第十六話スタートなのです(*'ω'*)ノ
016【餞別作りの果てに】
The Sex Pistolsのナンバー『Anarchy In the U.K.』を懸命に練習する事一時間。
この短時間に練習をして『曲を弾ける様になったか?』と聞かれれば。
ハッキリと答えは『NO』だ。
勿論、全く弾けていないって言う訳ではないんだが。
ソレを『人に聞かせられるレベルか?』と訪ねられたら、話を少々変わって来る。
いや正確には、タブ譜を追った弾き方さえすれば、決してそこまで悪いものではないとは思うんだが……これがなんとも言い難い。
これって言うのは、崇秀に教わった事を実演出来ていないのが問題なのだろうか?
憶える為に、俯きっ放しで弦を目で追ってる時点で、この曲の意味を明確に理解出来無いでいるのかも知れない。
兎に角、何度弾いても、何かがシックリこない。
勿論、事前に奈緒さんに一度弾いて貰って、例の『目コピ』をしてみた。
自分の才能なら、これをトレースすれば問題無い。
……と思ったのが、まずにして浅墓だった。
この考え自体が、俺の慢心に過ぎなかったと思い知らされる。
確かに、奈緒さんの弾くベースは、いつも通り『上手い』と言う感じは受けた。
けど、それに反して、何故か彼女の音がThe Sex Pistolsの『Anarchy In the U.K.』には合っていない様な気がしてならない。
1度そう思ってしまったら最後、中々彼女の真似をする気にはなれない。
故にタブ譜を見ながら、必至の思いで自分の音作りをしてみたんだが。
俺の演奏の経験値が少ないだけに、先に言った通り、全然上手く噛み合わない。
これは、俺とThe Sex Pistolsの相性が悪いのか?なんて事も考えてはみたものの。
こんなものは所詮、ただの言い訳。
時間が無いって時に俺って奴は、いつもこうだ。
……そんな自分の不甲斐無さに、心底怒りすら感じる。
人に『才能がある』とか褒められて、安請け合いした上に、この有様。
無様にも程が有る。
そんな風に、いつまで経っても納得出来ず。
ベースに出会ってから、初めてベースに対しての苛立ちを感じていたら、扉の上の赤ランプが点滅する。
これはスタジオ・レンタル時間が終了する合図だ。
「クラ……大丈夫?もぉ時間みたいだけど」
1度ベースを弾いて貰って以降も、傍でズッと待っていてくれていた奈緒さんが、完全に自分の世界に入っていた俺に声を掛けてくれた。
「全然ダメッス。……こんなんじゃ、なにも納得いかないッス。何かが……何かが違うんッスよ、何かが」
脳の構造が人よりも単純に出来ている俺は、少しの悩みで大袈裟にショートする。
そして、イライラも止まらない。
「気持ちはわかるけど、あんまり思い詰めたらダメだよ」
「けど、これは嶋田さんへの餞別なんッスよ。……それをキッチリと弾けなきゃ、話にもならねぇ、そんなんじゃダメなんッス」
「クラ……」
奈緒さんが心配そうに俺を見てくれているが、今はそんな事はどうでも良い。
そんな風に俺は、キッチリとこの曲を弾けない口惜しさに浸っていた。
「ってか、ちょっと黙って貰ってて良いッスか。……そうやって無駄な口を叩く暇が有るんなら、気を利かせて、後一時間延長して来てくれても良いんじゃないッスか?」
自分の不甲斐無さを、他人に悪態を付いて八つ当たり。
いつもなら『最悪だな』とか思うが……今は、そんな罪悪感すら感じない。
正直、今は奈緒さんの優しさが鬱陶しい。
「あっ、うん。……でも、もぉ時間もそんなに無いよ」
「15分ッス。……後15分で、必ず仕上げてみせるッス」
「あっ、うん……」
「つぅか、なにやってんッスか?早くして下さいよ。……とろいッスねぇ」
「あっ……ごっ、ごめん」
気付けば、更に、俺の精神は悪化一途を辿っていた。
謂れのない悪態を奈緒さんに浴びせた上に、睨みながら命令。
それ程までに俺は、この曲が弾けない事が口惜しかった。
言い方を変えれば、今までが順調に行き過ぎていただけの事で、普通なら、これで当たり前。
