●前回までのあらすじ●
入院中の倉津君。
そんな倉津君の為にお見舞いに来てくれた奈緒さんや素直ちゃん。
それに付け加えて、幼児に来ていたステラさん達と言う女性に囲まれて幸せ……に成る筈もなく。
何故か、その雰囲気は最悪にして険悪。
病室の空気が重い。
「あっ、あの、奈緒さん」
「うん?なに?どうしたの、クラ?」
うっ……うん?
あれ?あれれ?
俺の決死の覚悟とは別に、奈緒さんは拍子抜けするぐらい、普段通りの対応で応えてくれた。
その表情も、俺が話し掛けた瞬間に、先程の険しさは去り、アッサリ申し分ないぐらい笑顔になる。
あっ、あれ?なんだこれ?
この空気の重さは、俺のただの思い過ごしだったのか?
訳がわからないまま、話を続ける。
「いや、あのッスね。この間のライブでは、ご迷惑お掛けしました」
「へっ?……あぁなんだ、その事か。そんなの全然良いよ。君のパフォーマンスも見てて楽しかったし♪特に血だらけで演奏する『あれ』なんかシドっぽくて、凄くカッコ良かったよ♪」
「あぁ、そッスか?あぁけど、その後、ぶっ倒れて、救急車で病院。結局、みんなに迷惑掛けまくった感じなんッスけど」
「なに言ってんのよ。私は、君の『彼女』なんだから、そんな程度の事なんて微塵も気にしなくて良いんだよ。第一迷惑だなんて、これっぽっちも思って無いしね」
「そっ、そッスか」
「うん。気にしない、気にしない♪」
あっ、あれ?
ヤッパリ、普段通りの奈緒さんだな。
けど、今……必要以上に奈緒さん、自分が『彼女』だって言葉を強調してなかったか?
なんで今更、そんな事する必要が有るんだ?
それとも気のせいか?
まぁ取り敢えずだな。
奈緒さんは機嫌が悪い訳ではなく。
俺とは別の事で険しい顔をしていたのが判明したので、このミッションは、いとも簡単にコンプリートした事にしておこう。
では、次の標的である素直に話題を振る事にした。
「あぁそう言えば、さっきはバタバタしてたから、素直にも礼を言ってなかったな。この間のライブ、ありがとな」
「あっ、そんな。僕は、なにも出来なかったし。どちらかと言えば、迷惑掛けたのは僕の方ですよ」
「いやいや、そこじゃなくてよ。心配してくれて、ありがとうなって事だよ」
「あっ、はい……でも、僕も、向井さん同様、真琴君とは『バンドの仲間』だし。それに『中学校1年からのクラスメイト』ですから、心配するのは、普通だと思いますよ」
「そんなもんなのか?」
「はい。きっと、そうですよ♪」
うっ、うん?
奈緒さんに引き続き、素直の奴も、別に機嫌が悪い様子じゃないな。
……って言うか、奈緒さん同様、俺が話し掛けた瞬間、普段通りになったな。
まぁ敢えて、1つ気になる点が有るとすれば。
なんか知らんが『バンド仲間』って言うのと『中学校1年からのクラスメイト』って奴を、やけに強調して言ってる様な感じを受ける事位だな。
だがよぉ……『バンド仲間』も『クラスメイト』なのもなにも間違っちゃいないが、わざわざ今『中学校1年から』なんて言う必要性が、この場の何所に有ったんだ?
必要無くねぇか?
なんか聞き様によっちゃあ、俺と『一番長い時間を過ごしてる』って、言いたげな感じにも聞こえなくないんだが……これも気のせいなのか?
それとも俺が、自意識過剰な薄気味悪いナル野郎なだけか?
「ところでクラ」
「なっ、なんッスか?」
「クスッ、どうしたのよ?さっきから君は、なにを焦ってんの?」
「いやいや、焦ってないッス、焦ってないッス。全然、焦ってないッスよ」
「あっそ。じゃあ質問。そちらの方達はどなた?お見舞いの方?」
「あぁっと、えぇっとッスね。コイツは……」
「私はステラ=ヴァイっと申します。新しく真琴と結成したバンドのメンバーです」
「へっ!!えっ?えっ?新バンドのメンバー?ちょ、ちょっとクラ、それ、どういう事?」
「えっ!!」
奈緒さんと、素直は、ステラの言葉を聞いて、合わせた様に頭の上に『!!』を付けて一気に動揺する。
こんな話、急に聴かされたら、ヤッパリ吃驚するよな。
しかしまぁ……ステラに奴、やってくれやがったな。
一番最悪なタイミングで、最悪な自己紹介をしやがったよ。
こう言う重大な話は、事を起した張本人の口から聞かないと、聞いた相手は、中々、納得出来無い事が有るって言うのによぉ。
まったく、面倒な事をしてくれる。
「なにを驚いてるんですか?もし宜しかったら、事の経緯を、私から説明させて頂きますが、説明させて頂きましょうか?」
「ちょ、ちょっと待って、悪いけど私、君には聞いてないの。私は、クラに話を聞いてるのよ。……クラ、どういう事よ?」
「いっ、いや、あっ、あっ、あのッスね」
ヤバイ……また、恒例のドモりだ。
なんで悪い事をしてる訳じゃないのに、此処で変に動揺するんだよ、俺って奴はよぉ!!
下手に、こんな事したら、相手に変な誤解を招く様な結果になるだけじゃんかよ。
ドン臭過ぎる。
まぁそれよりもだ。
もっと不安なのは、この期を突いて、ステラがベラベラ余計な事を喋り始める事だ。
勿論だな。
ステラが、普通に何事も無く事情を上手く話すんなら、別に問題はなにもないんだが……コイツ場合に限っては、それは期待する方が愚かだ。
ご存知の通り、コイツは、果てしなく口が悪い。
従順な素直にだけ話をするならまだしも、もし此処で、変に奈緒さんに突っ掛かって行った日にゃ……病室が、想像を絶する様な、豪い事になってしまうのは必定。
そうなったら最後だ。
奈緒さんも、大概、意地が悪いから。
病室内は、奈緒さんVSステラの壮絶な舌戦になってしまう。
しかも、悪い事に最近の奈緒さんは、崇秀の悪い所を吸収してしまったから、以前にも増して意地が悪い事を平気で言う傾向がある。
だったら、こんなもん、誰が収拾するって言うんだ?
どう考えても、誰にも出来ないつぅ~の。
故に、事態が悪化する前に、早くなんとかしなくちゃな。
「いやいや、あの、あのッスね」
はい、ダメ人間発動!!
……なんて事、呑気に言ってる場合じゃねぇつぅの!!
男だったら、此処はビシッと決める所だろうに……
あぁダメだ。
俺が修正する前に、ステラが口を開き始めた!!
「向井さんっと言われました?アナタ、かなり低脳な方なのですね。真琴が、そんなに上手く説明を纏めて話が出来る訳がないんじゃないですか?バンドのメンバーなのに……いや、それ以前に、アナタは『真琴の彼女』なんでしたね。『彼女』にも拘らず、そんな事も解らないんですか?それとも真琴を精神的に虐めたいだけのサディストなんですかね?高校生でSMとは、あまり良い趣味とは言えんませんね」
「えっ?えっ?なにこの子?」
「反論には慣れてないんですね。女王様気取り程、滑稽な物はないですよ……向井さん」
うわっ!!この馬鹿、早速やりやがった!!
この女は、少しでも相手の隙を見せたら最後。
そこからジャンジャンと、言いたい放題罵詈雑言を生産する。
その上、性質が悪い事に、自分の言いたい事を言い切るまで、絶対に話が終わらない。
しかも、ほぼ、そう言った事に関してはエンドレスに出て来る。
兎に角コイツは、全世界でも類を見ない、性質の悪い口の持ち主だ。
だが、そんな奴を相手にして、奈緒さんが黙ってるとも思えない。
この人も、自分が納得出来なかったら、最後まで突っ掛って行くタイプだからな。
ヤバイ!!ヤバイ!!非常にヤバイ!!
