朝日が昇り、辺りが明るくなってきた。
ああ、もう朝か。
……眠い……眠いけど今日も1日頑張らないと。
僕はベッドからゆっくりと起き上がり、横で寝ているアリサに声を掛けた。
「ア、アリサ……さん、起きて。朝だよ、おーい」
「……んっ……うう……」
僕の声にアリサが目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。
「ふあ~…………おはよ~……リョーって、朝早いよね~……」
「そ、そうかな。アハハハ……」
早いんじゃなくて、ただ寝れていないだけです。
こればかりは自分の問題だから、アリサに文句を言っても仕方ないのが悲しいところだ。
「え、えと……じゃあ朝の支度しようか」
今までの野宿とは違って、今日から拠点で生活を開始する。
となれば朝の支度が当然やらないといけない。
「わかったわ。あ~それにしても、ここから沢まで行って、顔を洗いに行くのは面倒ね」
確かに朝から歩いて顔を洗いに行くのは面倒だ。
まぁ水汲みもかねてだから、結局は沢に行かないといけないんだけど……その辺りも考えないといけないか。
でも、今はその前にやらなければいけない事があるんだよな。
「そ、その前にやらないといけない事があるんだよね……」
「ふえ? 顔を洗うより、先にやる事?」
「そ、外のかまどとシェルターのかまども火が消えている……つまり……」
僕はひもぎり式道具を手に取り、アリサに見せた。
そう、真っ先にやる事は火おこしだ。
「……ああ……そっか……そう、だね……」
道具一式を見たアリサはうんざりした様子。
その気持ちすごくわかる。
朝起きて早々に肉体労働をしないといけないんだからな。
でも、こればかりは必要な事だからやるしかない……。
「そういえばさ、火おこしって、1人でも出来るの?」
「……へっ?」
火おこしの準備をしていると、アリサが不思議な事を聞いて来た。
「そ、それはできるけど……」
何でそんな事を聞いてくるんだろう。
まさか、自分だけ楽したいとか考えているんじゃないだろうな。
おいおい……無人島でそれは許されないぞ。
「あっ! 誤解しないで! うちが楽したいとか、そういう訳じゃないから!」
僕の思った事が顔に出てたのか、アリサは慌ててそれを否定して来た。
「リョーが居るから、今は火をおこせるけど……うち、1人だと……」
「あー……なるほど」
そうか、今までアリサは火の魔法でつけいたんだものな。
この島に来てからも僕と2人でやっていたし。
「だから、いざって時にうち1人でも、火を起こす方法を知りたいなと」
確かに……僕が病気や怪我で動けなくなってしまったら、火が無い状態になってしまう。
それは非常に良くないぞ。水同様に火も重要だからな。
けど、まいぎり式の道具はまだ作れない……なら、きりもみ式とゆみぎり式の2つを説明しておくか。
「わ、わかったよ。えと、僕が教えられるのはきりもみ式とゆみぎり式の2つだね」
「ふむふむ……きりもみ式と、ゆみぎり式」
「きりもみ式は、この木の棒を両手で回転させて火を起こす方法」
僕は手にしていたひきり棒を両手に挟み、手を擦ってひきり棒を回転させる所をアリサに見せた。
……ちょっと見せただけなのに、もう手のひらが痛いぞ。
やっぱりこのやり方だと慣れている人がやらないと駄目だな。
「ゆみぎり式は……ちょっと待ってね」
僕は頑丈そうで少し曲がった枝を拾い上げ、両端に蔓を縛って簡単な弓を作った。
「この弓の蔓をひきり棒に巻き付けて…………こんな感じで、回転させて火を起こす方法」
弓を前後に動かして、ひきり棒を回転させた。
うーん……この枝は駄目だな。
頑丈だけど、しなりがあるからうまくひきり棒を回せない。
今後やるなやら気を付けないといけないな。
これは実際にやってみないとわからない問題だった。
「なるほど、わかったわ。とにかく、木の棒を回転させればいいのね」
