●前回のおさらい●
例を挙げながら奈緒さんは、色々な人の特徴や、その人に観客が求める物を説明していく。
その意見に、妙に納得する倉津君だが。
「では、自分が、観客に求められているものは何か?』と奈緒さんに尋ねてみた。
「クラの特徴?明確にはわかんないけど、多分、パフォーマンスじゃないかな」
「パッ、パフォーマンスっすか?……こりゃあまた、豪く演奏とは掛け離れた所に、特徴を見い出されたもんッスね」
「そうでもないよ。それを上手くこなせば、演奏が上手いより戦力になるもん」
「なんでッスか?」
「ほら、1人居るじゃない。君と、全く同じパターンの人間がさ」
「俺と同じパターンの人間?」
誰だ?
そんな奴、誰か身近に居たか?
そんな馬鹿は記憶にねぇなぁ……
「セックス・ピストルズのベーシスト『シド・ヴィシャス』……クラって、かなり彼に似てると思うけど、どぉ?」
ぶっ!!
よりにもよって、数々のロクデモナイ伝説を残し、この世を去った。
厨二病患者の俺が愛して止まないベーシスト、シド・ヴィシャス大先生とは……恐れ多いにも程がある。
奴は、俺の中で神にも匹敵する存在ですよ。
それに俺には、そんな大それた技量なんて無いッスよ!!
「いやいやいやいや、言い過ぎッスよ。俺は、奴みたいな伝説なんて何1つ持ってないッスよ」
「ふふふ……そうでもないんだなぁ、これが」
「どういう事ッスか?俺、なんか知らない内に、またロクデモナイ事でもしましたか?」
「うん、したよ。ロクデモナイ事」
「なんッスか、そりゃあ?」
「実はねぇ。……前々回の鮫ちゃんにクラが刺されたライブがあるでしょ。あのライブでのクラのパフォーマンス、未だにネットで話題になってるんだよね。……一部のマニアの間では『シドの再来』『和製シド』って言う人も居るぐらい、君のパフォーマンスに傾倒してる人も居るんだよ」
まただ。
また俺の知らない所で、そんな話が盛り上がってるのか。
けど……コレは、本当に悪くは無いな。
だってよぉ、シドだぜシド。
世界でも有名なベーシストであるシド・ヴィシャスの再来って言われてんだぜ。
こんな光栄な事があるか?
しかもだな。
奈緒さんだけにじゃなく、他の連中も、そう言ってくれてんだから、悪い気がする奴なんて、絶対居る筈もない。
これは良い事を聞いた。
……けどな。
嬉しい反面1つ引っ掛る事が有るんだよな。
シドって、言われるって事はな。
なんかベースの演奏を、完全に否定されてる様な気がするのは、気のせいか?
アイツ確か、ベースの演奏ロクに出来なかったよな。
「そうなんッスか?」
「あれ?……なんか嬉しくなさそう」
「いや、嬉しいんッスけど。……シドって事は、演奏が下手だって言われてる様な気がして……なんとも言えないッスね」
「それは、しょうがないんじゃない。世間の評価がそうな以上、そうでしかないんだからさ」
「それって……ヤッパ下手って事ッスか?」
「まぁそうだねぇ。初めて4ヶ月で、あそこまで急成長してるんだから下手とは言わないけど。嶋田さんや、遠藤さん、それに仲居間さんみたいなクラスと見比べると、評価が格段に落ちるのは否めないね」
そこと比べられてもなぁ……正直、あんま実感湧かねぇよなぁ。
大体にして、あんな化物3人と比べられたら、誰であって見劣りするのは、至極当然の事だもんな。
……つぅかな、ウチのメンバーとだったら、誰と比べられても、俺なんか味噌ッカスのレベルだもんな。
はぁ~~~、今考えると、とんでもないバンドに在籍してたんだな。
おっかね。
「……まぁそうッスね」
「あれ?また落ち込んだ」
「いや、落ち込んでる訳じゃないんッスよ。なんか俺と他の人との差がドンドン広がってる様な気がするんッスよ」
「例えば、誰と?」
「馬鹿秀……」
結局、俺は、そこに拘ってる。
奴には勝てないかも知れないが、負けを簡単に認める訳にもいかない。
幼馴染だけに、どうしても勝ちたいと言う気持ちが先行する。
だが……奈緒さんは、そんな俺を見ながら溜息をついた。
「ハァ……だから、そことは比べない方が良いよ。仲居間さんは、既に人間じゃないんだから。あの人は別格だよ」
「だとしてもッスね。同い年で、此処まで差が開く理由ってなんなんッスかね?」
「ヤル気じゃない」
「ヤル気ッスか?……まぁそう言われちまえば、そうなんでしょうが、それだけでそんなに差が開くもんなんッスか?」
奈緒さんの言った、この『ヤル気』って言葉は、崇秀もよく言う言葉なんだが……これだけで、そんなに変わるものなのか?
ヤル気だけで上手く行くなら、世の中、もう少し成功してる人間が多く居ても良いと思うんだが……違うのか?
「うん。俄然開くよ」
「なんでッスか?」
「やり方を、自分自身で模索するから……かな」
「やり方?やり方なら、誰かから学べば良いんじゃないんッスか?」
「そこが、君と仲居間さんの最大の違いだね。基本、仲居間さんは、人から直接的にはなにも学ばない」
人から学ばない?
じゃあ、どうやって、技術の向上が出来るんだ?
「学ばないんッスか?」
「そうだよ。……良いクラ?あの人の凄い処はね。演奏でも、その卓越したライブの手腕でもないんだよ。仲居間さんが怖いのは、自分でなにをどうするするべきかを、常に自分で模索して、その中から最良の方法を選択してる事なのね。だから、普通では考えられない様なスピードで頭がドンドン良くなっていくし、それに比例して要領も良くなっていく。彼はねクラ。やる気がある上に、隙を作らない人なの。その上で、時間の使い方を誰よりも良く理解してるから手の付けようがない。だから、そんな人に勝とうと思ったら、生半可な努力じゃ勝てないよ。……君が、仲居間さんに勝つに至るまでは、まだまだ時間が掛かると思う」
「はぁ……確かに、そうッスね。アイツは、正真正銘のフリークス(化物)っすよ」
「そう言う事、1年や2年やった程度じゃ、その差は簡単に埋まらないの」
大見得切ったのに、こんなんで勝てるのか?
奈緒さんの意見を聞いて、俺の不安は募るばかりだ。
「でも、落ち込む必要は、なにも無いんだよ」
「なんでッスか?」
「だってさ。君には、私が居るじゃない。2人で本気になれば、仲居間さんだって倒せるよ。……なんてね。言ってみただけ」
「奈緒さん……」
「コ~~~ラッ。なに、そんな情けない顔してるのよ。今度こそ『最強のバンド』を作って、彼に本気で勝つんでしょ。だったらシッカリしなよ。『落ち込む』とか、そう言うの、今の君には、もぅイラナイモノなんだからさ」
「そう……ッスね」
奈緒さんは、こうやって、いつも俺の味方をしてくれる。
それは例え、誰が敵になろうとも、お構い無しだ。
彼女は『気持ちがズレる』と言う言葉を知らない、真っ直ぐに俺だけを見てくれている。
だから……口だけじゃなく、俺も本気で頑張らなきゃな。
「さてクラ。此処でもぅ1回質問するね」
「なっ、なんッスか、急に?」
「クスッ、緊張しなくても良いよ。そんな大それた事は聞かないからさ」
「ウッス……ッで、なんッスか?」
奈緒さんは、俺のその言葉を聞くと、まずは神妙な顔をして俺を見詰返してくる。
恐らくは、この表情からして『緊張しなくても良い』と言った割に、奈緒さんが今から話す話は、俺が思ってる以上に真剣な言葉なのだろう。
けど……なにがあっても、彼女の意見は受け入れよう。
もぉ彼女の信頼を、絶対に裏切りたくなんかないからな。
俺は、真剣な表情をする彼女の顔を見詰返した。
すると……奈緒さんは、それを察して、タイミングよく口を開く。
「私、君に期待しても良いのかな?」
心に重く圧し掛かる言葉だったが。
俺は何も言わず、即座に『コク』っと頷いき、それを奈緒さんへの返答にした。
此処には、言葉なんて野暮な物は必要ない筈だしな。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
今回のお話は、まぁ、奈緒さんの独壇場と言った所でしょうか(笑)
彼女の正確な意見が、倉津君を救い。
そして彼のやる気に、上手くスィッチを入れたって感じでしたからね。
ですが、今回に限っては倉津君の対応も良かった。
流石に崇秀との件で、大分懲りたのかして。
『甘えた根性を捨て』本気で音楽に向き合う気持ちに成りながらも、奈緒さんの要望にも必死に応えようとしている。
漸く、成長の兆しが見えて来たみたいですね( ´∀`)bグッ!
さてさて、そんな中。
次回もまだ、奈緒さんとの2人の会話が続く訳ですが……
このまま綺麗に、序章を終わらせれるんですかね?
それは、また次回の講釈(笑)
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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