【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

異世界の無人島で生き残れ!
コル
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5、ろ過装置

公開日時: 2023年4月8日(土) 17:32
文字数:2,933

 すりつぶした汁、まさに濁ったドブの川の色。

 臭い、見た目からに絶対に体に良くない奴だ。

 何があっても口にしない様に注意しないとな。


「で~汁を、枝の先につけて……」


 アリサはすりつぶした汁を、何本かの木の枝の先に塗り始めた。


「後はこの辺りの、周辺に刺しておけば、獣よけの完成よ」


 枝を地面に刺して設置完了か。

 だとすればだ……。


「か、風向き次第で拠点の方に臭いがくるよね?」


「そうね」


「その場合……どうしたら?」


「そりゃ~、我慢するしか、ないわ」


 やっぱり、それしかないですか。


「荒らされるよりマシ、と思うしかないわね」


「ううっ」


 そうだけど……かといって、この臭いが襲ってくるのも辛いよ。

 食事の時に、臭いが襲ってこない様に祈るしかない。

 じゃないと、その時に襲って来たら確実にリバースする自信がある。


「じゃあ、刺してくるね」


「よ、よろしく」


 アリサは拠点から少し離れた場所に行き枝を刺し始めた。

 てか、見ているだけじゃなくて僕も手伝うか。

 僕は上がってきそうな胃液を抑える為に、水を飲もうとビンを手に取った。


「ん?」


 水の中に何か浮いているぞ。

 虫……じゃないか、この島だといないと思っていいだろうし。

 となると、葉の欠片が中に入ってしまったのかな。

 取り除けば、特に問題は無いとは思うけど……ちょっと警戒してしまうな。


「あ、そうだ」


 炭も作ったんだし、ろ過装置を作ってしまおう。

 よし、まだ日も沈まないからささっと必要な材料を集めてこよう。


「ア、アリサ……さん、その作業が終わったらやってほしい事があるんだけどいいかな?」


「ん? な~に~?」


「こ、このバムムの中に入れた炭を、枝で突いてある程度細かく砕いておいてほしいんだ」


「いいけど、リョーは、何かするの?」


「う、うん。水のろ過装置を作ろうと思うから、その材料を集めてこようと思って」


「水の、ろ過装置? リョーって、そんな物も作れるんだ。わかった、やっとく~」


「あ、ありがとう。じゃあ行って来るね」


 僕は立ち上がり、材料の調達の為に砂浜へと向かった。



 ろ過装置に必要な物は。

 ・布

 ・炭

 ・砂

 ・小石

 の4種類。


 ただ布が無いから、葉っぱで代用するしかない。

 動画で見たのは針葉樹の葉っぱ使っていて、確かこの辺りに……。


「あったあった」


 松の葉っぱみたいに生えている植物。

 代用の代用で大丈夫なのかちょっと不安だけど、これでやるしかないから回収っと。


 次に砂。

 これは簡単、砂浜の砂を拾うだけ。

 ビンの半分くらい回収すればいいかな。


 最後は小石。

 これは沢で簡単に回収できる。

 さっき来たところなのに、また沢に行く羽目になるとはな……。


 まぁろ過装置に使う材料は全部綺麗に洗っておかない。

 汚れたままだと、ろ過装置に水を入れても汚れたままになってしまうからな。

 だから、どの道になるか。


 葉っぱは千切れない様に気を付けて洗って、小石は手のひらに包んで小石と小石をこすり合わせて洗う。

 砂はビンの中に水を入れてよく振る。

 そして、砂が出ない様に気を付けながら水を捨てる。

 これを何回か繰り返して、水が透明になったら完了っと。

 で、濡れたままだと使いにくいから乾かさないといけない。

 満遍なく広げて天日干しだとなると時間がかかるから、土器の中に入れて火であぶって水分を飛ばしてしまおう。

 量が多いと無理だけど、ビンの半分くらいの量ならそれで行けるはずだ。


「よし、拠点に戻るとするか」



「あ、おかえり~」


「た、ただいま……」


 臭いのおかげで、すぐ拠点の場所が分かった。