なんでも良いから手を打たなくっちゃな!!
流石に、これ以上の悪化は望ましくない。
「ちょ、ちょ、ちょっと」
「女王様気取り?なにそれ?君、少しは、人を見る目ってものを養ったらどぉなの?それに初対面の人間を相手に、その言葉使い。礼儀ってものを知らないの?だから、君達外国人は図々しいって言われるの。言葉を、少しぐらい選んだらどぉなの?それとも選ぶ程の知性が無いの?」
うわ~~~、本格的に始まっちまったよ……
このパターンの奈緒さんも、ステラ同様、兎に角、性質が悪い。
言い出したら止まらないのもそうだが、自分自身で、それを制御するつもりが毛頭無い。
このまま行ったら、絶対に取り返しが付かなくなる。
ならもぉ、躊躇してる暇はねぇな!!
「ちょ、ちょっと待て……」
「言葉を選ぶですか?随分と面白い事を言うんですね。私は十分な程に言葉を選んでますよ。それでも、もしアナタが気を悪くしたと言うのなら、それはアナタ自身が、何所か思い当たる節が有るからじゃないんですか?私は、そう言った言葉を選んで話してますが……如何ですか?」
ダメでしたぁ~~~!!
早急に仲裁しようとしたんだが。
ステラの素早い口撃に打ち消されて、完全に消滅しましたぁ~~~!!
……って、だから俺!!
アホな事バッカリ考えてないでシッカリしろっての!!
そんな事を呑気に言ってる場合じゃねぇつぅの!!
……あぁダメだ。
そんな事を考えてるうちに、今度は、奈緒さんが口を開いちまった。
「詭弁ね。君は、言葉を選んだつもりになってるだけ。なに1つ選べてない。寧ろ、相手の神経を逆撫でする言葉を選んでいるだけの様にしか思えないんだけど。……もし、それを敢えて選んでいるって言うなら、君の言ってる言葉は間違ってないわね」
「神経を逆撫でする言葉ですか?どうして、そう言う風にしか捉えられないんでしょうね?アナタの言葉は、とても残念だし、言われている言葉も不思議で仕方がありません。少しで結構なので、物事を多角的に捉えられては、どうでしょうか?まぁ勿論、低脳な方には無理な話ですがね」
「君は、低脳って言葉が好きなのね。でも、もし君が、人にそれを言えるぐらい頭が良いのなら、どうして、その人の位置まで降りて来て、話が出来ないのかしらね?もし、それが出来無いなら、凄く頭の悪い人の言い分だよ。それに気付いてる?勿論、君の言う通り、低脳な人には解らないかも知れないけどね」
「私は、人間同士の会話で、遜る必要性を感じませんが。それ以前に、何故その人は、もっと自分を高めて、高見を目指そうとしないんでしょうね?そんな低脳な人に足を引っ張られるのは、御免被りたいものです。それともアナタは、馬鹿を扱う様に話をして欲しい人なんですか?変わった方ですね」
「今、君は、馬鹿を扱う様にって言ったよね。それって、その人を馬鹿にしてるって証拠だよ。自然にそう言う言葉が出るって事は、君は相当、人を馬鹿にしてるって事に成るんじゃないの?」
「ではアナタの言う、その、人の位置まで下がるって発想も、人を見下してるって事ですね。アナタは、人を見下して話をされてるって事で宜しいですか?」
うわぁ~!!
よくもまぁ、これだけ相手を罵る言葉が即座に出て来るもんだな。
馬鹿な俺から見たら、これは凄い事ですよ。
2人とも感心しました。
ですからですな、そろそろ口論は辞めてくれませんかね?
忘れられてるかもしれませんが……此処、一応、病室なんで。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
うん……これは、ちょっと流石に可哀想ですね。
でも、自分でなんとかしてください(笑)
さて、そんな舌戦が繰り広げられる中。
倉津君は、この2人の仲裁をする事が出来るのだろうか?
そして、どう動く素直ちゃん!!
(もっと酷い状態に成れ……)
もぉマジで辞めてくれぇ~~~!!(;゚Д゚) ('ω'*)だが断る。
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