とはいえ、このまま落とし穴に落ちていてもどうしようもない。
気持ちを這い上がらせて……よし、気を取り直して次の事をするぞ。
試すのは、このバムムの若木は竹の様に火であぶると曲がりやすかったり加工しやすくなるかどうか。
成長して性質が変わってしまっていた場合、若木をメインに使うことになるかもしれないからな。
こういうちょっとした事でも確認は大事だ。
僕は焚き火の傍に腰を下ろし、竹串状になったバムムの木の両端を持って真ん中辺りを焚き火であぶり始めた。
「なに、してるの?」
アリサはもんどり作りの作業の手を止めて、不思議そうに聞いて来た。
「た、竹は火やお湯とかで温めると曲げやすくなって加工しやすくなるんだ。バムムの若木でもそうなるのか、試しておこうと思って」
「へぇ~、そうなんだ」
燃やしたり、焦げない様に気を付けないといけないから、火から少し離して……いや、動画だともっと火の近くに寄せてたかな?
まずい、どうだったのか思い出せないぞ。
……こうなったら僕の勘で行くしかないか。
「ねぇねぇ。見てて、いい?」
「え? あっ……」
返事をする前に、アリサは僕の隣に来て座り込んだ。
そんな珍しい光景でもないと思うんだけどな。
というか、距離が近いってば! 少しは距離感を考えてほしい!
……って、そう文句も言えない僕も僕なんだけどね。
「リョー、バムムの若木から、煙が出て焦げて来たけど、大丈夫なの?」
「――っ!?」
アリサの言葉に僕は慌ててバムムの若木を火から離した。
危ない危ない、意識が変なところに行っていて燃やす所だった。
今はバムムの若木に集中しなくちゃ。
今度は気を付けつつバムムの若木を火に近づけ、表と裏を満遍なく温めた。
お、あぶっていた所が柔らかくなってきた感じがするぞ。
焦らずゆっくりと優しく、折れない様にバムムの若木を慎重に曲げていく。
うん……L字の状態になっていても折れる事も無くひび割れも無い。
「お~、綺麗に、曲がったね」
「う、うん。後は冷やして、この形がそのままになるか確認してくるよ」
「わかったわ」
僕は立ち上がり、海の方へと向かった。
あぶって曲げた部分を海の中に入れて冷やす。
これで元に戻らずにL字のままならいいんだけど、どうかな?
バムムの若木を海から上げてみるとL字のままで形が固定されていた。
それを上下に曲げたり捻ってみても、形が変わる事も無く曲げた部分も折れる事も無い。
よし、これなら竹と同様に色々と使えるな。
さっそく戻ってアリサに見せ……おっと、海の中に入れておいた小魚もそろそろいいかな。
時計が無いから確実とは言えないけど、流石に30分は超えているはずだ。
「どんな具合かなっと……」
海に浸しておいた小魚が入った籠を引き上げてみた。
うーん……ただ単に浸しただけだから、見た目も変わってないからこれで良いのかわからんな。
とりあえず、これで次の工程に進めてみるか。
次は表面の塩分をビンに入れた飲み水でさっと流す。
で、軽く水分を拭きとるんだけど……流石に服でやりたくない。
服が生臭くなるのは目に見えているし、この島に来てからずっと着ているから衛生面も良くない。
というか、いい加減洗濯しないとやばいな。
土器が完成したら真っ先に洗濯しないと。
まぁ小さいし、軽く振って水分を飛ばせばいい……かな?
後は風が通って、日が当たる場所に吊るか並べて干す。
そうすれば1日から2日くらいでカラカラに乾いて、干物の完成だ。
ただ、ここで干すとまた来ないといけないし監視も出来ないから一度アリサの所に戻るとするか。
「おかえり~。どう、だった?」
状況が気になっていたのか、戻るなりアリサはまた作業を止めて聞いて来た。
なんか作業の邪魔ばかりしている様な気がするな。
「こ、こんな感じになったよ」
ちょっと負い目を感じつつ、L字になったバムムの若木をアリサに見せた。
「お~……すごい、あぶっただけで、こんな風になるんだ」
ただL字に曲げただけの物をマジマジと見ている。
さっきも思ったけど、アリサって木をあぶって曲げる手法を知らないのかな。
まぁ僕もどうしてそうなるのかよくわからないし……その辺りは触れないでおこう。
さて、小魚を干す所をどうするかだな。
石の上で干すにしても持ち運びが大変だ。
理想は網の上、全体的に乾くからそっちの方が良いって話んあだけども。
けど、網なんて無いしな。
「うーん……ん? ……あ、そっか」
ふとアリサの籠が目に入り簡単に答えが出た。
丁度、竹串……もといバムム串がたくさんあるのだから、これを使って網を作ってしまえば良いだけの話じゃないか。
まずは、バムム串を横向きにして縦方向に10本並べる。
そして、縦向きのバムム串を上と下、交互になるように横向きのバムム串に編み入れていく。
2本目は1本目と逆で下と上、交互になるように横向きのバムム串に編みこむ。
3・5・7・9本目は1本目と同じ様に上と下に。
4・6・8・10本目は2本目と同じ様に下と上に。
後はずれないように、全ての端を裂けるチーズみたいに細く裂いた蔦で縛れば……網の完成だ。
これに小魚を乗せれば移動も簡単に出来る。
「おお! リョーってば、いい物を、作ったじゃない」
「い、いやー簡単なものだし、このくらいどうって事ないよ」
と言いつつも、褒められるのはやっぱりうれしいな。
自然と口角が上がりそうなのを、恥ずかしさから僕は必死に抑え込んだ。
「えと、この小魚このまま干しておくから、見ててもらってもいいかな?」
「え? それは、いいけど……また何処か、行くの?」
「う、うん。バムムの木をとりに……ね……」
※
まさか、こんなに早く同じ場所に戻ってくるなんて思いもしなかったな。
これこそが【木】だろとつっこんだのが木が、成長したバムムの木だとは……。
見上げてみると、特徴的だったブロッコリーの先端状は形を変えて松の木みたいに沢山枝分している。
緑色から茶色になってるわ、ブロッコリーの茎から竹並に太くなっているわ、上の部分もだいぶ変わっているわで気付くわけないでしょうに。
はぁー異世界に僕の常識が通用しないのはわかっているけどさ……。
「ちょい理不尽――だっての!!」
怒りの籠った鱗斧の一撃を成長したバムムの木の根元に叩きこんだ。
若木同様にカコーンという乾いた音が辺りに鳴り響いて、鱗斧の先がバムムの木に少しつき刺ささった。
やっぱり若木より硬いな、これは気合を入れないといけないぞ。
「おりゃっ! おりゃっ! おりゃっ!!」
鱗斧を何度も根元に向かって振り下ろし 半分くらいまで切れ目が入った状態で僕は手を止めた。
「はあーはあー……きっつ……」
ここまで来たら、後は己の力で叩き折った方が早いだろう。
バムムの木から少し離れて勢いよく体当たりをすると、切れ目からメキメキと音立ててながら裂けてバムムの木が倒れ落ちた。
「ふうー……」
この程度の太さでこの苦労。
もっと太い木を伐る場合、鱗斧だと相当時間が掛かるのは目に見えている。
これは長時間を見た方がいい。
拠点近くにある太い木を1本決めて、毎日少しずつでもいいから鱗斧を打ち込むようにしよう。
さて、成長したバムムの中はどんな感じかな。
伐り落としたところ見てみると、アリサの言う通り若木と同じ中は空洞になっていた。
「……成長しても節は無いままか」
ちょっとそこは期待してたから残念。
竹サイズとなると節はあった方が良かった。
若木との違いと言えば、樹皮の厚みがざっと2倍くらいになっているくらいだな。
若木の時と同様に20cmほどの長さで頑張って切り落としてから半分に割った。
これこそ、流しそうめん水路だな。
成長したバムムの木は高さ10mくらいあるから、沢と拠点を繋ぐ水路は若木より現実的ではある。
とはいえ、若木より伐り倒すのが大変な事を考えると結局は時間が足りない。
うーん……世の中、なかなかうまい事いかないな。
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