 そして、同時に近づきたくない気持ちにもなってしまった。

 これなら獣よけとして効果は十分ありそうだ。


「炭、こんな感じで、いいかな?」


 バムムの中を覗き込むと、大きさに多少のばらつきはあるものの炭は綺麗に砕かれていた。

 炭が大きいと入れた時に隙間が出来て、そこから汚れた水が流れてしまってうまくろ過が出来ない。

 でも、この大きさなら問題ないだろう。


「う、うん。これで良いよ」


 僕もさっさと砂を乾かすとしよう。

 土器に洗った砂を入れて……かまどの上に置いてっと……。


「えっ! 夕御飯、砂なの!? うち、遠慮しとく……」


「へ? あっ! たっ食べないよ! 砂を早く乾かせる為に、火であぶって水分を飛ばそうしているんだよ」


「そう、いう事か~うちは、てっきり……ん? ねぇねぇ、今日の夕ご飯って、ミースルの汁だったよね?」


「の、予定だけど……?」


「砂をいれた、その土器で、作るの?」


「……あっ」


 砂を乾かす事で頭がいっぱいだったから、それを考えていなかった。

 とはいえ、砂を入れちゃったからもうどうしようもないぞ。


「……だ、大丈夫! この砂は綺麗に洗ったから! ちゃんと土器は洗うから!」


「うん……わかった」


 これは失敗した。

 思った以上に、土器の使い道が多いな。

 今回は仕方ないけど、これからはちゃんと用途に分けて使わなければ。


 砂の水分を飛ばし終えたら、土器から出して粗熱をとる。

 その間に、ろ過装置の器作りっと。

 まずは、いつもの様にバムムの下に葉っぱを被せて底を作る。

 で、葉っぱの中心辺りに小さな穴を空ける。

 この穴からろ過された水が流れ出てくるわけだ。


 器が出来たら、その中に材料を順番に詰め込んでいく。

 1番目は布。

 ……は無いので、松の様な葉っぱを多めに入れて敷き詰める。

 2番目は小石。

 出来る限り小さ目の小石を敷き詰める。

 3番目は砕いた炭。

 炭はろ過において重要だから多めに入れて、ギュウギュウに詰める。

 4番目は砂。

 砂も同様に隙間なく詰め込む。

 5番目は松の様な葉っぱ。

 砂を蓋するような感じで敷き詰める。

 6番目は小石。

 2番目より大きいサイズを入れて重石にする。


 気を付けないといけないのが、入れた水が溜まる様に上の部分の隙間を空けておく事だ。

 でないと、水が溢れてろ過できないからな。


「最後に吊るせるように、器に蔓を結べば……完成!」


「……」


 あれ、なんかアリサの反応がいまいちだな。


「これで、本当に水、綺麗になるの?」


 なるほど、疑っているわけね。

 そう思うのも仕方がないか。

 正直、僕も初めて作ったから自信が無いし。


「じ、実験をしてみようか」


 僕はろ過器を低い位置にある枝に吊るし、その下に空き瓶を置いた。

 そして、土を入れて泥水にした水をろ過装置へゆっくりと流し込んだ。


「………………? 水、出てこないよ」


「す、すぐには出てこないよ、もう少し待てば出て……おっ!」


 空けた穴からポタポタと水が出てきた。

 ちゃんとろ過されているかな。


 しばらくたつと、空き瓶の中に水が溜まって来た。

 透明とは言えないけれど、最初に入れた泥水よりははるかに綺麗になっているぞ。


「お~……確かに、綺麗には、なっているけど……まだ、濁っているね」


「い、1回じゃ駄目なんだ。3~4回ほどすれば綺麗になるよ」


「ふ~ん……なんか、時間もかかるし、面倒だね」


「うっ……」


 僕もそう思った……いや、そうじゃないだろ僕!


「き、綺麗な水は生きる為に重要なんだから、この位の事で根を上げてどうするのさ」


 そう! サバイバルにおいて水は必要不可欠。

 それも綺麗な水ほどよい。

 だから、この程度の事は我慢が必要だ。


「確かに、そうだけど……今まで、普通に沢の水、飲んでいたから、説得力ないよ?」


「…………」


 僕は聞こえないフリをして、黙ってろ過装置に泥水を入れ続けるのだった。

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