……。
待てど暮らせどカゴカサどころか、他の中型の魚もため池の中に全然入ってこない。
入って来るのは口がくちばしみたいに長く尖っているイワシの様な小魚、骨や内臓が見える透明度の高すぎるフナの様な小魚、グッピーの様にカラフルで派手なドジョウの様な小魚、白エビみたいだけど小さなハサミがあるからザリガニかもしれない甲殻類などなど。
相変わらず僕の足をつついてくる小魚は入ろうとしないし……こいつは古い角質を食べるドクターフィッシュの一種なのかもしれないな。
「うーん……これ以上待っても来そうにないか」
ため池のやり方は失敗だったのかな。
行けると思ったのに残念な結果になってしまった。
とりあえず、人差し指サイズ位の小魚達ばかりだけど獲物は獲物だし捕獲するか。
後はアリサに見せて食べられるかどうか確認してもらおう。
まずは逃げない様にため池の入り口を岩で塞いで、逃げ道が無くなった所にアリサが作った籠の出番だ。
これでどじょうすくいの様に魚をすくって一網打尽にしてやるぞ。
「そりゃっ!」
籠を小魚達の集まっている所に勢いよくつっこんで引き上げた。
「……あれ?」
籠の中には1匹も小魚は入っていなかった。
もしかしてため池から逃げられた!?
そう思い、慌ててため池の中を覗き込むと危険を察したのか小魚達が動き回っていた。
逃げ出していたわけでもない……けど、何故かすくえていない。
籠を引き上げる速さが足りなかったのかな。
「今度こそ……おりゃっ!」
1回目の反省から、今度は籠の引き上げる速度を速くした。
が、今回も籠の中には1匹も入っていない。
「なんでだ?」
その後、何回も挑戦するがうまくいかない。
思った以上に小魚の逃げるのが早いのか、はたまた単に僕が下手なだけなのか。
……これは後者の方かもしれん。
どっちにしろこれは困ったな。
この方法以外に獲る方法となると……手掴み?
いや、籠を使っても駄目なんだから手掴みで行けるわけないし。
「そうだ!」
ため池の水を抜けば、魚の逃げる場所が無くなって手掴みでも……って、これも駄目だ。
ため池の壁は石をただ積み上げたもの。
石と石の隙間から海水が入って来て、永遠にため池の水は減らない。
うーん……こんな僕にでも獲れる方法……思い出せ……何かないか……動画の内容を思い出せ……。
今まで見ていたサバイバル動画の内容を頭の中で必死に再生させた。
「んんんんんん…………あっ」
すごく単純な事なのに、何深く考え込んでいるんだ僕は。
考えすぎて沼にハマるというのはこの事だ。
駄目だなー柔軟な思考でないとサバイバルでは命とりになりかねないぞ。
気を付けないと。
別に水を抜くだけが魚の逃げ道を塞ぐ方法じゃない。
ため池の範囲をどんどん狭めていけばいいだけじゃないか。
そうすれば魚の逃げられる範囲も狭くなる。
狭くなればどんなに下手な奴でも、ため池の底から上に向かって籠を持ち上げれば魚は捕れる。
ため池を埋める為の石運びが大変だが……今思いつくのはこれしかないから頑張ろう。
「よし! 今度こそ捕まえてやるからな!」
ふっふふふ……大量大量。
僕は軽い足取りでアリサの元へ戻って来た。
ため池埋め作戦は見事に成功。
籠の中は小魚でいっぱいだ。
「あ、おかえり~。どう、だった?」
「カ、カゴカサは獲れなかったけど、小魚は獲れたよ。どれが食べられるのか、見てくれないかな」
確認してもらう為に、小魚の入った籠をアリサに手渡した。
「どれ、どれ」
僕の予想ではくちばしイワシ、スケルトンフナは食べられて、グッピードジョウは無理と予想。
こう派手な奴ほど毒を持っているイメージがあるからな。
白エビザリガニは……わからん。
「……え~と……あっこれは、毒を持ってるからダメね。後は全部、食べられるわ」
避けられたのはまさかのくちばしイワシ。
グッピードジョウいけるのかよ。
予想外だ。
「じゃあ、これも焼いて……」
「あっ! ス、ストップ!」
焼けた石の上で小魚の入った籠をひっくり返そうとしたアリサを慌てて止めた。
「? どうしたの?」
僕の言葉でアリサは籠をひっくり返すのを辞めた。
危ないところだった。
全部焼いてしまったら保存食を作れなくなっちゃうからな。
「す、数匹は保存食に出来るか挑戦したいんだ。後、焼いた分は今夜のご飯にしない?」
ミースルとカゴカサで十分お腹は満たされている。
今夜の夕飯はまだ決まっていないから、今食べずにこの小魚達を回す方がいいだろう。
「あ~、なるほど。そうした方が、いいわね。でも、こんな小魚で、保存食になるの?」
「や、やり方次第で……多分……」
だから挑戦なんだよ。
本当ならカゴカサでやりたかったんだけど、獲れなかったから仕方ない。
「そ、そっちの罠はどう?」
アリサが作っているもんどりの状況はどうなんだろうか。
これも重要な罠の一つだからな。
見た感じ、本体の細長い籠は出来たような感じだけど……。
「ん~……筒の方は、すぐに出来たけど。蓋の方は、この形で、しかも真ん中に穴を空けて、っていうのが難しいわね」
アリサは眉間にシワを寄せて困っている様子。
「えと……む、無理そう?」
無理ならこれ以上作業をやらせるのも酷だしな。
「そうね…………ううん、ここまで作ったんだし、もうちょっと頑張ってみるわ」
アリサは少し考えたのち、そう言ってから編む作業を再開した。
続けるのなら、これ以上僕が言う事ではないな。
「わ、わかった。じゃあ僕は小魚を加工してくるよ」
干物にしない小魚と干物にしにくいと判断した白エビザリガニの焼き番をアリサに任せて、僕はスケルトンフナとグッピードジョウを5匹ずつ持って波際へと向かった。
この大きさだと、ドラゴンの鱗で内臓を傷付けずに腹を開くというのは無理があるな。
その辺りは仕方ないと割り切って内臓を取り出すしかない。
頭はドラゴンの鱗でも簡単に落とせるのは助かるな。
で、背びれの方に刃を入れてアジフライみたいに身を開かせ……うわ、ぐちゃぐちゃになって来たな。
見栄えがすごく悪くなったけど……ええい、刃物が無いんだから仕方ないじゃないか!
そう自分に言い聞かせてスケルトンフナとグッピードジョウを各5匹強引に捌き、次の工程へと移った。
身を開いたら30分から1時間ほど塩水に浸す。
浸すんだけど、塩は作れていないから海水に浸すしかないな。
波に流されない様に身は籠の中に入れて、籠も流されない様に周りを石で囲んで壁を作る。
「これで……良しっと。んーこの待っている時間をどうするかな……」
流石にこのままぼーっとしているのは時間が勿体ない。
「この間に、もう一度カゴカサを狙ってみるか……あっ」
細長く伸びたブロッコリー……もとい、バムムの木が僕の目に入った。
「そうだ、バムムの木を伐ってみよう」
果たして竹の様に細工出来て、色々と使えるのだろうか。
まぁ細工できなくても、木なら薪として使えば良いだけだ。
僕は鱗斧を手にしてバムムの木の元へと向かった。
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