第十四話『魔王』スタートです(*'ω'*)ノ
014【魔王】
ライブ会場は、立ちで300人収容が可能な箱。
ライブの開始時間は……
PM18:00~22:00を第一部。
PM23:00~明朝未定を第二部としている。
勿論、この構成からも解る様に、一部終了後に観客の入れ替えを行う。
このライブ。
昨晩からのオーディション。
今日の午前からのリハーサルも込めれば、この会場を1~2日、あの馬鹿が貸切った事になる。
そう考えると、このライブ・イベントをする為に、あのアンポンタンは一体幾らの金を使ってるんだ?
妙にそこを不安に思い。
金銭面に関する情報を、ライブ経験者の山中に聞いたところ。
ライブハウスを、それだけの時間を貸切るには、なんと!!数百万も掛かるらしい。
これは既に、中学生が出せる金額の限界を遥かに超えている。
アイツ……そんな金を、一体どうやって用意したんだろうか?
どこまでも崇秀は謎な男だ。
そうやって、いつもの様に、おかしな事を考えながら。
一旦、帰宅して、まだライブハウスに現れていない人を置いて、先に会場入りする。
勿論、正面から入るのではなく。
横に付いている非常口、スタッフ専用入り口からな。
***
中に入ると、昨日にも増して会場は喧騒としていた。
慌しくスタッフが走り回り。
今日ステージに上がる人間は、乱入するタイミングを事細かに指示されている。
そんな中、馬鹿秀は欠伸を呼気ながら、眠そうに壁に凭れ掛かって腕組みをしていた。
会場にあって、アイツだけが違う世界に居る様な錯覚に陥る。
俺は何も言わず、奴に近づいていった。
「おっ、倉津じゃん、おつ、おつ」
「オッス……それにしてもなんだよオマエ、やけに眠そうだし、ヤル気が微塵も感じられねぇな」
「おぉ悪ぃ、悪ぃ……けどよ、流石に3日間も寝ないで起きてりゃ、誰だって眠くもなるだろうに。……あぁマジ眠ぃ。もぉ帰ろっかな」
「馬鹿じゃねぇのかオマエわ?この現状を見て、よくもそんな事が言えたもんだな」
「冗談だよ冗談。ふぁ~~……けど、眠ぃのだけは、どうもマジみたいだな、こりゃあ」
「ったく、呑気な野郎だな。そんなんで大丈夫なのか?」
「さぁな。どうなんだろうな」
欠伸をこくは、ヤル気はねぇは……それで居てこの余裕。
ほんとコイツって、なんなんだろうな?
あぁそうだ。
今、コイツも暇そうだし。
序だから、この会場の貸切った金の出所でも聞いてみっか。
きっと、金銭面での工面は大変だったろうしな。
「なぁ、馬鹿秀」
「んだよ?」
「オマエさぁ。此処の会場の金、どうし……」
「おっ、山さんだ。山さ~ん、こっち、こっち」
山さんなる人物を発見した崇秀は、俺の話を聞かずに、そっちに意識が行く。
普段のコイツなら、聖徳太子も真っ青なぐらい、何人でも人の話を聞いて随時対応するんだが。
この反応から見ても取って解る様に……コイツ、相当疲れてるな。
なので、仏の様に優しい心を持つ俺は、取り敢えず、自身の話を中断してやる事にした。
「おっ、仲居間君、お疲れ様」
山さんと呼ばれた人は、崇秀に向かって早足でやってくる。
見た目がやや太目の人で、鈍重そうなイメージなんだが。
その見た目に反して、フットワークが異様なまでに軽快な人だな。
そんな風に近付いて来た山さんに、崇秀は軽く会釈をして会話を始める。
「ウィッス、山さん。オツ、オツ……んで、早速で悪いんだけど。今回の人材はどぉ?誰か使えそう?」
「あぁ、まだ全員を見てないから、まだなんとも言えんないんだけど。正直、今回のは微妙だな」
「だろうなぁ~。だと思ったよ」
「ん?なんだそれ?」
「いや、なにね。まだ表には出てない隠し玉ってのがあるんで、そこを会社同士で競合して貰おうと思ってるんッスけどね。……まぁそう言っても、山さんとも長い付き合いだし。なんなら、先もって情報だけならあげても良いかなぁとか思ってるんッスけど、どうします?」
「オイオイ、なにを期待してのそんな発言なのかは知らないけどな。幾らウチの大元がデカイ会社だからって、そんなに金は出ねぇぞ」
そうか。
このライブの金の出所は此処か。
コイツ……大人相手に、こんな事をして金を稼いでやがったのか。
ホント、ロクでもねぇ奴だな。
「そりゃあ残念だ。じゃあ、申し訳ないけど。この情報は他社に売るしかないッスね。俺も、山さんに世話になってるから、安くで情報を提供してあげたいのは山々なんだけど。これでもまぁ、俺も一応ビジネスなんでね。今回はご破算って事で」
「なっ、仲居間君……因みにだが、その情報は、まだどこにも漏らしてないのか?」
「そりゃあもぅ。しかも今なら、金額次第では、単独交渉権を受け付けても良いッスよ」
「マジでか。チッ、相変わらず、ガメツイ奴だな」
舌打ちをした後、山さんは、鞄からゴソゴソと小切手帳を出し始めた。
おい、ちょっと待て。
その情報料だけで、一体、幾らの金が動くんだよ?
