まさか、アリサがあんなに大爆笑するとは思わなかった。
自信作だっただけにショックだ。
いい出来だと思うんだけどなー。
「はあ……」
僕は落ち込みつつ、自信作だった土器を乾燥させるために火の傍に並べた。
「あ~と……ご、ごめんね。大笑い、しちゃって……。でも、その土器に、数百万で買う人なんて……とても……」
アリサの感じだと、この世界はそういった芸術品を買うって事が無いのかな。
だとすれば、大笑いされたのも仕方がない。
この土器の形を見て、大爆笑するわけがないもの……。
「だ、大丈夫、気にしないで……今日やる事をやっていこうか」
引っかかるけど、土器ばかりに気を取られている場合じゃない。
他にもやらない事はいっぱいあるんだしな。
「え、えと、まずは炭を作ろうと思うんだ」
燃料はもちろん、炭は色々と役に立つ。
水の浄化、土壌改良、火の持ち運び、歯磨きなどなど。
作っておいても全く損はしない物だ。
「炭作り? これじゃあ、駄目なの?」
アリサがかまどの炭に指をさした。
「そ、それだと量が少ないし、もっとちゃんとした炭を作りたいんだよ」
正直、量はともかくちゃんとした炭が作れるかはわかんないけども。
「へぇ~……リョーって本当に、すごいわね」
「え? い、いや……そうでもないよ」
褒めるならサバイバル動画の投稿者にお願いします。
僕は全部その動画のマネをしているだけなんだし。
「僕がやっている事は、全部見様見真似だし……」
「? それって、駄目な事なの?」
「だ、駄目ってわけじゃないけど……」
だからといって、自分の手柄みたいにするのも違う。
「だったら、いいじゃない、マネだとしても。それがリョーの知識になって、こうして拠点が出来ているんだから。うちはそういう、得た知識で行動できる事が、大事だと思うな」
「……」
得た知識で行動……か。
形はどうあれ、確かに得た知識のおかげで僕は行動できている。
「そう、だね。……うん、じゃあ作業に取り掛かろうか」
僕にサバイバル知識を与えてくれた人達への感謝の気持ちを忘れずに頑張って行こう。
「お~! で? うちは、何をすればいいの?」
「アリサ……さんは浜からビンを2本くらい回収して、その中に水を入れて運んで来てほしいんだ」
「水を……? ここにある水じゃ、駄目なの?」
アリサが水の入ったビンに目線を送った。
「泥を作るから、その飲み水は使えないんだ」
「炭を、作るのに泥? よくわからないけど、わかったわ。じゃあ、すぐに行ってくるわね」
アリサはそういうと、駆け足で森の中に入って行った。
別に走って行かなくても良いんだけどな……怪我には注意してくれよ。
「さて、僕も準備をしないと」
あの感じだとすぐアリサが戻ってきそうだしな。
まずは炭作りをする場所だけど、かまどは泥で作るから雨が降って来ると駄目。
かといって、結構大きい物になるだろうからシェルターの中に作るのも駄目。
となると、シェルターの横辺りに小さいAフレームシェルターを建てるしかないか。
ついでにそこを薪や炭の置き場にしてもいいしな。
そうと決まれば、さっそく製作開始だ。
「ただいま~……って、結局今日も、木を伐ってるし」
「い、色々訳ありでね……この木で終わりだから……」
アリサが拠点に戻って来た時、僕は伐採作業中だった。
これにはいくつか理由がある。
まず小さいと言っても、Aフレームシェルターを作る木材が無い。
そして、炭にする為に今ある薪を使ってしまうと燃料不足になってしまう。
となれば、新しい木材が必要になってくる。
なら最初にやらないといけないのは伐採作業という訳だ。
もしかしたら、今後丸1日伐採作業をしなくちゃいけないって時が来るかもな……。
※
「こんなものかな」
アリサにも手伝ってもらい、中型犬の犬小屋くらいの大きさのAフレームシェルターが2個完成。
1つは薪や炭を置いて置く為に地面に固定。
もう1つは炭作りのかまど用だけど、こっちは固定しない。
固定してしまうと、かまど作りや炭を取り出す時に邪魔になってしまうからだ。
次に必要なのは大量の泥、つまり土だ。
適当に他の場所から取って来てもいいけど、拠点に丁度土が取れる所がある。
それは僕達が寝ているAフレームシェルターの外側の屋根の下だ。
そこに溝を掘るというわけだ。
こうしておけば屋根から流れた雨水は地面に溜らず、溝を辿って流れていく。
そのまま雨水を逃がすもよし、溝の先に大きな穴を空けて雨水を貯めるのもいいだろう。
どちらにせよやっておいて損はない。
僕は溝を掘る場所に線を引いてから、アリサに溝の説明をして任せる事にした。
アリサが土を集めている間、僕は次の工程だ。
地面に太い木を突き立てて、固定させる。
突き立てた太い木を軸にして周りに薪をどんどん立て掛けていく。
木の山が出来たら枯れ葉で全体を覆う。
「ふぅ~……こんな感じ、かな。ねぇこれで、いい?」
アリサの方を見ると綺麗な溝が出来ていて、土の山もあった。
泥が必要な工程に丁度入ったからナイスタイミングだな。
「う、うん、ありがとう。そうしたら、土の山に水をかけてっと……」
泥を作り、枯れ葉の山に塗っていく。
全体を泥で覆ったら、てっぺんと山の下に数カ所に満遍なくの穴を空ける。
てっぺんの穴は火を入れる為、下の穴は空気穴で必要らしい。
「てっぺんの穴に火を入れて……どんどん燃やして行く……」
この時に泥の山にひび割れしていると崩れてしまうから、あれば埋める。
地味な作業だけど、崩れてしまったら今までの苦労が水の泡だからちゃんとやらないとな。
「炭を作るのも、手間がかかるね」
本当に。
本場の炭職人さんは、これ以上の手間と苦労をして質のいい炭を作っているんだよな。
頭が下がる思いだ。
「あっ! こっちの穴から、火が見えてきたよ」
「どれどれ……」
アリサが見ていた穴を覗くと、確かに火が見えた。
それを確認した僕は泥でその穴を塞いだ。
「えっ! 穴、塞いじゃうの!?」
「そうするらしい……」
「なんで?」
「……さあ」
酸素が関わっているらしいけど、僕自身いまいちこれに関して理解できていなかったりする。
だからアリサに説明しようがない……。
残りの穴も火が見えたら泥で塞いで、全部塞いだら最後にてっぺんを塞ぐ。
後はこのまま置いておいて、泥の山が冷えきったら炭の完成……のはず。
どうか、うまくいきますように。
「さっき作った屋根を山の上に被せてっと…………これはこのままで放置するから、その間に行こうか」
「行くって、何処に?」
「それは――」
リーンの実、ハマラシュウ、ゴブリンノコシカケ、卵芋と山の幸ばかり口にしている。
そろそろ、他の食材も口にしたいし確保したい。
……となれば、僕達が向かう場所は一つのみ!
「――海さ!」
狙うは魚介類!
海の幸だ!!
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