*本編前にマークのご案内です*
〈 〉内は英語でしゃべってます。
『 』は念話です。
ややこしいですが、頭でそう思いながらお読みください。
真新しい白い学生服。服の端はパイピングがされていて、それが独特のラインを描いている。僕が着ているのは赤色だ。なんでも入学した年によってこのパイピングは決められていて、今年は1年が青、2年が赤、3年が黄になっているらしい。この色使いは中等部と高等部が同じだから、ノリとゼンの二人も紺地に赤だったのは、二人も2年生だから。この前聞いたのだが、この学校の寮、中学生と高校生が2人ずつの4人部屋だが、ラインが同じ生徒が同じ部屋に入るらしい。で、赤、青、黄と、順番に部屋が並び、ネームプレートの枠が、その色で囲まれているのだそうだ。自分の部屋以外気にしてなかったが、なんか色がうるさいな、と思ってたのは、勘違いじゃなかったようだ。
蛇足だが、このパイピングは入学年で決まる。
中高共に落第制度があるが、留年者は一人違う色の制服で通うことになるらしい。さすがに中等部ではほとんどないようだが、高等部になるとチラホラ混じる。2留ともなるとさすがに浮くが、それでもいるのはいるらしい。色が同じになることもあり3留は認められないそうだ。病気でもそれは変わらず、そもそもの教育方針として優秀な者を育てる、ということなので、病弱者は去れ、ということのよう。いろんな意味で差別が横行しているのは、間違いない学校のようだ。
僕は、部屋まで迎えにきた淳平と連れだって寮を出た。
相変わらずの、あやかしである。
盆で増えるか、と思ったけど、そもそも多くて分からないぐらいの発生率だ。
僕らが、寮を出たとたん、何匹かがこちらに視線を向けた。
〈さ、飛鳥ちゃん、自分で結界もどき張っちゃって。ついでに僕ちゃん様も結界に入れてくれると嬉しいわん。〉
相変わらず、というか、いつも以上にうざいしゃべり。
僕は黙って、霊力を広げた。淳平も入れぐらいだから、この前ノリたちと出かけたときよりも多少大きく、4メートルか5メートルぐらい。
〈ん、いいね。消えるねぇ。あ、そうだ。先にいくほど緩くできる?〉
〈緩く?〉
〈うん。あのパキッて消えるのうざくない?ヤバイと思ったら近づくなって警告ぐらいして上げちゃおうよ。伸ばす感じ。できるでしょ。〉
淳平は、僕の霊力を持つと、中央ほど濃く、先に行くほど細く操作して、僕に主導権を寄こした。それをなんとか同じ感じで保持する。
〈上手、上手〉
言いながら、僕の頭を撫でようとするから、ばしっと払いのけてやった。
〈もう、いけずぅ。〉
僕は無視して歩く。
集合場所は、学舎付属の校庭とのこと。徒歩10分もかからないが、さらにその時間を減らして、こいつとの会話を減らそうと早足に歩いた。
確かに魔力を先細りさせていると、逃げる奴も増える。
逆に言うと、見える人間からしても残酷感は減る、のか?
足早に歩くこと数分。
僕らは、校門前につく。
京の町並みを意識してか、なんとなく濃い茶色で統一された校舎は、中高というより大学みたいだ。
〈あれ、飛鳥ちゃん、ビビった?〉
僕が校舎を見上げてると、後ろからそんな風に淳平が言う。
〈別に。ただ学校ってのはなんか、好きじゃないんだよ。特にこの体になってからはな。〉
〈フフ。飛鳥ちゃんも生徒と一緒に成長できたらいいですねぇ。〉
〈うっせいわ。〉
言いながら、注目されてるのを感じていた。
学年ごとに色が違うのを忘れていた。
今、ぞくぞくと入って来るのは青いラインの1年生だ。校門前で異国の言葉でわめいている怪しい上級生なんてのは、気になるのが当たり前。目立たないように、と思ってたのに、誰かのせいで初っぱなから躓きそうじゃないか。
ニヤニヤ笑ってる淳平を無視して、僕は校門を通過した。
通過したのは良いが、どこへ行っていいものやら。
校庭集合、と言ったって、そこそこ広い。
1年生は受付にいって、どうやらクラスを教えられ、場所を指定されているようだ。僕も受付?
そう思ってぼうっとしてると、校庭から走ってくる人影が。
「飛鳥様、ですよね。」
なんだこいつ。
「私、倉間葵です。」
知ってるよね、と言ってるみたいだけど、面識はないぞ。
「お嬢さん、生徒会の方ですか。ひょっとして帰国子女で編入生の彼を迎えに来てくれました?すいませんねぇ、日本語、咄嗟に出なくてびっくりしてるようで。」
そこにやってきた淳平が、僕の腕を引っ張って自分の後ろに置きながら、そんな風に言った。そこそこ大きな声で言ったのは、聞き耳を立てている新入生へと知らしめるためだろう。
「いえ、私は。」
「あれ、生徒会の人ですよねぇ。その紫の腕章、生徒会でしょ。」
「それは、そうですけど。」
倉間と名乗ったその女生徒は、チラチラと僕を見ながら、淳平に遮られている。倉間?そうか、鞍馬の頭目の娘か。そういや3年と言っていた。前にいるのは数少ない黄色だ。
「生徒会のお仕事で、編入生を連れに来た、他にはないはずですよね。」
ずいっと顔を寄せつつ、淳平がいう。そして耳元で
「仕事の邪魔をするのであれば、引き下がってもらえますか、鞍馬とことを構えたくないもので。」
小さな声でささやくのが聞こえた。
座間葵は、ここからでも分かるぐらいピクッとして淳平を見た。
でもさすがに、裏の世界の教育は受けているんだろう、表情をアイドルを見るそれから、後輩を見るそれへと変えて、僕に向き直る。
「田口飛鳥君ですね。聞いていると思いますが、特別に新入生と一緒にオリエンテーリングを受けていただきます。私の日本語、分かりますか。こちらについてきてください。」
淳平が僕の背中を押して、前に出す。
〈まぁ、何かあったら呼びなさい。それと、日本では先生を付けるように。姓に先生。教師には全員です。〉
「分かってます。矢良先生。」
僕も、淳平の丁寧な英語に、先生宛の日本語で答える。
「先輩、お願いします。」
僕は倉間葵にそう言って、生徒会の集まっているところへと、気を引き締めつつ向かった。
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