●前回のおさらい●
様々な事情から奈緒さんは、倉津君を焦らせる為に、記憶障害が出た様に一芝居打ってきた。
でもマジで奈緒さんを心配していた倉津君は、この行為にヤリスギだと感じ。
文句の1つも言ってやろうと言う勢い。
さて、どうなることやら。
「奈緒さん!!やって良い事と、悪い事がありますよ。俺が悪かったのは認めますけど、いい加減にして下さい!!」
「クラ……」
おっ、この様子だと、ちょっとは反省してるみたいだぞ。
「俺、本気で怒ってるんッスよ。大体、奈緒さんは、いつも、いつもそうですよね。そうやって、俺をからかいますけど……これは、ちょっと無いッスよ」
「本当は怒ってないくせに……。こんな事位で、クラが私に、目くじら立てて怒る訳ないでしょ」
「がっ」
はい、終了。
俺が怒っていない事は、瞬時に見透かされて、ハイ終了。
……しかも、奈緒さんは一切反省無し。
全然ダメじゃねぇかよ。
「怒ってるッス!!ってか、滅茶苦茶怒ってるッス!!」
「じゃあ私も、さっきの事を怒ってるって事にする。……オアイコ、御仕舞い」
「がっ」
最悪だよ、この人。
自己中にも程があんぞ。
奈緒さんは、ちょっと『反省する機能』をオプションでも良いから付けなさい。
多分、コンビニか、なんかで安く売ってる筈ッスから。
これでも、本当に心配したんッスよ。
まぁどうせ、その辺も解っててやってるとは思いますけどね。
と、文句ばっかり言ってる訳だが。
奈緒さんが、こんな行動を起こしたのも、元を正せば、俺がレンタル・スタジオで偉そうな態度を取ったのが原因な訳だから……
此処は1つ、オアイコって事で許してあげます。
(↑弱い俺)
「まぁしょうがないッスね。今回だけッスよ」
「じゃあ私も、今回だけは許してあげる」
この言い様……
けど、可愛くも、満面の笑みでこんな事を言われたら、もぉ許すしか無いよな。
(↑兎に角、弱い俺)
ほんとアナタは、ズルイ女ッスね。
「それはそうと、さっきはスタジオで生意気な事を言って、すみませんでした」
「えっ?あぁ別に、そこは気にしてないよ」
ん?
じゃあ、なんであんな凝った事までして、俺に意地の悪い事をするんだ?
あの件を気にしてないなら、そんな事する必要ないよな。
ホント、わかんない人だな。
「あの……じゃあ、なんであんな事したんッスか?」
「うん?クラがズルイから」
「ズルイ?なんで俺がズルイんッスか?」
「だって……自分ばっかりドンドン上手くなってさぁ、クラはズルイよ」
「いやいやいやいや、俺、全然上手くなってないッスから。さっきも、音外し捲くってたじゃないですか」
「ねぇ、クラ……それ、嫌味?」
睨まれた。
「いやいや、違うッス、違うッス」
「じゃあなんで、外れてなかったのに、音を外したとか言うの?それともなに?君が外した音に、私が気付かなかったとでも言いたいの?」
外してなかったのか?
