●前回のおさらい●
取り敢えず、自分の失態を、山中の上手いフォローで、事なきを得た真琴。
さて、此処からどうするのか?
山中のフォローもあって、なんとか俺の失態を誤魔化す事が出来たんだが。
この後は、どうしたもんかな?
アイツの設定では、俺は崇秀に用事でこの場に居ない事に成ってる訳だから、まずは此処に居ちゃ不味いよな。
……なんて事を考えていたら。
「あぁそやそや、そういやぁ言い忘れとったけど。向井さん、マコからの伝言や。なんやベース弾ける部屋は用意出来とるらしいから、詳しい事はフロント行って聞いてみぃ」
「あっ、うん」
この山中のセリフに、向井さんは素早くベースを持って、思った以上に早く立ち上がった。
ってか、そんなにそのベースが早く弾きたかったんだな。
だったら、豪く時間取らせて悪かったな。
そう思いながらも、この現場に居てはいけない俺は、慌てて隠れ場所であるフロントを目指し、その場を後にした。
***
……あれから15分程が経過した。
元々は、直ぐに部屋に戻るつもりだったんだが、崇秀との用事で外に出た呈なのに、部屋に直ぐに戻ったら変だと思われると思い。
逸る気持ちを抑えて、少し時間を置く事にした。
流石に2~3分で用事を済ませて戻る訳にも行くまいて。
「さぁてと、そろそろ良い頃合いだし戻るとするか」
時間の逆算をして。
多分、もぉそろそろ大丈夫だと思った俺は、潜んでいたフロントの厨房から腰を上げた。
そして、向井さんの居るであろう別室に向かい。
ゆっくりと歩いていると、此処でまた変な思考が入ってきた。
しかし、あれだな。
コンパって、本当に難しいもんなんだな。
TVとかだと、簡単に男女関係が結ばれたりするもんだが、現実はそんな甘いもんじゃない。
この辺は、コンパ初心者の俺だからこその思考なのかも知れないが、非常に難しい。
何をするにも駆け引きが必要で、安易な行動は、一瞬にして地獄に落とされる羽目に成る。
もぅこれは既に、高度な心理戦っと言っても良いだろう。
又は、社会の縮図とも言えるな。
そんな事を考えて歩いていると、今まで自分が、どれだけ単純に生きていたのか良く解る。
俺の中では『心理戦』なんて言うのは弱者のする事であって、強者のする事ではない。
強者と言うのは、常に圧倒的な『暴力』で訴えるもの。
実家がヤクザな家なだけに、そう言う困った思考が俺の中では出来上がっていた。
故に……言う事を聞かなきゃ『暴力』
相手を押さえつける為に『暴力』
何でもかんでも『暴力』で解決してきた。
そこには、どこにも『知性』なんてものは無い。
今になって考えれば考えるほど、虚しくなる行為だ。
しかしまぁ、まさかただ遊んでいて、こんな事を思い知らされる事になろうとは予想もしなかったよ。
***
さて、呑気に、そんな事を考えながら、向井さんの居る部屋の前に着いた訳だが……今の俺は、扉を直ぐに開く様な野暮な真似はしない。
山中の様に、まず今置かれている自分の状況を把握してから行動に移す事した。
勿論、この行動には理由がある。
まずにして、この状況自体がまさに変なんだよ。
●ベースを弾きに行った筈の向井さんが居る筈の部屋から、一切音が聞こえてこない。
さっきの向井さんの慌てて出て行った行動からみても。
あれ程ベースを弾きたがっていた彼女が、此処に来てベースを弾いてないのは、あまりにもおかしいし。
こんなに直ぐに、ベースに飽きて辞めるのも、これまたおかしい。
寧ろ、あの素早い行動から考えれば、この現状は有り得ないんだよな。
……っと、なるとだな。
この状況下で考えられるのは……
①1人で弾いてても楽しくない。
②若しくは、思った以上にベースがチャチかった、の2点に絞られる訳だが。
この2つの選択肢から、俺が導き出した回答は①『1人で弾いてても楽しくない』だ。
但し、これは、別に俺が居るかとか、居ないとか云々の問題ではなく。
普通に考えても、遊びに来てベースの1人弾きなんて、まずにして変だし、そんな事を、敢えてやる意味は無い。
