最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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061 不良さん あるモノが爆発したと焦る

公開日時: 2021年4月7日(水) 22:20
更新日時: 2022年11月10日(木) 22:47
文字数:5,414

●前回のおさらい●


 ベースを弾く為に『タブ譜』の見方を奈緒さんに教えて貰う倉津君。

ある程度理解した所で、倉津君から『音を聞いてるだけで、譜面が見える様な気がする』と言う提案を受け。

奈緒さんが一度ベースを弾いて、倉津君が、それをタブ譜に書いてみると言う事態に陥った。


さて、その結果は?

 ……曲を弾き終わり。

奈緒さんは、いつもの様にヒョコッと俺の横から顔を出す。



「どぉ……だった?」

「あっ、滅茶苦茶上手かったッスよ。感動ッス」

「そうじゃなくて、タ・ブ・譜」


ですな。



「あぁタブ譜の事ッスか。すみません。奈緒さんのベースに聞き惚れてました」

「ふぅ、それで、どうだったの?」

「はぁ、まぁ、一応程度ではあるんッスけど、書くには書けたッスよ」


俺が今、懸命に書いたタブ譜を奈緒さんに渡すと、彼女は、それを指でなぞりながら1つ1つ丁寧に確認していく。


だが、そんな行為をしているだけにも関わらず、彼女の表情はかなり険しい。

しかもその険しさは、先に進めば進むほど険しくなっていく。


この様子じゃあ、相当間違いだからけなんだろうな。


しかしまぁ、イラナイ事はあまり言うもんじゃないな。


こりゃあ完全に大失敗だ。


***


 数分後。

全ての確認が終わった奈緒さんは、突然、なにを思ったのか俺に抱きついてきた。


なっ、なんだぁ?何事だ!!



「クラ……」

「あぁはい」

「凄いよ。……君のこれは、凄い才能だよ」

「はぁ?とっ、突然なんの事ッスか?サッ、サッパリ意味がわからないんッスけど」

「これだよ、これ!!少し書き足さなきゃいけない部分は有るけど、この君の書いたタブ譜って、全部合ってるのよ」


興奮した奈緒さんは、椅子に座っている俺の腿を跨いで、俺の上に乗っかってる。


俺にとっては、タブ譜の事なんかより、コッチの方が数十倍大変だ。


腿からは、奈緒さんの暖かい体温が伝わってくるし。

密接している彼女の体からは、例の奈緒さん特有の柑橘系の香りが、再び俺の鼻を襲い。

トドメに鼻が当たりそうな至近距離に顔がある。


しかも奈緒さん……俺の上で興奮してるもんだから、彼女の動きで股間が刺激されたおしてる。


ダメだ、ダメだ、ダメだ!!

無節操な俺のチンコが立ったら大変だ。


って言うか、この無節操チンコ、モリモリ元気になり始めてるよ。


無理、無理、無理!!

意識してなくても、海綿体に血がのぼるぅぅぅぅうぅぅぅううぅ……。



「なっ、奈緒さん落ち着いて」

「痛ッ」


彼女の顔が苦痛に歪む。


あまりの緊急事態だったので、咄嗟に俺が彼女の両腕を掴んでしまったからだ。

しかも、果てしなく気焦りしていた俺は、力加減を誤り、どうやら、目一杯の力で掴んでしまったらしい。


焦っていたとは言え、大切な奈緒さんに何たる失態だろうか。



「だっ、大丈夫ッスか!!」

「あっ……うん、大丈夫。ごっ、ごめんね、取り乱して」

「そっ、それでどうしたんッスか?何をそんなに取り乱したんッスか?」


冷静になってくれれば、この状況の危険性も解ってくれるだろう。



「あっ、うん。それがね……」


だが、そこからは降りてくれないのね。


それどころか奈緒さんは、最初は、俺の腿にチョコンっと座っていたのに、少しずり上がって来て、今では腹の上に乗っかってる。

しかも、乗ったままの体勢で話を始める。


あっ、無理だ。

俺は、この思いと同時に、無様に勃起する。


……もぉ死にてぇ~。


彼女のお尻に、完全にモノが当たってるよ。



それでも奈緒さんは、話を辞る気配は一切無い。



「このタブ譜ね。さっきも言ったんだけど完璧なのよ」

「はぁ~~~」


俺は余りにも自分の惨めな姿に、眼が虚ろになっている。



「ちょっとクラ、ちゃんと聞いてるの?これって、凄い事なんだよ」

「はぁ……そうっすかぁ~」

「もぉ」


必死に言っても、俺から生返事しか帰って来ない事に、少し怒ったのか顔を膨らませる。


辞めて下さい、そう言う可愛い仕草をするのは……アナタのお尻に、エライもんが爆発しますよ。


どうなっても知りませんよ。


それに大体『もぉ』じゃないですよ『もぉ』じゃ!!