まぁ、俺が気付かないのも仕方がない事だ。
山中や、崇秀、嶋田さんに、アリス、それに奈緒さんの全員が全員、インパクト有り過ぎて、実際は、自分の演奏なんてなんも憶えてねぇんだよな。
そっか……けど、外してなかったんだな。
「君ねぇ。怒られてるのに、なにニヤニヤしてるのよ?」
しまった。
音を外してなかった喜びを隠せずに、無意識の内に顔がニヤけてたらしいぞ。
「あぁ、すんません」
「あぁ、そう言う事ね。……私が一回音程外したの笑ってんだ。どうせ私は外しましたよ」
「ちょ!!誰も、そんな事は言ってないじゃないですか」
「良いもん、良いもん。どうせ私は下手だもん」
口を尖がらせて、拗ねちゃったよ。
なんなんだろうな、この可愛いだけの生き物は……
「あのねぇ、奈緒さん。奈緒さんが下手だったら、この世の中で楽器をやってる奴の大半が『下手』って事になりますよ」
「所詮、それは大半でしょ。クラは、そこに含まれてないもん。……たった一ヶ月ぐらいしか弾いてないクセにさぁ。上手過ぎだよ。私なんかさぁ4年もやってるのに、もぅクラに抜かれてるんだよ。そんな可愛げのないクラなんか大嫌いだよ」
「イヤイヤイヤ、そんな訳ないじゃないですか。俺が、奈緒さんに勝ってるなんて有り得ない話ッスよ。それに実際、ズルイのは奈緒さんの方ッスよ」
「私の……なにがよ?何がズルイって言うのよ?」
この人も、無自覚人間なのな。
普通に考えても解りそうなもんだろうに。
「奈緒さん、歌は上手い上し、ベースも弾けるドラマーなんッスよ。それこそ、そう何人もいないッスよ」
「その程度なら、結構、居るもん」
「がっ」
「それに私のは、4年間、必死に頑張った結果だもん。クラのとは、全然違うもん」
うわ!!ヒデェ言われ様だ。
俺だって、結構悩んでたのに……
「俺だって、さっき必死に考えたんッスよ」
「そんなの、たかが1~2時間じゃない。悩んだ内にも入らないよ」
あぁダメだ。
これは、なに言っても反論してくる。
女の人に口で勝とうって言うのが、元々間違っているらしいな。
「あの、奈緒さん……なにが、そんなに気に入らないんッスか?ハッキリ言って下さいよ」
「私が気に入らない事?」
「そうッスよ。なんかそう言うの奈緒さんらしくないッスよ、変ッスよ」
「……言わない。それに変じゃない。私、クラには我儘を言っても良いんだもん」
この人、ほんとに可愛いな。
口尖がらせて、ほっぺた膨らませて……そんな顔して『私、クラには我儘を言っても良いんだもん』ですぜ。
そりゃあアナタ、もぉ既に才能域ですよ。
俺のヲタ心をくすぐって、どうするんッスか?
「なら、尚更教えて下さいよ。俺には我儘を言ってくれるんじゃないんッスか?」
「ムカツクから言わない」
「だ~か~ら~。それじゃあ、反省のしようがないじゃないですか」
「あぁもぉ~~~、うるさいなぁ。……私が、クラに気に入らなかったのは、君に『Anarchy In the U.K.』教えた時、君が私の『トレース』しなかった事だよ。もぉ私には君に教える事がない、って事を悟らされたのが気に入らないの」
あぁそう言う事か。
これは、流石に気付かなかった。
けど、これは、俺の完全なミスだな。
自分の世界にどっぷり浸かって、教えてくれてる人の気持ちってもんを、全然考えてなかったんだからな。
しかし、ホント繊細なんだな、この人。
「なに言ってんッスか。俺が奈緒さんに教えて貰ってるのは、なにもベースだけじゃないッスよ。その他にも色々教えて貰ってるッスよ」
決まったな。
返しのセリフとしては、まさに改心の名台詞だ。
きっと、これを聞いた奈緒さんは感動して『クラ……ごめん』って言う筈だ。
「クラ……」
「なんッスか?」
来たよ、来たよ。
思い通りの展開が来たよ。
今まで神様の妨害で、一回も上手く行かなかった展開が来たよ。
故に俺は、顔を引き締めて、ゴルゴ13バリに凛々しい顔を奈緒さんに向ける。
「エロ。クラ、君は、そんな事ばっかり考えてたんだね。……信用してたのに……最悪だよ」
解っていたさ……どうせ、こんなこったろうと思ってたよ。
漫画人生まっしぐらの俺が、そう簡単に事が上手く運ぶ筈がない。
けど、こうなったら手段は2つだ。
恋愛ゲームの画面が、俺の脳裏を支配する。
①『これからは神様を信仰するから、なんとかしてくれ!!』っと嘆いて神任せ。
②逆ギレする……いや、奈緒さん相手だから、ちょっとだけ怒る。
此処では②を選択。
「そうッスよ。どうせ俺は、奈緒さんの事をエロイ眼で見てましたよ」
「知ってるよ。それぐらい……このエロガキ」
ハイ失敗!!
早くも失敗!!
大体、恋愛ゲームみたいに、こうも簡単に事が運ぶんだったら、リアルの恋愛で誰も苦労なんてしない。
馬鹿の1つ覚えで、好感度だけを上げるちゅう~の。
けど、この分だと選択肢は①が正解だったみたいだな。
因みに1を選択した場合をシュミレートしたら、こんな感じだ↓。
どうにかしてくれ……俺は神に祈った。
……何も起きなかった。
しかも奈緒さんが不審そうな顔を、俺に向けている。
(俺予想以上)
なんだよ、なんだよ!!
結局、ドッチを選んでも、全然、好転してないじゃねぇか。
神様とか言う野郎は、何所まで俺をからかったら気が済むんだよ?
クソ~神め!!何所までも俺の邪魔をしおってからに……
だが、此処でゲームを諦めたら終了だ。
だから、このままリセットせずに②で継続してやる。
「いけないんッスか」
「別に良いけど」
あれ?この展開が来たと言う事は、意外にも②は正解ッスか?
これって、ある意味、良い感じじゃね?
「けど、なんッスか」
「君が、私の事をエロイ眼で見るのは良いよ。それは男なんだから仕方ないからね」
「はっ、はぁ……」
「でも音楽は違うでしょ。クラがバンドマンを目指すんなら、あのやり方は頂けない。あれじゃあ、まるでミュージシャンだよ。……私はね、君のそんな姿に仲居間さんが被って見えたの。このままじゃ、クラが仲居間さんみたいになっちゃうって思っちゃったの。……ごめんね。これが本音」
「奈緒さん……」
申し訳ない。
奈緒さんが、そんな風に考えていてくれているとは思いも寄らなかった。
俺は、ほんとに馬鹿だ。
「なんてね……」
「奈緒さん」
もぅこの人は……
「……なんて、私が言うとでも思ったの?」
「へっ?」
「……自分勝手な事ばっかりして、今日は、絶対に君を許さないからね」
「えっ?」
「あぁそれと、君のせいで、ベースがスタジオに置きっ放しになってるから、ちゃんと取って来て置いてね。じゃあね」
「えっ?えっ?えぇぇぇええぇ~~~~~~~!!」
「うるさい。ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと取って来る。……返事は?」
「……はい」
なんでぇ~~~?
なんでこうなるんだよ?
奈緒さんは、そのままバックステージに消えて行くし……俺がした事って、そんなに悪い事なのか?
完全にしゃがみ込んで、項垂れる俺……
そこに俺の肩を叩く人が居た。
「倉津君……頑張れ。俺から言ってあげられる事は『女の子は気紛れだから、常に気を付けてあげないとね』これ、俺からの餞別ね」
嶋田さん見てたのね……今の一部始終を、全部見てたのね。
そう言えば、さっきから『嶋田さんが居ないなぁ』とか思ってたら、この人は……
しかも、餞別を渡すべき人に、逆に餞別渡されて、どうすんだよ?
アホか俺は?
「あっ……あの、俺」
「頑張れよ倉津。負けるな、此処が正念場だぞ」
「崇秀、テメッ……」
「大丈夫や、頑張れマコ。奈緒ちゃんは、まだオマエの事を見捨ててへん……筈や」
「オマエもか!!」
「あの……さっきは怖い人かと思いましたけど、倉津さん、良い人ですね。……頑張って下さい」
ぎゃあぁぁぁああぁぁ~~!!全員で、見・て・た・の・ねぇ~~~!!
俺は恥ずかしさのあまり、その場をダッシュで逃げて行く。
その時、ステージの影では……
「ぷっ……クスクス……」
あっ、奈緒さんが笑ってる……
って事は……また彼女に嵌められた。
それら全てを悟った俺は、心で泣きながら、逃げる様に外に出る廊下に向かった。
それでも尚、奈緒さんのベースをスタジオに取りに行こうとしている俺は。
本当に彼女の……犬だな。
けどよぉ。
高々、奈緒さんのベース取りに行くだけの事で、こんな生暖かくも優しい餞別はイラネェつぅ~のな。
テメェ等、全員憶えとけよ!!
どうせ馬鹿の俺じゃあ、仕返しなんぞ、誰にも出来ねぇけどな!!
ちくしょ~~~!!
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
これにて第十六話は終了でございます。
そして最後の最後まで、奈緒さんにはからかわれたままだし。
嶋田さんに餞別として曲を渡したまでは良かったが。
最後にはその嶋田さんからも『女性の扱い方の注意事項』として、逆に餞別を渡される始末。
うん、頑張っただけに、ちょっと可哀想ですね(笑)
でも、今はまだ、こうやって、みんなにはからかわれていますが。
彼自身も、徐々に人との付き合い方を学んでいっていると思いますので、今後の彼の行動にご期待ください♪
きっと、更正出来ると思いますので(*'ω'*)ノ
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