●前回のおさらい●
凹んでライブハウスから出て行ったと思った崇秀だが。
崇秀は、何も気にしておらず、路上で演奏を始めようとする。
そしたら、崇秀の演奏の危険性を知ってる倉津君は、彼を止めようとするが、静止する前に演奏を始めてしまう。
横浜でテロが起こる!!っと一瞬焦る倉津君だが。
それに反して、崇秀から紡ぎ出された曲は非常にポップな曲で、街行く人の足を止めさせ、感動と元気を与えた様に見えた。
そして……
「「「パチ……パチパチパチパチパチパチ……!!」」」
やがて曲は終わり、盛大な拍手が街中で起こった。
「おっ?なんだ、これ?いつの間にか、人が集まってんな」
マジでコイツだけは……
自分の周りに人が集まった事すら本気で気付いていない様子で、意味もなく、周りをキョロキョロと見回している。
一体、どういう神経してやがるんだよ?
そこへ酔っ払いが絡んでくる。
「にぃちゃん、ギターを弾くのが上手いなぁ~~~。ヒック」
「おっ?あぁウッス、ありがとなオッちゃん」
「だからよぉ~~~。サービスで、なんか、もう一曲ぐらい弾いてくれよ。ヒック」
「もう一曲ねぇ……まぁ良いッスよ。何が良いッスか?」
「じゃあ、あれだ……おっちゃん達の年代と言えば『美空ひばり』が定番だろ」
無茶ブリも良い所だ。
この酔っ払いのオッサン、無茶振りもをするにも程があるぞ。
そりゃまぁ確かにな。
アンタの年代では『美空ひばり』が定番なのかもしれないがな。
崇秀は、あぁ見えて中二の餓鬼。
例え知ってても、そんな古い曲が弾ける筈が無い。
「良いッスよ。……『川の流れのように』で良いッスか?俺、それしか知らないし」
オマエは弾けるのかよ!!
「ほぉ~~~。そいつはまた、難しい曲を言いだしやがったな。やってみな」
「んじゃま」
♪♪♪~ ♪♪♪~
再び、あの例の時間が始める。
今度はギターのみ演奏で、崇秀自身が歌を唄う気配はない。
それでも、あの曲独特のしんみりした感じが、音の乗せられてやってくる。
瞬時に、まるで川のほとりを歩きながら、人生を振り返っている様な気分になる。
現に曲が終わる手前で、数人が感動のあまり泣きだし、その場に立ち尽くしている程だ。
そして、今度は、先程とは違う、ゆっくりとした優しい拍手が起こる。
「まぁ、上手く出来てるかどうかは解んねぇけど。オッちゃん、こんな感じで良いか?」
「おぉぉぉおおぉ~~~っ!!スゲェなぁ、にぃちゃん、じゃあ次は……ヒック」
「ちょっとオジサン、彼を独り占めしないでよ。……あの、次、私も、お願い出来ますか?」
「はい?あぁ、まぁ良いッスよ。なんにします?」
「あっ、あの、出来れば、さっきみたいなオリジナルでバラードを……」
「ははっ、バラードね。女の人ってバラードが好きですよね。良いッスよ……んじゃま、これで」
-♪--♪-♪-♪---♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-……
女性から齎されたリクエストはバラード。
そして奴は、なんの躊躇もなく、彼女のリクエストに応えるが如く。
女性心理の中で『恋愛』と『仕事』の狭間で揺れる様な歌を唄いだす。
しかも歌詞が、全部英語。
これには、此処に居る女性全員が崇秀に注目して、奴が紡ぎ出す音に酔いしれていく。
みんなトロ~ンとして、中学生の崇秀を見ている。
目が完全に羨望のまなざしだ。
こりゃあ、此処に居る女性全員落ちたな。
曲はショートなのか、3分ほどで終わる。
「こんな感じで、どぉ?」
「ありがとう。サビの部分が特に良かった。ホントありがとう。君のお陰で元気が出たよ」
「そりゃあ良かった」
あぁ、確実に今のは狙ってやってやがったな。
その証拠に、今リクエストした女性の年代は、見た感じ、就職3年目で25歳ぐらいのOLってところだ。
丁度、アイツが今唄った歌のモデルになった女性と同年代。
それ故に、2人の年代を上手くリンクさせて、仕事に、恋愛に忙しいこの曲のモデルと彼女の思考を上手く被らせている。
この同年代と言う部分だけをピックアップしても、2人には何点か共感する所が有った筈だ。
そう言う人にとって、こう言う曲は嬉しいものだ。
曲に対して、比較的『思い入れ』が強くなる傾向があるしな。
もし俺の考えている事が正解で有りならば、奴の考えは完璧だ。
……が、オマエは、基本的にマセ過ぎだ。
少しは自重しろ。
「んじゃま、そろそろ戻るとするか」
立ち上がった瞬間、奴に向かって激しいブーイングが起こる。
まぁ、これだけの感動を人に与えたんだ……こうなって然りだよな。
「いや、あの、ちょっと待ってくれよ。別に俺は、此処に路上ライブしに来た訳じゃないぞ。ちょっと疲れたから、休憩してただけなんだけどなぁ」
「じゃあ、後一曲だけ……お願い」
「……あぁ、もぅ解りましたよ。後一曲だけですよ」
「ヒデ君、こんな所でなにしてるの?」
突然、そんな声と共に、少し薄幸そうな少女がギャラリーを避けて、崇秀の前に現れた。
その瞬間、崇秀の口が『ラッキー』っと言った様な気がした。
……にしても、誰だ、あの女?
「おっ、おっ、丁度良い所に来たな。オマエ、此処で、なんか唄えよ」
「えっ?此処で?」
「オイオイ、なに言ってやがるんだ?此処でも、へったくれもねぇだろうが。歌と楽器があれば、そこがライブ・ハウスだろ。……それとも、オマエはギャラが無いと唄えないのか?」
「ちっ、違う。わかった、唄う」
「んじゃあ、ボーカルが決まったと所で行くぞ!!ラスト・ソングだ……曲を聞いて、腰砕けんなよ」
♪♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪-♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪♪♪♪-♪-♪♪--♪-♪♪--……
崇秀は、突然立ち上がり、激しくギターを弾き始める。
さっき程までの雰囲気との、あまりにも激しいギャップに度肝を抜かれ、ギャラリーは一瞬にして凍り付く。
……にしても、コイツはまた、意外なもの出来たな。
奴が弾いてるのはブラック・メタルだ。
この期に及んで、社会批判とは恐れ入る。
だが、この曲の選択は、あながち間違いではない。
これもまた、全てが英語で唄われているのだが、その歌詞の内容が、兎に角ヒドイ。
無能な官僚をなじり、ボケた経営者には殺意。
何所までも他人の無能さを唄い、批判の対象にしている。
それだけに、昨今起こった『バブル崩壊の元凶』を奏でていると言う感じの曲だ。
まぁ言うなればだな。
これは今『此処に居る全員の心境を代弁している』っと、言っても過言じゃない。
それを例の少し薄幸そうな少女が、繊細かつ大胆に激しく唄う。
この曲は、彼女のイメージとは、完全にミスマッチだと思っていたのだが……とんでもない。
少女から吐き出される言葉は、全て汚いものだが、それを補っても、余りある美声と声量。
これがまた、聞く者の全てを飲み込んでいく。
彼女もまた、崇秀と同じ類の人間の様だ。
―――聞くだけで、社会に対して怒りが込み上げて来る。
それに崇秀の極悪なギターが加わる訳だから。
社会に対しての怒りから、このまま暴動が起こっても、なにもおかしくない状態になって行く。
まるで『音楽で洗脳』している様に見える。
それでも、少女は激しく唄い。
崇秀は、全てをぶち壊す勢いでギターを弾き、2人は演奏を辞める気配は一切ない。
オイオイオイオイ、このまま続けたら、本気で暴動起こるぞ。
俺が、そんな事を懸念する中、突然、崇秀のギターに異変が起こる。
先程の激しい曲調から一転。
打って変わった様に、急に曲のテンポを落とし、悲しげな音色を奏で始めた。
少女も、崇秀に目で合図を送り。
1トーンを下げ、此処からは曲を語る様に唄い始める。
彼女の声は、激しい曲より、物静かな曲に合う様だ。
だが、この曲……まるで、今起こっていること事態が虚構で有り、虚しい事だと言いたげな感じだ。
それに、とても儚い感じもする。
短く、そのパートは終わり。
最後に……崇秀が膝から崩れ落ちて、ギターを胸に仰向けに倒れる。
そして、少女が、その場にへたり込んで……ただ空を眺めた。
静かな幕切れだ。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
崇秀の演奏は、人々に元気を与えたり、煽ったり、まるで魔法の様なものですね。
恐ろしい男です。
そんな中現れた少女の正体は一体、誰なのでしょうか?
それはまた次回の講釈。
また遊びに来てねぇ(*'ω'*)ノ
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