●前回のおさらい●
ベースを弾く為に『タブ譜』の見方を奈緒さんに教えて貰う倉津君。
ある程度理解した所で、倉津君から『音を聞いてるだけで、譜面が見える様な気がする』と言う提案を受け。
奈緒さんが一度ベースを弾いて、倉津君が、それをタブ譜に書いてみると言う事態に陥った。
さて、その結果は?
……曲を弾き終わり。
奈緒さんは、いつもの様にヒョコッと俺の横から顔を出す。
「どぉ……だった?」
「あっ、滅茶苦茶上手かったッスよ。感動ッス」
「そうじゃなくて、タ・ブ・譜」
ですな。
「あぁタブ譜の事ッスか。すみません。奈緒さんのベースに聞き惚れてました」
「ふぅ、それで、どうだったの?」
「はぁ、まぁ、一応程度ではあるんッスけど、書くには書けたッスよ」
俺が今、懸命に書いたタブ譜を奈緒さんに渡すと、彼女は、それを指でなぞりながら1つ1つ丁寧に確認していく。
だが、そんな行為をしているだけにも関わらず、彼女の表情はかなり険しい。
しかもその険しさは、先に進めば進むほど険しくなっていく。
この様子じゃあ、相当間違いだからけなんだろうな。
しかしまぁ、イラナイ事はあまり言うもんじゃないな。
こりゃあ完全に大失敗だ。
***
数分後。
全ての確認が終わった奈緒さんは、突然、なにを思ったのか俺に抱きついてきた。
なっ、なんだぁ?何事だ!!
「クラ……」
「あぁはい」
「凄いよ。……君のこれは、凄い才能だよ」
「はぁ?とっ、突然なんの事ッスか?サッ、サッパリ意味がわからないんッスけど」
「これだよ、これ!!少し書き足さなきゃいけない部分は有るけど、この君の書いたタブ譜って、全部合ってるのよ」
興奮した奈緒さんは、椅子に座っている俺の腿を跨いで、俺の上に乗っかってる。
俺にとっては、タブ譜の事なんかより、コッチの方が数十倍大変だ。
腿からは、奈緒さんの暖かい体温が伝わってくるし。
密接している彼女の体からは、例の奈緒さん特有の柑橘系の香りが、再び俺の鼻を襲い。
トドメに鼻が当たりそうな至近距離に顔がある。
しかも奈緒さん……俺の上で興奮してるもんだから、彼女の動きで股間が刺激されたおしてる。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!!
無節操な俺のチンコが立ったら大変だ。
って言うか、この無節操チンコ、モリモリ元気になり始めてるよ。
無理、無理、無理!!
意識してなくても、海綿体に血がのぼるぅぅぅぅうぅぅぅううぅ……。
「なっ、奈緒さん落ち着いて」
「痛ッ」
彼女の顔が苦痛に歪む。
あまりの緊急事態だったので、咄嗟に俺が彼女の両腕を掴んでしまったからだ。
しかも、果てしなく気焦りしていた俺は、力加減を誤り、どうやら、目一杯の力で掴んでしまったらしい。
焦っていたとは言え、大切な奈緒さんに何たる失態だろうか。
「だっ、大丈夫ッスか!!」
「あっ……うん、大丈夫。ごっ、ごめんね、取り乱して」
「そっ、それでどうしたんッスか?何をそんなに取り乱したんッスか?」
冷静になってくれれば、この状況の危険性も解ってくれるだろう。
「あっ、うん。それがね……」
だが、そこからは降りてくれないのね。
それどころか奈緒さんは、最初は、俺の腿にチョコンっと座っていたのに、少しずり上がって来て、今では腹の上に乗っかってる。
しかも、乗ったままの体勢で話を始める。
あっ、無理だ。
俺は、この思いと同時に、無様に勃起する。
……もぉ死にてぇ~。
彼女のお尻に、完全にモノが当たってるよ。
それでも奈緒さんは、話を辞る気配は一切無い。
「このタブ譜ね。さっきも言ったんだけど完璧なのよ」
「はぁ~~~」
俺は余りにも自分の惨めな姿に、眼が虚ろになっている。
「ちょっとクラ、ちゃんと聞いてるの?これって、凄い事なんだよ」
「はぁ……そうっすかぁ~」
「もぉ」
必死に言っても、俺から生返事しか帰って来ない事に、少し怒ったのか顔を膨らませる。
辞めて下さい、そう言う可愛い仕草をするのは……アナタのお尻に、エライもんが爆発しますよ。
どうなっても知りませんよ。
それに大体『もぉ』じゃないですよ『もぉ』じゃ!!
『もぉ』って言いたいのは、俺の方ですよ。
「ねぇクラ。クラって、数学得意?」
あっ、意外と立ち直りが早いな。
もう何事も無かったかの様にケロッとしてるよ、この人。
それにしても、奈緒さんの質問の内容が酷いな。
俺に『数学が得意か否か』を聞くなんて、お釈迦様でも考えないッスよ。
「……あぁ、数学っすか。数学は絶望的に苦手ッスね」
「そっか。計算得意な人って、こう言う事が出来る人多いんだけどなぁ」
「計算?」
「そっ、暗算とか出来る人じゃないと、本来、こう言うのが出来無い可能性が高いのよ」
「あぁ、それなら得意ッスよ。数学は出来なくても算数なら得意ッス。俺こう見えても『算盤初段』ッスから……あぁそれと序に言うなら、フラッシュ算とかも得意ッスよ」
「そうなんだ?でも、またなんで?」
「はぁ、親父に将来仕事をする時に便利だからって、無理矢理習わせられてたんッスけど。これがまた、やってみると、結構、嵌まっちゃいましてね……なんなら、3桁ぐらいの計算なら、今直ぐにでも出来ますよ。やってみましょうか?」
「うっ、うん。じゃあ、お願いする」
あれ?なんかさっきと打って変わって楽しそうだな。
奈緒さんって、こう言う『奇人変人』的な奴が好きなのか?
俺がそんな事を考えてる間に、奈緒さんは幾つかの問題を作っている。
オイオイ、何問出す気なんだ、この人?
「じゃ、じゃあ、いくね」
「良いッスよ」
「34+77+52+91+68+44=」
「366ッスね」
3桁でも良いって言ったのにな……信用されてねぇ。
「凄い。じゃあ、次3桁ね」
「4桁でも良いッスよ」
「ほんと?じゃあ、ちょっと待ってね」
再度、問題を作り始める。
俺の腹の上の乗ったままで……
しかしまぁ、ホント降りないな、この人。
俺の腹の上が、そんなにお気に召したのかな?
「行くよ」
「ッス」
「4425+7231+8971+5557+4198+7427+9127=」
「多分46936じゃないッスか」
「正解……凄いねぇクラ。私、感動しちゃったよ」
「そうッスか?まぁ、何の役にも立たないッスけどね」
「ううん、そんな事は無いよ。それって、凄くベース弾くのに便利な技能だよ」
……そうなんだ。
にしても、なんだな。
こんな糞の役にも立たないと思ってた技術が、ベースでは役に立つもんなんだな。
皮肉なもんだ。
「そうなんッスか?でも、こんなもん何の役に立つんッスか?」
「まずは、さっきのタブ譜だね。音を聞いてるだけで、クラなら瞬時に書き取れちゃう訳でしょ。普通あんな事、簡単には出来無いよ」
「はぁ……けど、俺、どっちかと言うと、音を聞いてたと言うより、奈緒さんの手の動きを見てましたよ」
「えっ?どういう事?」
「はぁ、まぁ、これも大した話じゃないんッスけど。俺、餓鬼の頃から喧嘩ばっかりしてましたから、結構、動体視力が良いんですよ。だから奈緒さんの手を見てたんッスよ」
「ふ~ん。なんかクラって色々凄いね」
「あぁ、因みにですが、今なら奈緒さんの手の動きなら憶えてますよ」
「えっ?ほんと?」
奈緒さんの手ですから。
「はぁ……上手く音は出ないかもしれませんが、動きだけならトレース出来ますよ」
「じゃ、じゃあ、弾いてみて」
喧嘩なんかバッカリやってるとな。
相手の動きを読む為に『予測行動』って言うのが鍛えられるんだよ。
まぁ、これだけじゃあ、少々解り難いと思うので、例をあげるとだな。
