最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

051 不良さん 崇秀の演出や演奏に驚く

公開日時: 2021年3月28日(日) 23:21
更新日時: 2022年11月9日(水) 19:42
文字数:3,034

●前回のおさらい●


 凹んでライブハウスから出て行ったと思った崇秀だが。

崇秀は、何も気にしておらず、路上で演奏を始めようとする。


そしたら、崇秀の演奏の危険性を知ってる倉津君は、彼を止めようとするが、静止する前に演奏を始めてしまう。


横浜でテロが起こる!!っと一瞬焦る倉津君だが。

それに反して、崇秀から紡ぎ出された曲は非常にポップな曲で、街行く人の足を止めさせ、感動と元気を与えた様に見えた。


そして……

「「「パチ……パチパチパチパチパチパチ……!!」」」


やがて曲は終わり、盛大な拍手が街中で起こった。



「おっ?なんだ、これ?いつの間にか、人が集まってんな」


マジでコイツだけは……

自分の周りに人が集まった事すら本気で気付いていない様子で、意味もなく、周りをキョロキョロと見回している。

一体、どういう神経してやがるんだよ?


そこへ酔っ払いが絡んでくる。



「にぃちゃん、ギターを弾くのが上手いなぁ~~~。ヒック」

「おっ?あぁウッス、ありがとなオッちゃん」

「だからよぉ~~~。サービスで、なんか、もう一曲ぐらい弾いてくれよ。ヒック」

「もう一曲ねぇ……まぁ良いッスよ。何が良いッスか?」

「じゃあ、あれだ……おっちゃん達の年代と言えば『美空ひばり』が定番だろ」


無茶ブリも良い所だ。

この酔っ払いのオッサン、無茶振りもをするにも程があるぞ。


そりゃまぁ確かにな。

アンタの年代では『美空ひばり』が定番なのかもしれないがな。


崇秀は、あぁ見えて中二の餓鬼。

例え知ってても、そんな古い曲が弾ける筈が無い。



「良いッスよ。……『川の流れのように』で良いッスか?俺、それしか知らないし」


オマエは弾けるのかよ!!



