そういう世知辛い事は置いておいて。
えーと、この半分に割った状態で他の使い道は……そうだ、竹でだけど交互に並べて置いていって屋根にしていた動画があったな。
今のシェルターの屋根は葉っぱだから、このバムムを乗せればいい感じに強化できるかもしれない。
けど、成長したのは大きいから拠点に持ち帰るのが大変だぞ。
毎日1本を伐って地道に持ち帰るか、丸一日使って大量に伐って一気に持ち帰るかだな。
この辺りはアリサと相談するとしよう。
成長したバムムも、若木の時と同様にどんどん裂いて棒状にしてみた。
それを上下に曲げたり捩じったりを繰り返してみた。
厚みがあるせいか、やっぱり若木よりも硬いな。
こっちもしなやかで折れにくくはある感じだけど、結構力を入れないと曲がらない。
これなら若木より成長した方で釣り竿と弓を作った方がいいけど、糸がな……よし、そこはどうしようもないから焚き火の所へ戻るとしようっと。
糸問題からめちゃくちゃ目を背けているけど、いつか痛い目に合わなきゃいいな……。
そんな不安を持ちつつ、切ったバムムの木を何本か手に持ち焚き火のところへと戻った。
※
「あっ! おかえり!」
今日何回も聞いたおかえりだけど、今のは今日一でテンションが高いな。
一体どうしたんだろう。
「ねぇねぇ! 見て見て! 完成したよ! どうかな?」
アリサが僕に渡して来たのは、仕上がったもんどりだった。
「おお! す、すごいね」
綺麗に完成しているじゃないか。
あんなに大変そうだったのに。
「バムムの若木、役に立ったの」
「バムムの若木が?」
「そう! 若木の棒を温めて曲げて、輪っかを作ったの。後は、その輪っかを基準にして、織ってみたらうまくいったわ」
なるほど。
それで入り口部分の円が綺麗な形になっているのか。
「リョーが色々、教えてくれたおかげだよ。ありがとうね!」
「あ、いや……うん……それは……良かった……よ」
…………いや、何だこの返事。
自分でいうのもなんだけど、これはヒドイ。
こういう風に褒められた事が無かったとはいえ、これはあんまりだ。
えーと、もっと言い返しの言葉は……えーと……えーと……。
「あ、成長したバムムは、どうだった?」
おたおたしている様子に気を使ってくれたのか、対応に慣れて来たのか。
アリサは僕の手に持っていたバムムの木に話題を変えてくれた。
……なんか……すみません……。
「えっえと、硬いけど使えそうだよ。今から火をあぶって、どうなるのかみようかと思って……」
僕はさっきと同じ場所に腰を下ろして、バムム串を火の傍へと持って行った。
「なるほど、また見ててもいい?」
「い、いいけど、今度ははな……」
「よいしょ」
離れてと言おうとしたら、また僕の隣に座っちゃった。
だから、何でそんなん近くで見る必要があるんだ。
……まぁいいや……今度はバムムに集中集中。
若木の時と同じ様に火の傍で温めながら曲げてみるが、くの字が限界でL字にするのは無理だな。
これ以上曲げると折れてしまいそうだ。
「そこが、限界?」
「そ、そうみたい。けど、こうすれば……」
いつもの鱗を手に取り、曲げようとしている箇所の裏側を少し削ってっと。
竹と同様ならこうすれば曲げやすくなるはずだ。
「……こんなものかな?」
だいたい2~3mmほど削ってから、もう一度火にあぶって曲げていく。
硬さはまだあったが、くの字だったのが何とかL字に曲がってくれた。
後は冷やすとこれがどうなるかだな。
まぁ若木と同じ様に固定されるとは思うけど。
「若木の様に、曲がってくれたね」
「う、うん。それじゃあ、冷やすのともんど……その罠を沈める為に海へ行こうか」
「おっこれの出番、だね!」
曲げた部分を海につけて冷やすと、僕の予想通りバムムの木はL字のままで固まってくれた。
となれば、成長した方も細工は可能だな。
若木との使い分けで色々と物が作れそうだ。
それが1本の木から出来るのは非常に助かる。
「ねぇ~、このまま沈めちゃって、いいの?」
さて、次はもんどりの方だ。
「そ、その前に、罠が流されないようにしないといけないから貸してくれる?」
魚が獲れても、もんどりが沖に流されてしまったら意味がない。
「あ、そっか。はい」
蔓をもんどりにくくり付けて、もう一方の先には大き目の石にくくり付ける。
そして、もんどりの中に重石と魚をおびき寄せる為にミースルを入れる。
準備が出来たら、海に入って浅瀬よりもちょっと深いところにもんどりを沈めれば設置完了。
「後は、獲物が入る事を祈るのみ。明日、また見に来よう」
「魚、獲れるといいな~」
アリサが作った物だからな。
獲物が捕れていたらすごく喜びそうだ。
逆に捕れなかったらすごく落ち込みそう……その時、僕は果たして慰める事が出来るだろうか。
………………うん、全く出来る気がしない。
どうか獲物が捕まりますように!
