【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

異世界の無人島で生き残れ!
コル
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2、素潜り初体験

公開日時: 2022年12月30日(金) 20:04
更新日時: 2023年1月2日(月) 23:31
文字数:2,235

 持って来た火種に枯れ葉、小さ目の枝を上に置いて息を吹きかける。


「ふー……ふー……ふー……ふー……よし、ついた」


 後は持って来た分の薪を火に少しずつ入れてっと。

 だいぶ焚き火のコツがつかめて来たな。

 現状だと必須スキルだから上達してくると嬉しい物だ。


「さて、アリサ……さんが戻ってくる前に銛を作るかな」

 

 海まで来る途中に落ちていた、この木の枝。

 僕の身長くらい長くて、太さもホースくらいあって硬さも十分。

 多少曲がってはいるけどこれくらいならまぁ許容範囲だろう。

 本当は釣り竿にしたいけど、糸と針が無い。

 針はともかく糸はどうしようもないからな……。

 となれば、この枝を整えてから先端を尖らせて銛にするしかない。




「…………うーん」


 鱗を使って先端を削ったけど……これだと綺麗に尖らないな。

 果たしてこれで魚を捕ることが出来るのかな。

 こういう時にナイフが欲しいと思う。


「ただいま~」


 木材を抱えたアリサが戻って来た。


「お、おかえり」


「この辺り、流木が少なくて、集めるの大変だったよ」


 ここは流木が少ないのか。

 潮の流れ的に、南側での漂流物は期待できないな。


「よいしょっと……あ、槍を作ったんだ」


 槍じゃなくて銛なんだけどな。

 アリサの言葉に改めて作った銛を眺めてみる。

 ……確かに、銛の特徴である先端の部分にかえしがないから槍に見える。

 んーだったら、かえしをつけられたらいいんだけど……ただでさえ尖らすのが大変だったのに、かえしみたいな細工をするのは相当難しいぞ。

 ナイフが欲しいとつくづく思う。


「それで、魚を捕るの?」


「う、うん。そのつもり。アリサ……さんの分も、今から作るよ」


「あ、うちはいいや。この手だと、道具はうまく使えないし。そもそも、素潜りは苦手なんだ」


「あー……なるほど」


 アリサは猛禽類タイプで水鳥じゃないものな。

 人の形をしていても、泳ぎが苦手なのは同じか。

 じゃあ僕が頑張って魚を捕るしかないか。

 素潜りをするのは初めてだから、うまくいくかわからないけど……。



 僕はアリサと距離をとって漁の準備に取り掛かった。

 準備とってもパンツ一丁になるだけだけども。

 流石に異性の前でこんな姿は無理だからな。


「いちにーさんし、いちにーさんし」


 準備運動もしっかりやってっと。


「よしっ!」


 気合を入れて、僕は異世界の海に足を入れた。


「――おわっ!?」


 なっなんだ! 今足に何か触れたぞ。

 即座に足を上げて、海を覗き込んだ。


 ……あれ、足に当たるようなものは何もないぞ。

 けど、確かに何かが触れた感触があるんだけどな。

 僕は恐る恐る右手を海の中へと入れてみた。


「…………んっ?」


 左右に手を振ってみると見えない何かに触れたぞ。

 そこをよく見ると、透明で長細い布みたいなのがひらひらしていた。

 これって……ビニール紐か……?


「――えっ! この世界にはビニールが存在するの!?」


 これは予想外だ。

 やったぞ、ビニール紐を手に入れれば無人島での生活がさらに楽になる。

 僕はさっそく回収しようとビニール紐を握りしめた。


「……あれ? この感触はビニール紐じゃ……ない」


 芯があって、なんかヌルヌルする。

 まるで植物のような……って、まさかこれは海藻か!?

 握りしめた物を引き千切り、海の中から出してみた。


「やっぱりだ」


 透明の海藻なんて初めて見た。

 緑色や茶色の海藻は基本的に食べられるらしいけど……これはどうなんだろう。

 一応、アリサに見える為に収穫しておくか。

 そういえば、生の海苔や海藻を消化できるのは日本人だけだっけ。

 こっちの世界……ましてやハーピーはどうなんだろう。


 っと、海藻ばかりに気を取られている場合じゃないな。

 本命の魚を捕りに行かないと。

 僕は気を取り直して、思いっ切り空気を肺に入れて異世界の海の中へと飛び込んだ。


(……おお)


 異世界の海の中はすごく奇麗だった。

 テレビで見た南国の海の様に海は透き通り、カラフルな珊瑚礁、熱帯魚の様な大小の魚が泳いでいる。

 でも、ここはやっぱり異世界の海。

 熱帯魚以外にはウニの様に全身が針だらけの魚、明らかに深海にいる様な独特で奇妙な形の魚、クラゲの様に透き通っているタコなど、明らかに僕の世界にはいない魚介類が泳いでいる。

 一体どれが食べられる魚なんだろうか。


〈……んーまぁいいや、とりあえず捕ってみてアリサに確認してもらおう)


 ただ、狙うのはまだ魚の姿をした熱帯魚系のみ。

 独特な姿をしている深海魚系に手を出す勇気は僕にはない。


(せいっ!)


 魚に向かって銛を勢いよく突き出してみるが、ひらりと避けられてしまった。

 思ったより魚の動きが速いぞ。


「――プハッ! ……はあ……はあ……くそっ! もう1回だ……すぅーはぁーすぅーはぁー……すぅ――っ!」


 もう一度肺の中に空気を入れて海のへもぐった。

 今度は見た目的に動きがトロそうな太っちょな魚に狙いを定めて、銛を勢いよく突き出した。


(おりゃっ!)


 さっきの魚以上の速さで避けられてしまった。

 なんで、あの図体でそんなに速いんだよ!


「――プハッ! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 駄目だ、全然魚を捕れる気がしない。

 それに2回海へ潜っただけなのに、この疲労もやばい。

 次は……ちょっと無理かな。

 無理をして溺れてしまうと話にならないし。

 しかし、素潜りってすごく難しいな。

 素人がやるもんじゃないと思い知らされたよ。

 はあー……かっこよく銛で魚を突いて、


 捕ったどおおおおおおお!!


 って、高らかに叫びたかった……。


 そんな無謀な想いを胸に閉まって、素潜りを早々に諦めた僕は浅瀬へ向かって静かに泳いでいった。

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