最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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086 不良さん、奈緒さんに逆襲してみる

公開日時: 2021年5月3日(月) 00:21
更新日時: 2022年11月15日(火) 16:11
文字数:4,436

●前回のおさらい●


 様々な事情から奈緒さんは、倉津君を焦らせる為に、記憶障害が出た様に一芝居打ってきた。


でもマジで奈緒さんを心配していた倉津君は、この行為にヤリスギだと感じ。

文句の1つも言ってやろうと言う勢い。


さて、どうなることやら。

「奈緒さん!!やって良い事と、悪い事がありますよ。俺が悪かったのは認めますけど、いい加減にして下さい!!」

「クラ……」


おっ、この様子だと、ちょっとは反省してるみたいだぞ。



「俺、本気で怒ってるんッスよ。大体、奈緒さんは、いつも、いつもそうですよね。そうやって、俺をからかいますけど……これは、ちょっと無いッスよ」

「本当は怒ってないくせに……。こんな事位で、クラが私に、目くじら立てて怒る訳ないでしょ」

「がっ」


はい、終了。


俺が怒っていない事は、瞬時に見透かされて、ハイ終了。


……しかも、奈緒さんは一切反省無し。


全然ダメじゃねぇかよ。



「怒ってるッス!!ってか、滅茶苦茶怒ってるッス!!」

「じゃあ私も、さっきの事を怒ってるって事にする。……オアイコ、御仕舞い」

「がっ」


最悪だよ、この人。

自己中にも程があんぞ。


奈緒さんは、ちょっと『反省する機能』をオプションでも良いから付けなさい。

多分、コンビニか、なんかで安く売ってる筈ッスから。


これでも、本当に心配したんッスよ。


まぁどうせ、その辺も解っててやってるとは思いますけどね。


と、文句ばっかり言ってる訳だが。

奈緒さんが、こんな行動を起こしたのも、元を正せば、俺がレンタル・スタジオで偉そうな態度を取ったのが原因な訳だから……


此処は1つ、オアイコって事で許してあげます。

(↑弱い俺)



「まぁしょうがないッスね。今回だけッスよ」

「じゃあ私も、今回だけは許してあげる」


この言い様……


けど、可愛くも、満面の笑みでこんな事を言われたら、もぉ許すしか無いよな。

(↑兎に角、弱い俺)


ほんとアナタは、ズルイ女ッスね。



「それはそうと、さっきはスタジオで生意気な事を言って、すみませんでした」

「えっ?あぁ別に、そこは気にしてないよ」


ん?

じゃあ、なんであんな凝った事までして、俺に意地の悪い事をするんだ?


あの件を気にしてないなら、そんな事する必要ないよな。


ホント、わかんない人だな。



「あの……じゃあ、なんであんな事したんッスか?」

「うん?クラがズルイから」

「ズルイ?なんで俺がズルイんッスか?」

「だって……自分ばっかりドンドン上手くなってさぁ、クラはズルイよ」

「いやいやいやいや、俺、全然上手くなってないッスから。さっきも、音外し捲くってたじゃないですか」

「ねぇ、クラ……それ、嫌味?」


睨まれた。



「いやいや、違うッス、違うッス」

「じゃあなんで、外れてなかったのに、音を外したとか言うの?それともなに?君が外した音に、私が気付かなかったとでも言いたいの?」


外してなかったのか?


まぁ、俺が気付かないのも仕方がない事だ。

山中や、崇秀、嶋田さんに、アリス、それに奈緒さんの全員が全員、インパクト有り過ぎて、実際は、自分の演奏なんてなんも憶えてねぇんだよな。


そっか……けど、外してなかったんだな。



「君ねぇ。怒られてるのに、なにニヤニヤしてるのよ?」


しまった。


音を外してなかった喜びを隠せずに、無意識の内に顔がニヤけてたらしいぞ。



「あぁ、すんません」

「あぁ、そう言う事ね。……私が一回音程外したの笑ってんだ。どうせ私は外しましたよ」

「ちょ!!誰も、そんな事は言ってないじゃないですか」

「良いもん、良いもん。どうせ私は下手だもん」


口を尖がらせて、拗ねちゃったよ。


なんなんだろうな、この可愛いだけの生き物は……



「あのねぇ、奈緒さん。奈緒さんが下手だったら、この世の中で楽器をやってる奴の大半が『下手』って事になりますよ」

「所詮、それは大半でしょ。クラは、そこに含まれてないもん。……たった一ヶ月ぐらいしか弾いてないクセにさぁ。上手過ぎだよ。私なんかさぁ4年もやってるのに、もぅクラに抜かれてるんだよ。そんな可愛げのないクラなんか大嫌いだよ」

