海での作業も終わり、僕達は拠点に変える前に沢へと寄った。
海水を洗い流す為と減った水を汲むためだ。
「髪と羽が、カピカピになっちゃっうの、どうにかならないかな~」
アリサは沢に着くなり、躊躇せず着ていた服を脱ぎ始めた。
ちょっと! またかよ!
「じゃっじゃあ、僕は上流の方で水を汲んでくるから、アリサ……さんはゆっくりどうぞ! あ、終わるまで僕の体は絶対に洗わないから安心して! じゃあ!」
アリサを下流に残し、僕は大急ぎで上流の方へと向かった。
「あ、うん。……ま~た、走って行っちゃったよ」
ふぅー、このくらい離れれば大丈夫だろう。
こういう事はちゃんと言った方が良さそうだな……。
アリサと合流したらそれとなく伝えてみよう。
さて、まずはビンの中に水を入れて……これで飲み水の回収は完了。
次はこのバムムの木だ。
葉っぱでそこを作ったけど、この状態で果たして水を汲めるかどうか。
貝殻を取り出し、バムムの木に沢の水を汲み持ち上げてみた。
「あっ」
が、葉っぱが滑り落ちて底が抜けてしまった。
んー……蔓をしっかり結んだ状態でも、器の半分くらいの量でも水の重さに耐えられないか。
手ごろな大きさだから容器として使いたかったんだけど、これじゃあ使い物にならないな。
「うーん……何か良い方法無いかな……」
こういう時、輪ゴムがあればいいんだけどな。
まぁあるわけないし、作れるわけもないからそんな便利な考えは捨てて。
バムムの表面がツルツルとまでといかなくても、引っかかる所が全くないのも原因の一つだよな。
だとすれば、引っかかりを作ってみたらどうだろうか。
鱗を取り出し、先端から2~3cm離した所に押し付けてぐるっと横にバムムを回した。
印をつけて、その印に沿って溝を彫っていく。
この溝に蔓をはめ込む感じでまけば多分固定できて滑り落ちないはずだ。
「……ぐぬぬぬ」
これは塩梅が難しい。
溝が深すぎると側が薄くなって、強度が弱くなってしまう。
かといって、浅すぎると蔓が引っかからない。
おまけに使っているのが鱗ときたものだ。
仕方がないとはいえ、辛いなー……。
「――フッ! ……これでいいかな?」
葉っぱを被せて、溝に沿って蔓をまいてっと。
これでよし、これで水を汲んでも蔓が落ちなければ成功だ。
さっそく水を汲んでみると蔓はずれ落ちず、水が汲めた。
「やった! 成功だ!」
竹みたいに水筒にはできないけど、器が手に入ったのは大きいぞ。
これで水が飲みやすくなるしな。
「お~い、リョー! 水浴び、終わったよ~!」
アリサが呼んでいる。
僕もさっさと水浴びを済ませて拠点に戻るとしよう。
※
見た目が酷くても、何だかんだ拠点に戻ると実家のような安心感があるな。
やっぱりシェルターや焚き火の跡があるからだろうか。
「さて、火おこし、頑張りましょうか」
アリサが手際よく火おこしの準備を始めた。
熾火が無いから、多少疲れていようが1から火おこしをするしかないこの状況。
こういう時にぱっとつけられるライターやマッチが本当に欲しい……。
「あ、火おこしと言えば、バムムの木でも出来るかもしれない」
サバイバル動画であった竹を使っての火おこし。
あれが出来れば1人でも、アリサの手でも出来るはずだ。
「そう、なの?」
「う、うん。竹と同じなら1人でもアリサ……さんの手でも火を起こせるから、やってみる価値はあるよ。ただ、乾燥させて水分を飛ばさないといけないから、今すぐには無理だけどね」
僕はバムムを手に取り、火おこしの道具を作り始めた。
まずはバムムを半分に割る。
割った片方の中心に小さ目の穴をあけて、その穴を横切るように溝を掘る。
「その溝は、なに?」
