最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

第十六話 餞別作りの果てに

082 不良さん マジになる

公開日時: 2021年4月28日(水) 21:54
更新日時: 2022年11月15日(火) 15:37
文字数:2,815

第十六話スタートなのです(*'ω'*)ノ

 016【餞別作りの果てに】


 The Sex Pistolsのナンバー『Anarchy In the U.K.』を懸命に練習する事一時間。

この短時間に練習をして『曲を弾ける様になったか?』と聞かれれば。


ハッキリと答えは『NO』だ。


勿論、全く弾けていないって言う訳ではないんだが。

ソレを『人に聞かせられるレベルか?』と訪ねられたら、話を少々変わって来る。


いや正確には、タブ譜を追った弾き方さえすれば、決してそこまで悪いものではないとは思うんだが……これがなんとも言い難い。


これって言うのは、崇秀に教わった事を実演出来ていないのが問題なのだろうか?

憶える為に、俯きっ放しで弦を目で追ってる時点で、この曲の意味を明確に理解出来無いでいるのかも知れない。


兎に角、何度弾いても、何かがシックリこない。


勿論、事前に奈緒さんに一度弾いて貰って、例の『目コピ』をしてみた。


自分の才能なら、これをトレースすれば問題無い。


……と思ったのが、まずにして浅墓だった。

この考え自体が、俺の慢心に過ぎなかったと思い知らされる。


確かに、奈緒さんの弾くベースは、いつも通り『上手い』と言う感じは受けた。

けど、それに反して、何故か彼女の音がThe Sex Pistolsの『Anarchy In the U.K.』には合っていない様な気がしてならない。


1度そう思ってしまったら最後、中々彼女の真似をする気にはなれない。


故にタブ譜を見ながら、必至の思いで自分の音作りをしてみたんだが。

俺の演奏の経験値が少ないだけに、先に言った通り、全然上手く噛み合わない。


これは、俺とThe Sex Pistolsの相性が悪いのか?なんて事も考えてはみたものの。

こんなものは所詮、ただの言い訳。


時間が無いって時に俺って奴は、いつもこうだ。


……そんな自分の不甲斐無さに、心底怒りすら感じる。

人に『才能がある』とか褒められて、安請け合いした上に、この有様。


無様にも程が有る。


そんな風に、いつまで経っても納得出来ず。

ベースに出会ってから、初めてベースに対しての苛立ちを感じていたら、扉の上の赤ランプが点滅する。


これはスタジオ・レンタル時間が終了する合図だ。



「クラ……大丈夫?もぉ時間みたいだけど」


1度ベースを弾いて貰って以降も、傍でズッと待っていてくれていた奈緒さんが、完全に自分の世界に入っていた俺に声を掛けてくれた。



「全然ダメッス。……こんなんじゃ、なにも納得いかないッス。何かが……何かが違うんッスよ、何かが」


脳の構造が人よりも単純に出来ている俺は、少しの悩みで大袈裟にショートする。


そして、イライラも止まらない。



「気持ちはわかるけど、あんまり思い詰めたらダメだよ」

「けど、これは嶋田さんへの餞別なんッスよ。……それをキッチリと弾けなきゃ、話にもならねぇ、そんなんじゃダメなんッス」

「クラ……」


奈緒さんが心配そうに俺を見てくれているが、今はそんな事はどうでも良い。


そんな風に俺は、キッチリとこの曲を弾けない口惜しさに浸っていた。



「ってか、ちょっと黙って貰ってて良いッスか。……そうやって無駄な口を叩く暇が有るんなら、気を利かせて、後一時間延長して来てくれても良いんじゃないッスか?」


自分の不甲斐無さを、他人に悪態を付いて八つ当たり。


いつもなら『最悪だな』とか思うが……今は、そんな罪悪感すら感じない。


正直、今は奈緒さんの優しさが鬱陶しい。



「あっ、うん。……でも、もぉ時間もそんなに無いよ」

「15分ッス。……後15分で、必ず仕上げてみせるッス」

「あっ、うん……」

「つぅか、なにやってんッスか?早くして下さいよ。……とろいッスねぇ」

「あっ……ごっ、ごめん」


気付けば、更に、俺の精神は悪化一途を辿っていた。


謂れのない悪態を奈緒さんに浴びせた上に、睨みながら命令。

それ程までに俺は、この曲が弾けない事が口惜しかった。


言い方を変えれば、今までが順調に行き過ぎていただけの事で、普通なら、これで当たり前。

本来ベース初心者の俺が、こんな厚かましい考えを持つ事自体おこがましい。


だが、そんな一般論なんて知ったこっちゃねぇ。

納得出来ねぇものは、なにを言われても納得出来ねぇ。

それに時間はギリギリだろうが、なんだろうが、こんな中途半端な状態のままのベースを弾くよりはマッシだ。


兎に角、どんな事をしても仕上げてやる。


男が一度口にした約束を破棄する事なんか出来ねぇ。


だから俺は、無い頭を絞ってでも、ベースを構えながら、自分にはなにが足りないのかを考える。

しかも、時間があまり無いから、その辺を瞬時に判断しなくてはならない。


まず、再考察すべきはThe Sex Pistolsと『Anarchy In the U.K.』


此処の意味を履き違えてしまえば、曲を弾く意味はない。


Anarchy=反政府。

In the U.K.=イギリス

SEX=性

ピストルズ=拳銃


この4つの中にある事を考察……


・・・・・・


あぁダメだ、ダメだ。

思い付くのは当たり前の事ばかり、こんなもん、なんの役にも立たねぇ。


くっそ~~~、崇秀なら簡単に思い付くだろうに……


・・・・・・


うん?



「あっ……そうか、わかったぞ」


そうか!!

この思考こそが謎を解くカギ!!……ヒントはアイツだったんだ。


『この場合、アイツなら、どんな音を奏でるのか』を考えれば、自ずと答えは出てくるじゃないか?


ソレだ!!

アイツの読みの深さを考慮すれば、ある程度のヒントには成るはずだ!!



「なにか解ったの?」

「今考えてる最中ッスから、余計な事を言わずに、そこでジッと待ってて下さい」

「……ごっ、ごめん」


心配してくれてる奈緒さんを邪険に扱う気は、決して無いんだが。

悪い言葉のみが、勝手に奈緒さんに向って出てしまう。


でも、今はそんな事より、崇秀の考えそうな弾き方を頭でトレースしてみる。


まずは、想定する奴の手の動き。

そこから奏でられる音。

曲に乗せている感情。


俺の頭の中で朧げながらも、それらは構成されていく。



ただ、矢張り、完全なものは出来てはいないが……



「………………なるほどな」


それでも思考は、ほぼ固まった。


俺は徐にベースを構え直して、心底ニヤッと笑う。



「……クッ、クラ?」

「いけます。……もういけますよ、奈緒さん。これなら完璧だ」

「えっ?クラ?」

「兎に角、聞いて下さい。判断は、それからで結構ですから」

「うっ、うん」


奈緒さんの不安な顔は取り除かれて、笑顔で答えてくれた。


あんなに酷い言葉を浴びせたにも拘らず、この人は、本当に優しい人だ。


ほんと、すみません奈緒さん。

心配して貰ったのに……あんな酷い言い方をして。


そうやって反省の念は尽きないが、今、俺に出来る事は奈緒さんに曲を聞かせる事だけ。

これを聞いて満足してくれたら、少しは彼女も許してくれるだろうか?


今は、そう願って弾くしかない。



----♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪--♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪-----♪♪♪♪♪♪♪♪----♪♪♪♪



「えっ?えっ?なっ、なになに?すっ、凄い……」


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


本気に成るあまり、奈緒さんを邪見に扱ってしまった倉津君。

こう言う所が、女性経験の無さを物語っていますね(笑)


まぁ言うても、所詮は中学生。

私個人としては、まだ頑張ってる方だとは思うのですが。

逆に、まだ高校生の奈緒さんが、これをどう受け取るかで、話が動きそうな雰囲気ですね。


さて、そんな中、次回は。

やっと、倉津君のライブデビューです(*'ω'*)ノ


『83話目にして、主人公がやっとデビューって、どんな話やねん!!』

……っと思われるかもしれませんが。

この物語は、本当にゆっくりとしたペースで【倉津君の更生】を目的としていますので、どうぞお許しください<(_ _)>


でわでわ、良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート