●前回のおさらい●
ステージに乗っ取りに成功した山中君・嶋田さん・奈緒さんの3人。
そして楽屋でも、アリスとの話が、なんとなくではあるんだが纏まった。
だから後は、ステージで5人が合流するだけ。
それを確認できた奈緒さんは、挑発的な目で観客を煽り始める。
「ねぇ君達……次の曲が聞きたい?」
何を言うかと思えば。
挑発染みた目線で、イキナリ客を煽り始めた。
しかも今の奈緒さんは、ライブ開始から、あの例のコンパで見せた『山中に対する様な冷たい感じの口調』
彼氏である俺から見ても、非常にサディスティックな感じがある。
「「「「「奈緒様~~~!!奈緒様~~~!!」」」」」
『奈緒様』?
いやいやいや、たった3曲……
いや、第一部を合わせても、たった4曲しか奈緒さんの歌を聴いてないのに、イキナリ『様付け』はおかしいだろ。
大体、奈緒さんの演奏や歌は、あまり世間では知られていない筈なんだが……
何故なら、彼女が所属しているJazz-Rは、巷では有名なバンドとは言え、国見のオッサンが趣味でやっているような『お気楽バンド』
レベルは高いは勿論なんだが、ライブの内容を、あまり知られていないから『ハード』な印象は無い。
しかも、オッサンが年のせいか、ライブ活動すら殆どしていない。
崇秀が言うには、奈緒さんの加入後にも、1度きりしかライブをした形跡すら無い。
早い話だな。
馬鹿秀のホームページとやらでは、奈緒さんも多少は有名なのかも知れないが、所詮は、それだけに認知度に過ぎない。
知名度は薄いだろうし、彼女の演奏を聞いた者は数少ない。
なのに、この有様……この人は、本当に怖い人だ。
だが、その分、不安要素が無くもない。
この手の男共に人気のある女子は、別の女の子を敵に廻してしまう可能性が非常に高い。
特に奈緒さんみたいなタイプの子は、同性である女子からは嫉妬され易いからだ。
此処で、変な誹謗中傷を浴びせられなきゃ良いが……
「「「「「奈緒様カッコイイ~~~!!」」」」」
俺の不安を他所に、女の子達から出たコールは、男共同様『奈緒様コール』
あれ?俺の不安は?
まっ……謂れのない誹謗中傷を浴びせ掛けられるよりは100倍マッシか。
此処は『嫉妬』に行かず『憧れ』に傾いたっと解釈すべきなんだろうしな。
しかしまぁ……普段は、俺に悪さバッカリする悪戯魔のくせに、ステージ上じゃカッコイイだろ。
『1粒で2度美味しい』グリコキャラメルみたいな人だな。
「君達、可愛いね。……うん、じゃあ、唄ってあげる」
「「「「「奈緒様~~~!!」」」」」
「うん。……でも、まだ、足りない」
「「「「「なにが足り無いんだぁ、奈緒様~~~!!」」」」」
「うん。……このバンド……まだ未完成なの……パーツが揃ってないの」
「「「「「だったら、パーツ揃えてぇ~~~!!」」」」」
「良いよ」
なるほどなぁ。
こうやって、上手くバンドのメンバーをステージに誘う訳か。
って、俺かい!!
「アリス……おいで」
「「「「「キタァ~~~ッ!!アリスちゃ~ん!!アリスぅ~~~!!」」」」」
最初の奈緒さんのご指名は、アリス事、素直。
ライブ第一部を見た人間なら、奈緒さん同様、既に彼女の実力は立証済み。
なら、オーディエンスに、アッサリ受け入れられて当然だ。
しかも素直は、緊張した面持ちも無しに、堂々とした態度で入って行く。
そんな素直がステージに上がると、勝手知ったる奈緒さんが、素直にマイクを手渡す。
「こんばんわ、アリスです。みんな、ライブ愉しんでますか?」
「「「「「イェエェエェェエェ~~~!!」」」」」
「最高~♪」
「「「「「アリス~~~!!」」」」」
「みんな、準備は万端みたいだね。それじゃあ、最後のメンバー呼ぶよぉ~~~」
良い調子だ。
この様子だと、完全に誰かになりきってるんだな。
これだったら安心して見てられるぞ。
序に言えば、知っての通り素直は、奈緒さんとは違う印象を持つ女の子だ。
タイプの違う女子をバンド内に置く事は、人気が二分して良い事だと思える。
にしても……俺、呼ばれるの最後なのか?
これ、なんて虐めだ?
「マコ~~~~♪」
「「「「「マコちゃ~ん!!マコ~~~!!」」」」」
げっ!!今までの流れから、俺の事を女と勘違いしてねぇか?
男共が嬉しそうな表情を浮かべながら『マコちゃん』とか呼んでるぞ。
……って事は、この馬鹿共。
第一部での俺の存在を無視してやがったな。
けど、それだけにヤバイな。
このまま男の俺がヘコヘコとステージに出て行ったら、大ブーイング喰らいそうな勢いだな。
それに、その他にも問題がある。
それがなにかって言えば、奈緒さんも問題だ。
素直が、俺をコールした事が不服なのか、なんか妙な目付きで素直を睨んでるし……
この状況に焦った俺は、何か変化を齎さなきゃいけないと、変な使命感に駆られる。
……っとは言え。
俺の近場にあるものと言えば『小さなアンプ』が1つだけ。
これを見て咄嗟に思いついた事は……この近くに有った小さなアンプに電源を入れ、長いシールドを差し込んだ。
それを徐にステージ上に蹴り出して、激しくベースを弾く。
-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……
小さなアンプからは、俺が今弾いているメタリカのMaster Of Puppetsが響き渡り。
上手くオーディエンス全員の意表を突く形になった。
自然と、無人でベース音を奏でるアンプに注目が集まる。
良し、取り敢えずは上手くいった。
なら、今こそステージに上がるチャンスだ。
「そんな女バッカ出て来ねぇんだよ、このボンクラ!!変な期待してんじゃねぇぞ、男根思考主義者共!!」
そう言って俺は、小さなアンプを踏み潰すぐらいの勢いで『ガンッ!!』と踏み付け。
頭を上下に振り、ヘッドスパンキングを敢行したまま、演奏を続ける。
まぁ、正直言えばだな。
このヘッドスパンキング……格好をつけてる訳でもなんでもなく。
ただ単に、このチープなパフォーマンスに、オーディエンスが、どんな反応をするかわからねぇから、あんま客席の方を見たくねぇだけなんだけどな。
ステージに上がるのは2度目だが、こえぇ~~~!!
しかしまぁ、曲を演奏しておいてなんなんだがな。
素直って、この曲を唄えるのか?
崇秀の奴が『3曲勝負』って言ったから、多分、この曲も含まれてると思うんだが……大丈夫だよな?
まぁ、やっちまったものを、ゴチャゴチャ考えても仕方ねぇ。
最低限度、奈緒さんは歌えるんだから、なんとかなんだろ。
「「魔虎兄貴~~~!!待ってたぞぉ~~~兄貴~~~~!!」」
俺のそんな不安を払拭してくれたのは、あのモヒカン&ロン毛の馬鹿兄弟。
腹の底から声を出し、必死に俺にコールを贈ってくれる。
コイツ等、まだ途中で帰らずに、俺の出番を最後まで待っててくれたんだな。
会場に、たった2人だが、味方が居ると思うだけで気分が楽なもんだ。
俺はそんな2人の為だけに、ヘッドスパンキングを辞め。
冷や汗を吹き飛ばしながら『不敵な笑み』を浮かべて返答する。
「ねぇねぇ、兄貴君、結構、格好良くない?」
「ホントだ。イキナリで顔がよく見えなかったけど、あのベースの子、かなりカッコイイよね」
「「兄貴君カッコイイ~~~!!」」
「「なろぉ!!女なんぞに負けるかぁ、魔虎兄貴~~~兄貴~~~~!!」」
よっ、予想外の展開だ。
何故か、俺の不敵な笑みに、最初に反応したのはモヒ&ロンだけじゃなく、客席にいる女の子達もだ。
生まれて初めて、女の子からも貰ったコールは気恥ずかしいものだな。
けど、この成果は、決して俺が作り出したものでは無い。
結果から言えば、このありがたい女子からの声援は、モヒ&ロンの献身的な俺に対する応援のお陰。
この2人のコール無くして、このコールは貰えなかった。
正直、最初は『キモイな』とか『鬱陶しいな』とか思ったが、今となっては、この2人に感謝の念が尽きないな。
……もし、ライブ後に打ち上げがあったら100%連れて行ってやらなければ。
「「「「「兄貴・兄貴・兄貴・兄貴・兄貴……」」」」」
オイオイオイオイ、なんだなんだ?
更に応援が伝染した様に、他の興味無さげにしていたオーディエンスも、俺に声援を贈ってくれるぞ。
なんだよ、なんだよ。
オーディエンスが、全員、俺の味方になったみたいだな。
これは……超最高だ。
-♪--♪-♪-♪-------♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……
小さな悦に浸っていると、別のベース音が聞こえてきた。
奈緒さんが輪唱する様に、曲をずらしてMaster Of Puppetsを最初から弾き始めたみたいだな。
しかしまぁ、相も変らず器用な真似をする人だ。
序に、ライブ初心者の俺を心配してくれたのか、じわじわと近づいて来てくれた。
ライブの雰囲気に流されたのか、奈緒さんの機嫌は治った様だ。
「大丈夫クラ?……いける?」
「なに言ってんッスか?奈緒さんさえ居れば、俺は、どんな場所でも怖くないッスよ。それに、この雰囲気……たまんねぇッス」
「くすっ、そうなんだ。クラは、ホントに、バンドに向いてるんだね」
「あざッス!!俺はやるッスよ」
「……うん?ところでクラ、君から、なんだか甘い臭いするんだけど。これ、なんの臭い?」
ハイ、至福の時間終了。
いつも通り、災難が降りかかってくる。
恐らく奈緒さんの言ってる『甘い臭い』って言うのは、素直本人から出ていた汗の臭いだ。
……さっき素直が俺に抱きついてきた時に、臭いがTシャツに移ってたんだな。
ヤバイな。
どうしたもんだ、こりゃあ?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
上手くメンバー全員がステージINをしたまでは良かったが。
奈緒さんが近いて来る事によって、素直ちゃんとの行為がバレそうになる倉津君。
さて、この危機を、倉津君はどうやって乗り越えるつもりなのか……は次回の講釈(笑)
そう易々と上手く彼に安息の日々は訪れない。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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