●前回のおさらい●
意味不明な怒りを倉津君に向ける、奈緒さん。
それに困り果てていた倉津君を仲介した崇秀だが。
いつもの如く、余計な事を言って、倉津君は『犬扱い』された上に、反論も許されず。
最後には、喉を撫でられながら『良い子良い子』されて、和解が成立した(もぉ意味不(笑))
けど、それを見ていた山中は切れ果てながら『えぇ加減にせぇ、このバカップル!!』って勢いで、その行為を指摘。
その言葉に倉津君と奈緒さんは、恥ずかしさのあまり、顔を赤らめて俯くしかなかった。
そんな中、山中は、崇秀にある事を望んでくる。
「んっ?改まってなんだよ?」
「あぁ別に、そないに大層な話やないねんけどな。秀のギターを一回ジックリ見せてくれへんか?」
「ギターだと?あぁ、別に構わないぞ……ほれ、俺の『フラン』だ。コイツは繊細なギターだから、女性を扱う様にしてくれよ」
「わかった」
俺と奈緒さんは俯いたままの状態なので良くは解らない状況だが。
崇秀が使っている、あの例のギターは『フラン』と言う名前で、丁寧にハードケースの中に収められているらしい。
それだけで『フラン』は高級な代物だと解る。
俺もさっきベースを買ったんだけど。
結構、良い値段だったから、ケースも、それ相応のハードケースに入っていた。
単純だが、ハードケースに入ってる=高価。
一応、これが、俺の楽器に対する目安だ。
そんな中、山中は、丁寧にケースを開け、ギターを取り出す。
「これ……結構、古いもんやな、ヴィンテージもんか?」
「あぁ、なんかそうみたいだな」
「なんや?ヴィンテージって言う割りには、豪い軽い感じやな」
「まぁな」
「そや、そう言うたら、オマエさっき『フラン』とか言うとったけど、あれ……なんの意味や?」
はぁ?
『ヴィンテージ』ってメーカーの『フラン』って登録商標の商品じゃねぇのか?
なんかよくわからねぇから、コイツ等の会話を良く聞いて置こう。
「あぁ『フラン』って言うのは、俺がコイツに付けた名前だ」
「マジかいな?オマエ、意外とキショイ事すんねんなぁ」
「アホかお前は?つぅか、そのギターを良く見てみろよ。ソイツは、継ぎ接ぎだらけの有り合わせギターだ。だから、もうオリジナル商品とは言えない。……要は、会社も見放す様なロスト・ナンバー商品。まぁただ、これじゃあ、このギターが、あまりにも哀れだから、継ぎ接ぎだらけの見た目から、フランケンシュタインみたいだなって思って『フラン』って名付けたんだよ……まぁ、キショイ行為と言えば、キショイ行為だがな」
「キショイを認めるんかい!!まぁそやけど、フランケンシュタインで『フラン』か……それは悪ないかもな。そやけど秀、それ、エリック・クラプトンの『ブラッキー』のパクリやんけ」
「まぁな。でも、なんか、あれってカッコイイだろ」
「まぁ……気持ちは解る。ギターやってる奴やったら、一回は通る道やろな」
「いや、面目ねぇ」
なるほどな。
『フラン』は商品名じゃなくて、崇秀が勝手に付けた名前か。
けど、それって自分専用の楽器みたいで、なんかカッコイイよな。
なんと言っても専用は、男の浪漫だからな。
なので、俺も自分のベースに名前つけっかな。
(↑不良のクセに中二病患者な俺)
専用を語る程の実力が、まだまだ伴ってねぇけど……
「あっ、あの、仲居間さん。私も『フラン』見せて頂いて良いですか?」
あぁ、奈緒さんが会話に復帰したって事は、俺ももぅ俯いてなくて良いんだな。
俯くのにも疲れてきた事だし、取り合えず、面を上げよう。
「良いよ……山中」
「どうぞ。別に俺のギターな訳やないけど」
山中は『フラン』を、丁寧に奈緒さんに渡す。
奈緒さんは、それをマジマジと見て驚いた顔をする。
「仲居間さん。この『フラン』って、61年式のギブソンですよね?」
「あぁ、元はそうだよ」
「しかも、レスポールSGカスタム……昔は、この蟹みたいな感じが、ユーザーに嫌悪されていた不人気モデルだったので、当時は安値で取引されていたらしいですけど、此処最近ではSGは見直されて高騰してる。……なら、ロストナンバー云々は抜いても、ヤッパリ、これって、完全なヴィンテージ物に成るんじゃないですか?」
「まぁ、そうなのかもね」
「あっ、あの、話の腰を折って悪いんだが『ヴィンテージ』ってなんだ?」
漸く謎に迫る時が来た。
「クラ、ヴィンテージって言うのはね。本来、ワインを作る時の、ぶどうの収穫から醸造を経て、瓶詰めされるまでの工程を表す言葉なんだけど。ある年、凄いワインの当たり年があったのよ。その時のワインの値段が高騰してから、vintageの意味が、少しづつ変わり始めるのね。例えば、年代もので高価なものをvintageって言う場合も出てきたし、希少品の事を指してvintageって言う様になって来た。まぁ噛み砕いて言えば『古くて高い物』って思えば、大体、間違い無いと思うよ。……因みにだけど、語源はラテン語で『ぶどうを収穫する』って意味。それで英語の方だと『時代』って意味だね」
出た!!
奈緒さんの妥協を知らない薀蓄。
でも、これでなんとなく意味は解ったぞ。
ヴィンテージとは『古くて高い物』だな。
しかしまぁ……あれだけ丁寧に奈緒さんに説明して貰って、この理解力か。
……大丈夫なのか、俺の脳味噌は?
「あぁ因みにだが、さっきも言った様に、このギターはフル・オリジナルじゃないから、本来はヴィンテージとは言うには程遠い。どちらかと言えば、フランにしか出せない音が有るから『ビザール』って言った方が正確かもな……まぁこんなボロギターで『ビザール』なんて言うのは、おこがましい話だけどな」
コイツ、またワザと難しい事を言って、俺に質問させる気だな。
あぁ、じゃあ乗ってやるよ。
「あの、奈緒さん『ビザール』って?」
「だよね。仲居間さん、ホント意地悪いだよね」
「ッス」
ヤッパ、優しい奈緒さんが最高だ。
これからは、彼女の機嫌悪くならない様に細心の注意を払おう。
「良いクラ。ビザールって言うのは『異様な』『奇妙な』『奇怪な』『とても酷い』とかって意味なの。これを当て嵌めてビザール・ギターって言うのを考えると、変わったギター、若しくは変形ギターって事になるのね。まぁ例えばだけど、アメリカのメーカーだとSILVERTONE・HARMONY・KAY・DANERECTRO・なんかが変わった形のギターを出すので有名。それでそれがヨーロッパになるとVOX・EKO・HAGSTROMかな。一応、日本だとテスコ・グヤトーン・カワイなんかが、それに相当するね。後、これも一応なんだけど、大手メーカーが出したもので『短命だった幻のモデル』なんかもビザールだって言う人もいるみたい。要するに個性的な見た目や、ちょっと変わった音を出すギターだと思えば良いんじゃないかな……因みにスペルはbizarreね♪」
OKッス。
ビザール=へんなもんッスね。
じゃあ、崇秀の所有する『フラン』は、ビザールって事だな。
……って言うか、寧ろ、アイツ自身がビザールだな。
しかし、奈緒さんって、ホント物知りだよな。
今度良かったら、勉強を見て貰おうかな。
……いや、ヤッパ辞めとこ。
あまりの勉強の出来なさに、大恥掻くだけだ。
「良く解ったッス」
「まぁ説明は置いとくとして、そのギターの大体のところは解った。個性的な音が出んのは、カスタムギターの宿命とも言えるからな。……ホンで、そのギターって、なんぼぐらいしてん?かなり高かったんちゃうんか?」
こら~~~っ貴様ぁ!!
丁寧・親切な奈緒さんの説明をなんと心得るか!!
なので此処は『死罪だ死罪』っと言いたい所だが。
正直俺も、このギターの値段も気になる所だから、取り敢えず、此処はスルーの方向で……
「いや、それがな。このギターとんでもなく拾いもんでさぁ、……実は、ハードケース込みで、たったの2万で買ったんだよ」
「にっ、2万!!なんですか、その信じられない様な値段は!!このぐらい程度の良い61のSGなら、最低でも15~6万はしますよ」
「そうだね。するねぇ」
「じゃあ、なんで、そんな値段で?」
「いや、別に、そんな大層な話じゃないんだけどな」
「でも、15~6万……いや、下手したら20万以上はするギターなんですよ。どうやったら、それを2万で手に入れれるんですか?」
確かに変だ。
まぁ、つっても。
俺自体は、ギターの詳しい金額を知らない訳だから、此処で明確に変だと言うのは言い切れない話ではあるんだがな。
もし、このギターが、奈緒さんの言う通りの金額ならば。
普通の感覚では考えられない様な金額で、崇秀は、このギターを手に入れているっと言う事に成る。
なにをしたんだ、コイツわ?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
奈緒さん、蘊蓄が凄いですね。
書いてる私でさぁ、訳が分からなくなりそうでしたよ(笑)
さて、そんな中、次回は。
『崇秀の、ビンテージギターを2万で購入する方法(完全に犯罪レベル)』をお送りしたいと思います。
どうやったかは、次回の講釈(笑)
また遊びに来て下さいねぇ(*'ω'*)ノ
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