神に喧嘩を売った者達

~教科書には書かれない真実の物語~
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sola

第19話 戦闘訓練(前)

公開日時: 2021年8月15日(日) 21:07
文字数:3,517

 翌日。

 僕は、会議室に呼び出された。


 大概は、この日は1年間のスケジュールが言い渡される。

 僕らザ・チャイルドと呼ばれる、60年前の7月7日に不死者となった、当時の戦闘要員は、それまで確認されている不死者に対して膨大な人数だが、それでも貴重な戦力と言える。そもそも戦闘訓練を受けた当時の最前線の戦士であり、かつ不死者である。一般の戦闘員=術者に対しても、そもそもが能力の高い者達の集団。

 本来は成人した、各ファミリーでも有能な者達が、あの人類を上げての総力戦に参加したんだ。僕みたいなイレギュラーはともかく、地位も力もある者達の集団だった。


 当時、AAOはまだ存在せず、そもそもがクラックとそこから現れる化け物には、ファミリー単位で対峙していたんだ。化け物、という意味ではそもそもこの次元に既存の奴らも含むけど、とりあえず、そもそもは霊能者個人が家や師弟制度からデカくなり、国単位になっていった。霊能力者の集団は、時に共闘し、時に相対し、歴史を裏から操っていた。


 有名な噂、でいえば、歴代のアメリカ大統領は、フリーメイソンに所属していた、なんて都市伝説はどうだろう。1ドル札を出してみるといい。そこにはメイソンのシンボルと同じピラミッドに瞳のマークが描かれている。

 全員がフリーメイソンの団員、というのは嘘だ。しかし、多くの者が、かの団体に所属し、メイソンの影が政府にちらつく、というのはあながち誤りではない。そもそもフリーメイソンは、太古エジプトにあるピラミッドを作った大工の集団だった。砂漠にそびえ立つ巨大な角錐の建造物には、今なお判明し尽くしていない謎がある。その謎を秘匿する組織がメイソンであり、彼らは数字のことわりを操る。現代 社会の基礎が、科学的な諸々の上に成り立っていることと、無関係ではない、ということらしい。


 まぁ、それはいい。


 そもそも1990年代には、多くの霊能者集団が、様々な名の下に乱立していた。今もその基本は変わらない。キリスト教のエクソシストや、イギリスのケルト系魔術師、天使の教えエノク教、悪魔教に、先ほどのメイソンも内包する数秘教、イスラムもヒンドゥも仏教も、細分化されてはいるが、大きな集団だ。

 日本でもキリスト教や仏教を基礎とするものなど、独自の宗派が多く存在する。

 彼らは、霊的な問題を処理することで、政界も経済界も手を伸ばしてきた。民間信仰の形で庶民生活にも密着してきた。

 人類の歴史と共に発展、変化してきたが、その大元は変わらない。

 魔を払う。

 異形を倒す。

 時に失敗し、民族が滅んだこともあった。

 世界が滅んだこともあったのだろう。伝説に残るムーやアトランティスなんていうのも、ひょっとしたら、侵攻を受けた影響かもしれない。


 ともかく、1990年代になって、多次元からの侵攻ともいえる現象が激しくなった。敵対していた勢力ではあるが、敵の敵は味方。より強い、より敵として明確な異形を屠るには、単独勢力では不可能になってきたんだ。


 まずは各国や地域での共闘が成立し、それが近隣国との人員のやりとりとなり、ついには国を超えた人類の共闘が行われることになった。

 日本だけで見ても、この頃から妙な災害や事件が多いことは歴史を紐解けば分かるだろう。

 初めて、共闘、というか、協力を全国の霊能集団に呼びかけたのは、迦楼羅と呼ばれる九州を拠点とする集団だった。

 そもそも日本は霊能者達の横のつながりが、かなり強い。

 この国は、守護の呪を得意とする一族に作られた、といっても過言ではない、と言う歴史があるからだ。有史以来この一族は土地そのものを使い、各種霊的結界を築いてきた。有名なのは、平安京か。かの一族が作ったこの結界はもうすぐ1500年という長い月日を視界に捉えられるような現代においても、未だ健在だ。あいにくこれを参考に作られた江戸のまちは、開国後の開発等により結界の多くを失ってしまったようだけれど。

 この霊的結界の有用性と壮大さを知る日本の多くの霊能一族は、従って、この一族を特別視している。そういうこともあり、この一族が一声かければ多くの者が協力できる体制がそもそも整っていたことが幸いした。


 その迦楼羅が、日本有数のその一族を頼り、日本霊能者たちによる初の共同戦線が築かれたのは、正に1990年のできごとだった。

 普賢岳の爆発。世間ではそういうことになっている。


 この後は、異変が北海道方面に集中したことも歴史が証明するだろう。

 そもそも本州は、様々な霊的結界が強いため、九州や北海道が狙われたらしい。

 平安京だけでなく、そもそもが畿=都を中心とした結界は、本州全土に緩く伸びている。

 もともとの派生の問題で、各種結界の要は幾内に集中する。強力なだけにここが壊れると弱い。多くの霊能者が幾内に集中するのも、そういう観点もあるようだ。

 そのため、この少し前から、既存の結界を強化し、日本全体を保護しようという動きが起きた。

 まず行われたのが、江戸の結界の修復・強化だ。

 この当時、景気は馬鹿みたいに上向き、不動産は意味がわからない高騰を続け、多くの建物が作られた。俗に言うバブル景気だ。東京はこの波に乗り、不可思議な建物が多くできた。しかし、このいくつかは、結界を作成するための依り代だ。建造物を使い巨大な魔法陣を描く。当時のエリート霊能者達が、当時の政府と共になしとげた。そのあと、容易にこれらを取得するために不動産の価値を下げることになった。俗に言うバブル崩壊。この一連の経済事象により、霊能者達は経済的覇権をも手にしたらしい。


 こうして、日本は幾内結界と江戸結界という二大結界を中心として保護されたが、侵攻の影響は並大抵のものではなかった。幾内結界を狙った侵攻が起こり、その防御戦が大々的に行われた。その最終決戦とも言えるもの、それが僕が遭遇した、化け物の侵攻。1995年1月17日淡路阪神大震災として歴史上記録に残っているものの真相だ。

 こうして僕は1995年、日本における政府肝いりの裏機関、後のAAO日本支部の元になる日本精神学会協力者協会というよく分からない組織に取り込まれた。


 ここは、霊的防御の最前線において共闘できるように、異なる宗派の戦士を集めて訓練し、実際に部隊を編成・派遣する組織だ。そして、そのバックアップとして、多くの文官や医療技官も参加している。その性質上トップシークレットであるが、警察や自衛隊も噛んでいる、実質的な日本の防衛システムとなっていた。

 ここには、そういう関係もあって、公務員関係者はエリートといわれる人の中でも選りすぐりの人間が、そして、各宗派からも他よりイニシアティブを取れるだけの要因を、と人員が送り込まれていた。そんなこともあって、30代40代の人間がほとんどだ。さらに上の人間なんかは、70代80代といった感じか。


 そんな中13歳の何も知らない一般人の子供である僕は、最年少23歳の淳平や数少ない20代の蓮華と共に、教練メインのチームに入れられ訓練を受けることになった。


 ここでの訓練は過酷を極めた。と、僕は思っている。淳平やその他の人間からしたら何を言っている?というレベルらしいけど、そもそも僕は普通の中学生だったんだ。体が小さいこともあって、運動部での活動は諦めていた。もっと小さい頃、近所の体操教室に通っていたから体操部、と考えたこともあったんだけど、中1の頃の僕は今よりもまだ小さくて、小学校中学年ぐらいのしかも女の子によく間違えられていたから、見学に行ったときに「かわいい」と、先輩達にたかいたかいをされて、2度と行くもんか、と、結局部活には入らなかった。文系には興味が無かった、というのもあるし、私立の名門男子校ということもあり、帰宅部が実は5割を超えていた、という環境もあったから、そもそもクラブに対して執着はなかったっていうのもある。

 そんなんだから、そもそも僕には上下関係とか、集団行動、なんて、発想自体がなかったんだ。父さんも優しいし、怒られた記憶なんてほとんどない。父子家庭で、母の分まで可愛がってくれようとしていたこと、褒めて伸ばす教育だったってこと、そもそも僕には大好きな父さんを困らせるようなことはできなかったから、聞き分けのいい良い子だったってこともある。

 僕があんなに怒れるなんて知ったのは、父さんが死んだとき初めてだったんだ。


 そんな、彼らにいわせれば軟弱な僕が、彼らの訓練についていけるはずもなく、不満を抱かないわけがなく。ただ一人の未成年ということもあって、反抗的、と捉えられた僕は、一緒に教練を受けるメンバーからも「教育」の名の下、壮絶ないじめ(と僕は思っている)を受けたんだ。

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