乙女の化生に紅を

いい子悪い子普通の子三つ数えてひとつの一
久末 一純
久末 一純

本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その七~剣戟娘:断八七志流可の章~

公開日時: 2021年5月12日(水) 14:24
文字数:1,107

 最初の交錯から同じ構図を描いて止まり、再び僕らは対峙する。

 一度目と変わることなく、たび相対する僕とカルシュルナさん。

 遮えるものなど何もなく、互いのが鬼気が鎬を削り火花を散らす。

 僕と彼女の殺意と闘志がぶつかり合い、不可視の雷光を奔らせる。

 そしてまたしても向けられる、彼女が告げる死の流星。

 その苛烈な一条の眼差しは、否が応でも僕に死を意識させる。

 魂を撫でていく死の感触に肌は粟立ち、全身の産毛が総毛立つ。

 それは途轍もなく心地いい、絶頂を覚えそうになる程の心の昂揚。

 お互いの戦意が滾り、張り詰め、漲った緊張感に包まれながら僕とカルシュルナさんは向かい合う。

 彼女の構えは最初のとき全く同じ。

 嫌、僅かな差だけどはっきりと違う。

 その微かな紙一重の差違に気づくかどうか。

 それが自分と相手、その生と死を境界線を決定的に分け隔てる。

 だからこそ、見極めないといけない。

 死んだら、そこで終わりなんだから。

 そこで、終わってしまうんだから。

 この、心ときめく素晴らしく時間が、

 それを一秒でも永く愉しみ味わう為に、僕はまだまが死にたくない。

 みんなとまたいつも通りに笑い合う為に、僕は生きて帰らなくちゃならない。

 だからこそ、カルシュルナさんを見定める。

 基本の型は初めと同じ。

 だけど、腰は更に深く落とされ重心が低くなっている。

 それでいて、姿勢はやや前のめり。

 後ろに引いた右足は、爪先だけが地面を噛んでいる。

 それに反するようにして、上半身は限界まで反らされている。

 まるで弦が切れる寸前まで、引き絞られた矢のように。

 剣を握る右の手は、たなごころを天に向けて捻り込まれている。

 そして髪の毛一筋たりとも揺らぐことのなく僕を見詰める、カルシュルナさんの瞳。

 次こそが、彼女の本気。

 見惚れている暇なんて微塵もない、おそらく眩い流星。

 僕の生命を穿ち抜く、絶死の一閃が放たれる。

 その瞬間を待ちわびながら、僕もカルシュルナさんに倣って構えを変える。

 彼女の生命を、斬る為に。

 右手の順手に持ち替えし深く握り直した太刀は、最早担ぐというより背負うようにして背中に回す。

 その右腕と交差するように、左手の大剣を右の腰だめへと持ってくる。

 そのまま外へと思い切り身体を捻じり、筋肉で縫い止めた。

 そして僕もまた、カルシュルナさんから一寸たりとも視線を外さない。

 そうして見た彼女は、薄く綺麗に笑っていた。

 それはとっても人間らしい、美しい微笑みを浮かべていた。

 きっと僕も、笑っているだろう。

 果たしてそれは彼女にとって、どんな存在に思えているんだろう。

 ひとに非ざる、ひとならざるものに見えているんだろうか。

 それはまるで自分もひとも喰い尽くす、獣の姿に、映るんだろうか。

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