あー食べた食べた。
タニシ、サワガニサイズとはいえ、それなりの量を食べると満足になるな。
残った分は持ち帰って昼か夜に食べるとするか。
……そうだ、ミースルは貝類だから保存食に出来るかやってみるのもいいかもしれない。
保存食で思いつくのが。
・乾燥させた干物
・煙をいぶす燻製
・塩、砂糖、酢、オイル等に漬ける漬け系
・凍らせてから真空状態にして水分を抜くフリーズドライ
フリーズドライは候補として出したけど、暖かいこの無人島じゃ食料を凍らせるのは不可能だし、真空状態を作り出す事も出来ないから作るのは不可能。
漬け系は塩、砂糖、酢、オイルが無いから除外。
ただ酢以外の漬け系は今後作れるかもしれない。
塩は目の前の海で作れるし、砂糖はサトウキビみたいな植物があればもしかしたらいけるかもしれない。
油は動物の脂肪と植物の油から取れる。
まぁどれも今すぐには無理だけどな。
となると、残りは干物と燻製か……ん?
「……」
あれこれと考えていると、アリサがぼーっと海の方を見ている事に気が付いた。
何かあるのかと僕も海の方を見たが、穏やかな海が広がっているだけで何も変わりがない。
「……え、えと……ど、どうかしたの?」
「ん~? 魚も、食べたいな~って、思って……」
「――うぐっ!」
その言葉、心に刺さる。
「あっ! ごめん、別にリョーを、責めたわけじゃなくて……気を悪くさせちゃったかな」
アリサは、僕がダメージを負ったのを見て慌てて謝って来た。
「ううん……大丈夫。アリサ……さんの言う事もわかるし……」
海に来たのに、口にしたのは貝とカニのみ。
魚が食べたいって気持ちはよーくわかる。
それに保存食を作るにしても、貝と魚とじゃあ量が全然違うし。
となると、なんとかして魚を捕る方法を考えないといけないな。
素潜りが駄目となると……やっぱり釣り道具を作るしかないか。
どうにか、糸を手に入れる方法はないものかな。
「……あっそういえば、この海域には……。ねぇねぇリョー。海に潜った時、体の半分くらいが頭になっている、赤い魚いなかった?」
体の半分くらいが頭……あーあの2頭身の魚か。
深海魚っぽいシリーズの中で泳いでいた1匹だ。
それぞれ独特過ぎる形をしているから、1回見ただけですぐ覚えられるよ。
「い、居たよ。3~4匹ほど見かけたかな?」
その魚、頭がでかいから身の方は少なそうと思って無視してたな。
「やっぱり。なら、捕まえられるかも!」
「へ?」
捕まられるって……え? まさか動きが遅いタイプだったのか。
だとしたら、失敗しちゃったな。
それを狙えば良かった。
「あのさ、ミースルを3~4匹、持って行ってもいいかな?」
「え? うん、別に構わないけど……」
ミースルをどうする気なんだろう。
「じゃあ、ちょっとそこで、待っててくれるかな?」
アリサはそういうと、ミースルを握りしめて海岸へ走って行った。
そして海に浮かぶ小島の様にな大岩の所へ行き、その大岩を登り始めた。
高さ5mはありそうな大岩をするするとよく登れるもんだ。
頂上まで登ったアリサは、落ちていた石でミースルを叩いて潰してから海へと投げ込み、うつ伏せになって海を覗き込んだ。
「……ああ、なるほど。ミースルをまき餌にしたのか」
まき餌にするという考えは全く無かった。
釣りに慣れている人なら、すぐに思い付いただろうな。
「……」
にしても、獲物を探すアリサのあの目。
鷹の目の様に、ものすごく鋭い目つきになっている。
さすがはハーピーだな。
「……っ!」
アリサが何かを見つけた様子。
僕の位置からは見えないけど、どうやら魚が来たっぽいな。
アリサはゆっくりと後退りしてから立ち上がった。
そして……。
「――っ!」
「おおっ」
助走をつけてジャンプし、海へと飛び込んだ。
「――ぷはっ!」
数秒後、海からアリサの顔が出て来た。
「リョー! やったよ~!」
アリサは興奮気味に右手をあげ振っている。
やったって、もしかして魚を捕ったって事なのか?
だとしたらすごいじゃないか。
「ふぅ……」
僕は陸に上がったアリサの傍へと急いで駆け寄った。
アリサの右足の鉤爪には、しっかりと頭が体の半分くらいある赤い魚が突き刺さっている。
「す、すごいよ!」
「ありがと。でも、1匹しか捕れなかったわ。後は、逃げられちゃた」
そう言ってアリサは鉤爪から魚を引き抜いて、僕に渡してくれた。
いやいや1匹でも十分でしょ。
全くもって獲れなかった奴がここに居るんだし。
「それ、カゴカサっていうんだけど、好物は貝類なの。食欲が強いから、ミースルを餌にすれば来るかな~と思って試してみたけど、うまくいって良かったわ」
カゴカサか。
沖に居たのにすぐ浅瀬に来たという事は、嗅覚が鋭くて食欲もかなり強いという事だ。
そこをついたトラップを作れば、カゴカサをもっと獲れるかもしれない。
さっそく罠作りを……と、その前に。
「ゴホンッ……んんッ」
僕は一度咳をして喉を整え、カゴカサを右手に持って――。
「獲ったどおおおおお!」
と、叫びながら右腕を持ち上げた。
僕が獲ったわけじゃないけど、どうしてもこれがやりたかったから仕方ない。
「ふえっ!? なに? 何で、急に叫んだの?」
僕の突然の行動に、アリサは驚いて目をパチクリさせている。
そうだよな……アリサがわかるネタじゃないよな、これ。
「……」
「……」
うおおおおおお……アリサの不審そうな顔、このスベった感じの場の空気……かなりきつい。
「あー……えと……その……き、気にしないで……あははははははは」
「?」
耐えられなくなった僕は乾いた笑いで場を誤魔化しつつ右腕を降ろし、そそくさと焚き火の所へと戻るのだった。
今後、僕の世界のネタはアリサの前ではしないと心に刻みながら……。
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