●前回のおさらい●
倉津君が、自爆気味に色々悩んでいるご様子。
まぁそんな感じでだな。
俺が『どうしたもんか?』と悩みながらも、本日のライブも終盤に突入。
残るは、ラスト一曲だけとなった。
「みんな、ありがとう……今日も最高だったよ」
「「「「「奈緒様最高!!」」」」」
奈緒さんに対する歓声は、いつも通り大きい。
ステージに立ってても、観客に圧倒される程の歓声だ。
あぁ……そう言えば、今日の奈緒さんは、終始『奈緒様ヴァージョン』だったな。
いつもなら『Troubling』(四苦八苦)が掛かったら『奈緒ちゃんヴァージョン』に変身するんだけどな。
まぁ『奈緒様ヴァージョン』で唄った『Troubling』(四苦八苦)も中々面白かった。
けど、ホント、この人、自分の中に蟠りが有っても、外には出さない人だな。
なんでも、そうやってムラ無くこなすもんな。
「じゃあ、今日、最後の曲には、私以外の雑音なんて必要ないから……私がソロで唄ってあげる」
「へっ?」
奈緒さんはそう言うと、嶋田さんのギター(B.C.Rich Mockingbird 80sハワイアン・コア)を取り上げ。
徐に、ギターを弾き始めた。
ちょ……奈緒さん、どういうつもりだよ?
今日の最後の曲は『Hybrid Memory』じゃなかったのか?
それとも奈緒さんは、マジで、単独でライブを乗っ取るつもりなのか?
「これが私の唄うラストソング。新曲『泡沫』聞いて……下さい」
-♪--♪-♪-♪----♪---♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--……
なんだ『泡沫』って?
そんな曲、練習中にも聞いた事もねぇ曲だぞ。
そんな風に、事態が飲み込めないまま『泡沫』と言う奈緒さんオリジナルの曲が始まる。
そんで俺はと言えば。
現状ではコード進行が全く解らないので、無様にも奈緒さんの曲に聞き入るしかなかった。
それは嶋田さんも、山中も、素直に於いても同じだ。
兎に角、そんな風に『聞く事を義務付けられた様な曲』だった。
そして、その曲は、とても静かな曲……
今ある物の全てが、泡沫の夢であった様に静かに崩壊に導かれていく。
その崩壊の中で、1人の人間は、それをジッと眺め続ける。
なにをする訳でもなく、ただ眺めている。
ある時……その人間は、なにかに気付く。
それは『自分自身が、その崩壊の元だった』と言う事に……
人間は悲しむ。
だが、世界の崩壊は一切止まらなかった……
それでも人間は、その崩壊を眺めて、悲しむ事しか出来なかった……
……ただ、そんな絶望的に曲にも拘らず。
最後の最後に、一音だけ、とても優しい音が入っていた。
何故だかは解らないが、その音が、全ての救いだった様に思える。
そんな曲を、奈緒さんは、嶋田さんから奪ったギターで音を奏で、自身の伸びのある声を使い、たった1人で完全に表現しきった。
それは、今までに無い高い完成度の曲だった。
けど、なんだ?
奈緒さん、どう言うつもりで、こんな悲しい曲を唄ったんだ?
「ありがと……コレで、今日は御仕舞い。じゃあね、BYE-BYE」
そう言い残して、観客の『アンコール』を無視し。
嶋田さんにギターを返しながら、足早に楽屋に去って行った。
俺は、得も言えぬ不安感から、慌てて奈緒さんの後を追う。
「なっ、奈緒さん!!どうしちゃったんッスか?なんで急に、あんな真似を?」
廊下で声を掛けたが、奈緒さんが振り向く様子はない。
そのままの体勢……俺に背を向けたままの状態で、言葉を紡ぎだす。
「うん?いや、別に意味なんて無いよ……ただ、新曲が完成したから、サプライズで、今日、発表しただけなんだけど?……曲、なんか変だった?」
「いや、曲自体は、凄く完成度の高い良い曲でしたよ……けど、そう言うんじゃなくて、奈緒さん自身に、なんか有ったんじゃないんッスか?」
「へっ?いや、なにもないよ。……なにを心配してるのか知らないけど。君は、何時まで経っても、そうやって私の後ろに居るんだね」
『後ろ』って……なんだよ?
突然、意味の解らない変な事を言うなよ、奈緒さん。
ヤッパ、今日の奈緒さんは少し変だよ。
どうしちゃったんだよ?
なにか俺に気に入らない事が有るなら、いつもみたいにハッキリ言ってくれよ。
それともこれって、自分の悪い所は、自分で気付かないとダメだって事か?
「奈緒さん、ごめん。ホント、ごめん。俺さぁ、奈緒さんに、また余計な心配をかけてたんじゃないか?おっ、俺、気付かない内に、なんかまた、奈緒さん傷付けたんじゃないか?」
「あっ……グスッ、どうしたのよクラ?変だよ?……それに私は、なにも君に傷つけられてなんていないよ。グスッ、なにを、そんなに心配してるのよ?」
「だってよ。奈緒さん……今日、絶対に変だって」
「そっか……そんなに変か……じゃあさぁ、グスッ、チューしてあげるから、私のなにが変なのか教えてよ」
「奈緒さん!!頼むから、今だけは、そうやって、はぐらかさないでくれよ」
「しょうがないね、クラは。グスッ……だったらさ、私を今から、ドキドキする様な、グスッ、デートに連れて行ってみ。そしたら、包み隠さず教えてあげるよ」
「なんッスか、それ?それ、絶対にはぐらかしてますよね」
「違うよ。君が、私を満足させれる男になったか『試し』てるの」
わからねぇ。
なにを言ってるんだ奈緒さんは……
大体、そんなの今じゃなくても、いつでも試せるじゃないか?
それに奈緒さんの異変に気付いたのは、なにも俺だけじゃないだろうに……なんで、みんなは、此処に来ないんだ?
これじゃあまるで、こうなる事が解ってたみたいじゃないか。
なんなんだよ、これ?
「頼むよ、奈緒さん。これ以上、俺を不安にさせないでくれよ」
「それ……なんの不安なの?グスッ、ひょっとして私が、君の事を怒ってる、グスッ、とでも思ってるの?」
「違うのかよ?あの女の子達の件で、奈緒さんは怒ってるんじゃないのか?」
「くすっ、なんで私が、そんな些細な事で怒ると思ってるのよ。それにアレは、私にとっても、凄く嬉しい事だよ、クラ」
「なんでだよ?なんでそうなるんだよ?」
「あのねぇ、クラ。君は、まだ私の事がわかってないの?グスッ、誰かに君が評価されて一番嬉しいのは、他ならぬ私だよ。しかも、あんなに一生懸命になってくれるファンなんて、私にしたら、もぉ感激モノだよ。グスッ、だから私は、なにも怒ってない」
「だったらなんで……なんで奈緒さんは、さっきから泣いてるんだよ?なんで涙なんか流す必要があるんだよ。嬉し泣きじゃないだろ、それ!!泣いてないならコッチ向いてくれよ、奈緒さん」
「ちょ……やめてよ。ダメだって!!」
俺は言葉を掛け続けながら、抵抗する奈緒さんの肩を引いて、コチラを向かせる。
そう……矢張り、奈緒さんは泣いている。
顔に涙の跡が残る程、泣いている。
確かに声だけ聞けば、喜怒哀楽がハッキリしているから判断し難かった。
だが、それに反して俺が話し掛けた時から、止めどなくズッと涙が出ている。
その涙の流れた後に残る線は、奈緒さんが幾ら後ろを向いていても、クッキリと首筋にまで付いており、これを見れば、それは一目瞭然だった。
だから俺は、話が噛み合ってなくても、必死になっていた。
「その涙……どういう事だよ?どう説明すんだよ、奈緒さん?」
「クラ……君、最悪だ、ぷしゅん!!……」
「最悪とかじゃなくて!!どう言う事なんだよ!!」
「だ~か~らぁ、わかんないの?ズ~~~、ぷしゅん!!私はねぇ、初日に全員で行った山梨の遠征ライブでね。季節ハズレの花粉症に罹っちゃたのよ。ライブの途中で、薬が切れそうだったから、早めに切り上げて薬を飲もうと思ってたのに……君って奴は……ぷしゅん!!」
「えっ?へっ?あっ、あの、じゃ、じゃあ、今までコッチを向いてくれなかったのって……」
「ばかっ……こんな顔を、君に見せられる訳ないじゃない。ホント、最悪だよ。この無神経、ぷしゅん!!」
かっ、花粉症だと……
って事はなにか?
奈緒さんの言葉通り、彼女は、何も怒ってなかったって事か?
それに、初日から花粉症に罹ってたとしたら、此処数日の奈緒さんの険しい顔も頷ける。
あれって、鼻がムズムズしてて、気持ち悪かったんだ。
……っとなるとだ。
自動的に、今日のライブの早上がりも頷ける。
ただそうなると、なんで夏休みの宿題なんかやらさせたんだ?
まっ、まぁ……そこだけは、不明瞭な部分だが、一応、辻褄は有ってるな。
ってか、そんな事より、奈緒さんの花粉症マジ辛そうだな。
ライブ中……いや、この10日間、そんな事になってるとは露知らず、非常に申し訳ない限りッス。
しかも今回は、俺の早とちりと言うオマケ付き。
俺って、ホント救いが無いな。
最後まで読んで下さいまして、誠にありがとうございますです<(_ _)>
奈緒さん……ただの花粉症でした(笑)
だが、それだけが真実とも限らない。
何も起こらずに、倉津君は、次回も乗り越えられるのか?
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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