最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

083 不良さん 餞別を渡す為にライブに乱入する

公開日時: 2021年4月29日(木) 22:06
更新日時: 2022年11月15日(火) 15:48
文字数:4,200

●前回のおさらい●


 嶋田さんに餞別を渡すと言う行為の為に、今までにないぐらい真面目にベースに打ち込んだ倉津君。

そしてある発想から、ある程度、自分で納得いく結果を得る事が出来た。


さぁ、ライブに乱入しよう!!

 気付けば、ハード・ケースから出したままのベースを片手に、もう片方の手では奈緒さんの手を引っ張ってライブハウスに戻っていた。


途中、何所をどうやって、此処まで来たのかなんて全く記憶に無い。

ただ只管、嶋田さんの出番までに遅れない様にする為だけに必死だった。


そうやって走り込んだスタッフ専用入り口では、一旦、スタッフに止められたが、スタッフには強引に1万円札を掴ませて、押し退ける様にして中に入る。


会場内に入ると、アルコールとヤニの酷い臭いに包まれるが、そんなものは関係ない。

何故なら、既にステージには嶋田さんの姿がある。

しかも曲の準備が整っているのか、ギターに手をして、今にも演奏を始めそうな雰囲気だ。


ヤバイ、マジで時間がねぇ!!



「どぉぉおおおぉおぉけぇぇええぇぇぇ~~~いぃ!!」


俺は、奈緒さんの手を引っ張ったまま、強引にオーディエンスを押し退けてステージに上がる。



「フッ……漸く来やがったか」

「遅いんじゃボケ」


俺の行動に呼応するかの如く、崇秀と山中の馬鹿2匹がニヤッと笑い。

アリスと言われる奴を引き連れて、2人も一気にステージに駆け上がってくる。


コレは予定に無い、本気の乱入だ。

そして瞬時に、ツインギター・ツインベース・ワンボーカル・ワンドラムの即興バンドが完成する。


だが観客は、意味が解らず俺達をボォ~っと見てる。

この分だと『ある程度は、このライブがやらせ』だと言う話が、何処かから漏れてるみたいだな。


しかし、崇秀の奴、どうするつもりだ?



「なっ、なんだい、倉津君?これは、一体、なんのつもりだい?」

「かっ、勝手な事して、すみません。我儘は重々承知の上で、嶋田さんにお願いがあって来ました」

「なに?どうしたの?」

「俺、どうしても嶋田さんとのタイバンまで待てなくて『Anarchy In the U.K.』を必死に練習してきました。……ですから、お願いします。今すぐ一緒に弾いかせて下さい」

「それは一向に構わないけど。また、なんで急に、そんな事に?」

「すみませんね、嶋田さん。その辺の事情は、俺から説明しますよ」

「仲居間さんまで……それじゃあ悪いけど、説明をお願いするよ」

「実は……コイツ等に、嶋田さんの海外進出の話をした所ですね。お節介なコイツ等が、悩んでる嶋田さんに音楽を続けて貰う為にも『なにか餞別を送りたい』って言う話になりましてね。……今ある、この有様なんですよ」

「なるほどねぇ。それはまた有り難い話だね」


冷静さを取り戻した嶋田さんは、崇秀の話にうんうん頷く。


ほぼ納得している様だ。



「んで、良かったらなんッスけど。みんなで一緒に、嶋田さんと演奏したいんッスけど、ご一緒させて貰って良いですか?」

「うん、良いよ。そう言う事情のサプライズなら大歓迎だよ。みんなで一緒にやろう」


完全に理解した嶋田さんはニコニコしながら、俺達の我儘をを受け入れるてくれる。


それにしても、バンド慣れさえすれば、こんな緊急事態でも、簡単に対応が出来る様になるんだな。


スゲェな、バンドマンって……



「OKだ。許可が出たぞ!!クラ・ヒロ、野郎共は、さっさと楽器を持って準備しろ。テメェ等の骨組みになるリズムがねぇと、なんにも始まんねぇ!!テメェ等の糞クダラネェ音で、此処に居る全員の耳をブッ潰しちまえよ」