本来ベース初心者の俺が、こんな厚かましい考えを持つ事自体おこがましい。
だが、そんな一般論なんて知ったこっちゃねぇ。
納得出来ねぇものは、なにを言われても納得出来ねぇ。
それに時間はギリギリだろうが、なんだろうが、こんな中途半端な状態のままのベースを弾くよりはマッシだ。
兎に角、どんな事をしても仕上げてやる。
男が一度口にした約束を破棄する事なんか出来ねぇ。
だから俺は、無い頭を絞ってでも、ベースを構えながら、自分にはなにが足りないのかを考える。
しかも、時間があまり無いから、その辺を瞬時に判断しなくてはならない。
まず、再考察すべきはThe Sex Pistolsと『Anarchy In the U.K.』
此処の意味を履き違えてしまえば、曲を弾く意味はない。
Anarchy=反政府。
In the U.K.=イギリス
SEX=性
ピストルズ=拳銃
この4つの中にある事を考察……
・・・・・・
あぁダメだ、ダメだ。
思い付くのは当たり前の事ばかり、こんなもん、なんの役にも立たねぇ。
くっそ~~~、崇秀なら簡単に思い付くだろうに……
・・・・・・
うん?
「あっ……そうか、わかったぞ」
そうか!!
この思考こそが謎を解くカギ!!……ヒントはアイツだったんだ。
『この場合、アイツなら、どんな音を奏でるのか』を考えれば、自ずと答えは出てくるじゃないか?
ソレだ!!
アイツの読みの深さを考慮すれば、ある程度のヒントには成るはずだ!!
「なにか解ったの?」
「今考えてる最中ッスから、余計な事を言わずに、そこでジッと待ってて下さい」
「……ごっ、ごめん」
心配してくれてる奈緒さんを邪険に扱う気は、決して無いんだが。
悪い言葉のみが、勝手に奈緒さんに向って出てしまう。
でも、今はそんな事より、崇秀の考えそうな弾き方を頭でトレースしてみる。
まずは、想定する奴の手の動き。
そこから奏でられる音。
曲に乗せている感情。
俺の頭の中で朧げながらも、それらは構成されていく。
ただ、矢張り、完全なものは出来てはいないが……
「………………なるほどな」
それでも思考は、ほぼ固まった。
俺は徐にベースを構え直して、心底ニヤッと笑う。
「……クッ、クラ?」
「いけます。……もういけますよ、奈緒さん。これなら完璧だ」
「えっ?クラ?」
「兎に角、聞いて下さい。判断は、それからで結構ですから」
「うっ、うん」
奈緒さんの不安な顔は取り除かれて、笑顔で答えてくれた。
あんなに酷い言葉を浴びせたにも拘らず、この人は、本当に優しい人だ。
ほんと、すみません奈緒さん。
心配して貰ったのに……あんな酷い言い方をして。
そうやって反省の念は尽きないが、今、俺に出来る事は奈緒さんに曲を聞かせる事だけ。
これを聞いて満足してくれたら、少しは彼女も許してくれるだろうか?
今は、そう願って弾くしかない。
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「えっ?えっ?なっ、なになに?すっ、凄い……」
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
本気に成るあまり、奈緒さんを邪見に扱ってしまった倉津君。
こう言う所が、女性経験の無さを物語っていますね(笑)
まぁ言うても、所詮は中学生。
私個人としては、まだ頑張ってる方だとは思うのですが。
逆に、まだ高校生の奈緒さんが、これをどう受け取るかで、話が動きそうな雰囲気ですね。
さて、そんな中、次回は。
やっと、倉津君のライブデビューです(*'ω'*)ノ
『83話目にして、主人公がやっとデビューって、どんな話やねん!!』
……っと思われるかもしれませんが。
この物語は、本当にゆっくりとしたペースで【倉津君の更生】を目的としていますので、どうぞお許しください<(_ _)>
でわでわ、良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!