最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

207 不良さん、奈緒の奇妙な行動に対処しきれない

公開日時: 2021年9月1日(水) 00:21
更新日時: 2022年12月6日(火) 20:33
文字数:3,487

●前回のおさらい●


 倉津君が、自爆気味に色々悩んでいるご様子。

 まぁそんな感じでだな。

俺が『どうしたもんか?』と悩みながらも、本日のライブも終盤に突入。


残るは、ラスト一曲だけとなった。



「みんな、ありがとう……今日も最高だったよ」

「「「「「奈緒様最高!!」」」」」


奈緒さんに対する歓声は、いつも通り大きい。

ステージに立ってても、観客に圧倒される程の歓声だ。


あぁ……そう言えば、今日の奈緒さんは、終始『奈緒様ヴァージョン』だったな。

いつもなら『Troubling』(四苦八苦)が掛かったら『奈緒ちゃんヴァージョン』に変身するんだけどな。


まぁ『奈緒様ヴァージョン』で唄った『Troubling』(四苦八苦)も中々面白かった。


けど、ホント、この人、自分の中に蟠りが有っても、外には出さない人だな。

なんでも、そうやってムラ無くこなすもんな。



「じゃあ、今日、最後の曲には、私以外の雑音なんて必要ないから……私がソロで唄ってあげる」

「へっ?」


奈緒さんはそう言うと、嶋田さんのギター(B.C.Rich Mockingbird 80sハワイアン・コア)を取り上げ。


徐に、ギターを弾き始めた。


ちょ……奈緒さん、どういうつもりだよ?

今日の最後の曲は『Hybrid Memory』じゃなかったのか?


それとも奈緒さんは、マジで、単独でライブを乗っ取るつもりなのか?



「これが私の唄うラストソング。新曲『泡沫』聞いて……下さい」


-♪--♪-♪-♪----♪---♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--……


なんだ『泡沫』って?

そんな曲、練習中にも聞いた事もねぇ曲だぞ。


そんな風に、事態が飲み込めないまま『泡沫』と言う奈緒さんオリジナルの曲が始まる。



そんで俺はと言えば。

現状ではコード進行が全く解らないので、無様にも奈緒さんの曲に聞き入るしかなかった。


それは嶋田さんも、山中も、素直に於いても同じだ。

兎に角、そんな風に『聞く事を義務付けられた様な曲』だった。


そして、その曲は、とても静かな曲……


今ある物の全てが、泡沫の夢であった様に静かに崩壊に導かれていく。

その崩壊の中で、1人の人間は、それをジッと眺め続ける。

なにをする訳でもなく、ただ眺めている。


ある時……その人間は、なにかに気付く。

それは『自分自身が、その崩壊の元だった』と言う事に……


人間は悲しむ。

だが、世界の崩壊は一切止まらなかった……


それでも人間は、その崩壊を眺めて、悲しむ事しか出来なかった……



……ただ、そんな絶望的に曲にも拘らず。

最後の最後に、一音だけ、とても優しい音が入っていた。


何故だかは解らないが、その音が、全ての救いだった様に思える。


そんな曲を、奈緒さんは、嶋田さんから奪ったギターで音を奏で、自身の伸びのある声を使い、たった1人で完全に表現しきった。


それは、今までに無い高い完成度の曲だった。


けど、なんだ?

奈緒さん、どう言うつもりで、こんな悲しい曲を唄ったんだ?



「ありがと……コレで、今日は御仕舞い。じゃあね、BYE-BYE」


そう言い残して、観客の『アンコール』を無視し。

嶋田さんにギターを返しながら、足早に楽屋に去って行った。


俺は、得も言えぬ不安感から、慌てて奈緒さんの後を追う。



「なっ、奈緒さん!!どうしちゃったんッスか?なんで急に、あんな真似を?」


廊下で声を掛けたが、奈緒さんが振り向く様子はない。


そのままの体勢……俺に背を向けたままの状態で、言葉を紡ぎだす。



「うん?いや、別に意味なんて無いよ……ただ、新曲が完成したから、サプライズで、今日、発表しただけなんだけど?……曲、なんか変だった?」

「いや、曲自体は、凄く完成度の高い良い曲でしたよ……けど、そう言うんじゃなくて、奈緒さん自身に、なんか有ったんじゃないんッスか?」

「へっ?いや、なにもないよ。……なにを心配してるのか知らないけど。君は、何時まで経っても、そうやって私の後ろに居るんだね」


『後ろ』って……なんだよ?


突然、意味の解らない変な事を言うなよ、奈緒さん。


ヤッパ、今日の奈緒さんは少し変だよ。

どうしちゃったんだよ?

なにか俺に気に入らない事が有るなら、いつもみたいにハッキリ言ってくれよ。


それともこれって、自分の悪い所は、自分で気付かないとダメだって事か?