「うるせぇぞ、真糞野郎。テメェに言われなくても、とっくの昔に準備なんざ出来てんだよボケ!!顔洗って出直して来い!!」

「オンドレ、誰にモノ言うとんじゃ。オマエなんぞに言われんかっても、元より、そのつもりじゃ」

「「「「「早くやれ、糞共!!音がねぇぞ音がぁ!!まだ、なんも聞こえねぇぞぉ~!!」」」」」


罵詈雑言に対して罵詈雑言が返って来る。


汚い言葉で罵り合ってオーディエンスを煽る。

そして、瞬時に煽られたオーディエンスは、更にバンドに罵詈雑言を浴びせる。


これは、喧嘩好きの俺にとっては、非常に楽しい光景だ。


パンクな曲を弾くなら、こう言うノリじゃなきゃな。



「オーライ!!オーライ!!ナオ・アリス、女共はマイクの準備だ。テメェ等の声と、その振動するエロイ舌で、観客共の生気を吸い尽くしてやれ!!カラッカラに干乾びさせろ」

「ハイ」

「あっ、はい」

「「「「「ナオ~~~アリス~~~愛してるぞぉ~!!そのエロイ振動を俺にもくれ~」」」」」


可愛い女の子は得だな。

手を振りながらポジションに着くだけで、観客が身を乗り出してまで、名前で応援して貰えるんだからな。


しかしまぁ、これも、可愛いからなせる技なんだろうな。


これがブスなら罵声に変るのは必定だ。


しかし、崇秀の奴。

なんで奈緒さんに、ベースか、ドラムを弾かせないんだ?


……って、良く良く考えたら、俺のせいじゃねぇか。

俺がスタジオから、強引に奈緒さんを引張ってきたもんだから、奈緒さんのベースをスタジオに置きっ放しにしちまった。


そう言う事情ですか……すんません。



「さぁ~て、最後に音楽マニアの腐れ客共。これからテメェ等すべき事は『イク』準備を整える事だけだ。嶋田さんの門出の曲をテメェ等にも奏でてやるから、その場で無様に精子でも吐き出してやがれ!!」

「「「「「ぉぉおぉぉおぉおぉぉおぉおぉ」」」」」


崇秀は煽りが上手い。

一気に客のボルテージを上げて、ライブハウスに熱気を孕ませる。


そんな風に、会場が温まって来た所で、山中が、俺に目で合図を送ってくる。

それと同時に奴は、音を立てずにスティックを『1・2』と2回交差させ、俺のベースと、山中のドラムの音が会場内に鳴り響く。



----♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪--♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪-----♪♪♪♪♪♪♪♪----♪♪♪♪


「「「「「おおぉおぉぉっぉおぉぉっぉおぉぉ」」」」」


無駄に盛り上がっているところに、突然、音を鳴らしたのは正解だった。


オーディエンスの反応からも解る様に、山中の音は力強く凄まじい。


山中は、ドラマーには似合つかわしくない細身の体をしている。

……が、その体つきからは想像出来無いような激しい音を叩き出す。


奴の武器は、あの恐ろしいぐらい撓る腕や手首の柔軟性。

そこから繰り出される音は、何所に居ても一音一音ハッキリと聞き取れる。


以前聞いたメタリカの『ONE』とは比べ物にならない程、良い音が出ている。


そう言えば、アイツあの時『まぁソコソコやったらな』って言ってたよな。

それを熟成させると、ドラムの音って、こんなにも違うもんなのか?


コイツ、まじスゲェな。


しかし、山中以上に俺が懸念する事が、もぅ2つ有る。


1つ目は、奈緒さんとアリスの声の競演だ。

全く声質が違う2人が、打ち合わせも無しに上手く噛み合うのだろうか?


