●前回のおさらい●
フレットレス・ベースの説明を向井さんにして貰う不良さん。
だが、説明の内容がイマイチ把握出来ないままの状態なのにも関わらず。
ベースが気に入ったのと、向井さんの「無理そう?」っと言う言葉にムキに成ってしまい、購入を決意。
その場で、イキナリ店員を呼び、そのまま購入しようとするが、向井さんに試し弾きをして貰う事を思いだし、それを実行して貰う。
そして良い音が出るベースだったので「このベース、当たりだったよ」っと言う向井さんの言葉に、ついつい反応して余計な事を言ってしまい、彼女を拗ねさせてしまう。
さて、どうする不良さん(笑)
「すっ、すんません」
「はぁ……もぉ、勝手にすれば」
そう言って、少し拗ねた奈緒さんは、この場から離れていく。
「あぁ……ちょ、ちょっと奈緒さん」
「あの、お客様。コチラの商品は、どうします?」
奈緒さんを追い掛けようとしたら、店員に止められた。
あぁまぁそうだわな。
閉店間際に来たんだから、客とは言え、これ以上、俺等に時間をとられるのは嫌だろうしな。
なら!!
「あぁ買います、買います。もしあれだったら、先に包んでおいて下さい」
「あっ、ありがとうございます」
「あぁ、あの、買いますけど。ちょっとだけ精算は待って貰って良いですか?」
「あぁはい。解りました。では、レジでお待ちしてます」
「ッス。……ちょ!!奈緒さん待って下さいよ」
そう言った後、慌てて奈緒さんを追いかける。
けど、そう言えば俺、ベースの金額聞いてねぇや。
まぁ良いか。
幾ら高いと言っても、どっかの糞高いベースみたいに何百万もしねぇだろ。
***
奈緒さんを追いかけた結果。
俺に文句を言いたかったのか、奈緒さんをアッサリ捕まえる事が出来た。
いや、寧ろ、掴まえたと言うより、俺を待ち構えていたっと言う方が、より正確かも知れない。
怒ってるな。
こりゃあ、大分、怒ってるな。
「あのねぇ、クラ。さっきのは、ちょっと酷くない?あそこで、あんな事を、普通言う?」
「いや、だから、すんませんって。ネタッスよ、ネタ」
いかんな。
こう言う悪癖は、どうにも山中のボケ菌に汚染されてる証拠だ。
あのアホ関西人が、いつも面白い事ばっかり言うもんだから。
つい俺も、自分が面白いと思った事を口に出しちゃう癖が有るんだよな。
此処は、反省だな反省。
「もぉ」
「怒んないで下さいよ。ってか、元々それに言い出したのは、奈緒さんじゃないですか」
「あぁ、そう言えば、そうだよね」
あれ?ケロッとしてる。
ってか、そんなに怒ってないご様子ですな。
だったら……
「あの奈緒さん、取り敢えず、ベースの精算をしたいんで、レジに戻って良いッスか?」
「あっ、ごめん」
「あぁ、良いんッスよ、良いッス」
なんかね。
俺、本当に、この人にはベタ惚れなんだなっとか実感しちまった。
このままじゃ、ナンデモカンデモ許しちゃいそうな勢いなんだよな。
こんなんで大丈夫か俺?
まぁなんにも増して、先にベースの精算しなくちゃな。
そんなツマラナイ事を考えるのは、その後にしよう。
……ってか、危険そうだから考えたくないんだろうな、俺。
「あっ、お帰りなさい。彼女、大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫ッスよ……ってか、彼女に見えました?」
「はぁ?違うんですか?」
「あっ、お幾らですかね?」
この店員、滅茶苦茶良い人だな。
奈緒さんを、俺の彼女だって見てくれるなんて、ドンだけ良い人なんだよ。
この店スゲェ気に入ったから、是非、人にも薦めるべきだな。
「あの定価が21万で20%OFFなんで168000円なんですけど、大丈夫ですか?」
「はぁ、大丈……」
「あっ、あの、もぅ少しまけて貰えませんか?彼、学生なんで……」
「へっ?」
「ですよね。……では、少々お待ちくださいね」
俺の支払う意思を無視して、店員は奈緒さんの言葉に反応。
そして彼は、どこかに電話をしながら電卓を叩き出す。
いやっ、あのぉ、別に、そんな事しなくても構わねぇけど。
大体、買い物って、店の言い値で買うのがセオリーってもんじゃねぇのか?
「じゃあですね。上に聞いた処30%までは値引きOKっと言う事なので147000円って事で」
「あっ、ハイ、じゃあ……」
「店員さん。あっ、あのピックと弦2セットづつ、オマケして欲しいなっとか……この子、まだ初心者だし」
「へっ?あぁ、まいったなぁ……けど、時間も無いですし、良いですよ。但し、他の人には、絶対言わないで下さいよ」
「ありがとう」
奈緒さんって、買い物上手なんか?
俺は、彼女の交渉の上手さに感心しながら、財布から金を出す。
「へっ?あれ?ローンじゃないんですか?」
「いやっ、キャッシュだけど?だって、中学生が、勝手にローンなんて組めないっしょ」
「はっ、はぁ」
何を驚いてるんだ、この店員は?
ひょっとして俺が、ローンなんぞを組むとか思ったのか?
もしそうなら、馬鹿言っちゃイケねぇな。
ローンってのは、人に金を借りる行為だろ。
=顔は知らねぇが、ソイツに借りを作るのと同じ。
そんなのお断りだ。
人間、身の丈に合った生活をしねぇと破滅しちまう。
あぁ因みにだが、この金は俺が稼いだ金だ。
先に言っとくが、カツアゲした金じゃねぇぞ。
親父の代行で取立てに行って、ちゃんと自分で稼いだ金だからな。
この後、精算を終わらせて店を出るんだけどな。
俺等が最後の客だったのかして。
店員に案内されながら、電気が、いくつか消えた店内を歩いて、裏口から出る羽目になった。
故に、もぅ時間は21時30分を廻っている。
***
外に出て思った事は、流石、政令指定都市だって事だ。
こんな時間になっても尚、まだまだ人が溢れかえっている。
そんな中、俺は、奈緒さんと一緒に駅に向かって歩いているんだが……
しかし、こんな遅くまで女の子を連れまわして良かったのだろうか?
なんか奈緒さんには悪い事をしたな。
じゃあせめて、なにかしろのお詫びをしなきゃな。
あぁ、それと、買い物に付き合って貰った御礼も必要だな。
「奈緒さん」
「んっ?なに?」
うぉ、新バージョン!!
『なに?』の前に『んっ?』が付いてる。
それだけで、以前と受ける感じが、全然違う。
はぁ~~~っ、ホント、女の子の表現力には負けるな。
なんて言いながら、照れてる俺。
「あっ、あの……」
緊張する俺。
「んっ?どうかした?」
「あの」
どもる俺。
「ちょ、大丈夫?なんか変だよ?」
「あっ、あの、前から気になってたんですが……」
「んっ?だからなに?」
「なんで奈緒さんって、そんなに可愛いんッスか?反則ッスよ」
「えっ?」
なに言ってんだ俺?
「クスッ、なにそれ?またからかってんの?」
「いやっ、そうじゃなくて」
上擦る俺。
いや、この、俺シリーズも、いい加減ダサいな。
もぉ辞めよ。
「そうじゃなくて……なに?」
「あの、初めて逢った時から思ってたんですが……」
「んっ」
「奈緒さんって、そんなに可愛いのに、なんで俺みたいなボンクラっと遊んでくれるんッスか?」
「なんでって聞かれても……困る」
「イヤ、だってそうじゃないですか。奈緒さん、折角、可愛いのに、俺なんかと居たら損するじゃないですか?それに俺なんかよりカッコイイ奴なんて五万と居ますよね」
「ねぇ、クラ。何が言いたいのかは知らないけど、損しちゃイケないの?」
「いや、そりゃあ構わないですけど。別に、敢えて損しなくても」
「ふぅ……じゃあ、損だと思ってない」
「けど……」
「口答えしないの。口答え禁止」
「また、そうやって、直ぐはぐらかす」
「はぐらかしてないよ。それに心配しなくても、クラは十分格好良いよ」
「えっ?……えぇえぇえぇぇぇ~~~!!」
はぁ?俺が格好良いだって?
そりゃあ勘違いですよ。
俺なんか、生まれて、この方13年。
一度たりとも、女子にモテた事なんかありませんからね。
それこそ告っても、ビビられて女の子が逃げて行くのがオチ。
誰も俺に、そんな事を言った奴なんていませんから……
まぁ、俺がモテない最大の理由は、女誑しの馬鹿秀が、いつも一緒だからでしょうけどね。
はぁ……ホント虚しいな。
「なんで、そんな反応するのよ?」
「だってよぉ……」
「……イジケ虫」
「えっ?」
「今、クラ、仲居間さんの事を考えてたでしょ」
「あぁ、考えたッスね」
「あの人は、特別な人間。……あんな人、滅多にいないよ」
まぁ……ありゃあ確かに、長い付き合いの俺から見ても、ハンパねぇバケモンだ。
なにをやらせても様になる男だ。
そんな事は重々承知している。
だからと言って、そのままギブアップする訳にもいかない。
同じ男として生まれた限りは、なにが有っても、誰であっても、絶対に負けるなんてミットモナイ真似は出来無いからな。
これは、世間で言えば、非常にツマラナイ事なんだが、俺にとっては大事な事だ。
ツレに負けるなんざ、絶対にお断りだ。
今、負けていようが、最後に勝てば官軍だからな。
でも、現時点では、奈緒さんの言う通りだ。
アイツに勝てる事なんざなにもないし、勝とうとする事自体が、所詮、夢物語。
今の俺では、なにをとっても勝てる要素が殆ど無い。
つぅか、あんな天才の上に努力する様な性質の悪い奴に、早々勝てるか!!
虚しいが現実だ。
それでも……俺は、アイツを比較対照にする事だけは確かだ。
「はぁ、これでも、一応は解ってるんッスよ。あんな化物みたいな奴、早々居ない事なんて」
「じゃあ、気にしなくても良いんじゃないの?」
「まぁ、そうなんッスけどね……でも、簡単に負けを認める訳にもいかないんッスよ」
「そっかぁ。男の子って大変だね。でもね、そう言う所が、クラの格好良い所なんじゃないかな」
「はっ、はは……それって、ホントにカッコイイっすかね?」
「私はカッコイイと思うよ。見た目とか、格好ばかり気にしてナヨナヨした男なんて最悪。そんなのに比べたら、クラの方が数十倍カッコイイよ……なんてね……なんかこう言う事を面と向かって言うのって、ちょっと恥ずかしいよね」
「奈緒さん……」
まだ逢って2回目だって言うのに、この人は、ちゃんと俺を見てくれてたんだな。
はぁ……まいったな。
これじゃあ俺が、奈緒さんにドップリ嵌るのも頷ける。
多分、相手のそう言う気持ちって、自分に全身から伝わって来るんだな。
いや、ホントまいった。
俺、本気で、この人の事が好きになりそうだ。
まぁ勿論、俺が奈緒さんを好きな事を、彼女が迷惑だと思わなかったらの話だがな。
「ねっ、そんな事よりも、クラ。おなかすかない?」
「あぁ、そう言えば、俺、昼から奈緒さんの学校の前では張ってたから、なにも喰ってねぇや」
「へっ?ちょ……まさか、私が出てくるまで、アソコで、ずっと待ってたの?」
「ッスよ」
うわっ、引かれたかな。
「ホントにもぉ、クラは困った子だね」
「いや、だって、奈緒さんが早退とかしたら不味いなって思って……すんません」
「はぁ……もぅ、ホント……まぁ良いか、でも、学校サボったらダメだよ」
「ッス」
「じゃあ、おなかも空いたし。此処は奮発してモスとかに行っちゃう?」
「そうッスね。でも、今日は、俺、奈緒さんを散々引っ張りまわしたから、絶対に此処は奢らせて貰いますよ」
「ダメだよ。ワ・リ・カ・ン」
「ダ・メ・で・す。今回ばかりは、奈緒さんが口答え禁止ッス」
「もぅ、なによ、それ?」
そう言って奈緒さんは、ちょっと頬を膨らました後、俺を見ながら『クスッ』っと笑ってくれた。
そんな彼女の笑顔を見ながら俺は『色々あったけど、今日はホント充実してる1日だな』っと思わざるを得なかった。
こんな日がズッと続けばいいのになぁ。
そんな事を考えながら、奈緒さんとモスに向かって行くのであった。
幸せだぁ!!
……ってか。
それは良いんだけどよぉ。
俺、なんか重要な事を忘れてねぇか?
なんか非常に重要な事を、奈緒さんに言わなきゃいけなかった様な気がするんだが……気にせいか?
(↑奈緒さんに会いに行った、当初の目的を完全に忘れてる俺)
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
これで七話は終了に成ります(笑)
ベースの件で揉めたり。
奈緒さんと買い物に行ったり。
お目当てのベースを買えたりで、比較的、幸せな時間を満喫する倉津君ですが……
世の中、そんなに甘くないのは当然の事。
次話では、結構、この子の人生を左右するお話が出てきます。
それが何かは……読んでくれると嬉しいなぁ|д゚)チラッ
そんな訳で次話から。
『第八話 不良さんの横浜事変』をお送りします。
是非、またお越しくださいね(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!