本当は、嘘つきだったんですね。あなたは」
僕はわざと唇を尖らせてみせながら、非難めいた言葉を口にしてくカルシュルナさんを責め立てるようにする。
本心は、全く違う。
彼女がここまでのひとだったことに、歓喜と恐怖に心が震える。
そう、ここまでの全てが詐術。
この為の布石。
これまでが伏線。
確実に僕を殺す、その為に。
その為だけに、撒いた種。
彼女の持ち得る手札が、一閃の流星のみだと思わせることも。
このまさに土壇場で手の平を翻し、手の内を明かしたことも。
全ては、彼女の思惑と目論見通り。
「あら、ばれちゃったわね」
そう言って、カルシュルナさんの目が細まった。
まるで、悪戯を見つかった子供のように。
そしてその言葉とともに、二弾目の突きが放たれる。
僕はそれを、右の大剣を掲げることで受け止める。
彼女が剣を引いた間を縫って、僕が一歩踏み込もうとしたその瞬間。
三弾目の突きが、僕の右足の肉を削り取る。
そこに生まれた刹那の停滞に、四弾目の突きが視認不可能な速度で撃ち込まれる。
っ! 読んではいてもやっぱり、速い!
僕は踏み込んだ足を強引に引いて躱しながら、軸足で大きく飛び退って距離を取る。
急激な動きについてこれずに、足から流れる血が細い糸をひいていく。
そこから神経を逆流するように、奔る痛みが脳を灼く
その痛みが、改めて僕に思い知らせてくれる。
カルシュルナさんが、一体どこまでの兵なのか。
このひとを甘く見たことなんて、一度とありえはしない。
このひとを侮ることなど、一瞬たりとも許されない。
ただ彼女が純粋に、僕の見積もりと値踏みにおける全てを上回っただけのこと。
だけど、真逆これほどだったとは。
これほどの、化物をその身に宿していたなんて。
なんて、なんて。
なんて素晴らしい出逢いなんだ!
流石という言葉も出ない。
瞠目という言葉じゃ足りない。
だってカルシュルナは自分の間合いを保ったまま、一寸の間も空けることなく僕についてきたのだから。
そこから五弾、六弾と連続で突きが撃ち込まれる。
それを盾として掲げた剣の腹で受け、弾き、流しきる。
そこから踏み込もうとしても、既に不可視の刺突は装填されている。
突きの速さも異常だけど、それ以上に引きの速さが尋常じゃない。
その速さは、まさに桁違い。
常識外れの、人間離れ。
言葉通りに、人間の限界をとうに超えている。
ああ、やっぱりこのひとは。
「本当に、あなたは嘘つきなひとですね」
僕の本心からの非難の声に、返ってきたのは薔薇の微笑み。
「あら、ばれちゃったわね」
その言葉は殺気と同じ。
けど続く言葉はちがっていた。
「でも、許してちょうだいね。だってわたしは、これでも女なんですもの」
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