拠点の位置から考えると近い海岸は西側か南側になる。
そして選んで向かった海岸は南側だ。
1日目で無人島を見わたした時に、南側は岩場や石が多い磯みたいになっているのが見えた。
磯なら海藻類や小魚、エビ、カニ、貝系といった色んな海の生き物がたくさんいる。
魚介類を狙うならもってこいの場所だ。
「お、思った通りだ」
拠点を出てから数分、南側の海岸に到着。
僕の予想通りこの海岸は磯になっているな。
今が干潮時なら潮だまりが出来ていて、そこから何か捕れるんだけど……。
「……んん?」
潮だまりがないか辺りを見わたすと、不思議な事に気が付いた。
それは僕の身長の倍以上に高くて大きい岩があちこちにある。
僕の世界でも、そんな大岩がある所はある……けど、こっちは妙に大岩の数が多い。
山から落ちて来たにしては数が多いし、波で運ばれたというのも大きさ的に無理がありすぎる。
じゃあ残るは空から降ってきた……とか?
いや、流石にそれは無いか。
「あっ! あそこで、トリウオがはねてるわ!」
「……へ? トリウオ?」
トビウオじゃなくて?
聞き間違いかなと思いつつアリサが見ている沖の方を見ると、魚が水面の上で飛び跳ねていた。
なるほど、あれは確かにトリウオだ。
ぱっと見はトビウオっぽい。
ただ、最大の特徴である胸ビレがアリサの様な鳥の羽になっている。
というか普通に羽ばたいて飛んでいるから滑空時間がすごい長いし。
あれは魚なのか? 鳥なのか? そもそも一体どういう進化を辿ればあんな姿になるんだよ。
「トリウオは、おいしいんだけど、今捕まえる手段がないのがな~」
どんな味がするのか、ものすごく気になる。
けど、アリサの言う通り今は捕まえる方法がないな。
沖にいるし、トリウオを手づかみで捕まえられる気もしない。
「む~……魔法が使えたらと、づくづく思うよ」
魔法か。
そういえば、こっちの世界ってどんな感じで漁をしているんだろ。
「ま、魔法を使ってどんな風に漁をするの?」
「どうって、普通よ? 雷魔法で、魚を感電させたり……」
電気ショックの漁は日本だと禁止です。
「水中の石に向かって、衝撃波を撃って、振動で魚を気絶させたり……」
形は違うけど、水中の石に別の石を強く当てる石打漁に似ているな。
ちなみにこれも日本は禁止です。
「うちの場合、風魔法で竜巻を作って、魚を空中に巻き上げてたわ」
あ、それ聞いた事があるな。
海の上で発生した竜巻が魚を巻き上げて、遠くの場所へと飛ばして空から降って来る奴。
……えーと、確かファフロツキーズ現象……だったかな。
「あ、母さんはすごかったよ。魚に警戒されない高さまで飛んで、そこから魚に向かって垂直に落下して、海に飛び込んで鉤爪で捕まえてたの」
それ完全に野生の鳥と同じ捕り方じゃないか。
魔法を使うより、そっちの方がハーピーらしい感じはする。
けど、なんでわざわざそんな事をしていたんだろうか。
話を聞く限り、魔法を使った方が圧倒的に狩りが楽なのに……。
「あっねぇねぇ。異世界は、どうやって魚を捕るの?」
「えっ?」
アリサが目を輝かせて聞いて来た。
うわ……これは特殊なやり方を期待をしている目だ。
どっどうしよう、これに関したら圧倒的に魔法の方が格が上。
適当にロボットが魚を捕るとか言うか?
いやでも、僕が知らないだけで実際に存在するかもしれない……もしかしたら、すごい技術を使った漁があっておかしくないよな。
「き、基本は竿を使って釣りをしたり、網で捕ったり、潜って銛で突いたり……かな」
もっとすごい漁をしている人が居たらすみません。
それで無茶振りをされても困るので、僕の知っている範囲で話す事にします。
「釣りって、魔法がうまく使えない、子供時代の遊びなんだけど……あ~……そ、そっか。リョーの世界だと、魔法が使えないから、そうなっちゃうか」
声トーンででわかる。
これは明らかにガッカリしているな。
やっぱり、ありえそうな物は話しべきだったか。
「ご、ごめん。期待に答えられなくて……」
「え? あっ全然だよ! 異世界の話を、聞けるだけでも嬉しいもん!
「そ、そっか」
「うん、そうそう」
「……」
「……」
き、気まずい。
何で魚を捕る話をしただけで、こんな気まずい空気にならないといけないんだよ。
ええい、ここは強引にでも別の話に持って行こう。
何か話題は……あ、そうだ!
「火! まずは、火を起こさないと!」
僕は比率Bで作った土器の器を取り出し、アリサに見せた。
「あ、そ、そうか! うち、燃えるものを探してくるね!」
アリサが薪を探している間に、焚き火の準備だ。
僕は蓋にしていた葉っぱを取って、器をひっくり返して中に入っている物を地面に落とした。
出て来たのは灰と木炭1個。
灰に木炭を埋めて、火種を保存した状態持ち運んでいたわけだ
後はこの木炭に燃えやすい物を置いて、息を吹きかければ火が起きる。
作り方は実に簡単。
ヒビの部分から灰が出ない様に器の中に葉っぱ敷く。
次に焚き火の灰を器の半分くらい入れる。
灰の上に燃えている状態の木炭を置く。
そして、その木炭の上に灰をかけて葉っぱで蓋をすれば完成。
ヒビのせいで水を入れることは出来なくても、別の使い道が出来たから作って良かった。
物に限られた状態だから、たとえ失敗してもこの器みたいに使い道を模索する事が大事だと改めて思った。
ただ……粉々になってしまった比率Aはともかく、器にすらなっていないCの使い道は全く思いつかないけども……。
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