●前回のおさらい●
青山さん達との話も終わり。
彼女達の心理を読み切った倉津君は、真上さんに電話を掛けながらも、一路、とある場所に向かった。
そこは『女子トイレ』
そして無情にも、そこの一番奥の扉からは、携帯電話の着信音が聞こえて来た。
慌てて扉を開くと、そこには……
真冬も近い、この11月と言う時期に。
全身をビチャビチャに水で濡らされた真上さんが、完全に血の気の失せた真っ青な唇をしながら、体温だけでも逃げない様に体を丸めてグッタリとしていた。
しかも、無意識の内に体を小刻みに震わせながら……
この様子からして、苛めを受けた後も、長時間、この場に放置されていたのが解る。
そんな酷い状態の彼女は、虚ろな目で、眼の前に立つ俺をジッと見ている。
明らかに、半分以上は意識が飛んでいるのが手に取る様に解らう。
「まっ、真上さん!!真上さん!!しっかり!!」
「倉津……さん……?」
「大丈夫ッスか!!誰が!!誰が、真上さんに、こんな酷い真似をしたんですか?」
聞くまでもない事を聞きながら、俺は慌てて上着を脱いで、真上さんに被せ、まずは最低限度の暖をとらせる。
こんなもん一見しただけで、風邪をひくとか、そう言う可愛いレベルの問題じゃないからな。
下手したら、このまま凍え死んじまうよ!!
……それにしても、あの青山って女。
こんな非道な真似をしておいて、よくもまぁ平然と、あんな馬鹿げた与太話が出来たもんだな。
真上さんに恨みがあるとは言え、此処まで無慈悲な苛めをするか?
限度を超えてやがる。
「……あっ、あの……倉津さん……これは、誰のせいでもないん……ですよ」
「なっ!!」
「私が此処に入った後、モップが倒れて来て……扉を塞いだだけなんです。だから……なんでもありませんよ」
この人……こんな酷い目に合わされたって言うのに、まだ、あの馬鹿な女共を庇うって言うのか?
信じらんねぇ……
こんなのどう見ても、人為的に行なわれた虐めじゃねぇかよ。
「なんで、そんな見え透いた嘘を付くんッスか!!明らかに、こんなもん、人為的な虐めじゃないですか!!」
「全然……違いますよ。私……虐めになんて在ってませんよ」
「じゃあ、この水でビチョビチョになってる服は、どう説明するんッスか!!こんなもん、どうやっても説明が付かないじゃないですか!!」
「それは……ですね。少し靴が……汚れたので……此処で洗おうと思ったら、水が噴出して……来て、ビチョビチョになっただけなんですよ。それでモップが……扉を…………」
全てを言い終わる前に、真上さんの意識が途絶えかける。
俺は慌てて、彼女の頬をペチペチと叩き、意識を戻させようとした。
「ちょ!!真上さん、しっかり!!しっかりして下さい!!寝ちゃダメっすよ!!直ぐに、病院に連れて行ってあげますから!!目を覚まして下さい!!」
「……あっ……ごめんなさい。ふふっ、こんな場所で寝るなんて……変ですよね。大丈夫ですよ……大丈夫。私は、全然平気……ですよ。ヘッチャラ……です」
真上さんは力無く笑いながら。
俺の手の中で、今だに毅然とした態度を振舞おうとする。
さっきまで、意識が途切れかけていた人とは思えない態度だ。
だが……何故、此処までする必要があるんだ?
この人、どうなってるんだ?
「なに言ってんッスか!!兎に角、こんなままじゃ死んじゃいます。直ぐに、病院に行きますよ」
「ダメですよ。私、まだ帰ってから、店の準備があるんです。……だから、病院に行ってる暇なんてないんです。……倉津さん、お願いですから、私を店に連れて行って下さい」
「馬鹿ですか!!こんな状態で店に行ったって、なにも出来無いッスよ!!兎に角、病院に行きますよ」
「ダメ……店……」
先程同様、言葉を出し切る前に、真っ青な顔をしたままグッタリとする。
彼女の体から一気に力が抜け。
俺の両腕には、冷え切った彼女の体温と、彼女の命の重みが圧し掛かってくる。
それに『はぁはぁ』っと、息をするのも苦しそうだ。
酷く衰弱している。
……なにしてんだ俺は……
この緊急時に、こんなどうでも良い問答なんてしてる場合じゃねぇだろうに!!
我を取り戻した俺は、意識が無くなった真上さんを、その場から抱え上げ。
この忌まわしいトイレから、張り紙だけを剥がし取り、一旦、廊下に出る。
そこで、廊下の窓に掛かっているボロイ・カーテンを一気に引き千切り。
彼女の衣服を脱がし、少しでも暖を取る為に、それを彼女に巻き付ける。
そこからは、彼女を背中におんぶしながら、玄さんに連絡を付けて。
暖房をガンガンに効かせた車を、人気の少ない裏門まで持って来て貰う様に手筈を整えて置いた。
後は、このまま真上さんを背負って、玄さんが待つ裏門まで走って行くしかない。
此処からは、時間と、真上さんの体力次第だ。
……けど、本当に、なんで、こんな事になっちまったんだろうな?
全てが『表裏を表す様な文化祭』だったのは否めない話だが、これは流石に無いだろう。
なんでウチの文化祭を一生懸命手伝ってくれたり。
それを楽しみにしていてくれたりしていた真上さんが、こんな酷い目に遭わなきゃいけねぇんだよ?
こんな理不尽な事があって良い訳ねぇだろ!!
『真上さんに、もしもの事があったらアイツ等、全員許さない……』
俺は、そんな言葉を噛み締めながら、玄さんが待つ裏門へと、ひた走って行った。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
これにて第一章・第十六話『表裏文化祭(終)』は御仕舞に成りますが、如何だったでしょうか?
色々な事がありながらも、楽しくも、成功を収めて行った文化祭の裏側では。
倉津君の知らない所で、その一番の協力者であった真上さんが、トンデモナイ苛めに合ってました。
これこそが、真の『表裏文化祭』の意味だったんですね。
1つの事象だけを集中して見ていたら、他の部分では、何が起こっているか解らない……って意味ですね。
まぁまぁ取り敢えずは、とんでもなく胸糞の悪い展開のままで、今回は終わって行くのですが。
次回からは、第十七話『辞めさせたい事実』っと言うタイトルで、今回の一件を解決していきたいと思います。
倉津君が、この悪夢の様な一件を、どう捉えるかにご期待ください♪って感じで。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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