もし、それでも1人弾きをしたかったら、今でも部屋から音が聞こえて来る筈だ。
それ故に②の線は薄い。
それでも②『ベースがチャチかった』の方だったら……少し弾いただけで、その良し悪しが解る彼女は、相当なベース・マニアだ。
あまりそうであって欲しくないが、この場合は、もぅ諦めるしかない。
これが、今回、俺が必死で考えた解答だ。
しかし……こう考えてみると、俺みたいなボンクラ頭でも、色々思考出来るもんだな。
頭の良い奴って、いつも、こんな事を考えてんだろうな。
***
思考が纏まり、漸く扉を開く。
『ガチャ』
案の定、部屋の中に居る向井さんは、ベースを一切弾いていなかった。
それどころか、こんな所に押し込められたみたいな雰囲気すら漂っている様に見える。
ある程度の予想はしていたものの、俺にとっては、早くも予想外の展開。
此処まで酷い状態になってい様とはな。
けど、取り敢えず、このままで良い訳がないので、なにか話さないとな。
「ごめん」
最初に俺の口から出て来たのは、意外にも謝罪の言葉だった。
普段なら、絶対、謝罪の言葉なんて口にしないんだが。
彼女の姿を見て、思いの他、自然に口から出てしまったんだから、これはもぉしょうがない。
「うん?……倉津君、なに謝ってんの?」
「いや……俺、口下手だから上手く言えねぇけど、なんかごめん」
「謝らなくて良いよ。私が部屋を借りて欲しいって言ったんだから。これは、私が勝手にやった事……心配しなくても、倉津君は、何も悪くないんだよ」
「けど……」
「けど?」
あぁダメだ。
もぅGIVE・UPだぁ。
大体、俺なんぞが、駆け引きなんて高等な真似しようと思ってる事自体、無理がある。
そう思った瞬間、口が勝手に動き出し、事の顛末を正直に話しだす。
「けど……俺……向井さんと、清水さんを天秤に掛けてた。厚かましくも両方と仲良くしようとしてた。だから……ごめん」
あぁもぉ、言わなくていい事まで、素直に言っちゃったよ俺。
どんだけ空気読めない餓鬼なんだよ。
まぁ、中学生の俺が、年上の女子高校生に手玉に取られるのは、当たり前か。
年齢による経験値の差ってデカイな。
はぁ~~~、もうちょっと恋愛について勉強しなきゃな。
折角チャンスをくれたのに、すまんな、山中。
……どうやら俺には、この状況を上手く使えなかったみたいだ。
「……知ってたよ」
あっ、あれ?
まさか、そう来るとは思わなかった。
こんな話を聞かされてら、もっと感情的に成って怒るもんだと思ってたのに……
けど、そうなると、なんでそこまでして待つんだ?
こういう話をして怒らないって事は、それはそれなりに理由があるような気がするんだが。
「じゃあ、じゃあ、何で待ってたんだよ?俺、向井さんとは初対面だぞ」
「わかんない……わかんないけど、なんか久しぶりにね。話が合う人と会話が出来て楽しかったから……かな。それじゃあ、おかしい?」
「おかしかないけど……」
「はぁ……こう言うの、もぅ辞めよっか。こんな話しててもツマンナイだけだし」
突然、なんとなく暗かった雰囲気を、向井さんが吹き飛ばす。
やっぱり、見た目通り、この人は大人なんだな。
餓鬼の俺なんかにゃ、到底、真似出来無い所業だ。
「怒ってないんッスか?」
「怒ってるよ。怒ってるけど、もぅ怒ってない」
「へっ?それって、どう言う……」
「くすっ……嘘。怒ってないよ」
やばい。
これはまたしても、マジでやばいぞ俺。
前にも言ったが、俺は重度のオタク。
漫画なんかで、こんなシュチュエーションを何度か見た事が有るが、実際に存在するとは思いも寄らなかった。
ってか!!
ってかよぉ!!
ただでさえ、ツルッツルッでなにも考えられない俺のアホな脳味噌が、更に真っ白になって、思考を遮って行く。
「なっ、なんで、嘘を言うんッスか?」
「うん?倉津君を困らせたかったから……なんてね、ごめんね」
GYAaaaaaaaa……
イキナリ、なんちゅう言葉を発するんだ、この人は……
まさか向井さんって、俺がオタクな事を知ってんじゃねぇのか?
大体にして、普通の人が『……なんてね。ごめんね』なんてセリフで、こんなオタツボ突くなんて有り得ねぇだろ。
マジで何者だよ、この人?
勘弁してくれ。
嵌ちゃう……向井さんに嵌ちゃうぞ俺。
「あっ、あの、あの……」
「なに?怒った?」
「いや、あの、怒ってないッス……ってか、怒る理由なんてないッス」
「どうして?からかったんだから、怒っても良いんだよ」
ダ~メ~だぁ。
向井さんの一言一句に、心が過剰に反応してしまう。
どこまで漫画チックなんだよ、この人?
あぁ無理。
もぅマジで無理。
オタクな俺が、こんなもん耐えれたもんじゃない。
もぅこの時点で、普段の厳つい俺は、どこかに旅立っていなくなり。
此処には、ただの『馬鹿な妄想オタク』が一匹居るに過ぎなくなってしまったな。
「むっ、向井さん……」
「んっ?なに?」
ヤッパ無理だ。
言い出したのにも拘らず、言葉が出ねぇ~~。
あのな、この人な。
一般人には解り難いかも知んねぇけど『なに?』って言葉の表現が、無茶苦茶上手いんだよ。
何気なく、素っ気無い感じで彼女は言葉を発してんだけどな。
それに反して、この「なに?」って彼女の言葉は、ちゃんと話を聞いて内容を理解してる様にも感じるんだよ。
こうなると、どっちか判別出来ねぇんだよ。
それでよぉ。
『なに?』って、基本的に問い掛けな訳だろ。
けど『素っ気無い』のか『ちゃんと聞いてる』のかわかんねぇんじゃあ、答えようにも、答えが上手く出てこねぇ。
こりゃあ、一体なんの魔法なんだ?
「あっ、あの、向井さん……」
「クスッ……だからなに?さっきから変だよ」
あぁ、すみません。
さっきから変なのは、十分に自覚してます。
いや寧ろ、俺は元々からしてポンコツですから、変なんですけどね。
じゃなくてだ!!
イカンイカン、これじゃあ堂々巡りも良いところだ。
……まぁ本心で言うなら『もぅちょっと、この無限ループから抜け出したくない』気分なんだがな。
話が進まねぇから、此処は我慢我慢。
そして意を決した俺は、口を開く!!
この人は、ぜってぇ誰にもやらんぞ!!
もぉ『俺の嫁』だ『俺の嫁』
「ベース……弾かないんッスか?」
違ぁぁうぅぅ~~~!!
頭が混乱してるにしても、今のこの現状で、何を訳の解らん事を言ってんだよ俺は?
なんで普通に会話をしようとして『ベース弾かないのか?』なんて聞いちまうんだよ。
そんな事を言おうとしたんじゃないつぅ~の!!
あの状況で、あんなセリフをブッコクなんて、俺の脳味噌は、どうなってんだよ?
河豚の味噌でも詰まってんのか?
しかも、向井さんは、この雰囲気の中、突然ベースの話なんかされたもんだから、ビックリしてキョトンとしちゃってるよ……
もぉダメだ、こりゃあ。
……完全に終わったな。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました<(_ _)>
美人で少々冷たい印象を受ける向井さんが、恐ろしい勢いで倉津君の『オタポイント』を突き刺したみたいですね(笑)
そして倉津君は、親切にしてくれた清水さんの印象を浮き飛ばすほどの勢いで、向井さんの事を好きに成ってしまったみたいです。
まぁ、こういう心変わりの仕方は、あまり褒められた行為ではないのですが。
冷静に考えれば『付き合っている訳では無い』ので、まだ倉津君自身は『フリー』な状態。
それに、コンパと言う状況下では『心変わり』なんて言うものは普通にある事なので、実は特に大した話ではないんですよね(笑)
なので此処で私は願います。
これを読んで下さった神の様な読者様が『コンパと言うものを理解してくれ』『こんなの普通じゃん。こんな程度で浮気性だなんて思わないよ』っと思って下さる事を……
……っと、長々と後書きを書いてしまった訳でなのですが。
この話は【世に溢れている色々な誤解】っと言うものを解いていきたいので、こんな感じになってしまいました。
ご清聴ありがとうございました(*'ω'*)
懲りずに、また読みに来てくださいね( ;∀;)←懇願
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