TRUE EYES:Outsider insights

さぁ…この新世界に平和という名の革命を。
天河流星
天河流星

新世界と塗りつぶされた過去

公開日時: 2020年9月29日(火) 00:44
更新日時: 2020年9月29日(火) 22:03
文字数:3,820

…上空から何かが聞こえる。……この空気を切り裂くような音はヘリの飛行音か。

きっと最後に殺した男が増援を呼んだのかな?……目当ての魔導書は手に入れた。

ここに長居するつもりはない、早急にここから離れた方が良さそうだ。

廃病院の外にある木の木陰から覗いていた私は、鬱蒼とした森の中へ……気配を殺しながら、奥へと姿を消していく。


深い森の奥へと進む中、闇が広がっていた森に月光の光が溢れてきた。

音はほぼ無く、あるとすれば梟の鳴き声ぐらいだろうか……幻想的で神秘的な光景。

だが……この景色に見とれてはいけない。あいつらが私を捜索しているかもしれない。


確実に撒くには、かなりの距離を取る必要がある……ならこの森の中を駆け抜けるしかないだろう。

そう考えた私はすぐさま行動に移し、自慢の身軽な体を利用しながら地形を味方に付ける。

外敵要因は私にしかない特別な個性で見つければいい……そうして私は奥へと走り抜ける、風のように。


すると進んでいく内にかなり開けた場所にでる。そこは……大きな湖。

朧げな満月が広い湖の水面に映し出されており、私は思わず足を止めてしまった。

と言ってもあいつらからは距離を取っているし…何より、先程の戦闘とこの森を走り抜けていたので体力を使ったので喉が渇いている。

生き物がいるという気配は感じられない為、私は満月が映る湖の方へと近づいた。


膝を落とし、顔を水面に近づけるとあることに気付く。―――血糊だ。

血糊が右頬に付着している、きっと先程の廃病院の戦闘で付いてしまったのだろう。


両手を水面に入れると凍えるように冷たい感覚が神経を伝って脳に送られていく。

水を掬い上げた手で冷たい感覚が顔全体に伝わりながらも血糊を落とす。

今度は再び掬い上げた水を口元へ運ぶ……冷たい水が喉を通して水分を補給する。

腕を下したと同時に私は水面に映り出される自分自身と目が合う。


最初はこのに軽く違和感を持っていたはずなのに、今では何とも思わない。…この世界に慣れてしまったという証拠なの?


……確実にに慣れてしまっている、だってを殺しているのだから。あの場所がある限り人間は……!


「この新世界で過ごしてもう二年か……」


……とため息を混じりに独り言を呟きながら、私は二年前の自分自身を思い出してゆく。


————————この新世界の始まりを。



◇◇◇◇◇



 ああ……どこか聞き覚えのあるような…ないような声が微かに聞こえてくる。


「さぁ…起きて…レン


そんな誰かの声が……私の意識の奥底から響き渡り、まるで深い深い海の底から引き上げられるような感覚で目を覚ます。


「うっ…!」と声を漏らしながらも眩い光と共に、瞼を開くとそこは―――見知らぬ巨大な空間であった。


「ここは…どこ?」


――周りを見渡すと広い休憩場、何かの販売施設、浮遊する機械。

だが、一番注目したのは…周りに居る大勢の人々だ。

額に角のようなものが生えている男。見惚れてしまうほど美しい金髪の女性、だが口の隙間からは小さな牙が見えていたり。

他にも獣に近いような人間やら人の形に近い機械…?


そのような人々が立った状態で瞼を閉じて、棒の様に立っている。中には目覚めゆく人も居るようだが…私と同じく見知らぬ場所にいて困惑している様子が目に見えて分かる。


脳が理解するのに時間が掛かる程の衝撃の連発で後ずさる体に右手が何かが当たる…フサフサとした気持ちいい触り心地。

「なっ、何?」と驚きを隠せないまま、恐る恐る視線を右手の方に向けたその正体は…


尻尾…?」


犬…いや狼のような尻尾が腰から生えてる。本当に訳が分からない…

なにか自分の体が変化している?……違和感を感じた私はガラス張りの販売施設に足を進める。

急いで走ってガラスの前に立ち、己の容姿をその目に焼き付ける。

灰色の短い髪に透き通るような薄水色の瞳、狼のような耳や尻尾に美しくとも、可愛らしい顔は私にとってはまるで…!


「誰…?」


…別人だ。だがしかし映す姿は紛れもない私自身。

―――その瞬間、違和感何かが同時に消えていく…ッ!?


「私…なの?」


突然、一つの疑問が頭をよぎる。


「―――私って…誰?」


己の過去の記憶が消えていた…まるで泡のように。


あれから数分後…私は休憩場のソファで座り込んいた。自分の過去を思い出そうとしても…


「何も…思い出せない」


俯いてしまうのと連動するかのように耳がしゅん…とし尻尾が少し下がる、どうやら感情と連動するようにこの尻尾や耳は動くみたい。

覚えているのはレンという名前のみ…それ以外は未だ闇の中、不安がこみ上げてくる。


ふと周りを見渡すとほとんどの人々が、目を覚ましていた。他者とコミュニケーションを取る者、助けを求める者

先程の私と同じく己の容姿を確認する者、そして過去の記憶を取り戻そうとする者達。

不安と恐怖がこの巨大な空間全体を覆っていた。


―――すると突然、アナウンスから低い声が空間全体を響き渡った。


「ようこそ…科学と魔術が交差する【新世界】へ……」

「何かおもてなしをしたいところだが…まずは自己紹介が先か?」


と謎の男は話し始め、周りは騒然とし始めた。……私も含めて今、置かれている状況が理解出来ない。


「私の名前は『R』、この空間…『lobby』の管理人だ」

「このlobbyは好きに使って構わない。中央の休憩場、右側の販売施設、左側の銀行は全て使える。」

「奥にあるマイルーム、訓練室も使えるが規則は守って貰おう。」


その瞬間、lobbyの中央から画面が飛び出す。

殆どの人が状況を理解出来ないまま、腑に落ちない顔でスクリーンに注目していく…

巨大なスクリーン画面にはこのような事が記されていた。


1,このlobby及びマイルームで、暴力又は殺人を禁止。違反行為と見なされた場合は相応の処罰が下される。

2,このlobby及びマイルームで、窃盗又は破壊を禁止。違反行為と見なされた場合は相応の処罰が下される。

3,このlobbyで、不適切、意味不明の行為を禁止。違反行為と見なされた場合は相応の処罰が下される。

以上の三つの規則を厳守せよ。


「では続けよう……」。とRは淡々と説明を続けていくのに対し、人々の困惑は加速していった。


「現在このlobbyには35109人々が居るが別のlobbyへ移転する事が可能だ」

「別のlobbyへ居る彼らもたった今している説明を聞いている。多い場所では8万人以上居るな」

「移転するには私と連絡を取らなければいけない為、これを支給しよう」


と言うと私も含めた、ここに居る人々全員の右手のひらが暖かい青い光が溢れ出し、手を開くと…

菱形の形をした青い石を手にしていた。いつの間にか手にしていたことに全員が驚きを隠せない。

何も持っていなかったはずなのにどうして……?


「その石には二つの使い道がある、一つは私との連絡手段。もう一つは【新世界】からlobbyへの転送手段だ」


転送という言葉に困惑しつつも私は青い石をジッと見つめていた。


「ではここら辺で、質問を設けよう。質問がある方は挙手を」


とRは質問する時間を与え、周りは更に騒然する中でレンの近くにいた赤髪の青年が挙手した瞬間、浮遊していた機械が彼の目の前にピタリと止まり中央にモニターが現れ、針鼠のようにツンツンな赤髪が特徴的な青年が映し出された。

画面に移された自分の顔を見て少し驚くが、顔付きを元に戻して彼は話し始める。


「まず…そもそも【新世界】って何だよっ!?」

「それから俺達はどうしてここに居る!過去の記憶がないのも関係しているんだろう?」


と彼は真剣な表情で尋ね、それに対してRは……?


「【新世界】についてはこれから話すつもりだ、【新世界】について説明した所で君達がどうしてここにいるのか。何故、過去の記憶がないのかを話そう」


「先程も言った通り【新世界】とは科学と魔術が交差する世界だ。二つの線を想像して欲しい。一つは現代技術が進歩した世界、度重なる戦争で銃器、自動車、医療技術等を生み出した世界だ」


「もう一方の世界は魔術が進歩した世界で呪文、呪術、錬金術などの技術があるがもう一つあるそれは『種族』だ。獣人、鬼、吸血鬼等の種族が数多く存在している。この二つの世界がまるで糸のように結びついた世界を我々はこのように名付けた…【新世界】と」


レンは先程見た自分の容姿が獣人だと気付く。レン以外もそうである、自分の容姿を見た者達が己の種族に気付く。

Rは淡々と話し続ける。


「そして次に、君達がどうしてここにいるのかについて話そう。それは二つの世界のどちらかの住人だからだ」


「そして最後の何故、過去の記憶がないのか。それは…答えられない」


「答えられない…?答えられないってなんだよ!」


赤髪の青年は怒鳴り……それに続くかのように周囲はRに対して批判する。


「強いて言えば…君達を守る為だ」


とRは答える。それ程、秘密だと大抵の人々が理解する。

「他に質問は?」とRは質問を募るが、大抵はRに対して批判する者達ばかりだ。挙手する人は居ない。


「では最後に心して聞いてほしい……!」


と言うRの言葉に批判する人々は押し黙る。


「君達は…この【lobby】が存在する限り…『死ぬことが出来ない』」


―――そんな言葉が人々の胸に突き刺さると共に、弱者喰らう獣を生み出す引き金となるなんてこの時の私は想像していなかった。


そして、大勢の人々は彷徨い続けることになってしまう…新世界という名の目に見えない牢獄のような地獄を……!

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