それともう1つは『天才』と言われている嶋田さん&崇秀の2人のギターリストの奇跡の競演。


まぁコチラに関しては完全に未知数。

まずにして、考えただけでも恐ろしくて、なにが起こるのかさえ想像も出来無い。


しかも、今になって気付いた事なんだが、崇秀の使っているギターは『フラン』じゃねぇな。


ギターは、普通、弦が6本が標準なのに。

今、アイツも持っているギターは、弦が1本多く7本も付いてる。


なんか見た目からして、おっかねぇな感じがするな。


ボディーも真っ黒だし。


俺のそんな懸念を他所に、とうとう奴等の出番がやってくる。


-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-……



「「「「「……おっ?……おっ?おっ?おおおおぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉおぉ~~~~!!」」」」」


音が出た瞬間、一瞬にしてオーディエンスと空気が凍りつく。


だが直ぐに、イグニッションキーを回した車の様に、オーディエンスのエンジンの回転数が一気に吹き上がる。


にしても、この2人なんて音を出しやがるんだ……


嶋田さんは、政府を守る様な音……いわば、この曲の逆を行く音を奏で。

崇秀の7弦からなる奇妙なギターからは、ギターとは思えぬ重低音が、反政府を彩る様な形で音を出している。


交差するギターの音は、一見お互いに潰し合っている様に聞こえるが、実際はそうじゃない。


何所をどうやったら、あぁなるのかは解らないが、兎に角、上手く噛み合っている。


2人の天才による、天才の天性の勘。

こんなもん滅多に聞けるもんじゃねぇし、誰も止められないぞ。


それに、この音……なぜか、この曲の本質の様にも思える。


表現力も桁違いも良い所だ。


そこに、第一の懸念であった最終兵器とも言える女性2人が声を入れてくる。


此処まで来たら、もぅどうなっても知らねぇぞ。


つぅか、いつ打ち合わせしたのかは知らないが、奈緒さんとアリスは、交互に1フレーズづつ唄い、時には2人一緒に激しく唄う。


声質の違いが問題になる事を懸念していた俺だが、これは単なる、俺の取り越し苦労に過ぎなかった。

完璧なるハーモニーで、何もかもが上手く表現されていく。


2つの異なる魅力を持った声が、オーディエンスを惹きつけて止まない。


恐怖のツインボーカル、またの名を『ツイン・サキュバス』

このまま行ったら、崇秀の宣言通り、観客の生気を全部吸い取りかねないぞ、この2人。


ただ、サキュバスは、所詮サキュバス。

この場には、もっと恐ろしい、あの2匹の魔王が存在している。


このギターを奏でる魔王2匹……奈緒さんとアリスが交互に歌う事を予見していたのか。


奈緒さんのパートは嶋田さん。

アリスのパートは崇秀。

っと、完全に分けて、各々のパートを分業演奏している。


なんなんだ、この2人は?

勘だけで、そんな事をしているのか?


だとしたら、もぉ病気だ。


そんな感想を頭で考えていると、いつの間にか曲は終了していた。


・・・・・・


うっ、うん?

あっ、あれ?

ちょ……ちょっと待ってくれ。

人の事バッカリ気にして演奏してたが、俺、ちゃんとベース弾けてたのか?


大丈夫だったのか?



「「「「「おおぉぉおぉぉおぉおぉ~~~!!アンコール!!アンコール!!……」」」」」


そんな俺の心配を他所に、オーディエンスは大盛り上がり。


曲の途中から、客席からステージに登り。

オーディエンスの向かって、モッシュ・ダイブを敢行した者も多々あった様だ。


未だに、何人もステージに登っては、客席に向かって飛び込んでいっている。


まぁこの様子から言って、俺のベースのミスは、誰も気にならなかった様だな。

多分、ミスしまくってただろうけど、観客が気付いてないなら……まぁ、それはそれで良いだろう。


解んねぇけど。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


 かなり強引な感じになりましたが。

どうやら倉津君は、嶋田さんに餞別を渡せたようですね(*'ω'*)


後は……


まぁ冷静に考えたら、沢山問題が残っていますね(笑)

さて、その一番の問題になる事象を、上手くこなす事が出来るのか?


それは、次回の講釈!!


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート