチープなパフォーマンスに、オーディエンスが、どんな反応をするかわからねぇから、あんま客席の方を見たくねぇだけなんだけどな。


ステージに上がるのは2度目だが、こえぇ~~~!!



しかしまぁ、曲を演奏しておいてなんなんだがな。


素直って、この曲を唄えるのか?


崇秀の奴が『3曲勝負』って言ったから、多分、この曲も含まれてると思うんだが……大丈夫だよな?


まぁ、やっちまったものを、ゴチャゴチャ考えても仕方ねぇ。

最低限度、奈緒さんは歌えるんだから、なんとかなんだろ。



「「魔虎兄貴~~~!!待ってたぞぉ~~~兄貴~~~~!!」」


俺のそんな不安を払拭してくれたのは、あのモヒカン&ロン毛の馬鹿兄弟。

腹の底から声を出し、必死に俺にコールを贈ってくれる。


コイツ等、まだ途中で帰らずに、俺の出番を最後まで待っててくれたんだな。

会場に、たった2人だが、味方が居ると思うだけで気分が楽なもんだ。


俺はそんな2人の為だけに、ヘッドスパンキングを辞め。

冷や汗を吹き飛ばしながら『不敵な笑み』を浮かべて返答する。



「ねぇねぇ、兄貴君、結構、格好良くない?」

「ホントだ。イキナリで顔がよく見えなかったけど、あのベースの子、かなりカッコイイよね」

「「兄貴君カッコイイ~~~!!」」

「「なろぉ!!女なんぞに負けるかぁ、魔虎兄貴~~~兄貴~~~~!!」」


よっ、予想外の展開だ。

何故か、俺の不敵な笑みに、最初に反応したのはモヒ&ロンだけじゃなく、客席にいる女の子達もだ。


生まれて初めて、女の子からも貰ったコールは気恥ずかしいものだな。


けど、この成果は、決して俺が作り出したものでは無い。

結果から言えば、このありがたい女子からの声援は、モヒ&ロンの献身的な俺に対する応援のお陰。


この2人のコール無くして、このコールは貰えなかった。


正直、最初は『キモイな』とか『鬱陶しいな』とか思ったが、今となっては、この2人に感謝の念が尽きないな。


……もし、ライブ後に打ち上げがあったら100%連れて行ってやらなければ。



「「「「「兄貴・兄貴・兄貴・兄貴・兄貴……」」」」」


オイオイオイオイ、なんだなんだ?

更に応援が伝染した様に、他の興味無さげにしていたオーディエンスも、俺に声援を贈ってくれるぞ。


なんだよ、なんだよ。

オーディエンスが、全員、俺の味方になったみたいだな。


これは……超最高だ。


-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……


小さな悦に浸っていると、別のベース音が聞こえてきた。

奈緒さんが輪唱する様に、曲をずらしてMaster Of Puppetsを最初から弾き始めたみたいだな。


しかしまぁ、相も変らず器用な真似をする人だ。

序に、ライブ初心者の俺を心配してくれたのか、じわじわと近づいて来てくれた。


ライブの雰囲気に流されたのか、奈緒さんの機嫌は治った様だ。



「大丈夫クラ?……いける?」

「なに言ってんッスか?奈緒さんさえ居れば、俺は、どんな場所でも怖くないッスよ。それに、この雰囲気……たまんねぇッス」

「くすっ、そうなんだ。クラは、ホントに、バンドに向いてるんだね」

「あざッス!!俺はやるッスよ」

「……うん?ところでクラ、君から、なんだか甘い臭いするんだけど。これ、なんの臭い?」


ハイ、至福の時間終了。


いつも通り、災難が降りかかってくる。


恐らく奈緒さんの言ってる『甘い臭い』って言うのは、素直本人から出ていた汗の臭いだ。


……さっき素直が俺に抱きついてきた時に、臭いがTシャツに移ってたんだな。


ヤバイな。


どうしたもんだ、こりゃあ?


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


上手くメンバー全員がステージINをしたまでは良かったが。

奈緒さんが近いて来る事によって、素直ちゃんとの行為がバレそうになる倉津君。


さて、この危機を、倉津君はどうやって乗り越えるつもりなのか……は次回の講釈(笑)


そう易々と上手く彼に安息の日々は訪れない。


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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