●前回のおさらい●
倉津君の言動から、なにかを色々察した崇秀。
そして、そこから繰り出された言葉は……
「オマエさぁ。男に戻りたい比率と、今の女のままで良いって思ってる比率って、どれぐらいだ?」だった。
「オイ、オマエ……今更なに言ってやがんだよ。そんなもん100%男に戻りてぇに決まってんだろ」
「そっか。じゃあ続けて質問だ。それは見栄を張らず『ヤクザの看板』も込みでの話でもか?」
「なっ、なにが言いたいんだよ?」
「オマエさぁ、本心じゃ『女のままでも良い』と思ってるんじゃないかって、聞いてんだよ」
「オイオイ、馬鹿も休み休み言えよな。んな訳ねぇだろ。……つぅか、それともなにか?オマエ自身が『研究が嫌』になったのか?」
「いいや、そうじゃねぇ。今のオマエの解答がどうあれ『研究』の継続だけは、なにも変わらない」
「そっ、そうか」
「……ただ俺は、嘘や、偽りのないオマエの本心が聞きたいだけだ。他意はねぇよ(この件に関しては、より正確なデータが必要だから、下手に妥協出来無いんだよな)」
うっ!!これは本当に嫌な質問をぶつけて来やがったな。
そして、この言動から言って、崇秀は間違いなく、俺の心の奥底にある願望を完全に見抜いてやがるな。
当然、この件に関して言えば、今、崇秀が言った通り『ヤクザの看板』云々の話が一番のメインなんだが。
この眞子って、この世に非ざるべき架空の人物で、此処数日、色々な人に接して来た上で、誰からも『訳隔てなく』必要とされ始めてるのが、俺にとっては少々羨ましく、また妬ましく感じてる部分があるんだよな。
これこそが、俺が眞子であり続けたいと願う正真正銘の理由だ。
実はな、俺がこう思うのにも、ちゃんとした理由があってな。
この前の文化祭の時に起こった『真上さんの虐めの件(第1部17話参照)』は、まだ記憶に新しいと思うんだが。
あの時にな、真上さんと青山さんが和解した後、真上さんの提案により『みんなで遊びに行こう』って話が上がっただろ。
その際に俺は……今考えても、実に厚かましい話なんだが。
この話をみんなが納得して、その後も万事上手く行き、俺は『全員で遊びに行ける』っと踏んでいたんだよ。
だが、結果はどうだったよ?
病院に残ってくれたのは青山さんのみで、他の2人の女子からは『ヤクザの息子』と言うだけで完全に拒絶され、あまつさえ逃げられた。
あれ……あの時点では、なんとか強がっては居たが、実際は『スゲェショック』だったんだよ。
けど、俺がこう言う心理に陥った理由も、ちゃんと解っているんだぞ。
今まで知り合った人の殆どが、ヤクザの組長の息子言う事も気にせず、あまりにもフランクに接し過ぎてくれていた事が原因だと言うのは、自分でもよく解っているんだ。
それ故に、あの場面で、完全に『ヤクザ』と『一般人』の境にある壁にブチ当たってしまった訳だからな。
『ヤクザの息子じゃ、なにを頑張っても限界がある』ってな感じでな。
……そんな折、この『ヤクザ倉津真琴』とは無関係な『親戚の倉津眞子』と言う体を俺は手に入れてしまった。
そして最初は、奈緒さんの件を含めて、女である事を激しく拒絶していたんだが。
眞子と言う体で日を追う毎に、みんなから訳隔てなく必要とされて行く様も目の当たりにしてしまった。
こんな風に、世間体を何も気にせずに居られる世界がある事を体験してしまった。
だからこそ俺は、この体に固執して「手放したくない」っと思っている部分があるんだよ。
……正直、今現在の俺自身が『眞子』である以上、こんな事を羨ましがる必要等無いのだが、この体だと一生そのままの生活が出来る。
勿論、この体は、女性なだけに不便な部分も多々有るが……
それを差し引いてでも『この体を手放したくない』と言う心理が、心の中で多大に増幅し続けている。
っとは言え、別に、特別『女である必要性は皆無』なんだが『他人に成りたいと言う願望』だけは、そんな風に日に日に肥大して行っている訳だ。
気持ち悪いと思われるかも知れないが……それが、今の俺の、なにも隠さない真っ裸の心境。
こんな話を聞いたら、崇秀は、一体、どんな風に思うんだろうな?
「あの……あのよぉ、崇秀。今から少し変な事を言うかもしんねぇけど、出来れば気持ち悪いとか思わないでくれな」
「あぁ、勿論だ。そんな事は、罷り間違っても思わねぇよ。思う訳がねぇ」
……そうだよな。
例え俺が、どんな事を言ったとしても。
崇秀が、俺に対して、そんな気持ち悪いなんて思う様な事がある筈ないよな。
コイツは俺にとって、奈緒さん同様の一番の理解者であり。
マジで俺は、コイツの事を親友だと思ってるからな。
この話をする為にも、今は、そう信じるしかないよな。
「あぁ、じゃあ、正直に言うぞ。俺は……このまま眞子で有り続けたいと思う気持ちは多大にして有る」
「だよな。そうだと思ったよ」
「あぁ……ただな。此処だけは、変に誤解しないで欲しいんだが。『女で有りたい』とか思ってる訳じゃないんだぞ。俺は、誰でも良いから『他人になりたい』んだよ」
「なるほど、OKだ。じゃあ、此処からは、それを踏まえた上で質問を変えよう (矢張り、コイツの精神の女性化は『ヤクザ』に縛られない為の変身願望から来てるものだったか。……良くわかった。なら俺も、此処からは別方向に思考の転換をすべきだな)」
「あっ、あぁ……でも、頭が変になったと思ったか?」
「良いや、全然思わねぇな。寧ろオマエなら、そう考えて当たり前だ」
異な事を言うな。
崇秀がこう言うって事は、矢張り崇秀は、この気持ち悪い話を何の抵抗もなく受け入れてくれてるって言う事なのか?
一般的に考えられる様な『女に成りたいだけ』の気持ち悪い奴とは受け取らないって言うのか?
いやまぁ確かに、コイツにそう思われるのは精神的な苦痛。
そう思わないだけでも、非常に有り難い事なんだが……なんでだ?
なんで、そこまで簡単に、この話を受け入れられる?
「なんで、そんな風に捉えられるんだ?」
「なんでも糞も、そうやってオマエが、有り得ない事実を手にしちまったから、そう思わざるを得ないだろうに」
「それって、この体の事か?」
「そうだ。良く解ってんじゃねぇか。なまじ、自分の希望を叶えられる体が有ったら、それに『縋りたくなる』のは、人間としては極当たり前の感情だ。……だから別に、これはおかしな事でも無きゃ、気持ち悪がる様な話でもねぇんだよ」
「オマエ……」
崇秀は、なにもかも全部理解してくれた上で、この話を受け入れてくれてたんだな……
「ただな……」
「『ただ』?……ただ、なんだよ?」
「ただな。そこまで思ってるなら、どうしても1つだけ気に喰わない事がある」
「なんだよ?」
「何故、それだけの想いが有るのに、オマエは、その眞子って女に成り切ってない?何故、その倉津眞子と言う女に、完全に成っていない?……そこだけは、どうにも納得出来ねぇな」
はぁ?
「いや、だって、そんな事を言われたってよぉ。男に戻るかも知れないんだから、完全に女に成る訳には行かないだろうに」
無茶を言ってくれるな。
奈緒さんの件も然りなんだが、男に戻った時、女の習性が完全に身に付いていたら、男として生きて行くには辛すぎるだろうに。
それになにより、そうやって倉津眞子で生きて行くって事は、オマエが必死にやってくれてる『研究が水泡に帰す』って事にも成り得るんだぞ。
必至にやってくれてるのに、そんな真似が出来る訳ないだろ。
だから俺は、出来るだけ男女のバランスを取って生きて行くしかねぇんだよ。
ってかコイツなら、そんな事ぐらい解りそうなもんなのにな。
なんで、こんな間の抜けた事を言い出してんだ?
「あんなぁ倉津。あんま都合の良い事ばっかり言ってんじゃねぇぞ。そんなもん、ただの言い訳じゃねぇか」
「言い訳じゃねぇよ!!」
「なら、なんだ?……今のオマエは、都合の良い部分だけを全て得ようとしてるだけに過ぎねぇんじゃねぇの?リスクも無しに、倉津眞子で生きれると思う、その甘い心境はなんなんだよ?」
「そうじゃねぇんだよ。そう言う甘いとかの問題じゃねぇんだってばよ」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「……第一、男に戻れる時点で、倉津眞子は消滅する。そうやって消滅する事が前提になるなら、今の自分が上手く舵を取って、自分で心のバランス取り続けるしかねぇんじゃねぇのか?俺は、そう言ってるだけだろ」
「ほぉ。そこまで覚悟があって、そうやって断言するんだったら、今からオマエの生き様って奴を見せて貰うぜ (良し、少々煽った部分があったにせよ、これは思った通りの展開だ。これで、こいつの足枷を外してやれるかもしれねぇな)」
それって、なんの話だよ?
なんか崇秀との間に、妙な意見の食い違いがある様に感じるんだが……
大体して、現状で、なんの生き様を見せろって言うんだよ?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
倉津君には倉津君也の考えがあり、崇秀の意見に真っ向から反論し。
崇秀には崇秀也の考えがあって、ズケズケと倉津君の精神を抉っている様な状況なので。
今はまだ両者の意見が、やや話が噛み合っていない様な状況なのですが。
この後、倉津君は『己の生き様を話す事に成り』
崇秀からは、それに付随した『提案がなされて行く』展開になって行く感じですので。
そこら辺を少しでも気にして頂ける様でしたら、是非、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
結構、意外な展開を用意させて頂いていますので(笑)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!