喧嘩してる最中に相手のクセなんかを見つけると『あぁ次にコイツ○○して来るな』って言うのが、案外、簡単に見えてくるもんなんだよな。
俺が奈緒さんに言ってるのは、それの応用だ。
奈緒さんのベースの弾き方は、独学故に特徴があってトレースし易い。
その行動が起こった後には、必ず『A』を弾くとか『Dm』を弾くとかが、直ぐに見えてくる。
そうなれば、後は簡単だ。
何所をどう動いて弾いてたかを思い出せば良い。
要するに俺のやってる事は『耳コピ』ならぬ『眼コピ』だな。
まぁそんな事よりもだ。
俺の1部は、もう限界炸裂前で危機的状況に有る。
限界なんッスけど……
それに、この体勢のままじゃベースが弾けないから……せめて、そこをどいて下さい。
「奈緒さん」
「なに?」
うん、いつもの反応。
「あの……ベースを弾くんで、そこを、一旦どいて貰っても良いッスかね?」
「あっ、ごっ、ごめん」
奈緒さんは、俺の指示通り、漸く腰を上げてくれた。
非常に勿体ない状態ではあるんだが。
此処で奈緒さんの下着に向かって『ボンッ』する訳にも行かないから、今は我慢だ。
諦めよう。
吐き出す方が、よっぽど格好悪い。
「あっ……」
そうやって、どいてくれる筈だった……
なのに彼女は、俺の意思に反して腰を再び下ろす。
しかも今度は、俺の股間の上に直撃して来た。
なっ、何するんッスか?
そこの爆弾処理はしなくて良いですから、早く降りて下さいよ。
「はぅ……どっ、どうしたんッスか?」
「……無理」
「いや、あの、無理じゃなくてですね」
「無理なの!!此処でクラの曲を聴くの!!」
何故か彼女は顔を真っ赤にしながら、訳の解らない事を言い出した。
我儘を聞いて上げたいのは山々ですが、俺も、そろそろ本気で無理ですから……って言うか、そこで暴れないで下さい。
「このままじゃ、どう考えても、ベッ、ベース弾けないッス」
「弾けるの!!クラなら、絶対、弾ける筈だから!!」
「無理ッス、無理ッス。無茶言わないで下さいよぉ。こんな状態だったら、プロでも弾ける筈ないじゃないですか」
「良いから弾いてよ!!弾けない禁止!!」
我儘言いながら、股間をゴリゴリしないで下さいって。
危ないんだって。
そこには、超危険な核爆弾級の困った爆発物がセットされてるんッスから。
「じゃ、じゃあ、奈緒さんは、降りないって言うの禁止ッス!!頼みますから、早く降りて下さい!!」
「わっ、私は、クラの師匠だから、クラは禁止出来無いの!!師匠命令は、絶対なんだよ」
「きっ、汚いッスよ。そんなの無しッスよ!!」
「なに?なに?クラは、私が此処に居るのが、そんなに不満なの?そんなに私の事が嫌いなんだ。そこまで不満なんだ」
「嫌いじゃないです!!間違っても嫌いじゃないですって!!でも、今は無理ッス!!」
ダメだ。
今まではただの爆弾だった筈なのに、このやり取りの間に、爆弾が時限制の核爆弾に見事に進化しやがった。
もう爆発までの猶予が無い。
「嫌だ。此処にいるの!!」
「あぁぁぁああぁあぁ~~~っ!!もうダ~メ~で~す~~~!!」
「ちょ……クラ、ダメだって!!私、そこに居るんだって!!離してよ」
俺は、軽々と奈緒さんを持ち上げた。
ホント軽いッスね。
・・・・・・
まぁまぁ、そのお陰で爆発だけは、どうにかギリギリ免れた。
神は居た。
安心した俺は、奈緒さんの方を見てみる……とだ。
何所からどう見ても、完全に怒ってる、いや……怒ってるなんてレベルじゃない。
あれはキレてるな。
……どうするよ俺?
「……嫌い……」
「へっ?」
「クラなんか大嫌いだ!!もう知らない!!」
「ちょ、ちょっと奈緒さん、なに怒ってるんッスか?高々、腹の上から降ろしただけで、そんな怒らなくても良いじゃないですか」
そう言いながらも、実は違和感はあった。
奈緒さんをお腹の上から退けてからと言うもの、何故か、妙に股間がスースー冷たい。
オイオイまさか、これって……
最悪の事態を想定しながら、俺は自分のズボンを見る。
股間の部分がびしょ濡れだ。
どうやら、奈緒さんと口論してる時、知らない内に『イッて』しまっていた様だ。
……無様だな俺。
俺は本能的にズボンを触り、手の臭いを嗅ぐ。
「ちょ!!臭いなんて嗅がないでよ、変態。……もぅいやだぁ~」
「へっ?」
どういう事だ?
一体この場で何が起きてるんだ?
大体にして、なんで奈緒さんが涙目になりながら、俺をあんなに睨みつけてくるでるんだ?
俺なんかしたか?
事情がサッパリわからない。
わからないから、再度臭いを嗅ぐ。
更に奈緒さんに睨まれたが、この臭いは、あれの独特の生臭いイカの臭いはしない……
んっ?
ってオイ!!これ、まさか……
「なっ、奈緒さん」
「……なによ?今、クラと話したくない気分なんだけど」
「あっ、あの、これって、ひょっとして……」
「エロ虫は、私と話すの禁止!!」
「あっ、あの、おっ、俺……」
「黙れ……もぉ喋るな」
「あっ……はい」
奈緒さんの一言で、俺は沈黙。
年上とは言え、女の子相手に聞く話じゃ無いよな。
「はぁ……もぅどうでも良いや」
「奈緒さん?」
「その代わり、私、ちょっとコンビニに行って来るから、私が帰って来るまで、そこで練習してなさい」
「あっ、ウッ、ウッス」
はぁ、良かったぁ。
何故かは知らないが、奈緒さんは俺を許してくれた。
こう言うところは、自分が年下で良かったと思う。
奈緒さんは、ホント大人だよな。
「でも、絶対にトイレとかには行かないでよ。トイレ禁止ね。……もし私に黙って行ったら、絶対、絶交だからね」
そんなご無体な。
大体にして、こんな爆弾抱えたまま。
まだまだこの後も奈緒さんと一緒に居る時間が有るって言うのに、そんなもん到底無理な話ですよ。
こう言う状況の事を『蛇の生殺し』って言うんですよ。
故にですな。
此処は1つ、俺の優秀な右手爆弾処理班によって適切な解体作業を行ったのち、爆弾は速やかに処理します。
「・・・・・・」
「クラ、返事は?」
奈緒さん目が怖いッス。
「ウッス……」
「絶対だからね」
「ウッス……」
奈緒さんは、それだけ言い残すと部屋を出て行き、コンビニに行った。
その瞬間俺は、瞬時に奈緒さんとの約束を破棄して爆弾を投下に向かった。
ゴメン奈緒さん。
この裏切りと言う行為は、アナタを思えばこその所業です。
……一切合切、神に誓って下心はありません。
信仰なんぞ、丸っきりしてねぇけど。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
結構『女性に幻想』を持ってる方には、キツイお話になってしまったかもしれないのですが……
まぁ実際は、こんなものですよ。
女性にだって性欲と言うか……男性の於ける『無意識の勃起』の様に、女性にも『無意識の内に濡れる』なんて事はある訳ですからね(笑)
さてさて、奈緒さんがそんな状態に成っていた為に『計算についての説明』が、少々疎かになってしまったのですが。
『計算が得意』なのと『音が見える』の関係性と言うのは【インスピレーション】の話なんですよ。
噛み砕いて言いますと。
倉津君自身は、自分の事を馬鹿だと思っている様なのですが、実は決して、そんな事なく。
結構、頭の回転が速く。
その回転の速さから、迷いなく瞬時に音を判断し、それを譜面に書き出す事すら出来てしまうんですね。
これは実際、凄い才能です。
(まぁ本人はアホなので、この凄さには、なにも気付いていないようですがね(笑))
……っと言う訳で、第11話『濡れたタブ譜』は、これにて終了です。
次回からは、第12話がスタートしますので、またまたよろしくお願いいたします<(_ _)>
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!