●前回のおさらい●
何故か異常なまでに色々な事を知ってる崇秀を、不思議に思った倉津君。
トドメに有名造形師の名前まで出て来たので、そこまで何故知っているのかを聞いてみる。
そしたら……
「つぅかオマエさぁ、なんで造型師とかまで知ってんだよ?」
「あん?んなもん決まってんだろ。会話の為だよ」
「会話だと?んなもんの為だけに、わざわざ造形師の事まで調べたって言うのか?」
「あぁ」
「なんでまた?」
コイツだけは、マジで訳が分からんな。
「いや、最近オタクが、良くも、悪くも、世間から、脚光を浴びきてんだろ。だから、その辺りの知識にも、早目に手を打った方が良いかなぁって思ってな。まぁ以前から、全く興味が無かった訳でもないしな」
「オマエがフィギュアに興味が有るとはな。しかし、なんで早い必要が有るんだ?」
「アホか?世間で流行ってから調べてたんじゃ、なにもかもが遅ぇんだよ。大体にして、そんな付け焼刃でオタクと会話なんぞしたらボロが出るだけだろうに」
「あぁ、まぁなぁ」
「良いか倉津?会話ちゅう~もんはな。ある程度知識を得て上で、熟成させてから使うもんなんだよ。そうすりゃ、簡単にはボロは出ねぇだろ」
ホントにアホだコイツ。
以前なら天才だとか、化物だとか思っていたが……
実はコイツ、ただの力の抜けないだけの馬鹿だ。
つぅかオマエは、なんに対してでも全力過ぎんだよ。
少しは力を抜く事も憶えた方が良いぞ。
「オマエの人生だ。もぉ好きにしてくれ」
「んだかな……まぁ、んな事よりよぉ。音合わせやろうぜ」
「あぁ、良いが。なんだ、急だな」
「まぁな。この後ステージを一度、掃除すっからよ。その後に、一度オマエをステージに上げとこうと思ってな」
「それって、少しでもステージ慣れでもしとけって事か?」
「まぁよ、それも有るんだがな。観客が誰も居ないステージってのもな、結構、乙なもんでな。……まぁ、ちょっとそこで待ってろ」
「なんか良くわかねぇけど、待ってるわ」
言い残して、崇秀は煙草を咥えながらステージにダッシュ。
一気に駆け上ると、ステージ上から、奴は矢鱈デカイ声で叫んだ。
「うぃ~っしゅ、お疲れさ~~ん。みんな、一回30分休憩に入ってくれ。俺、ちょっとリハしてぇから」
「「「「「「う~~っす」」」」」」
崇秀の声に呼応するかの様に、全員が作業を辞め、足早に会場を後にする。
その後、壇上からクイクイっと俺を呼ぶ。
「ステージにゃあ、今はもぉ誰も居ねぇから、早く来いよ」
「あぁ」
ゆっくりと歩き、壇上に上がる。
そこにイキナリ馬鹿が、煙草を咥えたまま肩を組んでくる。
「って!!うわっ、あぶねぇなオマエ。……それに、なんだよ、気持ち悪いな」
「まぁまぁそう言わずに、此処から観客席を見てみろって。……後、数時間もすりゃ、此処は満員御礼になるんだぜ。この光景からは考えれねぇだろ」
指を指された方を見たら、ガラーンとして静まり返った空白の空間があった。
なんとも寂しげな雰囲気だが、悪くない。
「んでよ。ソイツ等はよ。全員、俺達の音楽を楽しみに来てんだ。……タマンネェよな」
「馬鹿かオマエわ?んな事を言われたらプレッシャーになるだけだろうが」
「違ぇよ。プレッシャーなんか糞喰らえだ。んなもんをオマエが感じる必要性はねぇ。オマエは、オマエの出来る限りの音楽を、客に聞かせてやりゃあ良いんだよ」
「なんだよ、その上から目線?それに俺は初体験なんだぞ。そんな余裕なんざねぇよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。初体験なら、Hすんのと同じだ。丁寧に自分の出来る事をすりゃ良いんだよ。それだけで観客は喜んでくれるってもんだ」
理屈で、俺のプレッシャーを取り除こうって寸法か。
悪くはねぇが。
そんなもんでプレッシャーが無くなるなら、誰も苦労はしねぇ。
「喜ぶねぇ」
「反応悪ぃな。……じゃあよ。オーディエンスを喧嘩相手だと思え。これならオマエにも出来んだろ?」
「喧嘩相手?喧嘩する奴に音楽聞かせて、どうすんだよ?」
「アホ。今のは例え話だよ例え話。喧嘩するのは『オーディエンスと、オマエのベース音』オマエがショボイ音を出したら、オーディエンスの飲み込まれる。逆にオマエが良い音を出しゃ、オーディエンスが盛り上がる。喧嘩つぅ~のは、オマエも知っての通り、相手を飲み込んだもん勝ちだ。ただそれを、拳から、楽器に変えて実演すりゃ良いだけのこった」
「なるほどな。……そりゃあまた、なんともオマエらしい発想だな」
「だろ。……んじゃま、そう言うこって、ちょっくら音合わせでもしてみっか」
「おぅ」
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ベースを出した後。
俺は、今日1日で何十回と弾いた曲を弾き始める。
だが、崇秀は直ぐに音を止めた。
「……下手糞」
「なっ!!」
ミスはしなかった筈だ。
それなのに、何故か奴の口から出た言葉は『下手糞』
そりゃまぁな。
俺が巧くないのは解っているが、イキナリ直ぐに止められて『下手糞』はねぇだろ。
無慈悲か!!