「ほぉ~~~。そいつはまた、難しい曲を言いだしやがったな。やってみな」

「んじゃま」


♪♪♪~ ♪♪♪~


再び、あの例の時間が始める。


今度はギターのみ演奏で、崇秀自身が歌を唄う気配はない。

それでも、あの曲独特のしんみりした感じが、音の乗せられてやってくる。


瞬時に、まるで川のほとりを歩きながら、人生を振り返っている様な気分になる。

現に曲が終わる手前で、数人が感動のあまり泣きだし、その場に立ち尽くしている程だ。


そして、今度は、先程とは違う、ゆっくりとした優しい拍手が起こる。



「まぁ、上手く出来てるかどうかは解んねぇけど。オッちゃん、こんな感じで良いか?」

「おぉぉぉおおぉ~~~っ!!スゲェなぁ、にぃちゃん、じゃあ次は……ヒック」

「ちょっとオジサン、彼を独り占めしないでよ。……あの、次、私も、お願い出来ますか?」

「はい?あぁ、まぁ良いッスよ。なんにします?」

「あっ、あの、出来れば、さっきみたいなオリジナルでバラードを……」

「ははっ、バラードね。女の人ってバラードが好きですよね。良いッスよ……んじゃま、これで」


-♪--♪-♪-♪---♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-……


女性から齎されたリクエストはバラード。


そして奴は、なんの躊躇もなく、彼女のリクエストに応えるが如く。

女性心理の中で『恋愛』と『仕事』の狭間で揺れる様な歌を唄いだす。


しかも歌詞が、全部英語。

これには、此処に居る女性全員が崇秀に注目して、奴が紡ぎ出す音に酔いしれていく。


みんなトロ~ンとして、中学生の崇秀を見ている。


目が完全に羨望のまなざしだ。

こりゃあ、此処に居る女性全員落ちたな。


曲はショートなのか、3分ほどで終わる。



「こんな感じで、どぉ?」

「ありがとう。サビの部分が特に良かった。ホントありがとう。君のお陰で元気が出たよ」

「そりゃあ良かった」


あぁ、確実に今のは狙ってやってやがったな。


その証拠に、今リクエストした女性の年代は、見た感じ、就職3年目で25歳ぐらいのOLってところだ。

丁度、アイツが今唄った歌のモデルになった女性と同年代。


それ故に、2人の年代を上手くリンクさせて、仕事に、恋愛に忙しいこの曲のモデルと彼女の思考を上手く被らせている。

この同年代と言う部分だけをピックアップしても、2人には何点か共感する所が有った筈だ。


そう言う人にとって、こう言う曲は嬉しいものだ。

曲に対して、比較的『思い入れ』が強くなる傾向があるしな。


もし俺の考えている事が正解で有りならば、奴の考えは完璧だ。

……が、オマエは、基本的にマセ過ぎだ。


少しは自重しろ。



「んじゃま、そろそろ戻るとするか」


立ち上がった瞬間、奴に向かって激しいブーイングが起こる。


まぁ、これだけの感動を人に与えたんだ……こうなって然りだよな。



「いや、あの、ちょっと待ってくれよ。別に俺は、此処に路上ライブしに来た訳じゃないぞ。ちょっと疲れたから、休憩してただけなんだけどなぁ」

「じゃあ、後一曲だけ……お願い」

「……あぁ、もぅ解りましたよ。後一曲だけですよ」

「ヒデ君、こんな所でなにしてるの?」


突然、そんな声と共に、少し薄幸そうな少女がギャラリーを避けて、崇秀の前に現れた。


その瞬間、崇秀の口が『ラッキー』っと言った様な気がした。


……にしても、誰だ、あの女?



「おっ、おっ、丁度良い所に来たな。オマエ、此処で、なんか唄えよ」

「えっ?此処で?」

「オイオイ、なに言ってやがるんだ?此処でも、へったくれもねぇだろうが。歌と楽器があれば、そこがライブ・ハウスだろ。……それとも、オマエはギャラが無いと唄えないのか?」

「ちっ、違う。わかった、唄う」

「んじゃあ、ボーカルが決まったと所で行くぞ!!ラスト・ソングだ……曲を聞いて、腰砕けんなよ」


♪♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪--♪-♪♪--……


崇秀は、突然立ち上がり、激しくギターを弾き始める。

さっき程までの雰囲気との、あまりにも激しいギャップに度肝を抜かれ、ギャラリーは一瞬にして凍り付く。


……にしても、コイツはまた、意外なもの出来たな。


奴が弾いてるのはブラック・メタルだ。

この期に及んで、社会批判とは恐れ入る。


だが、この曲の選択は、あながち間違いではない。

これもまた、全てが英語で唄われているのだが、その歌詞の内容が、兎に角ヒドイ。


無能な官僚をなじり、ボケた経営者には殺意。

何所までも他人の無能さを唄い、批判の対象にしている。

それだけに、昨今起こった『バブル崩壊の元凶』を奏でていると言う感じの曲だ。


まぁ言うなればだな。

これは今『此処に居る全員の心境を代弁している』っと、言っても過言じゃない。


それを例の少し薄幸そうな少女が、繊細かつ大胆に激しく唄う。

この曲は、彼女のイメージとは、完全にミスマッチだと思っていたのだが……とんでもない。


少女から吐き出される言葉は、全て汚いものだが、それを補っても、余りある美声と声量。

これがまた、聞く者の全てを飲み込んでいく。


彼女もまた、崇秀と同じ類の人間の様だ。

―――聞くだけで、社会に対して怒りが込み上げて来る。


それに崇秀の極悪なギターが加わる訳だから。

社会に対しての怒りから、このまま暴動が起こっても、なにもおかしくない状態になって行く。


まるで『音楽で洗脳』している様に見える。


それでも、少女は激しく唄い。

崇秀は、全てをぶち壊す勢いでギターを弾き、2人は演奏を辞める気配は一切ない。


オイオイオイオイ、このまま続けたら、本気で暴動起こるぞ。

俺が、そんな事を懸念する中、突然、崇秀のギターに異変が起こる。


先程の激しい曲調から一転。

打って変わった様に、急に曲のテンポを落とし、悲しげな音色を奏で始めた。


少女も、崇秀に目で合図を送り。

1トーンを下げ、此処からは曲を語る様に唄い始める。


彼女の声は、激しい曲より、物静かな曲に合う様だ。


だが、この曲……まるで、今起こっていること事態が虚構で有り、虚しい事だと言いたげな感じだ。

それに、とても儚い感じもする。


短く、そのパートは終わり。

最後に……崇秀が膝から崩れ落ちて、ギターを胸に仰向けに倒れる。

そして、少女が、その場にへたり込んで……ただ空を眺めた。


静かな幕切れだ。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


崇秀の演奏は、人々に元気を与えたり、煽ったり、まるで魔法の様なものですね。

恐ろしい男です。


そんな中現れた少女の正体は一体、誰なのでしょうか?


それはまた次回の講釈。


また遊びに来てねぇ(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート