●前回までのあらすじ●
山中君より勉強が出来ない筈の倉津君なのに。
奈緒さんは徹底に簡略化した勉強方法しか教えずに、それだけで終了。
不安に成った倉津君は、普段は絶対にしない勉強を、自らの手で始めた。
30分程勉強してて、ある事に気付いた。
素直と山中が、勉強を一時終了して、コチラを眺めている。
「あの、真琴君……良かったら、一息入れませんか?」
休憩か……まぁ必要だな。
それにさっきから、なにも飲んでなかったから喉がカラカラだ。
故に俺は、素直に教科書を閉じ、素直のこの申し出を受ける事にした。
「あぁそうだな。じゃあ、頼む」
「はい」
素直は、そう言って、奈緒さんが用意したお茶のセットを取りに行く。
「ってかマコ、なんやオマエ。まるでガリ勉野郎みたいに勉強しとったな。急にヤル気出して、どないしてん?」
「いや、俺も、特に勉強がしたくてしてる訳じゃねぇんだけどよぉ。奈緒さんに、あんだけ『馬鹿馬鹿』言われたら、流石に悔しいだろ」
「まぁな。解らん心境でもないな」
「だからよ。出来ない也にも、賢い奴等に一泡吹かせてやろうと思ってよ」
「悪ないけど……それは、俺等の頭じゃ、流石に無理やろ」
「まぁまぁ、俺だって、そこが解らねぇほどの馬鹿じゃねぇ。ただよぉ、やるんだったら、死ぬ気でやんねぇと面白くねぇだろ」
「なんやそれ?オマエ……それ、どこぞのアホのセリフやんけ」
最悪だな。
「うわっ!!オマエ、なんちゅう嫌な事を言うんだよ。一気にヤル気が失せるだろ」
「あぁ悪い、悪い……まぁそやけど。あのアホの話は抜きにしても。今回だけは、キッチリ、テストの勉強をせなアカンのは、確かやろうな」
「だな」
こんなに奈緒さんや、素直に迷惑を掛けてるんだから。
良い点を取らねぇと格好がつかねぇし、2人に顔向けが出来ねぇ。
こうやって必死に教えてくれてるんだから、なんとしても、その成果をキッチリと見せないとな。
それに一応は、山中のヤル気もソコソコ確認出来た。
ただそうなると、問題なのは時間だけだな……
どこぞのアホの様に、俺達は、自由自在に時間を操れねぇからな。
「それはそうとよぉ。オマエの方はどうなんだよ」
「俺か……俺は、まぁ大丈夫なんちゃうか。なんせ、苦手な所だけを集中的にやってるだけやからな。それにアリスの説明は、学校の先公が教えるより解り易い」
「あぁそうか。俺と違って、オマエは、元々30点位なら取れるもんな」
そうなんだよな。
丸々50点を目指さなきゃイケネェ馬鹿な俺とは違い。
山中は殆どの教科を、20点プラスするだけで良いんだもんな。
そりゃあ、素直も楽だろう。
「まぁな。ほんで、オマエの方はどないやねん?ちょっと位、目処は立ったんか?」
「それがよぉ。実は奈緒さん、殆どなにも説明しねぇんだよ。言う事と言えば、兎に角『読め』だけだぞ」
「なんや?けったいな事しとるのぉ」
「お茶、出来たましたよ」
「おっ、サンキュウ」
山中は、素直が紅茶を置いた瞬間飲み始めた。
序に置いてあるクッキーを、もさぼり喰う。
さっき飯を喰った所だって言うのに、凄い食欲だな。
にしても、このクッキーって自家製だよな。
って事は、奈緒さんが焼いた奴か……
もしそうだとしたら、ホント、何でもするな、あの人は。
「ところで、このクッキー、何所の店の奴や?」
「あっ、それ。僕が家で焼いて来たの……勉強する時は、糖分が不足しがちになるから」
そうだったんだな。
このクッキーは、奈緒さんが焼いたのではなく、素直が焼いた奴だったんだな。
「美味しくない……ですか?」
「いや、メチャ旨いって、アリス。この分やったら、今直ぐに店を出してもいけんで」
「良かった……真琴君も、どうぞ」
「あぁ、サンキュウ」
取り合えず、1つ口にしてみた。
おぉ……こりゃあ、確かに旨いな。
山中が言うだけの事はある……まさに絶品だ。
コレだけ美味い物が作れるなら、ウチの家で金出すから、マジで出店しないか?
この味だったら、多分、直ぐに回収出来るぞ。
……等と、美味いクッキーを食わせて貰って、下衆い事を考えてしまった。
アカンね、俺って。
「旨いな」
「ホント……ですか?」
「嘘言ってどうすんだよ。マジで旨いって」
「嬉しい」
「……なんや、この反応の違いは」
「えっ……そんな事……」
「毎度のこっちゃから、別に良ぇけどな」
そうこうしてる内に、クッキーも紅茶も無くなって、休憩時間も終了しようとしていた。
「ごめん、ごめん、遅くなっちゃったね」
「あっ、向井さん、お帰りなさい」
「ただいまぁアリス」
「なんやなんや?百合かオマエ等?」
俺も、一瞬そう思った。
だってよぉ。
奈緒さんと、素直って、此処数日で仲良過ぎないか?
奈緒さん=太刀。
素直=猫。
この現状なら、山中の言う通り、これが成立しないか?
まぁなんだ。
そんな2人を見てみたい気がしないでもないな。
「山中君、百合ってなに?」
「えっ?……いや、そう聞かれてもやな」
「アリス、あのね。百合って言うのは、レズビアンの事。……カズはね、私と君の絡みを想像してたのよ。あのノートに描かれてるみたいに」
「やらしい」
「また奈緒ちゃんは、直ぐに、そう言う事を教えるやろ」
「なに言ってんだかね。君が、先に言ったんでしょ」
「まぁそやけどやな……なんも説明せんでも」
「!!あっ、そうだ」
なんかまた、意地の悪い事を思い付いたな。
ホント、この人は退屈しない人だな。
「なんや、イヤな予感がすんで」
「なに、変な事を想像してるのよ。やらしい」
「やらしないわ!!今のタイミングやったら想像もするやろ」
「かもね」
「ほんで、何を思い付いたんやな?」
「秘密……アリス、ちょっと、コッチにおいで」
奈緒さんは、悪戯に笑いながら手招きをする。
満面の笑みで……
「あの、あの、向井さん……僕、そう言う気はないですよ」
マジでビクビクしてるぞ。
大丈夫だって素直。
その顔してる時の奈緒さんは、素直に悪戯するんじゃなくて、俺達をからかってるだけだから、心配ないって。
……多分。
「ふ~~~ん。じゃあ、今日が初体験なんだ」
「えぇ~~~っ、いや、あの、あの、あの」
「優しく教えて上げるから、コッチにおいで」
「あの、あの、向井さん、そういうの良くないです。女同士なんて変です」
「ぷっ!!……なに言ってんのよ。私が、そんな事する訳ないでしょ。そこに居る馬鹿共の勉強の打ち合わせよ。……君まで何考えてるのよ?」
「あっ!!……もぉ意地悪」
素直は真っ赤になった顔を、両手で覆い隠した。
普段から真面目な素直は。
こんな事を経験した事が無いから、相当、恥ずかしかったんだな。
正に、奈緒さんの言う通り『初体験』だな。
それにしても、この件に関しては、深刻な問題があるな。
これって、奈緒さんの『馬鹿居間化』が進行してないか?
今の場面だって、少し前に有った『奈緒さんと馬鹿の関係』じゃないか。
前の奈緒さんの立場が、今の素直。
前の馬鹿の立場が、今の奈緒さん。
もしこれが成立してるなら、こんなもん、完全な悪循環じゃねぇか。
これで素直にまで感染したら、ウチのバンド全員の性格が悪くなっちまうぞ。
こりゃあ大変だ。
「ほら、行くよアリス。君が期待する様な事はして上げられないけどね」
「もぉ、向井さん!!」
プンプン怒りながらも、素直は、奈緒さんに従って、部屋を出て行く。
そんで奈緒さんはと言えば……
「女の子の秘密を覗いちゃダメだよ。……君達は、一時間『自習』ね『自習』」
そう言い残し『ニヤッ』っと一笑いして、扉を閉める。
……
……
いや、先に言っておくがな。
扉の向こうで、何も起こってない事なんぞは重々承知してるんだぞ。
ただな、俺も男だから『もしも』を考えると気にならないと言えば、嘘になる。
扉の向こうでは、ひょっとして、奈緒さんと素直が……
いやいやいやいや……もう一回、念押しに言って置くが、なにもない事は十分に解ってるんだぞ。
けどな、大人なら、それで理性も効くだろうが、俺は、ただの馬鹿中学生。
万が一『そう言う行為が有るかも』って、気持ちに賭けたくなる心理も解って欲しい。
現に、俺だけじゃなく、山中の奴も、妙にソワソワしているしな。
これで勉強しろって方が、酷ってもんじゃないか?
俺は、チラチラと山中を見て、奴が行動に移す事を望んだ。
「アカン!!解ってても我慢出来へんわ。俺は扉の向こうの桃源郷を見るぞ、マコ」
「オイオイ、ヤメとけって。奈緒さんには勉強しろって言われてんだからよぉ」
「なにを今更、良い子ぶっとんねん。この状況で、そんなもん、最初から無理に決まってるやろが。誘い水やと解ってても、そこで行くんが男ちゅうもんや。そやから俺は行くで」
意気揚々と、扉に向かって行こうとするエロ勇者・山中。
すると、山中が立ち上がった瞬間に『カチャ』っと、扉をロックする音。
その音の方向を見ると、明らかに、奈緒さんと素直が入って行った部屋。
そして、コチラからの鍵穴はない。
早い話『隔離された』って事だな。
慌てて山中は、扉のノブを『ガチャガチャ』するが、開く気配はない。
けど俺は、正直言えば、奈緒さんなら『絶対にやると思った』
「NOOOOOOOOoooooooo~~~!!な~ん~で~や~ね~~~ん!!」
「やっぱりな。やると思ったよ」
「なんやマコ?豪い冷静やな。オマエ、ひょとして、こうなる事がわかってたんか?」
「当たり前だろ。奈緒さんって、あぁ見えて、かなり意地が悪いんだぞ」
「言われてみればそうやな。そやけど、それはそれで、中々良ぇ傾向やな」
「まぁな……素直の件でも、バンドの件でも、何所か一歩引いた所があったからな。あれだけの悪さをするって事は、バンドのメンバーには打ち解けて来てる証拠なんだろうな」
「そやな。そやけど、ホンマ、奈緒ちゃん究極的にSやな。焦らしもプロ級やで」
「まぁSだな……けどよぉ、Sだけに優しいんだぞ」
「言わんとする所は、よぅ解るわ。ホンマ優しいな、あの子は……オマエ、羨ましすぎやぞ」
山中の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった。
コイツは、色々な女と付き合ったり。
それこそSEXだって一杯してるのに、俺が羨ましい、なんて言葉が出て来るなんてな。
やっぱり、奈緒さんは『それだけ良い女』なんだな。
「……その上アリスか……ホンマ、羨ましすぎるわ」
「あ~~、おいおい、俺は、素直と付き合ってねぇぞ」
「付き合ってないやと?どこがやねん?」
「いや、現に付き合ってねぇし」
「オマエって、究極の鈍感やな」
「馬鹿言うなよ。幾ら、俺が鈍感だって言ってもよ。アイツが、俺の世話を色々焼いてくれてんの位は解ってんだぞ。現に今日だって『泊まる準備』までしてくれてる……けどな、結局、素直に何をして貰ってても、行き着く先は、やっぱ、奈緒さんなんだよ。こういうのって、素直に甘えてんだろうな」
「そうか。そこがわかっとんねんやったら、それで良ぇ。俺もなんも言わん……」
山中は、妙に納得したのか黙った。
だが、その表情には、なにかしろの曇りが見える。
なんだ?
そして、その疑問は、即座に吹き飛ばされる事になった。
沈黙していた筈の山中が、再び口を開き、声を出し始めたからだ。
「……いや、やっぱりアカンわ。1つだけ、オマエには、どうしても言わなアカン事があるわ」
オイオイ、この状況でなにを言う気だ?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
休憩してただけなのに、何故か、妙な雰囲気に成ってきましたね。
この状況下で、山中君は一体、何を言うつもりなんでしょうか?
それはまた、次回の講釈(笑)
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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