「イヤイヤイヤ、そんな訳ないじゃないですか。俺が、奈緒さんに勝ってるなんて有り得ない話ッスよ。それに実際、ズルイのは奈緒さんの方ッスよ」

「私の……なにがよ?何がズルイって言うのよ?」


この人も、無自覚人間なのな。


普通に考えても解りそうなもんだろうに。



「奈緒さん、歌は上手い上し、ベースも弾けるドラマーなんッスよ。それこそ、そう何人もいないッスよ」

「その程度なら、結構、居るもん」

「がっ」

「それに私のは、4年間、必死に頑張った結果だもん。クラのとは、全然違うもん」


うわ!!ヒデェ言われ様だ。


俺だって、結構悩んでたのに……



「俺だって、さっき必死に考えたんッスよ」

「そんなの、たかが1~2時間じゃない。悩んだ内にも入らないよ」


あぁダメだ。

これは、なに言っても反論してくる。


女の人に口で勝とうって言うのが、元々間違っているらしいな。



「あの、奈緒さん……なにが、そんなに気に入らないんッスか?ハッキリ言って下さいよ」

「私が気に入らない事?」

「そうッスよ。なんかそう言うの奈緒さんらしくないッスよ、変ッスよ」

「……言わない。それに変じゃない。私、クラには我儘を言っても良いんだもん」


この人、ほんとに可愛いな。


口尖がらせて、ほっぺた膨らませて……そんな顔して『私、クラには我儘を言っても良いんだもん』ですぜ。


そりゃあアナタ、もぉ既に才能域ですよ。

俺のヲタ心をくすぐって、どうするんッスか?



「なら、尚更教えて下さいよ。俺には我儘を言ってくれるんじゃないんッスか?」

「ムカツクから言わない」

「だ~か~ら~。それじゃあ、反省のしようがないじゃないですか」

「あぁもぉ~~~、うるさいなぁ。……私が、クラに気に入らなかったのは、君に『Anarchy In the U.K.』教えた時、君が私の『トレース』しなかった事だよ。もぉ私には君に教える事がない、って事を悟らされたのが気に入らないの」


あぁそう言う事か。

これは、流石に気付かなかった。


けど、これは、俺の完全なミスだな。

自分の世界にどっぷり浸かって、教えてくれてる人の気持ちってもんを、全然考えてなかったんだからな。


しかし、ホント繊細なんだな、この人。



「なに言ってんッスか。俺が奈緒さんに教えて貰ってるのは、なにもベースだけじゃないッスよ。その他にも色々教えて貰ってるッスよ」


決まったな。

返しのセリフとしては、まさに改心の名台詞だ。


きっと、これを聞いた奈緒さんは感動して『クラ……ごめん』って言う筈だ。



「クラ……」

「なんッスか?」


来たよ、来たよ。

思い通りの展開が来たよ。

今まで神様の妨害で、一回も上手く行かなかった展開が来たよ。


故に俺は、顔を引き締めて、ゴルゴ13バリに凛々しい顔を奈緒さんに向ける。



「エロ。クラ、君は、そんな事ばっかり考えてたんだね。……信用してたのに……最悪だよ」


解っていたさ……どうせ、こんなこったろうと思ってたよ。

漫画人生まっしぐらの俺が、そう簡単に事が上手く運ぶ筈がない。


けど、こうなったら手段は2つだ。


恋愛ゲームの画面が、俺の脳裏を支配する。


①『これからは神様を信仰するから、なんとかしてくれ!!』っと嘆いて神任せ。

②逆ギレする……いや、奈緒さん相手だから、ちょっとだけ怒る。


此処では②を選択。



「そうッスよ。どうせ俺は、奈緒さんの事をエロイ眼で見てましたよ」

「知ってるよ。それぐらい……このエロガキ」


ハイ失敗!!


早くも失敗!!


大体、恋愛ゲームみたいに、こうも簡単に事が運ぶんだったら、リアルの恋愛で誰も苦労なんてしない。

馬鹿の1つ覚えで、好感度だけを上げるちゅう~の。


けど、この分だと選択肢は①が正解だったみたいだな。


因みに1を選択した場合をシュミレートしたら、こんな感じだ↓。


どうにかしてくれ……俺は神に祈った。


……何も起きなかった。

しかも奈緒さんが不審そうな顔を、俺に向けている。

(俺予想以上)


なんだよ、なんだよ!!