厳密には、燃えやすい火口とか木の種類とかも関係あるんだけど……まぁあながちそれも間違いじゃないからいいか。
「でも、きりもみ式は、うちには無理ね」
アリサが両手を挙げてヒラヒラと羽根を動かした。
「……確かに」
半分以上羽になっているアリサの手だと、火きり棒を回すというのは無理だ。
となると、ゆみぎり式にむいている枝を探さないといけないな。
で、まいぎり式の道具作りも考えた方がいいか……。
「……ま、まぁ今日の所はひもぎり式で火を起こそうか」
どちらにせよ、今火おこしをするのが先だ。
「うん。教えてくれて、ありがとうね」
その後、2人して必死に火を付けた。
アリサ1人でも火を起こせるようになるのは大切だけど、ひもぎり式で素早く安定して火おこしが出来るのも重要だよな……問題は山積みだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「う、うん。気を付けて」
火おこしも無事に終わり、アリサが先に沢へと行く事になった。
僕は火の番で残り、アリサが戻って来たら交代という流れだ。
「さて、朝ご飯の準備をするか……とは言っても、今から卵芋の蒸し焼きを作る時間は無い……もう焼き卵芋でいいか」
残っていた卵芋の殻を割り、木の棒を刺して火の傍へ置いた。
「これで良し。後は、土器がどうなったのか確認をしないと」
シェルターの中へ入り、火が消えたかまどの炭を退かして土器を拾い上げた。
まずは比率A……は底の部分しかない。
縁の部分が無くなっていて、皿みたいになってる。
その皿の部分も手に持つと粉々になった。
予想通りと言えば予想通りだけど、なんか悔しいな。
そして、比率B。
これは器の形も残っているし、うまく焼けている感じだ。
指ではじいてみるとカンカンと音が鳴っているから、十分に固まっている。
ただ、あちこちヒビが入っているから水は入れられないな。
最後、比率C。
器の形がぐにゃぐにゃに変わっちゃっている。
柔らかかったから焚火の炭の重みで変形したっぽい。
これも失敗……と言いたいところだけど、指ではじいてみるとカンカンと音が鳴る。
ヒビもなく比率Bよりもきれいに固まっている感じ。
比率Bは大量のヒビ割れ、比率Cは型が無いと形が変わる。
となると、比率Bと比率Cの間が良さそうだな。
……うん、アリサが戻ったらさっそくそれで土器を作ってみよう。
※
アリサが戻り、火の番を交代した僕は沢には向かわず粘樹の所まで向かった。
流石に粘樹の樹液はもう出ておらず、鱗で新しい傷をつけて採取する事にした。
「んー今後の事も考えると、毎回傷をつけて採取っていうのは良くないよな」
それで粘樹が弱って枯れてしまっては大問題だ。
採取方法も何かしら考えないといけないぞ。
なんか色々やる事が増えて来てばかりだ……。
「っと、今は土器づくりに集中集中」
比率はともかく作った粘土が火で固まる事はわかった。
なら、今度は大き目の土器にチャレンジだ。
比率Bと比率Cの間の比率で作った粘土に、強度をあげる為繊維状の葉を砕いて混ぜる。
そして皿を作って、ひも状にした粘土をその周り乗せていって側面を作っていく。
「…………出来たっ!」
サッカーボール位の大きさの器が完成。
うーん……自分でいうのもなんだけど、これは素晴らしい物が出来たぞ。
この縁なんて荒々しい波の様な感じですごく迫力がある。
あれ、もしかして僕って陶芸の才能があるのでは……?
そう思った僕は2個目、3個目と器を作った。
どれもこれも素晴らしい出来に僕は酔いしれ、スキップをしながら拠点へと戻った。
こんな才能があるなら有名な陶芸家になれちゃうんじゃないかな?
もしかしたら、1個数百万円で売れちゃうかも!?
と本気で思っていた。
僕の作品を見て、アリサがお腹を抱えて大爆笑する……その時までは……。
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