「オマエさぁ、なに俯いて演奏なんかしてんの?オマエの喧嘩ってのは俯いてするのかよ?」
「あのなぁ崇秀、あんま無茶ばっかり言うなよ。確かに、俯いて喧嘩はしねぇが、ベースは別だろ。音を外したら、どうすんだよ?」
「そんなもん、幾らでも、外しやぁ良いじゃねぇか。ノリがありゃあ、んなもん誰も気付かねぇよ」
「はぁ?」
「良いからよ。自分の指の感覚だけを信じて、前だけ向いて弾け。今は俺とガチで喧嘩しようぜ」
「チッ、なんか知れねぇけど、間違ってもしらねぇぞ」
「あぁ、結構だ。そん時は、俺が全部喰ってやるよ」
再び弾き始める。
今度は、自分の指の感覚を信じて、意地でも絶対に下を見ねぇ。
後悔しやがれ。
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
っと言いたい所だが。
出てくる音は全然違うし、指は感覚だけでは上手く動いてはくれない。
だが崇秀は、今度の演奏をやめる気配が無い。
それどころか、崇秀の奴は、やけに楽しそうに弾いている。
なら、良いか。
「……下手糞」
「なっ!!」
結局それかい!!
あぁもぉ、下手糞で悪かったな!!
「けど、悪くねぇ。……さっきより数十倍生きてる音だ」
「はぁ?なんでだよ?さっきの方が、音は全部合ってたじゃんかよ」
「馬鹿かオマエ?今と、さっきとじゃあ、どっちが楽しかったよ?」
「そりゃあ、今の方が楽しかったのは否めねぇが。こんなバラバラの音じゃ意味がねぇだろ」
「違ぇよ。音楽ってのは、心を伝える道具だ。それをオマエの嫌いな勉強みたいに俯いて弾いたんじゃ、相手には何にも伝わらねぇ。……楽器って言うのはな。技術より先に気持ちから入るもんなんだよ」
出たよ、変な理論。
まぁでも、これも悪くはねぇな。
けど、ソイツは……
「なんだよ、それって、出来る奴の言い分か?」
「じゃあオマエのは、出来無い奴の言い訳か?」
「チッ、テメェは鸚鵡か?人の言った事に、イチイチ揚げ足取ってんじゃねぇよ」
「取られる様な無様な生き方をしてるオマエが断然悪い。口惜しかったらグダグダ言ってねぇで弾け。テメェのそのショボイベースの音で、俺をキッチリ殴ってみろよ。俺は、向井さんや、山中みたいに甘くねぇぞ」
「チッ、なめた事ばっか言ってんじゃねぇぞ。俺の本気って奴を、今すぐ見せてやんよ」
「面白ぇ。やってみろよ、下手糞」
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
俺はバラードにも拘らず。
奴の音を食うだけを考えて、強くベースを弾く。
アソコまで言われたんじゃ、もぉ間違おうが、なにしようが知ったこっちゃねぇ。
俺は、人に舐められるのが一番嫌いだ。
特に、このボンクラに負けるなんて、ごめん被る。
……ただ今回は、些か間違い過ぎだ。
そこは反省。
「ケッ、ちょっとは、まともになったんじゃねぇか」
「るせぇ。ゴチャゴチャ言ってねぇで、さっさと次行くぞ」
「抜かせ小僧」
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今度は間違いを減らす為に、頭の中でベースラインを作り。
指にも、その感覚をキッチリと伝える。
思った以上に頭の中がゴチャゴチャするが、さっきよりは数段マッシになっている。
どうだ、この糞野郎。
「まだだ、まだ足りねぇな」
「ほざいてろ。俺は一回一回、著しく成長してんだよ。次こそは、テメェの音を丸ごと喰ってやんよ」
「ほぉ、俺の音を喰うだと?おもしれぇ。なら、俺も少しは本気でやってやるよ。……遊びは終わりだ」
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負けず嫌いな俺は、再び強く弾く。
だが、奴のバラード調のか細い音が俺の音を吸収して行き、俺の音はアッサリ飲み込まれる。
気付けば奴のペースで、音は紡ぎ出されていた。