結局、ドッチを選んでも、全然、好転してないじゃねぇか。


神様とか言う野郎は、何所まで俺をからかったら気が済むんだよ?


クソ~神め!!何所までも俺の邪魔をしおってからに……


だが、此処でゲームを諦めたら終了だ。

だから、このままリセットせずに②で継続してやる。



「いけないんッスか」

「別に良いけど」


あれ?この展開が来たと言う事は、意外にも②は正解ッスか?


これって、ある意味、良い感じじゃね?



「けど、なんッスか」

「君が、私の事をエロイ眼で見るのは良いよ。それは男なんだから仕方ないからね」

「はっ、はぁ……」

「でも音楽は違うでしょ。クラがバンドマンを目指すんなら、あのやり方は頂けない。あれじゃあ、まるでミュージシャンだよ。……私はね、君のそんな姿に仲居間さんが被って見えたの。このままじゃ、クラが仲居間さんみたいになっちゃうって思っちゃったの。……ごめんね。これが本音」

「奈緒さん……」


申し訳ない。

奈緒さんが、そんな風に考えていてくれているとは思いも寄らなかった。


俺は、ほんとに馬鹿だ。



「なんてね……」

「奈緒さん」


もぅこの人は……



「……なんて、私が言うとでも思ったの?」

「へっ?」

「……自分勝手な事ばっかりして、今日は、絶対に君を許さないからね」

「えっ?」

「あぁそれと、君のせいで、ベースがスタジオに置きっ放しになってるから、ちゃんと取って来て置いてね。じゃあね」

「えっ?えっ?えぇぇぇええぇ~~~~~~~!!」

「うるさい。ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと取って来る。……返事は?」

「……はい」


なんでぇ~~~?

なんでこうなるんだよ?


奈緒さんは、そのままバックステージに消えて行くし……俺がした事って、そんなに悪い事なのか?


完全にしゃがみ込んで、項垂れる俺……


そこに俺の肩を叩く人が居た。



「倉津君……頑張れ。俺から言ってあげられる事は『女の子は気紛れだから、常に気を付けてあげないとね』これ、俺からの餞別ね」


嶋田さん見てたのね……今の一部始終を、全部見てたのね。


そう言えば、さっきから『嶋田さんが居ないなぁ』とか思ってたら、この人は……


しかも、餞別を渡すべき人に、逆に餞別渡されて、どうすんだよ?


アホか俺は?



「あっ……あの、俺」

「頑張れよ倉津。負けるな、此処が正念場だぞ」

「崇秀、テメッ……」

「大丈夫や、頑張れマコ。奈緒ちゃんは、まだオマエの事を見捨ててへん……筈や」

「オマエもか!!」

「あの……さっきは怖い人かと思いましたけど、倉津さん、良い人ですね。……頑張って下さい」


ぎゃあぁぁぁああぁぁ~~!!全員で、見・て・た・の・ねぇ~~~!!


俺は恥ずかしさのあまり、その場をダッシュで逃げて行く。


その時、ステージの影では……



「ぷっ……クスクス……」


あっ、奈緒さんが笑ってる……


って事は……また彼女に嵌められた。


それら全てを悟った俺は、心で泣きながら、逃げる様に外に出る廊下に向かった。


それでも尚、奈緒さんのベースをスタジオに取りに行こうとしている俺は。


本当に彼女の……犬だな。


けどよぉ。

高々、奈緒さんのベース取りに行くだけの事で、こんな生暖かくも優しい餞別はイラネェつぅ~のな。


テメェ等、全員憶えとけよ!!



どうせ馬鹿の俺じゃあ、仕返しなんぞ、誰にも出来ねぇけどな!!


ちくしょ~~~!!


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これにて第十六話は終了でございます。


そして最後の最後まで、奈緒さんにはからかわれたままだし。

嶋田さんに餞別として曲を渡したまでは良かったが。

最後にはその嶋田さんからも『女性の扱い方の注意事項』として、逆に餞別を渡される始末。


うん、頑張っただけに、ちょっと可哀想ですね(笑)


でも、今はまだ、こうやって、みんなにはからかわれていますが。

彼自身も、徐々に人との付き合い方を学んでいっていると思いますので、今後の彼の行動にご期待ください♪


きっと、更正出来ると思いますので(*'ω'*)ノ

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