こっちの世界の海は大体把握できた。
もんどりも設置した。
海水から塩を作りたいけど、それは土器が出来てからの話だから持ち帰るのは保留。
となると、海での作業はここまででいいかな。
「き、今日の海の探索はここまでにして、拠点に戻ろうか」
「うん、わかった」
僕は海から上がり、アリサと一緒に焚き火のところへと戻った。
さて、この板状にした石をどうするかだな。
せっかく作ったんだから持ち帰りたい気持ちはある。
けど、この熱々の状態から冷めるまで待つのは結構時間が掛かってしまうよな。
水をかけて冷やすのが手っ取り早いけど……沢までくみに行くには手間がかかる、海水だと手ですくうのは無理だし、今すぐ必要ってわけでもないからビンの水を捨ててまでやる事でもない。
そうなると、このまま冷ましておいて罠を見に来たついでに回収する事にしよう。
石以外だと持って帰るのはバムムの木一式、焼いた小魚と干物、あとアリサが作った籠とバムムで作った網くらいなものか。
「焼いた小魚と干物を籠の中に入れてっと……」
んー、どうせなら生のミースルや中身を取った貝殻も持って帰りたいな。
かといって、焼いた小魚と干物が入っている籠に入れるのもなー。
もう一個籠を作ってもらおうかな? そう思っているとバムムで作った網を見てふと閃いた。
そうだ、網の穴の1個1個にミースルを突っ込めばいいんだ。
そうすれば簡単に持ち運べるじゃないか。
「リョー……何を、しているの?」
ちまちまとミースルを穴に入れる作業をしていると、アリサが不思議そうに聞いて来た。
「み、見ての通りミースルを持ち帰る為に、網の穴の中に突っ込んでいるところだけど……」
「はあ? そんな面倒な事、しているの? リョーが取って来た、バムムの木の中に入れて、持って帰ればいいだけじゃない」
何を言っているんだ。
バムムも竹の様に節があるのなら中に入れられるよ。
けど、空洞だから出来ないんじゃないか。
「いっいや、バムムの木の中に入れるって……そんな無茶苦茶な事を言われても……」
「無茶苦茶な事? 何、言っているのよ」
アリサは僕が取って来たバムムの木を1本を拾い上げ、その辺に生えていた幅の広い大き目の葉っぱを千切り取った。
「こうやって、葉っぱで塞げば、いいだけじゃない」
そう言うとバムムの木の端に葉っぱを被せて、その周りを蔓で縛り付けた。
「…………」
節が無ければ別の物で補えば良い、ただそれだけでいい。
ただそれだけでいいのにそんな事も思いつかず、一生懸命ミースルを網の穴に詰めていた僕。
……マヌケすぎにもほどがある……。
僕は恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠してしまうのだった。
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