「も、もう片方のバムムをこすり合わせる時、ずれないようにする為だよ。こんな感じに……」
穴をあけていない方のバムムの端を、掘った溝に押し当ててから左右に動かしてみせた。
「へぇ~。それで火、つくんだ」
「そ、そう。こすり合わせた時に出来た火種が、この穴から落ちて火がつく仕組み。だから、前もってこの穴の下には燃えやすい物を置いておかないといけないわけ」
「なるほど……確かに見た感じだと、うちでも出来そうだわ」
これも火きり板と同じで、何回も出来る様に穴と溝を5カ所ほど掘って……完成。
「か、乾燥が出来たら次はこれで火おこしをやってみようか」
ひもぎり式以外の火おこし。
これもぜひとも成功させたい一つだな。
ひもぎり式の火おこしも無事に終わり、僕は乾燥させておいた土器を手に取ってどんな具合になっているかを確認した。
焚き火を消していたから、とりあえず風通しのいい所に置いていたけど……うーん、まだ柔らかい部分があるから乾燥しきっていないみたいだな。
後の2個も……大体同じか。
なら、3つ共かまどの近くにおいて乾燥を進めておく。
次は、ある意味一番気になっていた物。
炭が出来ているかどうかだ。
僕は泥の山に被せておいた屋根を外して、泥の山を触ってみた。
泥の山はすっかり冷えていて全然熱くない。
という事は、これで完成のはずなんだけど……。
「お、炭、出来た?」
「た、多分……」
僕は不安半分、期待半分で泥の山を崩し始めた。
「……おお……」
泥の山を崩すと、中から真っ黒になった薪たちが顔を出した。
恐る恐る一番上にあった1本を手に取って折ってみると、パキっと小気味よい乾いた音が鳴った。
炭の中は真っ黒、火が通っている証拠だ。
「これって、うまくいったって事?」
「う、うん。木炭が出来た……やった!」
「お~! やったね~!」
良かったー、うまくできて。
一部はかまどに入れて炭に火を付けるとして、一口サイズの炭は歯磨きで使ってみよう。
炭の吸着力で汚れや口臭、歯が白くなるって事で歯磨き粉の一つとして使われている。
無論、歯磨き粉なんて作れないから、そのまま炭を噛んで歯磨きをするしかないけどな……。
――ガリッ
うげぇ……苦い。
噛めば噛むほど苦味が口の中に広まっていく。
「ちょっ!? なに、しているの!?」
アリサは僕の行動に驚いたのか大声をあげた。
あーそうだよな、説明しないと驚くのは当然だ。
「え、えと、これは――」
「異世界人でも、炭なんか、食べちゃダメ!」
「――もが!?」
説明する暇もなく、アリサは僕の顎を掴み口を開けさせ、指を突っ込んで来た。
「ペッしなさい! 早く!」
「もがあああああ!!」
そして異物を出すように、口の中で指を動かした。
やめてえええ!! そんな事されたら口の中の物じゃなくて胃の中身が出ちゃうから!!
「歯磨き……? 炭で……?」
「ぜぇーぜぇー……そう……歯磨き……」
アリサの行動と胃の中の逆流を必死に防ぎ、なんとか事情を説明できた。
あー……ある意味、この島に来て一番のピンチだったかもしれん。
「けっけど、炭なんて、体に毒なんじゃ?」
「た、大量は危険だろうけど、少々なら飲み込んでしまっても大丈夫。炭には整腸効果もあって、忍者が解毒の為に炭粉末を持って歩いていたって話もあるし……」
「ニンジャ……? 何、それ?」
例えが悪すぎた。
この世界で忍者が伝わるわけないじゃないか。
「と、とにかく、よく口の中をよく洗えば大丈夫だから」
「そう、ならいいけど……」
またアリサに対しての注意事が増えたな。
滅多にない事だろうけど、異物を口に入れる時は前もって説明しておく事。
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