「流石『スリーストライプ』で御馴染みの三ツ縞コンツェルン。気前が良いッスね」
「っで?」
「いつも通り、1人あたり、即戦力をお求めなら100~500、ドル箱が欲しいなら1000ッスね」
「くそ!!毎度毎度、上手い事言って、足元見やがるな」
「んで、どうします?」
500って、500万の事だよな……
なに言ってんだコイツ?
それにさっき言ってた『スリーストライプ』って言やぁ。
ドル箱スターを数十人抱えてる、老舗の大手芸能プロダクションじゃねぇか。
コイツは、そんな所との付き合いを持ってやがるのか?
ほんとに、なんなんだコイツは?
どこで、そんなコネを得てんだ?
「ドル箱だな。他社に持っていかれると後々面倒だし。今なら1000……1から探す事を考えたら、まだ安いもんだ」
「ソイツは、お目が高いこって」
「それで……ソイツの知名度の方は、どうなんだ?」
「ほとんど0」
「はぁ?なんだって?知名度0の人間の情報を1000で売る気なのか?」
「なぁ~にね。俺が、密かに温めてた隠し玉ッスからね。誰も知らないのは当然。それに今日1日で、知名度は一気に上がるって寸法ですよ」
「なっ、なにをする気なんだ?」
「流石に、ソイツまでは教えられないな。……さてさて、どうするよ、山さん?今なら更に、オマケも付けるぜぇ」
コイツ、本当に中学生か?
その人の足元を見た交渉の仕方。
まるで、老獪なベテランのビジネスマンみてぇじゃねぇか!!
なんかコイツの、本当の嫌な面を初めて見た気がした。
「オマケって、なんなんだよ?」
「俺が書いた曲。……前回の前田朔哉の件も含めれば、俺の書く曲が『売れ線』なのは良く解ってるしょ。だから、即断即決するなら、そいつをオマケに付けても良いかなぁって、思ってるんッスけどね」
「そこか……チッ!!あぁもぉOKだ、OK。オマエって、本当に最悪な中学生だな」
「そりゃあどうも……んじゃまぁ1000って事で」
「ちょい待ち」
直ぐ様、山さんは1000万を小切手に書こうとしたが、赤髪の魔王は、それを一旦制する。
今度は、何を言うつもりなんだ?
「なんだ、まだサービスしてくれるのか?」
「いんや。非常に残念なんッスけど、これ以上のサービスは提供してないッスねぇ。ただ小切手を300万・700万に分けて切って欲しいだけッスよ」
「なんでまた小切手を分ける必要があるんだ?」
「あぁ、此処の支払いが300万。んで、俺の取り分が700万。一枚で書かれると、支払いにまた来なくちゃなんねぇ……面倒臭いんッスよ」
「コイツだけは……」
そんな訳の解らん自分勝手な言い分を聞いて尚、山さんは、渋々、分けて2枚の小切手を切る。
それを受け取って、満足気に金額を指差し確認する馬鹿。
「んじゃま、ありがとやんした。後はいつも通り、事務所の方に連れて行きますんで」
「ッたく、今回も上手くやられたよ」
「まいどあり~~~」
文句を言いながらこの場を去る山さんに、馬鹿はヒラヒラと手を振って別れの挨拶にする。
そして俺の方に振り向いて、話を再開させる。
「おぉ、そう言えば、さっき、オマエ、なんか聞こうとしてたな?なんだよ?」
やっぱり、俺の話もちゃんと聞いてやがった。
ホント、なんなんだコイツは?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
ギターの腕前だけではなく、ビジネス方面でも、その化け物ップリを発揮してきましたね(笑)
崇秀は、本当にブッ壊れてるので、まだまだ隠している事が満載にあるかもしれませんね。
皆さんも『どうやって、これ程のコネを得たのか』不審に思ったと思いますので(笑)
次回は、その辺を説明していきたいと思います♪
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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