「ケッ、テメェの本気なんざ、所詮そんなもんだ。俺を食うなんざ1000万年早ぇ。ビッグバンから、やり直して来い」
「ちっくしょう」
「さて、時間も時間だ。これ以上は、作業の邪魔になっちまう。……これでラストだ倉津。全力で掛かって来い」
もぅそんな時間か。
コイツと演奏してると、異常なまでに時間の経過が早いな。
まぁなんにせよ、とりあえず最後の演奏だ。
せめて精一杯、俺の出来り限りの音でベースを弾いてやる。
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最後は自分の感性に任せて、繊細な音を紡ぐ。
これは無理をしているのではなく、ベースを奈緒さんだと思って弾いてみた。
曲自体がバラードだし、こう言う感性があっても良いと思う。
『上手く弾けたか』なんて言うのは、崇秀が決めれば良い。
俺には関係の無い話だ。
そう思ったら急に楽になって、ベースと奈緒さんの事しか考えなくなった。
そして曲は終わった。
「Excellent!!良い感覚だ。……今、オマエ、向井さんの事を想って弾いてただろ?」
「ケッ!!どうせ、そうだよ。ハイハイ、当たりだ当たり」
「OKOK。なら、尚更、完璧だ。自分の気持ちを曲に乗せた方が、聞いてる相手にも伝わり易い。完璧だ。俺でもそこまで、短時間で成長は出来なかったからな。……凄ぇなオマエ」
「へっ?なっ、なんだよ、急に褒めやがって……んな事を言っても、なっ、なんも出ねぇぞ」
「いらねぇよ。オマエが、その調子でベースを弾いてくれりゃあ文句なしだ。それ以上なんて、なにも望まねぇよ」
マジで?
「なぁ……オマエさぁ、本気でそう思ってるのか?」
「オマエに世辞なんぞ言っても一銭の価値もねぇ。しかも、なんもくれねぇ。だったら、せめてライブで良い音ぐらい出して貰わねぇとな。……割が合わねぇ。しっかり頼むぜ相棒」
「気持ち悪ぃ」
「まぁ、そう言うこったから、俺、最後の打ち合わせがあっから……ちょっくら行って来らぁ」
崇秀は、そう言い残してその場を去っていく。
本当に忙しい野郎だな。
そうやって崇秀が去ったので、俺もステージから直ぐに降り様と思ったんだが、まだ誰も帰ってきてない事に気付き。
もぅ一度、奈緒さんを想いながら、曲を奏でてみた。
--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……
今日、何度と無く弾いた曲だが、一度一度音が違う事に気付く。
嫌悪・嫉妬・愛情・照れ・負けん気……色々な感情で弾いたが。
やっぱり、この曲には、奈緒さんを想って弾くのが一番シックリ来る。
まぁ結局、それを、馬鹿に教えられた形になっちまったんだけどな。
そんなに悪い気分じゃねぇ。
しかしまぁ、アイツには、人にモノを教える才能も有るんだな。
どこまで凄ぇ奴なんだよ……感心する。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
実は崇秀が造形師を知ってる理由は『新しいコネを作る為の会話のネタ』だったんですね。
要するに『色々な知識を持てば、話し相手が増え、それと同時にコネも増える』と言う理屈ですね。
まずは相手の興味がある話が出来ないと、相手も自分の興味を持ってくれない』と言う裏返しの表現でもあります(笑)
そして、その後、ステージに上がり。
崇秀は、倉津君に『ステージでの在り方』を、さり気なく教え。
彼のパワーアップに心掛けていたようですね。
崇秀は、冷酷に見えて熱いのです!!
さてそんな感じで。
1人ステージに残された倉津君が、最後にベースを弾いて、今回は終わったのですが。
次回は、どう言う展開が待っているのでしょうか?
それは、次回の講釈と言う事で♪
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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