●前回のおさらい●
倉津君が演奏した音が問題に成り、バンドのメンバーが崩壊寸前。
そんな中、崇秀は『賭けに勝った代償』として、その崩壊寸前のバンドを、倉津君にどうにかして纏めろと言い出す。
「ちょ、そんなの無理だ。こんな状態でバンドを俺が纏めるなんて事を出来る訳ないだろ!!」
「そんなもん俺の知った事かよ。そこはオマエが無い知恵を絞って、必死に考えて何とかしろ。勿論、出来無い場合は、それ相応の対価を払ってもらうからな」
「なっ、なんだよ。その対価って言うのは?」
「なぁ~にな、今のオマエには好都合な話だ」
「だから、なんだよ?」
「オマエが纏められないのなら、向井さんには、スリーストライプ専属のミュージシャンになって貰う。……ただ、それだけだ」
「ちょっと待てや、崇秀。俺の事は良いが、奈緒さんは関係ないだろ」
「なに言ってやがる。罷り也にも、今はまだ向井さんはオマエの彼女なんだろ。それに彼女は責任感が強い。オマエが約束を履行出来無い場合は、その責任感の強い彼女なんとかして貰うしかないだろ」
さっきの話の揚げ足を取ってやがる。
こう言えば、奈緒さんが従うとでも思っている様だ。
「勝手言うな」
「なにがだよ?俺のなにが勝手だって言うんだ?……大体、この話自体、オマエにとっても、向井さんにとっても、決して悪い条件じゃない筈だぞ」
「どこがだよ?ふざけんなよ!!」
「よく考えてみろよ。今、この段階で向井さんは、自分勝手な事バッカリ言ってる、言わば『このバンドの癌』だ。俺は、それを取り除いてやろうって親切に言ってやってんだ。それの、なにが不満なんだよ?」
「癌……」
「テッ、テメェ~~~~ッ!!いい加減にしろ!!」
奈緒さんは謂れのない誹謗中傷を受けて、ポロポロと涙を流す。
……が、彼女は気丈にも、絶対に泣き崩れない。
今も涙を出来るだけ堪えながら、必死に崇秀を睨みつけている。
『ガコッ!!』
そんな彼女の姿を見た俺は、無意識に崇秀を殴っていた。
当然、コイツが、本気でそんな事を言ってない事ぐらい解っている。
……が『癌』は頂けない。
あまりに言葉が過ぎる。
俺は、この件が自分の責任だった事も忘れる程、我慢が出来なかった。
だが奴は、俺の拳を避ける素振りもせず。
真正面から顔面で拳を受け止め、血を『ペッ』っと床に吐いて殴り返してきた。
『ガコッ!!』
「グハッ!!」
「オイ、倉津……あんま、人をなめんなよ。みんながみんな、なんでも思い通りになるテメェみたいな金持ちのボンボンじゃねぇんだよ。金を稼がなきゃバンドの意味なんてねぇ。だから、効率良く金を稼ぐ方法を提案してやってんだろうが、このボケ」
「なっ、なに言ってやがる?金を稼ぎたいなんて、俺は一言も言ってねぇぞ」
「見当違いな事を言ってんじゃねぇよ。なんでオマエは、そう視界が狭いんだ?テメェの家は金持ちだから、そんな気ままで良いだろうがな……嶋田さんは、どうする?」
「えっ?」
「オマエ、嶋田さんが、現時点で幾つか知ってんだろ?それに向井さんにだって金は必要だ。それでもまだ、そんな戯言が言えるのか?それとも此処まで言っても、まだ本質もわからねぇのか?この糞ボケが」
矢張り、奴の言い掛かりにも似た、このセリフには意味があった。
大人は、金を稼ぐ為にバンドをしている。
俺の様な『女の気を引く為に演奏している馬鹿ガキ』とは違う。
わかってはいたが……意思に反して、奴に対する怒りが収まらない。
「んだとコラ!!偉そうな事ほたえてんじぇねぇぞ」
「そっかよ。……じゃあ、まぁ良い。テメェが、そこまで言うんだったら。この落とし前は、キッチリつけて貰うぞ」
「なに?」
「今から1時間待ってやるから、どっちか選択して来い。それ以外は、地べたにでも這い蹲って、精々土下座でもするんだな」
「ちょう待て秀。マコの言う通りや。オマエ、それはなんぼなんでも、ちょっと言い過ぎやぞ」
「オイオイ、勘弁してくれよ。オマエまで、そこの倉津を始めとするアリス・向井さんと同様、ツマンネェ事に拘る馬鹿か?……少しは、物の本質ってもんを考えろ」
「言われんでも、そんなもんぐらい、わかっとるわ」
「なら、もぉ言う事はねぇ。後はどうするか、テメェ等で決めろ。……それだけだ」
それだけ言い残すと、奴は、この場を去っていく。
***
奴が去った後、深い沈黙が続く。
そんな中、最初に口を開いたのは、意外にも嶋田さんだった。
「さて、どうしたもんかな?」
明らかに、俺の口を動かす為の誘い水だ。
いや、正確には、話す機会を作ってくれたと言った方が、より正確だろう。
さっきの話には納得出来無いが、俺は、嶋田さんの話に便乗させて貰う事にした。
「嶋田さん」
「ん?なんだい?」
「率直に言います。俺と……正式にバンドを組んで下さい。どうしても、あのボケをギャフンと言わせたいんです。お願いします」
深々と頭を下げた。
恐らく、此処まで自分の頭を下げたのは、生まれて初めてだ。
「顔上げなよ、倉津君。俺ならOKだからさ。……まぁただ、さっき仲居間さんが言った通り、俺の本質は金目的だよ。それでも良いならOKさせて貰うよ」
「そこは好きにして下さい。どうか、宜しくお願いします」
「わかった。承るよ。俺も、このバンドが気に入ってたしね」
「ありがとうございます!!本当にありがとうございます!!」
条件付だが、嶋田さんは快く承知してくれた。
「山中……」
「あぁ、もぉわかった、わかった。なんも言わんでもわかっとる。……オマエの鬱陶しい顔を見んのは不本意やけど。事が事だけに手伝うたる。但し、条件はわかっとるな」
「あぁ」
山中も条件付で、快く承知してくれた。
恐らく奴の言う条件と言うのは、このメンバーである事だろう。
故に、問題は此処からだ。
「奈緒さん、素直……」
「宜しく、お願いします。……でも……僕が居たら……」
「奈緒ちゃんか……」
「悪いけど、私は、お断りするわ。浪花節って大嫌いなの」
予想に反する事無く、奈緒さんは拒絶。
懇願しようとした矢先、山中が間に入る。
「そうか。……ほな、もう勝手にし」
「そうね。そうさせて貰う」
「但し、アンタがせぇへんねんやったら、この話は御破算やな。さっきも言うた通り、マコは、嶋田さんと、アリスとでバンドをスタートする言うこっちゃな」
「どうして?どうして君が、そこまでする必要があるのよ?私なんか居なくったって、ボーカルならアリスが居るじゃない。それで十分じゃない」
「忘れたんかいな?……俺は、アンタの心意気に惚れ込んでバンドに入ったんやで。それが無いバンドに居る価値なんてあらへん」
山中は、奈緒さんがバンドに戻り易い様にフォローしてくれている。
「そぉ……じゃあ君は、私を裏切らないって事?」
「音楽に関してはな。……但し女関係は別やで。俺は、奈緒ちゃんと付き合ってる訳や無いから、此処は条件から外させて貰うで」
「わかった。じゃあ、それで良い」
「ほんだら」
説得に応じてくれそうな雰囲気だ。
ただ俺は、何もしてない……結局、人に頼るしかないのか?
「勘違いしないでね。私、クラとは、絶対、一緒にやらないよ」
「なんやて?」
「もし私が、このバンドに戻るとしたら、それはクラが、キッチリ責任を取った時だけ。それが出来無い間は、一緒に音楽はしない」
上手くいくと言う考え自体、甘かった。
戻るどころか、完全に拒絶。
彼女がバンドに戻る意思は、更々無いらしい。
けど、奈緒さんは、本当に、どうするつもりなんだろうか?
必死に思案してみるが、彼女の方向性が、全く見えてこない。
「ほんだら、どうするねん?」
「カズ……私から、カズに提案があるんだけど」
「なんや?」
「……私と一緒に、仲居間さんのバンドに入ってくれない?」
「なっ、なんやて?」
「なんで、そんなに驚くの?仲居間さんは性格は悪いけど、音楽関係の知り合いを沢山居て、この業界でやっていくなら利用出来る人だよ」
「確かに、そやけど……奈緒ちゃんは、それでえぇんか?」
「良いも、悪いも無いでしょ。もぉそれしかないだから」
この言い様をしてるって事は、奈緒さんは、自分を人身御供にするつもりみたいだ。
絶対、そんな事をさせちゃあいけねぇ。
「奈緒さん……」
「わかったわ。ほんだら、それでいこか」
「なっ」
俺の言葉を遮って、山中が先に口を開いた。
「じゃあ、お願い」
「但し、条件があんで」
「なに?」
「俺は、今現在、バンドのオファーを2つ受けとる。当然、どっちかを断わらなアカンわな。それを2人で決めてくれ」
「クラと話せって事?」
「そう言うこっちゃ。俺は、2人の決定には逆らわへんから、しっかり話し合うてくれ。……ほな、邪魔したら悪いから、楽屋にでもいっとるわ。結果が出たら教えてくれ。嶋田さん、アリス行こか」
その言葉を伝えると、他の2人をつれて楽屋に向っていく。
奈緒さんは止める様子もなく、ただ見送る。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
余りにも理不尽な崇秀の要求に、倉津君が可哀想だと思ったのか。
嶋田さん、山中君、素直ちゃんは、どうにかバンドを組む事を了承してくれましたね。
でも、一瞬、参入意思を見せたかの様に思えたが、矢張り、奈緒さんは倉津君を拒絶。
自ら山中君に交渉し、彼から移籍の条件を引き出してしまいましたね。
さてさて倉津君は、この後、此処をどうするのか?
そして、完全に離別を望んでいる奈緒さんは、この後、どうしていくつもりなのか?
それはまた、次回の講釈(笑)
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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