●前回のおさらい●
出来るだけ自分が犯してしまった罪を再確認して、奈緒さんに謝罪の電話を掛けようとする倉津君……
どうなるのか?
そんな情けなくも、惨めな気持ちになりながらでも、奈緒さんに対してのケジメを付ける事だけは、絶対的に必要だと考える。
これを放棄してしまったら、本当に親父同然の屑だ。
故に、家路に着く途中、無性に重く感じるチャリを押しながら、奈緒さんの携帯電話に電話を掛ける事にした。
一刻も早く、この事を奈緒さんに全てを告白して、少しでも早く楽になりたかったんだろう。
どこまでも卑怯な自分に、気持ちがドンドン滅入っていく。
『プルルルルル……ガチャ!!』
はぁ……矢張り、奈緒さんは、何回もコールを鳴らさせてはくれない。
いつも通り、1コールで俺の電話に出てくれた。
今の俺にとっては、彼女のこんな何気ない行為ですら……心が痛む。
『はいは~い。クラだよね?どうかしたの?なんか用?』
そんな奈緒さんの明るい声が、耳元に木霊する。
いつもなら嬉しく感じる声なんだが。
今だけは、コレさえも受け入れられず、なんとも言えない心境になる。
『罪の意識』とは、自然なままでも全てをネガティブな方向へ持って行くようだ。
こんな自分自身を、どこまでも不快に思う。
「……奈緒さん……俺……」
『うん?…………ふぅ。なぁに?なんかあったのクラ?声……暗いよ』
たった1言……そう、俺が、たった1言だけを発しただけで、奈緒さんは何かを汲み取って、俺に優しく話し掛け始めてくれた。
それに伴って、キッチリと声のトーンも合わせてくれている。
……辛い。
自業自得だとは言え、この奈緒さんの優しさは、本当に辛い。
罪悪感と、罪の意識が上手く交じり合ってしまい、余計な化学反応まで起こってしまう。
そんな奈緒さんの好意を素直に受け取れ切れずに、俺は沈黙するしかなかった。
「・・・・・・」
『はぁ……あのねぇクラ。今度は、何を仕出かしたのかは知らないけど、包み隠さず、正直に、おねぇさんに言ってみ。……全部吐き出しちゃえば、少しぐらいはスッキリするかもよ』
「なにが……」
『うん?』
「なにがあっても、こんなの、絶対にスッキリはしませんよ」
『あっそ。じゃあ君は、私になんの用が有って、ワザワザ電話をして来たのかな?』
「そっ、それは、そうッスけど」
『私……折角、電話して来てくれたクラには悪いとは思うけど。いつまでも、君の煮え切らない態度に付き合う気はないよ。用事があるならサッサと言う。言わないなら切るからね。……もぉ切っても良い?』
煮え切らない訳じゃない。
やらなければイケナイ事は、ちゃんと解ってる。
ただ……自分の出す命令を体が拒絶をして、口が思う様に動いてくれない。
今更になってミットモナイ話なんだが、奈緒さんの声を聞いて、余計な恐怖感が増してしまい。
全く……なにも言えない。
こんなに誰かに対して『怖い想い』をしたのは、生まれて初めてだ。
話をしたら、奈緒さんが居なくなる様な気がして……矢張り、俺の口からはなにも出てこない。
「・・・・・・」
『もぉ、いい加減にしなよ、クラ。話がないなら、本当に切るよ』
「すっ……すみません」
俺は訳も解らずに、謝罪の言葉だけが口から飛び出した。
これしか言えないかった。
『ふぅ、じゃあ許す。なにがあったかは知らないけど、全部許してあげるから、もぅクラは気にしなくて良いよ』
「なっ、奈緒さん!!違うんッスよ!!これは、そう言う意味で謝ったんじゃないんッスよ」
『あっそ。じゃあ、ソッチも含めて許してあげるよ。君が、ちゃんと謝ったんだから。もぅ、なにも言わなくて良いよ』
「なっ!!」
……わかってない。
なにもわかってないよ、奈緒さん。
これは、そんな軽い気持ちで許せる様な話じゃないんッスよ。
俺は、自ら奈緒さんを裏切ったんだから、そんなに簡単にアナタに許して貰える筈なんかないんッスよ。
怒られても、キレられても、しょうがないんッスよ。
『なにが『なっ!!』よ。どうせ、大した事でもないのに、君が勝手に重々しく感じてるだけでしょ』
「違うんッスよ。そうじゃないんッスよ、奈緒さん。奈緒さんが思ってる以上に、これは深刻な話なんッスよ」
『ふ~ん。じゃあなに?その深刻な話とやらを言ってみなよ。でも、今度、沈黙したら、直ぐに電話を切るからね。出来るだけで良いから、早く話してみ』
「あっ、あのッスね。あの、俺、あの、だから、その、あの……」
電話を切られるのが怖くて無理矢理言葉を紡ぐが、それには今回の内容が一切なにも含まれていない。
これじゃあ、伝え様にも、なにも伝わる筈がない。
いや、この期に及んで……なにも伝えたくないのかも知れない。
けど、俺には、切られる恐怖しかなく。
俺は電話に向って、ただ必死に、訳の解らない言葉だけを出し続けただけだった。
「だから、俺、あの……」
『はぁ~、なるほどね。……そっか、そっか。そりゃあ言い難い筈だ。OKOK。それなら、全然OKだから許してあげるよ。心配しなくても良いよ』
「なっ、奈緒さん……その様子だと、なにかわかったんッスか?」
『なぁんだ。ちゃんと話せるんじゃない』
「こっ、こんな時に、かっ、からかわないで下さいよ!!」
『からかってないよ。本当に、君が、私に伝えたい事がわかっただけ』
「そんなぁ。……いっ、一体、なにが、わかったって言うんッスか?」
『それ……私の口から言って良いの?それに、私から言う話?』
「ぐっ!!」
この独特の言い回しからして、奈緒さんは、本当に全部解ってるみたいだ。
いや……全部を把握してる訳じゃないだろうけど、ある程度の予想は出来てるみたいだ。
けど、だったらなんで、そんなに平然としてられるんだ?
もし本当にわかっているんなら、少しは取り乱す筈じゃないのか?
いや、贅沢な話かも知れないが、少しは取り乱してくれても良いんじゃないのか?
例え、それが『浮気公認』を公言していたとしても……少しは怒るなり、なんなりしてくれないと、余計に不安になる。
……それとも奈緒さん。
もぅ今の段階で呆れて果ててしまって、俺なんて、どうでも良くなってしまっているのだろうか?
俺の馬鹿げた思い込みで取った行動のせいで……全てが終わっちまうのか。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
これは真上さんの時にもあった話なのですが。
人間は、責められるよりも、許される方が数十倍恐ろしいと言う事。
それを身を持って体験する羽目に成ってしまいましたね。
そして、なにもかもを見透かしてしまっている様な態度を取る奈緒さん。
この行動に、倉津君は、どうするつもりなのか?
それは次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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