『もぉ』って言いたいのは、俺の方ですよ。



「ねぇクラ。クラって、数学得意?」


あっ、意外と立ち直りが早いな。

もう何事も無かったかの様にケロッとしてるよ、この人。


それにしても、奈緒さんの質問の内容が酷いな。

俺に『数学が得意か否か』を聞くなんて、お釈迦様でも考えないッスよ。



「……あぁ、数学っすか。数学は絶望的に苦手ッスね」

「そっか。計算得意な人って、こう言う事が出来る人多いんだけどなぁ」

「計算?」

「そっ、暗算とか出来る人じゃないと、本来、こう言うのが出来無い可能性が高いのよ」

「あぁ、それなら得意ッスよ。数学は出来なくても算数なら得意ッス。俺こう見えても『算盤初段』ッスから……あぁそれと序に言うなら、フラッシュ算とかも得意ッスよ」

「そうなんだ?でも、またなんで?」

「はぁ、親父に将来仕事をする時に便利だからって、無理矢理習わせられてたんッスけど。これがまた、やってみると、結構、嵌まっちゃいましてね……なんなら、3桁ぐらいの計算なら、今直ぐにでも出来ますよ。やってみましょうか?」

「うっ、うん。じゃあ、お願いする」


あれ?なんかさっきと打って変わって楽しそうだな。

奈緒さんって、こう言う『奇人変人』的な奴が好きなのか?


俺がそんな事を考えてる間に、奈緒さんは幾つかの問題を作っている。


オイオイ、何問出す気なんだ、この人?



「じゃ、じゃあ、いくね」

「良いッスよ」

「34+77+52+91+68+44=」

「366ッスね」


3桁でも良いって言ったのにな……信用されてねぇ。



「凄い。じゃあ、次3桁ね」

「4桁でも良いッスよ」

「ほんと?じゃあ、ちょっと待ってね」


再度、問題を作り始める。


俺の腹の上の乗ったままで……


しかしまぁ、ホント降りないな、この人。

俺の腹の上が、そんなにお気に召したのかな?



「行くよ」

「ッス」

「4425+7231+8971+5557+4198+7427+9127=」

「多分46936じゃないッスか」

「正解……凄いねぇクラ。私、感動しちゃったよ」

「そうッスか?まぁ、何の役にも立たないッスけどね」

「ううん、そんな事は無いよ。それって、凄くベース弾くのに便利な技能だよ」


……そうなんだ。


にしても、なんだな。

こんな糞の役にも立たないと思ってた技術が、ベースでは役に立つもんなんだな。


皮肉なもんだ。



「そうなんッスか?でも、こんなもん何の役に立つんッスか?」

「まずは、さっきのタブ譜だね。音を聞いてるだけで、クラなら瞬時に書き取れちゃう訳でしょ。普通あんな事、簡単には出来無いよ」

「はぁ……けど、俺、どっちかと言うと、音を聞いてたと言うより、奈緒さんの手の動きを見てましたよ」

「えっ?どういう事?」

「はぁ、まぁ、これも大した話じゃないんッスけど。俺、餓鬼の頃から喧嘩ばっかりしてましたから、結構、動体視力が良いんですよ。だから奈緒さんの手を見てたんッスよ」

「ふ~ん。なんかクラって色々凄いね」

「あぁ、因みにですが、今なら奈緒さんの手の動きなら憶えてますよ」

「えっ?ほんと?」


奈緒さんの手ですから。



「はぁ……上手く音は出ないかもしれませんが、動きだけならトレース出来ますよ」

「じゃ、じゃあ、弾いてみて」


喧嘩なんかバッカリやってるとな。

相手の動きを読む為に『予測行動』って言うのが鍛えられるんだよ。


まぁ、これだけじゃあ、少々解り難いと思うので、例をあげるとだな。

喧嘩してる最中に相手のクセなんかを見つけると『あぁ次にコイツ○○して来るな』って言うのが、案外、簡単に見えてくるもんなんだよな。


俺が奈緒さんに言ってるのは、それの応用だ。


奈緒さんのベースの弾き方は、独学故に特徴があってトレースし易い。

その行動が起こった後には、必ず『A』を弾くとか『Dm』を弾くとかが、直ぐに見えてくる。


そうなれば、後は簡単だ。

何所をどう動いて弾いてたかを思い出せば良い。


要するに俺のやってる事は『耳コピ』ならぬ『眼コピ』だな。


まぁそんな事よりもだ。

俺の1部は、もう限界炸裂前で危機的状況に有る。


限界なんッスけど……


それに、この体勢のままじゃベースが弾けないから……せめて、そこをどいて下さい。



「奈緒さん」

「なに?」


うん、いつもの反応。



「あの……ベースを弾くんで、そこを、一旦どいて貰っても良いッスかね?」

「あっ、ごっ、ごめん」


奈緒さんは、俺の指示通り、漸く腰を上げてくれた。


非常に勿体ない状態ではあるんだが。

此処で奈緒さんの下着に向かって『ボンッ』する訳にも行かないから、今は我慢だ。


諦めよう。


吐き出す方が、よっぽど格好悪い。



「あっ……」


そうやって、どいてくれる筈だった……


なのに彼女は、俺の意思に反して腰を再び下ろす。


しかも今度は、俺の股間の上に直撃して来た。


なっ、何するんッスか?

そこの爆弾処理はしなくて良いですから、早く降りて下さいよ。



「はぅ……どっ、どうしたんッスか?」

「……無理」

「いや、あの、無理じゃなくてですね」

「無理なの!!此処でクラの曲を聴くの!!」


何故か彼女は顔を真っ赤にしながら、訳の解らない事を言い出した。


我儘を聞いて上げたいのは山々ですが、俺も、そろそろ本気で無理ですから……って言うか、そこで暴れないで下さい。



「このままじゃ、どう考えても、ベッ、ベース弾けないッス」

「弾けるの!!クラなら、絶対、弾ける筈だから!!」

「無理ッス、無理ッス。無茶言わないで下さいよぉ。こんな状態だったら、プロでも弾ける筈ないじゃないですか」

「良いから弾いてよ!!弾けない禁止!!」


我儘言いながら、股間をゴリゴリしないで下さいって。


危ないんだって。

そこには、超危険な核爆弾級の困った爆発物がセットされてるんッスから。



「じゃ、じゃあ、奈緒さんは、降りないって言うの禁止ッス!!頼みますから、早く降りて下さい!!」

「わっ、私は、クラの師匠だから、クラは禁止出来無いの!!師匠命令は、絶対なんだよ」

「きっ、汚いッスよ。そんなの無しッスよ!!」

「なに?なに?クラは、私が此処に居るのが、そんなに不満なの?そんなに私の事が嫌いなんだ。そこまで不満なんだ」

「嫌いじゃないです!!間違っても嫌いじゃないですって!!でも、今は無理ッス!!」


ダメだ。

今まではただの爆弾だった筈なのに、このやり取りの間に、爆弾が時限制の核爆弾に見事に進化しやがった。


もう爆発までの猶予が無い。



「嫌だ。此処にいるの!!」

「あぁぁぁああぁあぁ~~~っ!!もうダ~メ~で~す~~~!!」

「ちょ……クラ、ダメだって!!私、そこに居るんだって!!離してよ」


俺は、軽々と奈緒さんを持ち上げた。


ホント軽いッスね。


・・・・・・


まぁまぁ、そのお陰で爆発だけは、どうにかギリギリ免れた。


神は居た。


安心した俺は、奈緒さんの方を見てみる……とだ。

何所からどう見ても、完全に怒ってる、いや……怒ってるなんてレベルじゃない。


あれはキレてるな。


……どうするよ俺?



「……嫌い……」

「へっ?」

「クラなんか大嫌いだ!!もう知らない!!」

「ちょ、ちょっと奈緒さん、なに怒ってるんッスか?高々、腹の上から降ろしただけで、そんな怒らなくても良いじゃないですか」


そう言いながらも、実は違和感はあった。


奈緒さんをお腹の上から退けてからと言うもの、何故か、妙に股間がスースー冷たい。


オイオイまさか、これって……


最悪の事態を想定しながら、俺は自分のズボンを見る。


股間の部分がびしょ濡れだ。


どうやら、奈緒さんと口論してる時、知らない内に『イッて』しまっていた様だ。


……無様だな俺。


俺は本能的にズボンを触り、手の臭いを嗅ぐ。



「ちょ!!臭いなんて嗅がないでよ、変態。……もぅいやだぁ~」

「へっ?」


どういう事だ?


一体この場で何が起きてるんだ?


大体にして、なんで奈緒さんが涙目になりながら、俺をあんなに睨みつけてくるでるんだ?


俺なんかしたか?


事情がサッパリわからない。

わからないから、再度臭いを嗅ぐ。

更に奈緒さんに睨まれたが、この臭いは、あれの独特の生臭いイカの臭いはしない……


んっ?


ってオイ!!これ、まさか……



「なっ、奈緒さん」

「……なによ?今、クラと話したくない気分なんだけど」

「あっ、あの、これって、ひょっとして……」

「エロ虫は、私と話すの禁止!!」

「あっ、あの、おっ、俺……」

「黙れ……もぉ喋るな」

「あっ……はい」


奈緒さんの一言で、俺は沈黙。


年上とは言え、女の子相手に聞く話じゃ無いよな。



「はぁ……もぅどうでも良いや」

「奈緒さん?」

「その代わり、私、ちょっとコンビニに行って来るから、私が帰って来るまで、そこで練習してなさい」

「あっ、ウッ、ウッス」


はぁ、良かったぁ。

何故かは知らないが、奈緒さんは俺を許してくれた。


こう言うところは、自分が年下で良かったと思う。


奈緒さんは、ホント大人だよな。



「でも、絶対にトイレとかには行かないでよ。トイレ禁止ね。……もし私に黙って行ったら、絶対、絶交だからね」


そんなご無体な。


大体にして、こんな爆弾抱えたまま。

まだまだこの後も奈緒さんと一緒に居る時間が有るって言うのに、そんなもん到底無理な話ですよ。


こう言う状況の事を『蛇の生殺し』って言うんですよ。


故にですな。

此処は1つ、俺の優秀な右手爆弾処理班によって適切な解体作業を行ったのち、爆弾は速やかに処理します。



「・・・・・・」

「クラ、返事は?」


奈緒さん目が怖いッス。



「ウッス……」

「絶対だからね」

「ウッス……」


奈緒さんは、それだけ言い残すと部屋を出て行き、コンビニに行った。


その瞬間俺は、瞬時に奈緒さんとの約束を破棄して爆弾を投下に向かった。


ゴメン奈緒さん。

この裏切りと言う行為は、アナタを思えばこその所業です。


……一切合切、神に誓って下心はありません。


信仰なんぞ、丸っきりしてねぇけど。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


結構『女性に幻想』を持ってる方には、キツイお話になってしまったかもしれないのですが……


まぁ実際は、こんなものですよ。

女性にだって性欲と言うか……男性の於ける『無意識の勃起』の様に、女性にも『無意識の内に濡れる』なんて事はある訳ですからね(笑)


さてさて、奈緒さんがそんな状態に成っていた為に『計算についての説明』が、少々疎かになってしまったのですが。

『計算が得意』なのと『音が見える』の関係性と言うのは【インスピレーション】の話なんですよ。


噛み砕いて言いますと。

倉津君自身は、自分の事を馬鹿だと思っている様なのですが、実は決して、そんな事なく。

結構、頭の回転が速く。

その回転の速さから、迷いなく瞬時に音を判断し、それを譜面に書き出す事すら出来てしまうんですね。


これは実際、凄い才能です。

(まぁ本人はアホなので、この凄さには、なにも気付いていないようですがね(笑))



……っと言う訳で、第11話『濡れたタブ譜』は、これにて終了です。

次回からは、第12話がスタートしますので、またまたよろしくお願いいたします<(_ _)>


また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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