「奈緒さん、ごめん。ホント、ごめん。俺さぁ、奈緒さんに、また余計な心配をかけてたんじゃないか?おっ、俺、気付かない内に、なんかまた、奈緒さん傷付けたんじゃないか?」

「あっ……グスッ、どうしたのよクラ?変だよ?……それに私は、なにも君に傷つけられてなんていないよ。グスッ、なにを、そんなに心配してるのよ?」

「だってよ。奈緒さん……今日、絶対に変だって」

「そっか……そんなに変か……じゃあさぁ、グスッ、チューしてあげるから、私のなにが変なのか教えてよ」

「奈緒さん!!頼むから、今だけは、そうやって、はぐらかさないでくれよ」

「しょうがないね、クラは。グスッ……だったらさ、私を今から、ドキドキする様な、グスッ、デートに連れて行ってみ。そしたら、包み隠さず教えてあげるよ」

「なんッスか、それ?それ、絶対にはぐらかしてますよね」

「違うよ。君が、私を満足させれる男になったか『試し』てるの」


わからねぇ。

なにを言ってるんだ奈緒さんは……


大体、そんなの今じゃなくても、いつでも試せるじゃないか?


それに奈緒さんの異変に気付いたのは、なにも俺だけじゃないだろうに……なんで、みんなは、此処に来ないんだ?


これじゃあまるで、こうなる事が解ってたみたいじゃないか。


なんなんだよ、これ?



「頼むよ、奈緒さん。これ以上、俺を不安にさせないでくれよ」

「それ……なんの不安なの?グスッ、ひょっとして私が、君の事を怒ってる、グスッ、とでも思ってるの?」

「違うのかよ?あの女の子達の件で、奈緒さんは怒ってるんじゃないのか?」

「くすっ、なんで私が、そんな些細な事で怒ると思ってるのよ。それにアレは、私にとっても、凄く嬉しい事だよ、クラ」

「なんでだよ?なんでそうなるんだよ?」

「あのねぇ、クラ。君は、まだ私の事がわかってないの?グスッ、誰かに君が評価されて一番嬉しいのは、他ならぬ私だよ。しかも、あんなに一生懸命になってくれるファンなんて、私にしたら、もぉ感激モノだよ。グスッ、だから私は、なにも怒ってない」

「だったらなんで……なんで奈緒さんは、さっきから泣いてるんだよ?なんで涙なんか流す必要があるんだよ。嬉し泣きじゃないだろ、それ!!泣いてないならコッチ向いてくれよ、奈緒さん」

「ちょ……やめてよ。ダメだって!!」


俺は言葉を掛け続けながら、抵抗する奈緒さんの肩を引いて、コチラを向かせる。



そう……矢張り、奈緒さんは泣いている。

顔に涙の跡が残る程、泣いている。


確かに声だけ聞けば、喜怒哀楽がハッキリしているから判断し難かった。

だが、それに反して俺が話し掛けた時から、止めどなくズッと涙が出ている。


その涙の流れた後に残る線は、奈緒さんが幾ら後ろを向いていても、クッキリと首筋にまで付いており、これを見れば、それは一目瞭然だった。


だから俺は、話が噛み合ってなくても、必死になっていた。



「その涙……どういう事だよ?どう説明すんだよ、奈緒さん?」

「クラ……君、最悪だ、ぷしゅん!!……」

「最悪とかじゃなくて!!どう言う事なんだよ!!」

「だ~か~らぁ、わかんないの?ズ~~~、ぷしゅん!!私はねぇ、初日に全員で行った山梨の遠征ライブでね。季節ハズレの花粉症に罹っちゃたのよ。ライブの途中で、薬が切れそうだったから、早めに切り上げて薬を飲もうと思ってたのに……君って奴は……ぷしゅん!!」

「えっ?へっ?あっ、あの、じゃ、じゃあ、今までコッチを向いてくれなかったのって……」

「ばかっ……こんな顔を、君に見せられる訳ないじゃない。ホント、最悪だよ。この無神経、ぷしゅん!!」


かっ、花粉症だと……


って事はなにか?

奈緒さんの言葉通り、彼女は、何も怒ってなかったって事か?


それに、初日から花粉症に罹ってたとしたら、此処数日の奈緒さんの険しい顔も頷ける。


あれって、鼻がムズムズしてて、気持ち悪かったんだ。


……っとなるとだ。

自動的に、今日のライブの早上がりも頷ける。


ただそうなると、なんで夏休みの宿題なんかやらさせたんだ?


まっ、まぁ……そこだけは、不明瞭な部分だが、一応、辻褄は有ってるな。


ってか、そんな事より、奈緒さんの花粉症マジ辛そうだな。

ライブ中……いや、この10日間、そんな事になってるとは露知らず、非常に申し訳ない限りッス。


しかも今回は、俺の早とちりと言うオマケ付き。


俺って、ホント救いが無いな。


最後まで読んで下さいまして、誠にありがとうございますです<(_ _)>


奈緒さん……ただの花粉症でした(笑)


だが、それだけが真実とも限らない。


何も起こらずに、倉津君は、次回も乗り越えられるのか?


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート