神に喧嘩を売った者達

~教科書には書かれない真実の物語~
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第35話 墓参り

公開日時: 2021年9月5日(日) 23:04
文字数:2,673

 翌朝、僕らは無事オリエンテーリングを終えて、合宿所を後にした。

 電車に乗って京市内へ。

 気がつくと、ルームメイトだった3人と、淳平が共に帰宅の途についている。

 といっても、僕はこのまま神戸へ向かうことにしていた。


 今の行政区では、京都と神戸は共に近畿として1つの行政区に属している。

 僕らが長期で仕事を行う場合、1つの行政区内でなら、ある程度自由に行動してもいいとされていた。あまり現場から離れると、上から怒られることになるけど、同じ行政区内なら、時間を見繕って移動するぐらいは許される。


 京都と神戸はJRでは1本で結ばれている。

 僕は、用事があるから、とみんなに別れを告げてJRへ向かった。

 一人で、のつもりだったけど、淳平が黙ったままついてくる。

 特に話しかけるでもなく、そっと側にいる。


 京都市内を出ると、霊だのあやかしだの、と言われる存在は、通常と変わりない様子だった。やっぱり京市内が問題、てことだろうか。

 京都から大阪を通りひたすら走る電車から見ても、特に変わった様子は見当たらない。人々が溢れる様子も、僕がちゃんと年を取れていた時代から、そう変わるもんじゃない。


 神戸、というのは、他の地方の人から見たら港のイメージが強いんだと思う。

 でも実際は山と海が近く、その境目をハイウェイや電車が走っている。

 いっぱんに山側、海側なんて言われていて、セレブが住むのは山側だ。古い町並みも寺社仏閣なんかも、意外と山側に集う。

 僕の目的地は、某山の上に立つ墓地だった。

 山肌に立つ墓地は、ほとんど山登りみたいに、そそり立っている。


 山、なんだけど、大量に建てられた墓石は、どれも海が見えるように、と、海側斜面にそそり立っていた。

 その巨大な墓地の中腹。

 そこに、僕の家、直江家の墓はひっそりと建っていた。


 僕は、墓地の下の直売所で、花や線香を購入し、区画ごとに設置された水道の側に置かれた桶に水を汲んで、久しぶりに墓を訪れる。

 丁寧に磨くが、僕以外に来る親戚等はいない。にもかかわらず、誰かが世話をしてくれているようだ。おそらくはAAOの依頼で、ここの寺の人が世話をしてくれているのだろう。


 そこの墓石に刻まれたのは僕の誕生日である1981年7月7日。

 そして、僕が力に目覚めた1995年1月17日。

 両親の命日は、いずれも忘れることが出来ない日だ。

 本来、ここにもう一つ刻まねばならないんだろう。

 1999年7月7日。

 僕が、人間を外れた日・・・


 僕はしばらく、ぼうっと墓や海を眺めていた。

 どのくらい経っただろう。

 僕は、桶等を元に戻し、山を下り始める。


 いったいどこにいたのか、気がつくと、淳平が僕の横に並んでいた。

 元来おしゃべりで軽薄を装う淳平だけど、こういうときはただ、黙って側にいる。

 別について来いとも、ついてくるなとも言わないけど、黙って側にいる。

 僕らは、お互いを見ることも、何かを話すこともなく、京へと戻った。



 京都市内に戻ると、相変わらずのお祭り騒ぎだ。

 僕は、自分の周りに力を巡らし、やつらが近寄らないように、不用意に近づいたらそのまま消滅させるように、と、力場をつくって歩いて行く。

 こうやって歩いていても、何か違和感を感じた。

 なんだろう、イラッとする感じは、単にヤツらがワラワラいるせいだけじゃないように思う。

 この辺りを解決すれば、この仕事は終わりなんだろうか、ぼんやりとそんなことを思いながら、歩く。



 寮に着くと、僕について淳平も僕らの部屋へとやってくる。

 入ろうと、ノブに手をかけると、中から笑い声が聞こえた。

 僕は淳平と目を合わせる。

 この声は、知っているけど、どうして?

 目線でドアを開けるように促され、僕は扉を開けて中に入った。


 案の定、というか、どうして、というべきか。

 先ほど僕の頭に浮かんだ人物たちが目の前にいる。

 「おっかえり~、遅かったね。」

 「どこ行ってた?お土産は?」

 「飛鳥ちゃん、もうご飯食べた?僕たち、飛鳥ちゃんのお兄様方にごちそうになっちゃった。」

 ?

 何、最後の?

 「何?僕のお兄様って?」

 「あれ、まだ知らない?この学校の寮って中学生と高校生が同部屋になるでしょ?高校生はお兄様として、中学生の勉強から私生活までご指導ご鞭撻してくれるんだよ。そんなことが分かってるようにって、中学生の面倒を見る権利と義務は内部生の特権だよ。どうしても受験やなんかで別の高校へ行っちゃったりしたお兄様の枠を得られる外部生は、超エリートなんだから。」

 「お二人とも、外部で編入組。たまたま2年同士っていっても、エリートじゃなきゃお兄様になんてなれないだろ?」

 「そうそう。だから飛鳥のお兄様には興味があったんだ。」

 「で、先にお邪魔して親交を深めてたんだ。」

 「にしても、マジモンのエリート!すっげーぇよなぁ。」

 ・・・・


 なんか、知らない情報が出てきた。

 なんだよお兄様って。

 なんだよエリートって。


 「ふふ。良かったねぇ飛鳥。もうこんなに良い子たちとお友達になれたんだね。」

 一体、何をどう話せば、そういう話しになるのか?

 女装をからかわれて、外出を説教された、程度のつきあいしかないんだが・・・

 「ねぇ、君たち。飛鳥ってば根は良い子なんだけど、ちょっとコミュ障気味でね。君たちでフォローをしてくれれば助かる。」

 「もちろんですよ、ノリ先輩。」

 「それと、クラスでの情報、毎日リークしにきます!」

 はぁ?何それ?

 「ばっかじゃないの?毎日なんて来るなよ!」

 「来なくても食堂でも会えるでしょ?」

 ・・・・

 「自分のルームメイトがいるだろ?」

 「うちは放任主義。」

 「僕も、成績さえ下がらなゃ、何も言われない。」

 「俺はリアル兄貴だし、今のところ迷惑さえかけなきゃ大丈夫。」

 「うちも放任主義だよ!いや放任主義にさせる。いいか、ノリもゼンも僕に関わるなよ。」

 「はぁ、何言ってんの?うちの方針は全力で構いまくる、です。」

 「フフ、危なっかしいもんね、飛鳥ちゃんて。」

 「そうそう。昨日一日でも何回ひやひやしたことか。」

 「いや、頼んでないし。そもそもそんな面倒なことやってないだろうが。」

 「うわぁ、まさかの無自覚ってやつ?リアルでいるんだぁ?」

 「多分、常識がちょっと違うみたいだからさぁ。僕たちの目の届かないところで、ホント、フォロー頼むよ。」

 「ウィッス、ノリ先輩。」

 「じゃ、飛鳥の機嫌が悪くなってきたんで、今日の所はこれで。ごちそうさまでした。」

 「したっ!」

 慌ただしく帰って行く3人。

 いったい何をしにきたんだか。



 「お二人に聞きたいことがあります。」

 完全に彼らの気配が消えて、雰囲気を変えたノリが言った。

 「飛鳥が、生徒を殴った、というのは本当ですか?」

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