●前回までのあらすじ●
嶋田さんが不在のまま、漸く、部屋に入る事が出来た倉津君。
そう思ったのも束の間。
どうやら、借金取りらしき人物が、扉を強く叩き始めた。
「あっ……」
そんな俺の借金取りのモラル的な思考とは逆に、この声に反応するかの如く、椿さんはビクビクし始める。
この椿さんの過敏な反応からして、これは恐らく、条件反射的なものだと思われる。
それにもし、本当にコイツが街金の借金取りなら。
相手の言葉使いからして、嶋田さんは、どこかの性質の悪い金融会社に金を借りてるみたいだな。
俺は、実家の職業柄、こう言う手合いの性質の悪い悪徳金融会社のやり口なら、よく知っている。
ビクビクする椿さんを見れば、コイツ等が、彼女に何かやったのかも明白だ。
しかしまぁ、もしそれが事実ならば、やってくれたな。
なんとも良い度胸してんじゃねぇか。
俺の大事なバンドのメンバーや、その彼女に手ぇ出すなんざ万死に値する罪だぞオマエ。
覚悟は出ているんだろうな?
「チッ!!調子に乗ってんじゃねぇぞ、この糞ボケがぁ~~~!!」
俺は扉の内側から『ガンッ!!』っと蹴って、これを挨拶代わりにする。
「ぐっ!!なんだぁ?オイオイ嶋田さんよぉ、今日は、やけに威勢が良いじゃねぇか?金を返す算段でも出来て、余裕でもあんのかよ?」
「あぁ?なに寝言を垂れてやがんだ、オマエは?テメェに返す金なんざ一銭もねぇよ。さっさとお家にでも帰れ、このチンピラが。……今なら、命だけは勘弁してやらぁ」
「ダメ!!ダメだよ、後輩さん。アイツに逆らったら殺されちゃうよ」
可哀想に椿さんは、俺のズボンの裾を必死に引っ張って、フルフルと首を振りながら訴えてくる。
こんなに脅えて可哀想に。
「あぁ心配ないッス。俺に任せて貰えば、万事何事も無しッスよ。椿さんは、そっちの部屋で耳を塞いでてくれれば、直ぐに解決します」
「えっ?でも、危ないよ」
「全然、大丈夫ッスよ。心配ないッス。だから椿さんは、向こうの部屋に行ってて下さい」
「えっ?あっ、うん……でもでもね、後輩さんは、ホントに大丈夫なの?」
「こんなの日常茶飯事。全然、大丈夫ッスよ。さぁさぁ、向こうに行ってて下さい」
「うっ、うん」
「オイコラ、なにコソコソ喋ってやがるんだ!!つぅかテメェなぁ、人に金借りて返さねぇってのは、どういう了見だ。扉が閉まってるからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
俺が椿さんと会話中だというのにも拘らず『ガンガン』っと扉を蹴りながら、まだ無駄口をほざきやがるか。
しかも、その男の声は、かなり若い。
この事から解る事が幾つか有る。
俺が理解した事は、単純な事だが重要な話だ。
①どこかの組の下っ端のチンピラが、上に言われて集金に来てる。
②高額な金利で金貸しをしている素人街金。
のどちらかだって話だ。
……っと、素人は2択と思いがちだが、現実はそうじゃない。
これについての選択肢は、もぉ確実に1択しか当て嵌まらないケースだ。
答えは、さっきから言ってる様に『②素人の金貸し』の線で間違いないだろう。
まずにしてな。
もしコイツが本物のヤクザなら、無断で、こんな馬鹿な時間に集金には来ない。
来たとしても、それは先方が指定した時だけだ。
付け加えて言うなら。この表に居る馬鹿の様に扉を蹴ったり、近所迷惑になる様なデカイ声で脅し文句を言ったりもしない。
何故なら最近では、法律でこう言った行為が違法とされているからだ。
故に、平然とこんな事をするのは『暴対法』を知らない相当な馬鹿。
若しくは、それを知った上で、昔のヤクザ紛いの脅迫をして、素人から金を脅し取るボケナスぐらいのもんだ。
自らそれを証明するなんざ、間抜けにも程がある。
『ガチャ』
奴の今の行動で、俺の心は決まった。
静かに扉を開く。
「オイコラ、嶋田さ~んよぉ、豪く調子乗ってくれちゃいましたね。……って、誰だオマエ?餓鬼には用は無いから、嶋田か、女出せや……って、痛てててて」
俺は一言も発さず、イキナリ、男の髪を掴んで部屋に投げ入る。
後は無言のまま、何発も何発も顔面に拳を振り下ろす。
「なにしやがりゅ!!イテェ、イテェ、やめろ」
「……黙れや」
此処で、コイツの言葉に耳を傾けてやる必要はない。
コイツは見るからに、ただの街のチンピラだ。
何所をどう見ても、何所かの組に所属している様な雰囲気じゃない。
まぁ正直、此処数年のヤクザ業も冷え切ってるからなぁ。
万年人手不足状態で『使えない馬鹿やアホでも雇う』なんて事も多々有るんだが、幾らなんでも、こんな馬鹿はヤクザでも雇わない。
俺は、そう言う人間バッカリ見てきたから、一目見れば大体は予想がつく。
故に、殴るのを辞める理由は一切無い。
勿論、悲鳴を出さない様、相手の口を押さえて殴っているのは言うまでもない。
「あぁこら?よくも人の家の前で、ピーチクパーチク囀ってくれやがったなぁ。テメェのバックは何所だよ?何所の組のもんだ?あぁこら?」
「うっ、うちのバックは遠藤組だ!!俺に、こんな事して、オマエ、タダで済むと思うなよ」
「遠藤か……遠藤ねぇ。そうか、そうか?そいつは良い。俺にとっちゃあ好都合だ」
「んだと?なに言ってやがる?遠藤組だぞ!!遠藤組!!」
「遠藤、遠藤、うるせぇんだよ……俺はよぉ、倉津組のもんだ」
「なっ!!」
「いやぁ、今、丁度よぉ。テメェんとこに戦争ふっかける準備中だったんだけどよぉ。オマエのお陰で、その手間が省けて、抗争の良い火種が出来たわ」
「なっ!!」
「……んな訳で、テメェにゃあ抗争の火種に成って貰う為に、テメェは今から、此処で全殺し確定だ」
「ちょ!!」
俺は問答を、これ位にして、再び殴り始める。
何故なら、例えコイツが本当に遠藤組の人間であったにせよ、俺には『遠藤康弘』って知り合いが居る。
それにもっと言うなら、奴にはベースの件で、小さいながらも貸しが有る。
だから、この程度の事なら、どうにで揉み消す事は可能だ。
これが、本当の殴るのを辞めない理由だ。
***
「もぉ辞めて~~。たすけ…てくだ…しゃい。本当……は俺、遠藤組とは、縁も所縁もありません」
「あぁ?今更、なに眠い事を吹いてんだ、コラ?一旦、遠藤組を名乗った奴を、そう易々と信用して組に帰せるかっつぅ~の」
「そっ、そんなぁ」
「それによぉ。これだけボコボコにシバいた奴を、ムザムザ俺が帰すって言うのも変な話だろ?だからよぉ、テメェは、もぉどの道、助からねぇって訳だ。今更、遠藤組だろうが、無かろうが関係ねぇ。テメェにゃあ、確実に、あの世に行って貰う。若しくは、バラして臓器倉庫行きだな。……お可哀想に」
「おっ、お願いです。助けて下さい。本当に俺は遠藤組じゃないんッス。口から出任せなんです。こんな事で俺、死にたくないッス。何でも白状しますから助けて下さい」
「ほぉ、じゃあまずよぉ。テメェが何者か教えろ?次、本当の事を言わねぇと、マジで、ブッ殺すからな」
「スッ、スッ、スッ、スマイル・カンパニーの安田って者です。ただの街の金貸し屋です」
ほぉ~らな、遠藤組じゃなかったろ。
まぁそれ以前に遠藤組も、こんな馬鹿は雇わねぇだろうよ。
「ほぉ、そうかい、そうかい。スマイルか……んで?何で遠藤を名乗った?」
「ウチの事務所が遠藤組の島に有るからです。それに此処ら辺一帯も遠藤の島だから、そう語りました」
「なんとも安易な発想だな。まぁ良い、テメェ、そのまま動くなよ」
そう言って、奴の口を、再度、左手で塞いで、右足で、右腕を思い切り踏む。
『ゴキッ!!』
その後は、右手で口を塞ぎ、左足で左腕を踏む。
『ゴキッ!!』
この時点で相手は声も出せず、口から泡を吹いて白目を剥いて失神しやがったな。
まぁなんだ。
早い話、動きを封じる為に、両腕の骨を綺麗に折った訳だな。
つぅか、気絶しちまったら、身動きもくそもねぇけどな。
んで、奴のポケットを漁って、証拠になる様な物を物色しながら、コイツの持ち物を、全てを床に投げ捨てる。
―――貴重品リスト。
①財布
②免許書
③携帯電話
それだけを別に除けて、コイツの持っていた携帯電話を勝手に借りる。
掛ける先は、勿論、遠藤の家だ。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございますです<(_ _)>
借金取りはアッサリと撃退しましたね。
椿さんの時は、無駄な位に苦戦してたのに……(ボソッ)
さて、そんな中、次回は。
なにやら遠藤さんに電話を掛けてるみたいですが、一体、何をする気でしょうか?
それは次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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